このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー

第2回農業人材の確保に向けた検討会(令和3年6月8日)議事概要

1 日時

令和3年6月8日(火曜日) 14時30分~16時00分

2 場所

農林水産省 本館3階 第1特別会議室

3 出席者

[有識者(※テレビ会議での参加)]

 西辻 一真  株式会社マイファーム 代表取締役CEO

 木之内 均  NPO法人九州エコファーマーズセンター 理事長(※)

 山本 強     かいふ農業協同組合 常務理事(※)

 杉尾 修一  宮崎中央農業協同組合 常務理事(※)

[農林水産省]

 葉梨農林水産副大臣

 宮内農林水産副大臣

 池田農林水産大臣政務官

 熊野農林水産大臣政務官

 光吉経営局長

 松尾大臣官房審議官

 平山就農・女性課長

4 概要

〇葉梨副大臣挨拶

(葉梨副大臣)
   本日は御多用のところ、「農業人材の確保に向けた検討会」に御出席いただき、心から感謝申し上げる。

   農業者の減少、高齢化が急速に進んでいく中、これまでも新規就農を増やすための施策を行ってきた。そのような状況において、意欲ある多様な若者を農業に呼び込むことで、新規就農者数を増やし、定着させていくことが喫緊の課題であり、対策を講じなければいけないと考えている。そこで、農林水産省では、農業人材の確保に向けた検討会を立ち上げたところである。

   第2回目となる今回は、就農を希望する若者に研修、サポートをされている4名の方に御出席いただいた。本日、御出席いただいた皆様は、いずれも、農業をやってみたいと関心を示す若者に対して、研修を行う仕組みを作られており、実際に多くの新規就農者を輩出された実績を残されていると聞いている。農業に関心を持った若者が就農し、定着していくために必要なことなどについて、就農希望者を就農まで導いてこられた皆様の御経験を通して得られたお考えを、お聞かせいただきたいと考えている。

   本日は、忌憚のない御意見をいただければと思う。

〇有識者からの説明

(西辻一真氏)
   新規就農者が減少したと言われているが、私はそのように感じていない。弊社で運営しているアグリイノベーション大学校は、入学希望者が定員を上回っており、入学者は増えている状況。それにも関わらず、新規就農者は減少している。そのギャップは何かを私なりに考えているところ。

   2011 年にアグリイノベーション大学校を設立した。当時、農業を学ぶ場所について、研修期間の長短、研修内容の広狭の2つの要素の組合せを考えたとき、「研修期間が短く」かつ「広範な研修内容を有する」学校がないのではないか、と考えたことが始まり。アグリイノベーション大学校は、これまでの技術中心の学びだけではなく、マネジメントやマーケティングなどの経営を学ぶことに力を入れている。農業界には、労働力としての担い手だけではなく、労働者をマネジメントする経営者が必要で、そのような者を育成する必要があると考えている。

   アグリイノベーション大学校を卒業した方の中には、他産業から新規就農した方、経営を学んだ後に親元就農した方、「半農半X」をされている方もいる。また、異業種から農業に参入する法人も増えている。アグリイノベーション大学校のこれまでの入学者は、1,825 人であり、そのうちの52%が就農し、それ以外の方は、「半農半X」などをされている。大学校の授業料は、約70 万円と高額だが、その分入学者は覚悟を持って入ってくる。卒業生に対しては、安定した農業経営を行ってもらうため、農地を探したり、販売先を紹介するなどのサポートを行っている。例えば、卒業生を(株)LifeLab に紹介し、雇用就農につなげる取組や、販路として食べチョクを紹介する取組を行っている。また、3年前から兵庫県丹波市と連携して、公設民営の学校を設立した。この学校は、全員が有機農業を学び、地元の有機農家が卒業生を受け入れている。1学年20名で、現在約60名の卒業生を輩出している。

   今、農業界に求められているのは「多様性」だと考えている。これまでは、各産地が求める人材にマッチする人が農業の世界に入ってきたが、コロナ禍により、就農形態は多様化している。このような状況の中、新規就農時の農地賃借の下限面積を下げること、農業委員による新規就農の審査の要件を緩和することが、新規参入者を増やすことにつながると考えている。

(木之内均氏)
   東京生まれ、非農家出身であるが、工業地帯の公害に悩まされ、小学校5年生の時に農業者になりたいと決めた。大学卒業後、農業を始め、現在は3つの農業生産法人の経営に携わっている。観光農園を中心にした(有)木之内農園は売上2億円、主に育苗を行っている株式会社花の海が売上約20億円、加えて、赤牛の育成を行う熊本県民牧場を最近設立した。それぞれ若者に経営を任せており、自身は東海大学経営学部において、若者の育成を行っている。

   25年間、NPO法人で担い手を育成する中、担い手が増えない理由について考えてみると、1つ目は、農業は圧倒的に所得が低く、安定していないということだと考えている。投資が大きい割に、回収するのに長い時間がかかり、ビジネスとしてやりにくい。2つ目は、子育てをできる生活設計をイメージできない。この2つは、篤農家の息子でさえ跡継ぎにならない現状を見れば明白。

   また、新規就農が増えない理由としては、兼業農家、半農半X などが認められにくいことがある。どんなに新規就農者が計画書を立派に書いても、営農は簡単にはいかない。他の収入がありながら、緩やかに就農できるかたちが良いのではないか。

   さらに、新規就農者の教育システムに、足りないところがあると思う。栽培技術を指導することはあっても、経営指導が手薄であると感じている。また、就農形態が多様化しており、学ばなければいけないことについて、しっかり教育が行われているかが不透明である。

   最後に、募集に力を入れているが、就農後のフォローアップ体制が不足していると考えている。行政担当者の異動が多いのも課題である。
   NPO エコファーマーズセンターは、40 戸の農家会員からなる、農家主体の農業人材育成団体である。これまで約140 名が独立就農しており、100 名以上が雇用就農している。会員40 戸の農家で営農類型は網羅しており、地域で安定して就農できるよう、支援している。農業高校や農業大学校である程度学ぶことはできても、実際の経営は、農家との連携でないと学べないと考える。ただし、受け入れる農家は人を指導したことがないため、受入農家への研修も、しっかりと実施している。

   九州エコファーマーズセンターの基本は、農業者による運営であり、農業人材の育成が目的であり、決して研修生を労働力と考えないこと。また、未来の農業の仲間づくりと考えており、行政のエリアにとらわれない人材育成を目指している。市町村などの狭いエリアでの活動になると一定数の新規就農者を受け入れた後に、農地などの不足が生じて入植が難しい事態が生じるためである。

   農業を目指す研修生へは、座学と実習を通して、農業の基礎から専門的なこと、地域へ溶け込む方法、資金の調達、どのような経営にしていくかなど、様々な内容を学んでいる。

   3年前に、九州エコファーマーズセンターが中心となり、NPO法人熊本県就農支援機関協議会を立ち上げた。市町村やJA が会員となっており、各団体において教育手法を伸ばすことを目的として、教育ノウハウの共有や、受け入れ農家の指導を実施している。さらに、研修受け入れガイドブックや農業人材育成カリキュラムモデルに関する冊子も作成した。

   研修機関の成功の心得として、地域で求める農業人材を明確にすること、経営ビジョンを持って指導すること、アフターフォローを充実させること等が重要である。

(山本強氏)
   海部地域のキュウリは、栽培面積、生産量ともに県内第1位である。また、栽培技術も高く、10a当たりの収量は、全国第2位となっている。昭和56 年には、栽培面積30ha、農家戸数約130 戸であったものが、高齢化による担い手の減少により、平成27 年には、栽培面積5.6ha、農家戸数31戸まで減少した。将来予測をしたところ、令和12 年度には、栽培面積が3.6ha まで減少する結果となってしまった。

   このような状況から、海部次世代園芸産地創生推進協議会を立ち上げ、きゅうり産地の活性化に取り組む「きゅうりタウン構想」を推進している。その中で、(1)栽培面積を10ha、(2)10a 当たりの収量を30 トン以上、(3)所得1,000 万円(経営面積30 アール)という3つの目標を掲げ、若手就農者の増加、産地の活性化を目指している。

  「きゅうりタウン構想」は、「学ぶ場」、「試す場」、「伝える場」の3つの柱となっており、「学ぶ場」としては、海部きゅうり塾を平成27 年に開講。これまで27 名が入塾し、そのうち17名が経営を開始している。「試す場」としては、きゅうりの養液栽培を実証する「次世代園芸実験ハウス」を整備し、これまでの経験と勘に頼ってきた栽培方法を数値化することにより、若者に魅力ある農業の実現を目指している。また、この施設は研修生の学びの場ともなっている。

  「きゅうりタウン構想」について結果が出ているポイントは5つと考えている。それは、(1)新規就農者の確保のために、所得を明確にした募集を行うこと、(2)この所得を実現するためには施設きゅうりが最適品目であることを明示すること、(3)環境制御された施設や養液栽培を導入するとともに、栽培をマニュアル化し、初心者でも取り組みやすい栽培方法を確立すること、(4)就農までの道筋を明らかにすること、(5)新規就農者の初期投資を抑えるため、JA によるレンタルハウス制度を導入したことである。

   新規就農者への支援としては、(1)農業次世代人材投資資金の活用(2)研修期間中の住宅費(上限2万円)や空家バンク等の活用による住居確保、(3)新規就農者の初期投資を抑えるため、JA レンタルハウスの貸し出し(15a 当たり年間120 万円)などを行っている。ただし、レンタルハウスについては、計画的な整備が進んでいない状況であり、今後の課題である。

   「きゅうりタウン構想」の成果として、産地の担い手が10 歳以上若返ったことが挙げられる。平成26 年は平均年齢66.9 歳だったが、令和2年には平均54.4 歳となった。しかし、栽培面積についてはリタイヤする生産者が少なくなく、ほぼ横ばいであるため、今後、栽培面積を拡大していくための一層の取組が必要と考えている。

   今後も新規就農者を増やすため、(1)移住就農希望者を地域に呼び込むためのオンリーワンの取組、(2)農業だけではなく、日中にサーフィンや釣りなどを楽しめるライフスタイルの提案、(3)就農希望者に農業の魅力をダイレクトに伝える取組、(4)新規就農者でもベテラン農家並みの安定した生産と収入を確保できる仕組みの実現が必要と考えている。

(杉尾修一氏)
   JA 宮崎中央の子会社である(有)ジェイエイファームみやざき中央は、技術に関する研修を行う研修施設を整備し、新規就農者の育成を行っている。研修生は、18 歳から50 歳まで、広く募集しているが、研修生の半数は30 歳代であり、約8割が県内出身者。近年、就農した卒業生の様子を見て関心を持った友人や知人が受講を希望するケースが増加しており、次年度も17 名の方から応募いただいている。

   研修については、研修生一人当たりに10a のハウスを任せており、JA 宮崎中央の指導員OB1名と有限会社ジェイエイファームみやざき中央の職員1 名により研修の指導を行っている。また、県の改良普及センター等の関係機関にも協力いただき、就農計画作成支援や農地確保等の支援を行っているところ。

   研修修了生へのフォローを非常に重視しており、研修生に地域に溶け込んでいただくため、地元の農業委員や生産部会との顔合わせを、研修の段階から行っている。
   これまでに研修を終了した研修生134 人のうち、118 人が現在も農業の最前線で活躍しており、約9割が定着している。

   課題は、初期投資が高額であることが挙げられる。きゅうりの生産に取り組む場合、平均的に20a程度の施設整備が必要であり、2,000 万円の初期投資が必要になる。また、就農後に規模拡大に取り組む際、雇用者の確保が難しいことも課題である。

〇意見交換

(松尾審議官)
  新規就農者への支援については、県、市、JA によって様々あるが、ある程度統一されたフォーマットのようなものがあれば、新規就農者にとって分かりやすいと思うが、いかがか。

(杉尾修一氏)
  答えになっているか分からないが、原則、一つのハウスに1人ずつという研修を実施しているため、募集人数を超えてしまうと十分な研修を実施できない。就農希望者の募集方法も統一した分かりやすい方法があれば良いと思うが、現状、広く募集することはしていない。

(山本強氏)
   協議会の運営や施設の整備などについては、国や県、町の補助事業を組み合わせて活用しているが、年度ごとに予算額や内容等が変わってくる。研修生の受入れと、施設整備事業の実施時期が、上手く合わないときがあるため、宮崎中央農業協同組合と同様に、広く募集することは難しいと考えている。

(宮内副大臣)
   就農し、安定して農業を継続できるのは、どのようなタイプの人、どのような考えを持っている人か。イメージがあれば、教えてほしい。

(西辻一真氏)
   基本的には、素直さ、賢明さ、元気の3点が大前提。その上で経営能力や経営基盤が必要。初期投資のための資金も必要ではあるが、経営能力によりカバーできると思っている。

(木之内均氏)
   人付き合いができることが重要。あと、計算ができる人、目標意識がしっかりしている人。この3つだと思う。特に、地域の人と上手くいかないと致命傷。また、先ほどの質問に関してだが、農地や受け入れ農家の労力の問題もあり、我々も募集についてはそこまで本気で行っていない。特に受け入れ農家は、研修生の就農後にも3~5年くらい指導しているため、研修生を受け入れて、また次の年も研修生を受け入れるということはできない。

(山本強氏)
   研修生を受け入れる際は面接を実施しており、特に夫婦での受け入れを積極的に行っている。今まで夫婦で入植された方が2組いるが、卒業生の中でも旗振り役となっており、メディア等でアピールしてもらっている。また、5年先、10 年先の将来設計を立てられる方に期待している。

(杉尾修一氏)
   まずは「熱意」が大事だと考えるが、熱意だけで空回りしても仕方ない。もう一つは、木之内氏も仰るとおり、コミュニケーションが取れ、挨拶ができる、人付き合いができる方だと感じている。

〇葉梨副大臣挨拶

(葉梨副大臣)
   本日は、大変興味深い話を聞かせていただいた。

   最初に西辻氏から、新規就農希望者はたくさんいるという話を伺った。また、木之内氏からは闇雲に全員を受け入れれば良いというわけではないという意見もあった。

   きゅうりについては、JA かいふでは、栽培面積の維持・拡大に向けた成果が顕著に見られているが、全国的に見れば、きゅうりの生産量は、この10 年で12%程度減っており、栽培面積も20%程度減っている。

   今回のきゅうりの例のように、作れば売れるのに担い手がいないことにより生産量が減っている分野が我が国の農業の中に出てきているのではないかと感じている。これは新規就農者にとっては、マーケットメイキングをしなくても作れば売れる、儲かるというチャンス。そのような分野であれば、新規就農者が入りやすい状況になっているのではないか。

   これから、どのような分野であれば、新規就農者が地域に受け入れられ、どのような儲かるビジネスモデルがあるのか、こうしたことについて分析し、それをアピールできれば、新規就農しようと考えている方の不安を減らしていけるのではないかと考える。

   今日のお話は、これから政策を考える上で、非常に参考になった。これからも皆様の御意見をいただきたい。

お問合せ先

経営局就農・女性課

担当者:平山、榊、伊藤、日髙
代表:03-3502-8111(内線5196)
ダイヤルイン:03-6744-2160