第1節 農林漁業者等による体験活動の促進
農林水産省では、食や農林水産業への理解の増進を図るために、農林漁業者等による農林漁業に関する体験の取組を推進しています。
教育ファーム等農林漁業体験は、自然と向き合いながら仕事をする農林漁業者が生産現場等に消費者を招き、一連の農作業等の体験機会を提供する取組であり、自然の恩恵を感じ、食に関わる人々の活動の重要性と地域農林水産物に対する理解の向上や、健全な食生活への意識の向上など、様々な効果が期待されます。
例えば、消費者に酪農のことを理解してもらいたいという酪農家の願い、酪農体験を通じて子供たちに食や生命の大切さを学ばせたいという教育関係者の期待、これら双方の思いが一致し、各地で酪農教育ファームの取組が行われ、子供たちが訪問先の牧場において、乳牛との触れ合い、餌やりや掃除による牛の世話などの酪農体験の学習を行っています。
また、オーガニックご当地弁当の提供や有機農産物の収穫体験等を行うなど、消費者を有機農業の産地に呼び込む列車ツアー(オーガニックトレイン)等を通じて、消費者が有機農業を直接体験できる機会を作っています。
このほか、都市住民に自然や動物との触れ合い空間を提供するふれあい牧場の取組、各地において学校近辺の水田を借りて、小学生が稲の播種から収穫まで栽培の一環を体験する取組、消費者が借り受けた畑で行う野菜栽培の体験、企業が社会貢献活動としてNPO法人と連携して耕作放棄地を開墾し、棚田に戻す取組、きのこや山菜の採取などで森や林業への理解を深める林業体験、定置網の網上げ、地引き網、養殖の作業体験や市場見学を行う漁業体験など、農林水産業の様々な分野で関係者が連携しながら体験活動が進められています。
このような体験活動の参加者からは、農林水産業の楽しさ、面白さ、大変さ、自然環境の大切さを学び、食に対する考え方が変わった等の感想が出され、農林水産業の良き理解者となっていることがうかがわれます。
農林水産省は、これら農林漁業体験の取組を広く普及するため、補助事業による教育ファーム等農林漁業体験活動への支援のほか、どこでどのような体験ができるかについて、情報を一元化した教育ファーム・データベースの提供、食と農林漁業体験の情報をタイムリーに提供するメールマガジンの発行を行っています。
また、持続可能な農業生産を実現するために、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の食材調達基準の要件でもあるGAP(Good Agricultural Practice)(*1)の取組が、農業高校等の教育機関においても始まり、生産技術だけでなく、経営マインドや国際感覚を兼ね備えた農業者育成が進められています。
*1 GAPとは、農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取組のことをいいます。
事例:農業高校の生徒が、地域の子供たちに農業体験を提供
中標津農業高等学校(北海道)
酪農が盛んな北海道中標津町計根別(けねべつ)地区の中標津農業高等学校では、校内の農場に地元の幼稚園児・小学生・中学生を迎え、高校生が先生役となり農業体験等を提供する「計根別(けねべつ)食育学校」を開催しています。この取組は、地域の子供たちに農業と食の大切さを学んでもらうとともに、食育の大切さを確認することを目的として、平成18(2006)年から続けられています。
「計根別(けねべつ)食育学校」では、子供の発達段階に応じて高校生が体験内容を企画し、野菜(ジャガイモ、トマト、ダイコン、キュウリ、カボチャ等)の栽培・収穫、牛の搾乳、ソーセージ・鹿肉ジャーキーの製造などの多彩な体験を提供しています。例えば、幼稚園児には、たくさん土に触れて楽しむことができるジャガイモの植付け・収穫の体験を提供します。園児にとって、土の中からジャガイモを見つけた瞬間は忘れられない思い出になります。また、キュウリの栽培体験では、星形やハート型の「おもしろキュウリ」を栽培するなど、園児に驚きと感動を与えられるように、各プログラムを工夫しています。
小学生には、理科で学んだ植物の特徴を実物の野菜で確認したり、野菜の成長を算数で学んだ折れ線グラフで記録したりするなど、授業内容と関連付けた体験を提供し、児童が知識や理解を深められるような工夫を加えています。さらに、中学生には、ソーセージ製造体験の際に、豚のと殺の様子を紹介し、グループディスカッションで感想を述べる場を設けるなど、ソーセージを作る一連の作業を通じ、「命をいただく」ことの重さを感じられるような内容にしています。
「計根別(けねべつ)食育学校」は、教える側の高校生にとっても、子供たちに作物の栽培、食育の意義などを教えることで、自らも食と命の大切さを学び、農業や食育への理解を深める機会になっています。
そして、開校から10年を超え、「計根別(けねべつ)食育学校」に参加していた子供たちが成長して、中標津農業高等学校に入学し、次は先生役として、地域の子供たちに農業体験を提供するという良い循環も見られ始めました。今後も、子供たちの発達段階に応じてステップアップする食と農の一貫教育を推進するとともに、関係機関とも連携して地域に開かれた食育を展開していきたいと考えています。
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