ニトロソアミン類とは
更新日:令和6年9月3日
1. ニトロソアミン類とは
- ニトロソアミン類は、R1R2N-N=O の構造を有する数多くの構造の異なる化合物の総称です。代表的なニトロソアミン類には、N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)などがあります。
- 代表的なニトロソアミン類
2. 食品中の有害化学物質として注目されるようになった経緯
- 発色剤の目的で亜硝酸ナトリウムなどの食品添加物で食品を処理すると、ニトロソアミン類が生成する可能性が疑われ、1970年代から分析法やヒトの暴露量について調査研究が行われるようになりました。
- 2015年に国際がん研究機関(IARC)が加工肉及び“レッドミート※”の摂取により大腸がんのリスクが増加すること、及び加工肉を「グループ1(ヒトに対して発がん性がある)」に、レッドミートを「グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)」に分類すると発表しました。これらの食品に発がん性がある要因の一つとしてニトロソアミン類と関連づける報道等がなされました。
※“レッドミート”とは、牛肉、豚肉、羊肉(ラム、マトン)、馬肉、山羊肉を含む全てのほ乳類の肉を示します。鶏肉や七面鳥などの家きん類の肉は含みません。 - また、2019年には、医薬品(ラニチジン及びニザチジン製剤)に不純物として含まれていたNDMAが原因で世界的に大規模な自主回収が行われたことからも注目されました。その後、他の医薬品にもニトロソアミン類が不純物として混入していることが明らかとなりました。
- 以上のことから、食品(酒類を含む)や医薬品に含まれるニトロソアミン類を低減する取組が国際的にも進められています。
3. 食品中のニトロソアミン類の生成経路
- “アミン”(アンモニアの水素原子が炭化水素基等で置換された化合物の総称)と“亜硝酸塩や窒素酸化物”を含む食品を高温で加熱したり、発酵させたり、熟成したりする際に、意図しないにもかかわらず生成することが報告されています。
- 欧州食品安全機関(EFSA)が2023年に発表した報告書では、以下の内容が記載されています。
- 保存肉については、保存剤として亜硝酸塩を使用することもあるため、ニトロソアミン類が検出されることがあり、温度、pH、加工条件(原料や貯蔵等)、遊離アミン、特に生体アミンの存在等の追加要因の影響を受ける。
- ビールについては、発芽大麦中にアミンの一種であるホルデニン、ジメチルアミンが含まれていると、麦芽製造過程でこれらが三酸化二窒素、四酸化二窒素と反応して、NDMAが生成する可能性がある。また、製造に使用する水がビールやその他の飲料水中のNDMAの潜在的な要因になり得る。
- 魚類加工品については、魚類にもともと含まれている第2級、第3級アミンと魚類にもともと含まれている硝酸塩や加工中に添加する硝酸塩が要因となり、ニトロソアミン類が生成する可能性がある。
- チーズについては、チーズに第2級、第3級アミンが含まれていることや製造工程で硝酸塩等を添加することから、ニトロソアミン類が生成する可能性があるとされています。また、硝酸塩がチーズの内因性物質であるため、硝酸塩が添加されていないチーズからニトロソアミン類が検出される可能性もある。
- しょうゆについては、硝酸塩が含まれている水を製造に用いた場合にNDMAが生成する可能性がある。
- 野菜については、特に葉物野菜、野菜の酢漬け、漬物には、高濃度の硝酸塩や亜硝酸塩が含まれていること、pHが低いこと等の理由から、ニトロソアミン類が含まれている可能性がある。また、調理後の異なる種類のじゃがいもからNDMA、N-ニトロソジエチルアミン(NDEA)が検出された事例も紹介。
- 飲料水については、非アルコール飲料やビール以外のアルコール飲料、発酵飲料中にNDMA、NDEAが含まれている場合があることから、飲料水がニトロソアミン類に汚染されている可能性がある。
- 油脂については、大豆油脂等中にNDMA、NDEAが含まれている場合があることが分かっていますが、その生成機序は分かっていない。
- また、食品にニトロソアミン類が含まれていない場合でも、亜硝酸塩が含まれていると、ヒトや動物の胃の中でも亜硝酸塩からニトロソアミン類が生成することが知られています。
4. ニトロソアミン類に懸念される毒性
- ニトロソアミン類の一部は、遺伝毒性※及び発がん性を有することが知られており、国際がん研究機関(IARC)は、ニトロソアミン類のうち、NDMA、NDEAを「グループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)」に分類しています。
IARCの分類についてはこちらをご参照ください。
※遺伝毒性とは、物質が直接的又は間接的にDNAに変化を与える性質のこと。 - EFSAは、2023年に、5つの食品群に含まれるニトロソアミン類※のリスク評価を行い、限られたデータであるものの、食品からの主な摂取源は畜肉及び畜肉製品であり、全ての年齢層で多食者に健康上の懸念ありと評価をしています。
※発がん性が懸念され、かつ、食品からの検出例がある10種(NDMA、NDEAを含む。)についてリスク評価が実施され、この10種のうち8種は遺伝毒性の強いエビデンスありとされています。 - 国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が合同で運営している国際的なリスク評価機関(JECFA)や我が国のリスク評価機関である内閣府食品安全委員会は、現時点で、ニトロソアミン類のリスク評価を実施していません。
- 日本人における、ニトロソアミン類による食品を介した健康影響については、食品中の含有実態やばく露などの情報が限られていることから、更なる情報収集を行うことが必要です。
5. 健康な食生活を送る上での留意点
ニトロソアミン類は、様々な種類の食品中に意図せず含まれている可能性があり、含有実態についても十分に把握できていません。他方、ニトロソアミン類が含まれる可能性を理由に、特定の食品を食べるのをやめたり量を減らしたりせずに、バランスの良い食生活により、健康の維持や増進に必要な栄養の摂取に心がけてください。
参考文献
欧州食品安全機関(EFSA)2023
Risk assesment of N-nitrosamines in food〔外部リンク〕
お問合せ先
消費・安全局食品安全政策課
担当者:リスク管理企画班
代表:03-3502-8111(内線4459)
ダイヤルイン:03-6744-2135