JECFAの評価と勧告
FAO/WHO食品添加物専門家会議(JECFA)は、2005年の第64回会合で食品中のアクリルアミドについて最初のリスク評価を実施しました。JECFAは、その後に入手可能となった新たな毒性データ、食品中の含有濃度データ、摂取量データ等を踏まえて、2010年2月の第72回会合で再評価を実施しました。
第72回会合の評価及び勧告
JECFAは第64回会合の勧告を受けて、前回の会合以降に入手可能となった最新のデータを踏まえて食品中のアクリルアミドに関して再評価を実施しました。その評価結果の概要は次のとおりです。
摂取量評価
- 2003年以降、アクリルアミド濃度が高い食品や、同じ食品の中でも他の製品に比べて濃度が高い製品については低減が報告されており、これによって一部の個人や集団の摂取量が大幅に低減された可能性はあるが、すべての国で一般的な人々の暴露量にはほとんど影響していないようであると指摘しています。このことから、一般的な人々の平均的なアクリルアミド推定摂取量は1日当たり1 μg/kg体重、摂取量が多い人々のアクリルアミド推定摂取量は1日当たり4 μg/kg体重と、前回の第64回会合時と変わらない評価となりました。
毒性評価
- 非発がん毒性でもっとも感受性の高いエンドポイントとしては、ラットにおいて電子顕微鏡で神経の形態変化が観察された、 0.2 mg/kg体重/日がNOAEL(無毒性量)として採用されました。
- 発がん性については、腫瘍発生が10%増加するベンチマーク用量95%信頼下限値(BMDL10)として、雄マウスのハーダー腺の腫瘍形成における0.18 mg/kg体重/日と、雌ラットの乳腺腫形成における0.31 mg/kg体重/日を、それぞれ採用しました。
評価
推定摂取量と毒性評価の結果から、暴露幅(MOE)を算出し、評価を行いました。
MOEは、前回会合の評価で得られた値とほぼ同じであり、ラット及びマウスの発がん性の生物検定、内部線量測定による生理学的薬物動態モデル、多数の疫学調査、最新の暴露評価から得られた広範囲にわたる新たなデータから、前回会合時の評価結果が裏付けられたとしています。
JECFAは、食品からの推定摂取量とヒトの生体内のアクリルアミド暴露の指標(アクリルアミド及びグリシダミドのヘモグロビン付加体)の相関が弱いことと、労働者を対象とした疫学調査ではアクリルアミド暴露と発がん率の増加の関連を示す証拠が得られていないことをあげて、食品からのアクリルアミド暴露によるリスクをより正確に評価するためには、各個人の生体内のアクリルアミド-ヘモグロビン付加体及びグリシダミド-ヘモグロビン付加体の濃度と同時点の食品からの暴露量の関連について長期間にわたる調査を推奨しています。
影響 |
NOAEL又はBMDL10 |
暴露幅(MOE) |
結論/コメント |
|
---|---|---|---|---|
平均摂取 |
高摂取 |
|||
ラットにおける神経組織の形態変化 |
0.2 (NOAEL) |
200 |
50 |
推定平均摂取量では神経学的な影響はないと考えられるが、アクリルアミド摂取量が多い人々の場合には神経に形態学的な変化が生じる可能性を排除できない。 |
ラットにおける乳腺腫 |
0.31 (BMDL10) |
310 |
78 |
遺伝毒性及び発がん性を有する化合物としては、これらのMOEは健康への懸念を示唆するものである。 |
マウスにおけるハーダー腺腫 |
0.18 (BMDL10) |
180 |
45 |
第64回会合の評価及び勧告
コーデックス委員会食品添加物・汚染物質部会(CCFAC)の依頼を受けて、JECFAは2005年2月に食品中のアクリルアミドに関して最初のリスク評価を実施しました。
摂取量評価
各国が実施した摂取量評価の結果から、一般的な人の平均的なアクリルアミド摂取量は1日当たり0.001 mg/kg体重と、摂取量が多い人のアクリルアミド摂取量は1日あたり0.004 mg/kg体重と評価しました。これらの摂取量評価には、子供の摂取量も考慮されています。(各国が行った評価では、体重当たりの摂取量で考えると子供は大人よりも2~3倍摂取量が高い可能性があることが報告されています。)
用量-反応評価
- アクリルアミドを含む水を90日間ラットに飲ませ、電子顕微鏡で神経の形態変化を観察した試験から、NOEL(無作用量)を0.2 mg/kg体重/日と推定しました。
- 生殖及び発達への影響並びにその他非腫瘍性の病変等を考慮したNOEL(無作用量)は、2.0 mg/kg体重/日と推定しました。
- アクリルアミドのリスク評価において中心となる重要な影響を、遺伝毒性発がん性としました。入手可能な疫学的データは、遺伝毒性発がん性に対する用量-反応の関連性を確立するには十分ではないため、利用可能な動物試験データに基づいて評価を行いました。
- ラットにアクリルアミドを含む水を飲ませて腫瘍発生を観察した試験結果から、用量-反応曲線モデルを用いて、それぞれの組織に腫瘍発生が対照群に比べて10%だけ増加するBMDとBMDLを推計しました。その中でもっとも低いBMDLとなった、乳腺腫の形成における0.30 mg/kg体重/日を発がんの評価に用いることとしました。
評価
摂取量評価の結果と用量-反応評価の結果から、暴露幅(Margin of Exposure)を算出しました。以下の表にその評価の概要をまとめました。
影響 | NOEL又はBMDL (mg/kg体重/日) |
暴露幅(MOE) | 結論/コメント | |
---|---|---|---|---|
平均摂取 | 高摂取 | |||
神経の形態変化 |
NOEL 0.2 |
200 |
50 |
平均摂取量の場合には、これらの影響が生じるとは考えられない。しかし摂取が相当多い一部の人には、神経影響の可能性を否定できない。 |
生殖・繁殖毒性、その他非腫瘍性の病変 |
NOEL 2.0 |
2000 |
500 |
|
発がん |
BMDL10 0.3 |
300 |
75 |
遺伝毒性発がん性を持つ物質としてはMOEが小さく、健康への懸念があると考えられる。そのため、食品中のアクリルアミド濃度を低減する努力を継続すべき。 |
勧告
第64回JECFAは、以上のようなアクリルアミドに関するリスク評価を行い、以下のような勧告を行いました。
- アクリルアミドは、現在進行中の発がん性試験及び長期の神経毒性に関する研究の結果が明らかとなった時点で、再評価されるべき。
- ヒト体内でのアクリルアミドの反応と動物実験による毒性学的な影響をより関連づけるため、生体の実態に即した薬物分布モデルを引き続き検討すること。
- 食品中に含まれるアクリルアミドの量を低減するための適切な努力を継続すること。
- 開発途上国で摂取されている食品中のアクリルアミドの含有データは、ヒトの暴露を減らすための低減措置の検討のほか、摂取量の評価を行う上でも有用である。
[出典]
WHO FOOD ADDITIVES SERIES: 55, Safety evaluation of certain contaminants in foods, Prepared by the Sixty-fourth meeting of the Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives (JECFA)
お問合せ先
消費・安全局食品安全政策課
担当者:化学物質管理班
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