EFSAによる健康影響評価
更新日:2019年3月28日
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3-MCPD及び3-MCPD脂肪酸エステル類による健康影響
毒性評価
実験動物に3-MCPD脂肪酸エステル類を投与すると、ほとんどが腸管で分解され、3-MCPDとして吸収されること、3-MCPDを長期間摂り続けると腎臓や雄性の生殖器官に悪影響があること、大量に摂り続けた場合は発がんを引き起こす場合もあることが報告されています。EFSAは、これらの結果から、食品から摂る3-MCPD脂肪酸エステル類が体内ですべて分解され、3-MCPDとなって吸収されると仮定し、3-MCPDとしての毒性を評価しました。
実験動物に3-MCPDを投与した試験において、投与しない場合と比べて腎臓での有害反応の発生率が10%だけ増加する体重当たりの投与量(BMD10)の、より安全側にたった推定値(BMDL10)注1を毒性指標としました。これをもとに、動物と人との違いや個人差を考慮して、3-MCPDと3-MCPD脂肪酸エステル類注2をあわせたTDI注3を設定しました。
注1 EFSAは、BMDL10として、BMD10の95%信頼下限の投与量を用いています。詳しくはこちらをご覧ください。
注2 3-MCPD脂肪酸エステル類は、3-MCPDに換算して量を計算しています。
注3 同様の機構で毒性を示す、または、毒性がある共通の代謝物をもつ一群の化合物について設定される、グループTDIとして設定しました。
EFSAが2016年の評価時に算出した毒性指標値やTDIは、同じ毒性試験のデータを用いたにも関わらず、JECFAが算出したものと大きく異なりました。このため、EFSAは2017年1月に毒性指標値の算出方法を見直し〔外部リンク〕、2018年1月に、最新のデータも考慮した上で3-MCPD及び3-MCPD脂肪酸エステル類の健康影響についての評価結果を見直しました。この結果、3-MCPDと3-MCPD脂肪酸エステル類をあわせた毒性指標値は0.20 mg/kg 体重/日、TDIは2.0 μg/kg 体重とし、これらはJECFAの評価と大きく変わらないものでした。
摂取量評価
EFSAは、EU各国及び油脂関係事業者から提出された食品中の含有実態データとEU各国の食事摂取量の調査結果を活用し、食品から摂る3-MCPD及び3-MCPD脂肪酸エステル類の量を推定しました。また、この量がTDIに占める割合を算出しました(表1)。その結果、
- 10歳以上の子どもや大人が一日に摂る量は、TDIより少ない
- 10歳未満の子どもが一日に摂る量は、とても多い人(高摂取群)*だと、TDIより多い可能性がある
- 乳児用調製乳だけを飲む乳児が一日に摂る量は、平均の量でもTDIより多い可能性がある
と結論しました。
年齢 | 推定経口摂取量(3-MCPD換算) (μg/kg 体重/日) |
推定経口摂取量が PMTDIに占める割合(%) |
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平均 | 高摂取群* | 平均 | 高摂取群* | |
4か月未満 (乳児用調製乳のみを飲む場合) |
2.4 | 3.2 | 120 | 160 |
10歳未満 | 0.5-1.5 | 1.1-2.6 | 25-75 | 55-130 |
10歳以上 | 0.2-0.7 | 0.3-1.3 | 10-35 | 15-65 |
(赤字:推定経口摂取量がPMTDIを超えている場合)
*3-MCPD及び3-MCPD脂肪酸エステル類を摂る量が、全体の上位5%の集団です。
2-MCPD及び2-MCPD脂肪酸エステル類による健康影響
毒性評価
実験動物に2-MCPDを投与すると、腎臓や心筋等に悪影響があることが報告されていますが、長期間与え続けた場合の健康影響や発がん性についてのデータはありませんでした。また2-MCPD脂肪酸エステル類の毒性に関するデータもありませんでした。EFSAは、2-MCPD及び2-MCPD脂肪酸エステル類について、毒性指標値を設定するのに十分な毒性データがないと結論しました。
摂取量評価
EFSAは、EU各国及び油脂関係事業者から提出された食品中の含有実態データとEU各国の食事摂取量調査の結果を活用し、食品から摂る2-MCPD脂肪酸エステル類の量を推定しました。その結果は表2のとおりです。
年齢 | 推定経口摂取量(2-MCPD換算) (μg/kg 体重/日) |
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---|---|---|
平均 | 高摂取群* | |
4か月未満 (乳児用調製乳のみを飲む場合) |
0.7-1.3 | 1.6 |
10歳未満 | 0.2-0.7 | 0.5-1.2 |
10歳以上 | 0.1-0.3 | 0.2-0.6 |
*3-MCPD及び3-MCPD脂肪酸エステル類を摂る量が、全体の上位5%の集団です。
グリシドール脂肪酸エステル類による健康影響
毒性評価
実験動物にグリシドール脂肪酸エステル類を投与すると、ほとんどが腸管で分解されてグリシドールとして吸収されることが報告されました。また、グリシドールは遺伝毒性発がん性注4があること、生殖毒性や神経毒性があることが認められました。
注4 理論上、1分子でも細胞のDNAに直接作用して遺伝子の突然変異をもたらし、それが原因となって発がんを引き起こす毒性です。ただし、物質によっては、毒性に閾値がある場合もあります。
EFSAは、これらの結果から、食品から摂るグリシドール脂肪酸エステル類はすべて分解され、グリシドールとなって吸収されると仮定し、グリシドールとしての毒性を評価しました。実験動物にグリシドールを投与した試験において、投与しない場合と比べて発がんが25%だけ増加する体重あたりの投与量(T25)である、10.2 mg/kg 体重/日を毒性指標値としました。
また、グリシドールが遺伝毒性発がん物質であることから、人が一生涯にわたり毎日摂っても健康への悪影響がないと推定される量を設定することは適切ではないと結論しました。
摂取量評価
EFSAは、EU各国及び油脂関係事業者から提出された食品中の含有実態データとEU各国の食事摂取量調査の結果を活用し、食品から摂るグリシドール脂肪酸エステル類の量を推定しました。また、この値を用いて、毒性指標値が、食品から摂る量の何倍に相当するか(Margin of Exposure; MOE)を算出しました(表3)。
MOEは、食品から摂る量が少なく安全側に近づくほど大きな数値になります。EFSAは、遺伝毒性発がん物質について、T25に対するMOEが25,000以上(食品から摂る量が毒性指標値の25,000分の1以下)であれば、健康への懸念は低いとしています。
グリシドール及びグリシドール脂肪酸エステル類については、MOEが25,000より小さい可能性があると結論しました。
年齢 | 推定経口摂取量(グリシドール換算) (μg/kg 体重/日) |
MOE (毒性指標値÷推定経口摂取量) |
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平均 | 高摂取群* | 平均 | 高摂取群* | |
4か月未満 (乳児用調製乳のみを飲む場合) |
1.8-2.1 | 4.9 | 4,900-5,700 | 2,100-12,000 |
10歳未満 | 0.3-0.9 | 0.8-2.1 | 11,000-24,000 | 4,900-13,000 |
10歳以上 | 0.1-0.5 | 0.2-1.1 | 20,000-100,000 | 9,300-51,000 |
(赤字:MOEが25,000より小さい場合)
* グリシドール及びグリシドール脂肪酸エステル類を摂る量が、全体の上位5%の集団です。
勧告
EFSAは、これらの評価結果から、更なる調査・研究として以下が必要であると勧告としました。
- 3-MCPD、2-MCPD及びグリシドールとこれらの脂肪酸エステル類を含む可能性のある食品(低減に取り組んだものを含む。)の含有実態調査
- 生体内のグリシドールばく露量をより精緻に測定するための指標(バイオマーカー)を開発すること
- 3-MCPD、2-MCPD及びグリシドールの脂肪酸エステル類から、3-MCPD、2-MCPD及びグリシドールが生成するメカニズムに関する研究
- 2-MCPDの毒性評価に必要な、長期毒性に関する研究 等
お問合せ先
消費・安全局食品安全政策課
担当:化学物質管理班
代表:03-3502-8111(内線4453)