かびとかび毒についての基礎的な情報
かび毒のリスク管理が国の内外で進んでいます
かび毒とは、植物病原菌であるかびや貯蔵穀物などを汚染するかびが産生する化学物質で、人や家畜の健康に悪影響を及ぼすものをいいます。かび毒のことを "マイコトキシン(mycotoxin)" ということもあります。
食品の安全性を向上させるためには、生産から消費にわたって(「生産現場から食卓まで」)食品に含まれる有害物質の濃度を低くすることが重要です。基準値を作っただけで、食品に含まれる有害物質の濃度が勝手に低くなったりすることはありません。農産物中のかび毒については、特に生産段階や貯蔵段階において、必要に応じて汚染を防止、低減するための対策を行うことが最も有効です。
このため、コーデックス委員会では、農産物のかび毒汚染を防止・低減するため、生産段階や貯蔵段階における適切な対策などを示した実施規範(Code of Practice)を優先的に策定しています。その対策の効果を評価したり、遵守状況を確認したりするため、必要であれば食品中の最大基準値の設定を進めています。
日本でも、麦類の生産段階や貯蔵段階におけるデオキシニバレノール、ニバレノールの汚染低減やりんご果実の生産、流通段階やりんご果汁の流通、製造段階おけるパツリン汚染防止に取り組んでいます。また、総アフラトキシン(農産物を含む全ての食品)、アフラトキシンM1(乳)、デオキシニバレノール(小麦)、パツリン(りんご果汁)については、食品衛生法に基づく基準値などが設定されています。
農林水産省は、2002(平成14)年度から毎年度、かび毒による国産農産物の汚染実態を把握するための調査を実施しています。これまでの結果では、国内外のリスク評価結果を考慮すると、食品を通したかび毒の摂取により人の健康に悪影響が生じる可能性は低いと推察される状況ですが、湿潤かつ温暖なわが国の気候は、かびの生育に適した環境であり、気象条件や生産、貯蔵時の管理や取扱などによっては、農産物に健康への悪影響が無視できないかび毒汚染がおこる可能性があります。かび毒による健康被害の発生を未然に防止するためには、汚染実態を把握し、その汚染の程度に応じて、生産段階や貯蔵段階において必要かつ適切な対策をとることが不可欠です。 そこで、これまでに麦類や米の関係者向けに生産や貯蔵段階での対策をまとめた指針やガイドラインを作成し、普及に努めています。
かびとかび毒とは?
かびは有効活用されています
かび毒を産生するかびがいる一方で、私たちの身の回りには暮らしに有用なかびが数多く存在し、これまでにも有効活用されています。
その例として、 みそやしょうゆなどをはじめとする様々な発酵食品があり、これらの食品はかびの力によって生み出されるものです。しょうゆやみりんなどの調味料をはじめ、世界中でも類を見ないほど様々な発酵食品を利用しているわが国は、最も上手にかびを活用している国でもあります。また、抗生物質や酵素製剤など医薬の発展に貢献してきたかびも数多く存在します。
食品以外では、森林の落ち葉を分解して環境浄化や物質循環などに関係するかびもあります。
- 主にかびの働きを利用した食品の例
かつおぶし、甘酒、テンペなど
- かびのほか、酵母や細菌の働きも利用した食品の例
しょうゆ、みそ、みりん、日本酒、焼酎、カマンベールチーズなど
かび毒にはどのようなものがあるのでしょうか
現在、100種類以上のかび毒が知られていますが、わが国で消費される農産物や食品を汚染する可能性がある主なかび毒には、以下のようなものがあります。
かび毒 | 汚染が確認されている 主な農産物や食品 |
かび毒を産生する主なかび |
---|---|---|
アフラトキシン類 (アフラトキシンB1、B2、G1、G2、M1、M2) |
ナッツ類、穀類、乾燥果実、牛乳 | Aspergillus flavus Aspergillus parasiticus |
オクラトキシンA | 穀類、豆類、果実、コーヒー豆、カカオ | Aspergillus ochraceus Penicillium属 |
トリコテセン類 (デオキシニバレノール、ニバレノール、 T-2トキシン、HT-2トキシンなど) |
穀類 | Fusarium属 |
パツリン | りんご加工品 | Penicillium expansum |
ゼアラレノン | 穀類 | Fusarium属 |
フモニシン類(フモニシンB1、B2、B3) | とうもろこし | Fusarium属 |
ステリグマトシスチン | 穀類 | Aspergillus versicolor |
シトリニン | 穀類 | Penicilium citrinum |
ルテオスカイリン | 穀類 | Penicillium islandicum |
麦角アルカロイド類 | 穀類 | Claviceps属 |
かび毒と農産物の汚染は多様
かび毒は、その種類によって汚染する農産物や汚染する時期・作物中の部位などが異なります。例えば、麦が開花期から登熟期にかけて長雨に合うと、穀粒に赤かび病の病原菌であるフザリウム属(Fusarium)のかびが付着・増殖し、かび毒の一種であるデオキシニバレノール、ニバレノールなどを産生します。
一方、収穫期や貯蔵中に増殖したかびが産生するかび毒もあります。例えば、りんご果汁での汚染が知られているパツリンは、土壌中のペニシリウム属のかび(Penicillium expansum)がりんご果実についた傷から侵入し、貯蔵中に果実の中で増殖する際に産生するとされています。
また、かびによるかび毒産生量は、環境条件などの影響を受けることから、地域の自然条件や年ごとの気候変動による差が大きいだけではなく、個々の農産物の生産管理や貯蔵などの取扱い状況によっても異なります。単年度の調査では、適切にかび毒の含有実態を把握することは難しいため、農林水産省では、食品中のかび毒に関して継続的に実態調査を行っています。
かび毒の摂取
食品にかびが生えているかどうかは肉眼で確認できる場合もありますが、かび毒が含まれているかどうかは見た目ではわかりません。かびそのものは加熱などにより死滅しますが、かび毒の中には比較的熱に強く、通常の加工・調理では十分に減少しないものもあります。このため、一度かび毒に汚染されてしまうと、食品からかび毒を取り除くことは困難であり、食品を通して微量のかび毒を摂取してしまう可能性があります。そのような可能性をできるだけ低くするために、農産物や食品にかび毒を作るかびが発生しないよう適切に管理することが重要です。
また、かび毒に汚染された農産物や食品を食べることで直接摂取する場合のほか、アフラトキシン類のように、かび毒に汚染された飼料を食べた家畜を経由して、かび毒が乳や肉などの畜産物に移行し、それを食べることで摂取する場合もあります。また、飼料に含まれるかび毒が家畜の健康に悪影響を及ぼすことも知られています。そのため、農林水産省では、飼料に含まれるかび毒に関して指導基準や管理基準を設定し、畜産物のかび毒汚染、家畜の健康被害を未然に防止する対策を進めています。飼料の安全確保に関する取組について、詳しく知りたい方は以下のサイトをご覧ください。
(参考)
飼料の安全関係
お問合せ先
消費・安全局農産安全管理課
担当者:生産安全班
代表:03-3502-8111(内線4507)
ダイヤルイン:03-3592-0306