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農林水産省

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第6節 農林水産物・食品の新たな需要の開拓


農林漁業の振興や農山漁村の活性化を図るためには、農林水産物・食品の生産、加工、流通といったバリューチェーン(*1)の各段階におけるイノベーションを通じて、新たな価値の創出を促進することが必要です。このため、農業者が食品産業事業者や他の農業者等とも積極的に連携しつつ、主体的に取り組む6次産業化(*2)等を推進するとともに、介護、福祉、医療、観光分野等との連携を強化していくことが重要です。


1、2 [用語の解説]を参照

(6次産業化等の推進)

農林漁業者等が農林水産物の加工・直売等に取り組む6次産業化を推進するため、農林水産省では、六次産業化・地産地消法(*1)に基づく総合化事業計画の認定や事業開始後の販路拡大等の支援を行っています。

平成23(2011)年度の認定開始以降、同計画の認定件数は着実に増加し、平成28(2016)年3月31日現在の認定件数は2,156件となっています(図1-6-1)。農林水産省では、平成27(2015)年9月より総合化事業計画の認定の機会を年3回から毎月に拡大しました。


1 正式名称は「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関わる法律」(平成23(2011)年3月施行)

図1-6-1 総合化事業計画の認定件数の推移
データ(エクセル:36KB / CSV:1KB

また、6次産業化を推進するため、平成27(2015)年度から、市町村が、農林漁業、商工、金融等の幅広い関係者が参画した推進協議会を設置し、6次産業化等に関する戦略に沿って行う地域ぐるみの取組を支援しています。

農業経営体及び農業協同組合等による農産物の加工・直売等の年間総販売金額は、平成25(2013)年度で1兆8,175億円となっており、前年度に比べて781億円増加しました。業態別にみると、農産物直売所は9,026億円、農産物の加工は8,407億円、観光農園は378億円となっています(図1-6-2)。また、農産物の加工・直売等に取り組む農業経営体の家族や運営主体の構成員と雇用者を合計した総従事者数は、平成25(2013)年度で46万7,100人となっており、前年度に比べて1万7千人増加しました。業態別にみると、農産物直売所は21万2,600人で、農産物の加工は17万7,900人、観光農園は5万6,900人となっています。


1 「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律」(平成20(2008)年7月施行)に基づき認定する。

図1-6-2 農業生産関連事業の年間総販売金額及び総従事者数(平成25(2013)年度))
データ(エクセル1:36KB2:37KB / CSV1:1KB2:1KB

また、農林水産省と経済産業省では、農林漁業者と中小企業者の経営改善を図るため、両者の連携(農商工連携)を強化し、相乗効果を発揮できるよう農商工等連携事業計画(*1)の認定や新商品開発・販路開拓等の支援を行っています。同計画の認定件数は着実に増加しており、平成28(2016)年2月現在の認定件数は685件となっています。


事例:6次産業化の取組

(1)輪作体系を利用した6次産業化の取組による経営の多角化の実現

熊本県八代市
やつしろ菜の花ファーム987の皆さん
やつしろ菜の花ファーム987の皆さん

熊本県八代市(やつしろし)のやつしろ菜の花ファーム987の代表岡初義(おか はつよし)さんは、菜の花、水稲、い草、ホールクロップサイレージを組み合わせ、2年4作の作付体系を構築しました。

通常、い草は泥染めをして畳等に加工しますが、岡さんは泥染めをせずに差別化を行っています。畳だけに限らず、インテリアになるい草のドライフラワーを開発し、販売を行っています。

また、輪作作物を用いた6次産業化を進めており、菜の花に関連した商品として蜂蜜、菜種油を作っています。さらに、地元の酒造メーカーと連携して日本酒を生産しています。東京へ日本酒を販売に行った際に、酢のメーカーと出会ったことをきっかけに、酢の生産を始めました。このように様々な商品開発に取り組み、経営の多角化を実現しました。

岡さんは菜の花を活用した地域づくりの取組も行っており、「農業は楽しい、農業の将来は明るいということを示したい。」と語っています。

今後は、農業塾の開講も考え、後継者育成にも積極的に取り組んでいきたいとしています。

 

(2)伝統野菜「加賀れんこん」を利用した高付加価値化の取組

石川県金沢市
川端崇文さん
川端崇文さん
加賀れんこんのチップス
加賀れんこんのチップス

石川県金沢市(かなざわし)の農事組合法人(*1)蓮(はす)だよりでは、地域の特産品である加賀野菜のひとつ「加賀れんこん」を利用した商品の加工・販売を行っています。

同社代表理事の川端崇文(かわばた たかのり)さんは、自宅近くでれんこん栽培を手伝っているうちに、れんこん栽培に魅力を感じ、平成18(2006)年に新規就農しました。自身で耕地面積を拡大し、現在は約3haの農地でれんこんを栽培しています。れんこんは、除草剤などの農薬を使用せず栽培し、ジェットポンプからの噴出水を利用した水圧堀りにより収穫しています。収穫したれんこんの一部を人工のかまくらと呼ばれている氷温庫で保存し、賞味期限を2週間から2か月へと延ばすことで収穫期以外の出荷を可能としています。

収穫した加賀れんこんの中には、汚れのあるものや形が悪いもの等、生鮮では出荷できないものがあり、それらを加工できないかと考え、れんこんのチップスの生産を始めました。1日当たりの生産量は従業員4名で200袋が限界でしたが、加工用機械の導入後は約560袋の生産が可能となりました。

製造したれんこんのチップスは道の駅や産直、アンテナショップ等で販売しています。れんこんのチップスのPRのために交流事業への参加、SNS(*2)での情報発信、レストランへの販路開拓を行っています。最近では、周りの農家もれんこんをチップスに加工しイベント等で販売する動きが出始めています。

今後は、れんこんのチップスの販売数量とれんこんの生産量を増やして雇用を生み出したいとしています。

*1 [用語の解説]を参照
*2 Social Networking Serviceの略。登録された利用者同士が交流できるウェブサイトのサービス

(3)直売所やレストランに人を呼び込む取組

宮城県登米市
直売所と伊藤秀雄さん
直売所と伊藤秀雄さん

宮城県登米市(とめし)の有限会社伊豆沼農産は、昭和63(1988)年創業し、現在、養豚600豚を中心に、ハム・ソーセージ等の食品加工や直売所・レストラン体験教室等の総合都市農村交流施設くんぺるの運営、通信販売を行っています。また、ラムサール条約に登録された伊豆沼に面していることもあり、食農・環境教育にも力を入れています。

現在、直売所や通信販売等において特典が受けられる会員制度を実施しており、会員数は約5千人にまで増えています。また、野菜畑オーナー制度や生ハムオーナー制度も実施しています。会員・オーナー制度によってファンが増え、消費者が実際に足を運んでもらうきっかけとなっています。

代表取締役の伊藤秀雄(いとう ひでお)さんは、今後も会員等を増やし、通信販売件数や来園者数が増えてくれれば、更に経営や地域が発展していけるのではと期待しています。

 

(4)地域の地方公共団体・関係団体が一体となった6次産業化の取組

北海道十勝地方

北海道十勝(とかち)地方では、地域の強みである農業・食を活かして地域の振興を図るため、管内19市町村を始め、農林漁業団体、商工業団体、金融機関、大学や試験研究機関等を構成員とした「フードバレーとかち推進協議会」(以下「協議会」という。)を設立し、オール十勝で取組を進めています。

具体的には、道外、海外飲食店関係者との十勝食材のマッチングや、地域事業者の事業拡大につなげるための人材育成事業等を行っています。このような取組により、商品開発、新事業展開等の新たな取組にチャレンジする機運が高まるとともに、各種PR活動により、十勝食材の知名度の向上や販路の拡大が進んでいます。

また、協議会では、地域の食の付加価値向上の切り口として「機能性食品」に着目し、新たな商品開発を行うために、平成27(2015)年3月にフジッコ株式会社と包括連携協定を締結しました。協議会とフジッコ株式会社では、6次産業化ネットワーク活動交付金を活用し、地域の農業協同組合、研究機関、食品加工業者等と協力して、通常は廃棄される枝豆の葉と茎から抽出されるシロップを活用した商品開発を進めています。

今後は、包括連携協定で得られた研究成果を地域の加工業者の商品に活用することにより、十勝の食の付加価値向上につなげたいとしています。


フジッコ株式会社との連携事業実施スキーム

(6次産業化プランナー)

6次産業化の推進を図るためには、6次産業化に取り組む農林漁業者等を適時・的確にサポートする体制の充実が重要です。六次産業化・地産地消法に基づく基本方針でも、幅広い知識・経験を有する6次産業化プランナーを全国に配置し、総合化事業の構想段階から事業化までを総合的にサポートすることとされています。6次産業化プランナーは、都道府県ごとの地域に設置されている都道府県サポートセンターと、全国段階に設置されている6次産業化中央サポートセンターに登録されており、登録者数(平成28(2016)年3月31日時点)は、それぞれ780人、241人となっています。事業者が6次産業化プランナーに求めるアドバイスの内容としては、新商品企画や新商品の販路開拓が上位となっています。

6次産業化プランナーを利用した事業者からは、アドバイスが役立ったという声が数多く寄せられている一方、一部の6次産業化プランナーには事業者が求める専門分野に関する知識・経験が欠如している、一般的な理論のみで説明が分かりにくいといった声もあります。これらのことから、平成27(2015)年度より6次産業化プランナーを利用した事業者の満足度調査等を通じて6次産業化プランナーを評価するとともに、平成28(2016)年度の6次産業化プランナーの登録にその評価を反映する仕組みを導入しています。


(地産地消の推進)

地産地消(*1)は、地域の農林漁業と関連事業の活性化につながる重要な取組です。農林水産省では、地産地消に大きな役割を担う直売所での販売や農産物の加工による高付加価値化等に取り組む際の支援を行っています。農林水産省が平成23(2011)年3月に定めた基本方針(*2)において、通年で営業する直売所のうち年間販売金額が1億円以上のものの割合を、平成32(2020)年度までに50%以上とすることを目標としており、平成25(2013)年度は19%となっています。また、各地でマルシェ(*3)の活用等の取組もみられます。

また、学校給食における地場産物等の利用は、地域の自然や文化、産業等に関する理解を深めるとともに、生産者の努力や食に対する感謝の念を育む上でも重要です。

学校給食における地場産物等の利用については、内閣府に設置された食育推進会議が平成23(2011)年3月に作成した「第2次食育推進基本計画」(平成25(2013)年12月一部改定)において、平成27(2015)年度までに、学校給食における地場産物の使用割合(食材数ベース)を30%以上、国産の食材の使用割合(食材数ベース)を80%以上とする目標が定められていましたが、平成26(2014)年度の割合は、それぞれ26.9%、77.3%となっています。平成28(2016)年3月に作成された「第3次食育推進基本計画」においても、平成32(2020)年度までにそれぞれ30%以上、80%以上を目指すことが定められました。


1 [用語の解説]を参照
*2 正式名称は「農林漁業者等による農林漁業及び関連事業の総合化並びに地域の農林水産物の利用の促進に関する基本方針」
*3 生産者等が市街地においてテント等を連ね農林水産物及びその加工品を定期的に直接販売する会場

事例:農業後継者による軽トラマルシェの取組

北海道剣淵町
軽トラマルシェの様子
軽トラマルシェの様子

北海道上川郡剣淵町(かみかわぐんけんぶちちょう)の「絵本の里けんぶちVIVAマルシェ」では、直接消費者の所に軽トラックで出向いて、農産物等を販売する「軽トラマルシェ」を行っています。

代表の高橋朋一(たかはし ともかず)さんは、Uターン就農後ほどなく農協青年部長となり、例年決まった事業を行う中で、何か新しい事にチャレンジし、青年部を活発化したいとの思いから、平成22(2010)年4月、青年部の新規事業として「軽トラマルシェ」を発案しました。

平成22(2010)年8月、13人の農業者で、地元のお祭りにおいて初めてのマルシェを開催しました。これが評判を呼び、関係機関からの誘いもあって初年度は6回開催し、4年目となる平成27(2015)年は24回実施しました。

販売に当たっては、メンバー3人が「野菜ソムリエ」の資格を取得し、ソムリエ風エプロンと帽子で販売するほか、ロゴの統一や木箱に英字新聞を敷くディスプレイなど、売り方も含めてブランド化しています。

スーパーマーケットで購入できる野菜では価格競争で負けてしまうことから、2年目以降は、冷涼な気候を活かし、高温多湿な地域では栽培が難しいひよこ豆やレンズ豆を始めとする希少野菜や伝統野菜の栽培に着手しました。現在約350品種の野菜等を栽培しています。マルシェを通じて消費者から直接野菜品種の要望を聞き、種子を購入しています。

最近では、珍しい多種類の野菜をまとめて調達したいと考えている仲卸等の業者のために、複数の生産者の野菜を業者発送することも行っており、経営に組み込める売上規模となっています。

マルシェの冬の商品を多様化するため、地域で加工を行う障害者福祉施設「けんぶち産加工研究会」と農家女性による加工グループ「トイ・トイ・トイ」と連携し、野菜ドレッシングや、じゃがいも、かぼちゃ、枝豆を使ったスイーツ等を開発・販売しています。若手農業者の活気に満ちた姿勢、行動等が顕著に見られるようになるなど、地域農業の活性化と人づくりに貢献しています。

 

(農林漁業成長産業化ファンドの積極的活用)

図1-6-3 農林水産物別の出資決定件数
データ(エクセル:38KB / CSV:1KB

農林漁業者が6次産業化に取り組む際、資本の充実や、消費者の需要に的確に対応した商品開発等に関するノウハウの取得が課題となっています。このため、平成25(2013)年2月に開業した株式会社農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE(*1))は、官民ファンドとして、6次産業化事業体に対し、サブファンド(*2)を通じた間接出資や、A-FIVEによる直接出資・融資(資本性劣後ローン)により支援を実施しています。ファンドの出資対象は、農林漁業者等を主たる出資者として、加工・流通等のノウハウ等を有するパートナー企業が資本参画することで形成される合弁事業体等(6次産業化事業体)です。平成28(2016)年3月31日現在、53のサブファンドへ総額750億円(うちA-FIVE分 375億円)を支援決定し、6次産業化事業体への出資決定件数は88件、出資決定額は72億円(A-FIVEによる直接出資を含む。)となっています。出資決定件数の対象農林水産物別の内訳は、園芸作物等が30件(34.1%)、畜産物が21件(23.9%)、果物類が10件(11.4%)となっています(図1-6-3)。


1 Agriculture, forestry and fisheries Fund corporation for Innovation, Value-chain and Expansion Japanの略
*2 A-FIVEと農林漁業・食品産業に関心のある地方金融機関等が共同出資して設立するファンド(投資事業有限責任組合)

(医福食農連携の推進)

医福食農連携とは、医療・福祉分野と食料・農業分野が連携し、薬用作物の国内生産、機能性を有する農林水産物・食品や介護食品(*1)の開発・普及、農作業を活用した障害者・高齢者等への支援等を行う取組です。この取組を通じて超高齢社会に対応しながら産業の高付加価値化等を図り、農業・食品産業を活性化するとともに、「食」と「農」を基盤とした健康長寿社会を構築していく必要があります。

農林水産省では、医福食農が連携し、食と健康に関する科学的知見の集積と活用による研究から産業化までを一体的に推進する場をつくる取組を支援しています。今後も、食品産業事業者や農林漁業者による新商品開発や健康支援サービス等が広がることが期待されます。



事例:製薬会社による生薬の一貫生産の取組

北海道夕張市
センキュウの栽培状況
センキュウの栽培状況

株式会社ツムラは、漢方製剤の需要増加に伴い、原料となる生薬の調達のため、国内外での薬用作物栽培の拡大、保管倉庫の増設を進めています。平成21(2009)年には、北海道の生薬調達拠点として、交通利便性や気候が適した北海道夕張市(ゆうばりし)に株式会社夕張ツムラを設立し、平成26(2014)年12月には農業生産法人(*1)となりました。

株式会社夕張ツムラでは、栽培面積約300haで、ブシ(トリカブト)、センキュウ、オウギ、トウキ、ソヨウ(シソ)等の10品目を約700t生産しています(平成26(2014)年現在)。また、生薬の生産において、道内46市町村、38の生産団体との連携を行っています。さらに、自社で調整加工・保管までを行っています。平成27(2015)年9月には保管倉庫を増設し、それまでの保管能力から2倍となったほか、これまで道外で行っていた医薬品の原料生薬に仕上げるための選別機能の追加により、北海道での生薬の一貫生産が可能となりました。薬用作物の栽培は、使用可能な農薬が少ないことや、除草等の労働負荷が多く、機械化が遅れていることが課題であることから、関係機関と協力して農薬の適用拡大や農業機械の開発を積極的に進めています。

株式会社夕張ツムラでは、遊休農地(*2)、荒廃農地(*3) の有効活用の推進、生産農家との連携による6次産業化の推進、社会福祉法人との連携による薬用作物生産を通じた就労支援の推進を3つの方針として、生産拡大を行っています。

今後は、栽培品目を20品目、栽培面積を1,000ha、生産量を2,000tに増やすほか、道内の契約栽培団体・農家への支援や栽培技術指導等を通じ、道内における生薬の生産拡大を目指すこととしています。

*1~3 [用語の解説]を参照


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