第2節 輸出拡大等による「海外から稼ぐ力」の強化
人口減少下においても農業の生産基盤や食品産業の維持・強化を図るためには、これまでの国内市場のみに依存する農林水産業・食品産業の構造から、今後成長する海外市場で稼ぐ方向に転換することが不可欠です。そのため、政府は令和2(2020)年11月に「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」(以下「実行戦略」という。)を策定し、取組を進めてきました。
本節では、実行戦略に基づく施策や取組のほか、輸出拡大とともに、食品産業の海外展開やインバウンドによる食関連消費の拡大を図ることによる「海外から稼ぐ力」の強化に向けた取組を紹介します。
(1)「海外から稼ぐ力」の強化に向けた施策の展開方向
(実行戦略を改訂)
基本計画では、輸出拡大を加速するとともに、食品産業の海外展開、インバウンドによる食関連消費の拡大の連携による相乗効果を通じた「海外から稼ぐ力」の強化に向けた目標が設定されたところであり、これらの施策の具体化を図るため、令和7(2025)年5月に実行戦略を改訂しました。
令和6(2024)年の農林水産物・食品の輸出額が1.5兆円を超えた中で、一層の輸出拡大を図るためには、我が国の農林水産物・食品の活用を現地の食生活に溶け込ませる形で新たな市場を創造する「マーケットメイク」を図ることが鍵となります。また、世界の通商環境が不透明化する中であっても輸出を安定的な稼ぎとするためには、輸出構造を強靱(きょうじん)化することが重要であり、このため、農林水産業・食品産業の生産性の向上、ブランド化等による高付加価値化を進めるとともに、輸出先が特定の国・地域に過度に偏るリスクを回避できるよう、非日系市場や未開拓の有望エリア等の新市場を開拓し、輸出先の多角化を進める必要があります。
農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略
URL:https://www.maff.go.jp/j/shokusan/
export/progress/index.html
このような認識の下、実行戦略では、輸出拡大について、我が国の強みを最大限に発揮すること、海外市場で求められるスペックの産品を専門的・継続的に生産販売する「マーケットイン」の発想で輸出にチャレンジする農林水産事業者を後押しすること、省庁の垣根を超え政府一体として輸出の障害を克服することの三つの基本的な考え方に基づき、農林水産業・食品産業の「海外から稼ぐ力」を強化することとしています。
(2)輸出拡大の加速化
(輸出重点品目と輸出目標を設定)
今後の輸出拡大に向け、海外で評価される我が国の強みがある品目を中心に輸出を加速することが重要であるため、輸出拡大の余地が大きく、関係者が一体となった輸出促進活動が効果的な品目として、31品目を輸出重点品目に選定しています(図表3-2-1)。
また、輸出重点品目以外についても、輸出目標とその実行のための課題と対策を明確化する産地・事業者には引き続き適切な支援を行っていくこととしています。
(輸出重点品目に係るターゲット国・地域ごとの輸出目標、取組を明確化)
輸出重点品目ごとに、海外の市場動向や輸出環境等を踏まえ、輸出拡大を重点的に目指す主なターゲット国・地域ごとの輸出目標を設定し、現地での販売を伸ばすための課題とその克服のための取組を明確化しています(図表3-2-2)。
なお、輸出目標の設定に当たっては、市場のニーズを踏まえつつ、今後の輸出増のポテンシャルが高い国・地域についても新たなターゲット国・地域として位置付けることを通じ、輸出先国・地域の多角化を図っていくこととしています。
(認定品目団体、JETRO、JFOODOによるオールジャパンでの輸出力強化の取組を推進)
輸出促進法に基づき、輸出重点品目ごとに、生産から販売に至る関係者が連携して、輸出の促進を図る法人を、法人からの申請により認定品目団体として認定しており、令和8(2026)年3月末時点では、合計15団体(28品目)となっています(図表3-2-3)。認定品目団体は、市場調査やジャパンブランドによる共同プロモーション等の個々の産地・事業者では取り組み難い非競争分野の輸出促進活動を行い、業界全体での輸出拡大に取り組んでいます。
海外見本市でのプロモーション活動
JETROでは、セミナーやウェブサイト等を通じた輸出関連制度やマーケット情報の提供、相談対応等の輸出事業者等へのサポートのほか、海外見本市への出展支援、国内外での商談会の開催等により、輸出に取り組む国内事業者への総合的な支援を実施しています。
日本食品海外(にほんしょくひんかいがい)プロモーションセンター(以下「JFOODO(ジェイフード―)」という。)では、現地の需要を作り出すため、現地での消費者向けプロモーション等を戦略的に実施しています。具体的には、SNS、デジタル広告等による情報発信、小売・外食店等と連携したPRイベントの開催といった活動を認定品目団体等とも連携しながら行っています。
今後は、認定品目団体、JETRO、JFOODOが連携を強化し、海外の関係機関とも協力しながら、特に未開拓の有望エリアの新市場の開拓を一体的に実施していくこととしています。
(重要市場の輸出商流維持・拡大を支援)
これまでの輸出促進施策は、JETRO、JFOODO、輸出支援プラットフォーム、認定品目団体といった関係団体を通じて、オールジャパンで輸出に取り組む事業者の取組を後押しするものが中心でした。しかし、米国の関税措置等の影響や、海外市場での中国産品・韓国産品等との競合が激しさを増す中で、輸出事業者が行う販路拡大、商品の高付加価値化、コスト削減等の競争力強化に向けた様々な取組を、事業者のニーズや課題に応じて適切に後押しする必要が生じました。そのため、実行戦略で品目別輸出額目標を定める国・地域を「重要市場」として、個々の事業者による現地小売店でのフェアの実施、店頭・ECサイトでのプロモーション、現地の卸売業者と連携した商談会への参加、現地向け新商品の開発及びテストマーケティングといった取組等を支援することにより、重要市場における輸出商流の維持・拡大を図ることとしています。
(海外の日本食レストラン等と連携したプロモーションを実施)
令和7(2025)年の海外における日本食レストラン数(概数)は18万1千店と、令和5(2023)年の18万7千店から6千店減少しました(図表3-2-4)。
また、日本産食材を積極的に使用する海外の飲食店や小売店として民間団体等が主体となって認定した「日本産食材サポーター店」は、令和8(2026)年3月末時点で約4千店となっています。
さらに、農林水産省では、日本料理の調理技能認定制度の普及、外国人を対象とした日本食料理人育成のための招聘(しょうへい)研修や日本料理コンテストの実施、海外料理学校等での日本食講座開設等を通じた外国人料理人の育成等により、海外における日本食・食文化発信の担い手を育成するとともに、日本食・食文化の魅力を外国人目線に立って紹介した映像・記事の制作・発信等を通じ、日本食・食文化の普及に取り組んでいます。
(輸出先国・地域における専門的・継続的な支援体制を強化)
主要な輸出先国・地域において、農林水産物・食品の輸出を行う事業者を包括的・専門的・継続的に支援するため、在外公館、JETRO海外事務所、JFOODO海外駐在員を主な構成員とし、現地発の情報提供や新たな商流の開拓支援等を行う輸出支援プラットフォームを令和8(2026)年3月末時点で10か国・地域(16拠点)に設置しています(図表3-2-5)。
また、同プラットフォームでは、現地の食品事業者や日本食レストラン等のネットワークを構築するとともに、輸出を目指す事業者に必要な情報の提供や都道府県等と連携したオールジャパンでのプロモーション戦略の立案、現地系の商流への新規のアプローチの強化等を通じて、輸出事業者等を包括的に支援しています。
(3)マーケットインの発想でチャレンジする事業者を後押し
(リスクを取って輸出に取り組む事業者への投資を支援)
国内市場向けに生産した産品の余剰品を輸出できる国のみに輸出する「プロダクトアウト」からマーケットインへと発想を転換していくためには、リスクを取って輸出向け産品の生産・輸出にチャレンジする事業者の存在が不可欠です。
そのため、農林水産省では、輸出向け産品を生産する輸出産地の育成や、自らリスクを取り、輸出先国・地域の規制やニーズに対応したマーケットイン輸出に取り組む産地・事業者等に対する、重点的な支援・環境整備を行うこととしています。
また、輸出先国・地域の規制に対応した施設整備等の投資を行ってから収益化するまでに一定期間を有することから、輸出促進法に基づく公庫の融資(農林水産物・食品輸出基盤強化資金(*1))や税制特例(輸出事業用資産の割増償却)の積極的な活用を促すことにより、輸出に取り組む事業者を強力に後押しすることとしています。
さらに、投資円滑化法(*2)に基づき、輸出に取り組む事業者に投資する民間の投資主体への資金供給の促進に取り組むこととしています。
*1 沖縄振興開発金融公庫でも貸付けが行われている。
*2 第2章第4節を参照
(マーケットインの発想に基づく輸出産地・事業者の育成・展開を推進)
輸出先国・地域のニーズや規制に対応した産品を、求められるスペックで継続的に提供し、農林水産事業者の利益につなげるため、輸出促進法に基づく輸出事業計画を踏まえた輸出産地の形成に必要な施設整備等を重点的に支援することとしています。また、果樹や野菜等の高収益作物の輸出産地の育成を図ることも必要です。
畜産物については、生産者、食肉処理施設、輸出事業者等が連携して、生産から輸出まで一貫して輸出促進を図る体制(コンソーシアム)の育成・設立等を進めるとともに、コンソーシアムが取り組む産地の特色を活かした商流の構築や拡大、ブランディング等を支援することとしています。
また、輸出産地・事業者をサポートするため、専門的な知見を持つ外部人材を「輸出産地サポーター」として地方農政局等に配置し、マーケットイン輸出に向けた産地の育成を支援することとしています。
輸出産地・事業者の育成や支援を行う農林水産物・食品輸出プロジェクト(GFP(*1))については、令和8(2026)年2月時点で会員数が11,262となっていますが、輸出の熟度・規模が多様化しており、輸出事業者のレベルに応じたサポートを行う必要があります。また、輸出スタートアップを増やしていく必要があり、現場に密着したサポート体制の強化に取り組んでいます。くわえて、輸出産地の形成に向け、GFPを活用した輸出産地向けのセミナーや交流会の開催等の取組を一層進めていくこととしています。
一方、農協系統は、取扱量が多いものの、継続的かつ安定的な出荷の困難さや輸出に向けた物流に十分対応できないなど、マーケットインの輸出に対する課題が多く、そのような課題の解決に向け、農協系統と国との連携が重要となっています。このような中、農林水産省は、令和7(2025)年6月にJAグループと「輸出関係連絡協議会」を開催し、更なる輸出拡大に向けた取組を推進していくことを確認しました。
*1 Global Farmers/Fishermen/Foresters/Food Manufacturers Projectの略
(コラム)輸出入門書「おいしい日本の届け方」を発行
輸出入門書「おいしい日本の届け方」
日本食の人気が世界的に高まる中、農林水産省では、令和7(2025)年4月に、地域や業種を超えた輸出への参画を目指す官民共創プロジェクト「おいしい日本、届け隊」の一環として、食品輸出の基礎から実践までを一冊にまとめた初心者向け入門書「おいしい日本の届け方」を発行しました。
本書は、誰もが輸出に挑戦できるよう、世界各地の市場動向、実践者インタビュー、ノウハウを掲載しています。旅行ガイドブックとのコラボレーションにより、写真や図解、漫画を交え、「輸出に挑戦したいけど何から始めれば良いか分からない。」という声に応え、楽しく視覚的に学べる構成としています。
本書を活用しながら、日本の食・食文化の魅力を世界の人々へ届けるべく取り組んでいくこととしています。
(事例)世界の農園からオリジナルローズを世界へ(滋賀県)

海外の生産パートナーのほ場
資料:株式会社Rose Universe
オリジナルローズ
資料:株式会社Rose Universe
滋賀県守山市(もりやまし)の株式会社Rose Universe(ローズ ユニバース)は、80種類に及ぶオリジナルローズを作出、栽培しています。また、同社はケニアやコロンビア、エクアドル、米国、英国、メキシコに生産パートナーを持っており、各国から世界各地にオリジナルローズの出荷が行われています。
ばらは品種によって香りが異なり、香りの種類によっては、花の持ちが良いほど香りが弱いという性質があります。オリジナルローズは多様な香りを大切にしており、花も細くたおやかに仕立てています。他方で、そのような花は長時間の輸送時間を要する我が国からの輸出は困難でした。
このような中、同社は、「世界中のお花屋さんに自分が作った花を並べたい」という想いを実現するため、その想いに共感した世界各国の生産パートナーにブランドとともに品種をライセンスすることにしました。各地の生産パートナーによって生産されたオリジナルローズは、日本と同様に世界各地でブランド名及びロゴを冠して出荷されており、同社は販売額に応じたロイヤルティを得ています。
海外展開に当たっては、同社は品種登録による保護だけでなく、生産から販売まで一貫して築き上げた独自の世界観をブランド化し、主要な販売先国で商標登録をすることで、不正流通を抑止し、本物のオリジナルローズに価値を付けて販売する仕組みを確立しました。
同社では、今後は流通経路を特定できるタグ等を用いて、切り花のほかに家庭栽培用の苗の輸出も展開していく予定であるほか、ばらのエキスを抽出した加工品等の輸出にも取り組んでいくこととしています。
(輸出人材の育成・確保を推進)
輸出に取り組む事業者にとって、輸出先国・地域のニーズや検疫条件等の規制に精通し、輸出向けの生産や販路開拓等の関連業務に対応できる人材の不足が大きな課題となっています。
一方、現状は輸出先国・地域のニーズや規制、輸出実務等のノウハウを効率的かつ体系的に体得する学習環境が乏しいことから、教育機関と連携した輸出人材の育成の展開やGFPの支援の下で輸出実務経験者等の専門人材と輸出事業者のマッチングを進め、輸出事業者のニーズに合った輸出人材の確保を推進することとしています。
(生産から流通・販売に至る関係者が一体となったサプライチェーンの強化を推進)
輸出の促進に当たっては、生産から流通・販売に至る各段階における課題解決に取り組み、サプライチェーンを強化していくことが不可欠です。
そのため、農林水産省では、国内の生産事業者と海外の現地販売事業者、両者をつなぐ国内外の商社等で構成されるコンソーシアムが行う、生産から現地販売まで一貫した戦略的なサプライチェーンの構築に向けた取組を支援することとしています。
(大ロット・高品質・効率的な輸出等に対応可能な輸出物流の構築を推進)
輸出を拡大するためには、大ロットで経済的な輸出を実践するなど、輸出に向けた効率的な物流の構築が重要です。
そのため、農林水産省では、基幹的な輸出物流ルートにおける国内各地からの最適輸送ルートの構築や、集荷・保管体制の構築に向けた取組を支援するとともに、地方港湾・空港等を活用した輸出物流の構築に向けた調査・実証等を支援することとしています。
(生産・流通体系の転換による輸出産地の形成を推進)
農林水産物・食品の輸出拡大に向けて、残留農薬や動植物検疫といった規制の問題に対応することが求められるため、輸出先国・地域ごとや、品目ごとに、産地が一体となって生産方式を転換していく必要があります。
そのため、農林水産省では、都道府県や農協、地域商社等の地域の関係者が一体となり、遊休農地等の活用、海外での需要や付加価値が高い有機農産物等の生産拡大、鮮度保持のためのコールドチェーンを確保した産地直送型集荷方法の確立や混載を前提とした集荷から船積みまでの流通体系の構築等の、海外の規制・ニーズに対応した生産・流通体系への転換に取り組む大規模輸出産地の育成を目指しています。
フラッグシップ輸出産地について
URL:https://www.maff.go.jp/j/shokusan/
export/gfp/flagship_yusyutsu.html
さらに、農林水産省では、農林水産物・食品を輸出している産地のうち、輸出先国・地域の規制やニーズに対応した輸出を行っていること、一定の量又は金額の輸出実績があること、サプライチェーンを構築し継続的・安定的な輸出を行っていることの三つの要件を全て満たし、輸出取組の手本となる産地を「フラッグシップ輸出産地」として認定・公表しており、令和7(2025)年12月時点では、全国で108産地が認定されています。
(4)政府一体となって輸出の障害を克服
(戦略的な協議の実施)
マーケットイン輸出への転換に向け、海外現地での情報収集や売込み、輸入規制等に関する政府間協議、食品安全管理、知的財産管理、流通・物流整備、研究開発等の様々な関連分野において、政府による環境整備が不可欠です。
農林水産省では、輸出重点品目を中心に、規制導入に関する情報を現地で早期に収集し、国内に提供する体制を整えるとともに、輸出の障害となる輸出先国・地域の規制の撤廃・緩和に向け、農林水産物・食品輸出本部の下で政府一体となり、実行計画(*1)を策定し、戦略的に協議を行っています。
*1 正式名称は「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する実行計画」(輸出促進法に基づき策定)
(東京電力福島第一原子力発電所の事故及びALPS処理水の海洋放出に伴う輸入規制の撤廃を働き掛け)
東京電力福島第一(とうきょうでんりょくふくしまだいいち)原子力発電所の事故に伴い、55か国・地域において、日本産農林水産物・食品の輸入停止や放射性物質の検査証明書等の要求、検査の強化といった輸入規制措置が講じられてきました。これらの国・地域に対し、政府一体となって規制の撤廃に向けた働き掛けを行ってきた結果、令和7(2025)年11月に台湾による輸入規制が撤廃され、令和8(2026)年3月末時点で規制を維持しているのは5か国・地域(*1)まで減少しました。
また、東京電力(とうきょうでんりょく)ホールディングス株式会社では、多核種除去設備(ALPS(アルプス)(*2))等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準を確実に下回るまで浄化処理した水(以下「ALPS処理水」という。)について、トリチウムについても1,500Bq/L未満になるまで海水で大幅に希釈した上で、令和5(2023)年8月から海洋への放出を開始しました。
これに伴い、従来の原発事故に伴う輸入規制に加えて、中国、香港、マカオ及びロシアは日本産水産物等の輸入停止を行いました。しかしながら、ALPS処理水の海洋放出については、IAEA(*3)(国際原子力機関)の包括報告書に明記されているとおり、人及び環境に与える放射線影響は無視できるほどであり、このような点や水産物等の放射性物質検査結果を透明性高く発信してきた結果、令和7(2025)年6月には、ALPS処理水の海洋放出に伴い一時停止されていた日本産の水産物(食用水生動物を含む)の輸入について、中国が、放射性物質に関する証明書等の添付を条件として、37道府県産の水産物については輸入停止措置を解除する公告を発表しました。
輸入停止措置により、水産物を輸出できない状況が続いていたため、「水産業を守る」政策パッケージに基づき、政府一体となってホタテ等水産物の輸出先の転換・多角化等を推進してきた結果、令和7(2025)年の水産物の輸出実績は4,231億円になるなど、中国による輸入制限前の令和4(2022)年の水産物の輸出実績を上回る水準になりました。引き続き、日本産農林水産物・食品の輸入規制を維持している国・地域に対して、規制の撤廃が早期に実施されるよう働き掛けを行っていくこととしています。
*1 ロシア、中国、香港、マカオ、韓国
*2 Advanced Liquid Processing Systemの略
*3 International Atomic Energy Agencyの略
(動植物検疫協議を引き続き推進)
動植物検疫協議については、農林水産業・食品産業の持続的な発展に寄与する可能性が高い輸出先国・地域や品目から優先的に協議を推進しています。動物検疫協議では、令和7(2025)年9月にはクウェート向けの牛肉輸出が解禁されました。また、鳥インフルエンザについては、地域主義適用国・地域に対しては、防疫措置完了から28日が経過した時点で、輸出再開が可能となるよう検疫協議を実施しています。さらに植物検疫協議では、同年6月にブラジル向けの精米の輸出前のくん蒸が不要となり、くわえて、令和8(2026)年1月には、豪州向けのメロンの輸出が解禁されました。
(輸出先国・地域の規制やニーズに対応できるよう支援)
輸出先国・地域の規制に対応するためのHACCP対応施設等の整備目標達成に向け、計画的な施設整備に対する支援を行うとともに、厚生労働省と連携し、輸出促進法に基づく適合施設の認定を迅速に行うこととしています。
また、単独では輸出先の発掘や大ロットの輸出、海外小売店の売場の確保等を行うことが困難な地域の中小食品製造事業者等については、関係者が連携して取り組む海外市場調査や販路開拓、輸出用商品開発等への支援を行うこととしています。
(5)食品産業の海外展開とインバウンドによる食関連消費の拡大
(輸出の後押しにもつながる事業者の海外展開を支援)
GFVC推進官民協議会について
URL:https://www.maff.go.jp/j/kokusai/
kokkyo/food_value_chain/about.html
農林水産省では、食品製造業等の海外展開に向けた環境整備を図るため、官民間及び企業間の情報交換の場である「グローバル・フードバリューチェーン(GFVC)推進官民協議会」を開催しており、農業者から流通、外食、金融企業等の川上から川下まで様々なセクターにわたる約1千の企業・団体等が参画しています。この枠組みの下で、海外でのビジネス展開に関するセミナーの開催等を通じた事業者への情報提供や、海外展開の際の実務的な留意事項等をまとめたガイドラインの策定・普及に取り組んでいます。
令和7(2025)年度は、ハラール市場に向けた食品産業の海外展開に関し、専門家や食品企業を講師とするセミナーを開催しました。また、インド及びインドネシアへの進出を検討する企業を対象として、これらの国へのミッションの派遣を行うとともに、海外現地での物流・商流構築に係る設備投資等を行う場合の案件形成への支援に取り組みました。
食品産業や外食産業の海外展開が近年拡大傾向にある中、基本計画を受けて、同年度は、GFVC推進官民協議会の活動と運営体制を見直すこととし、今後は、協議会の会員企業・団体等の多様なニーズを反映したミッションの派遣や海外展開に対応する人材の確保・発掘を推進していくこととしています。
(訪日外国人旅行者に日本食の理解・普及を推進)
日本政府観光局(にほんせいふかんこうきょく)(*1)(JNTO)の調査によると、令和7(2025)年の訪日外客(*2)数は、前年から増加し4,268万人(暫定値)にまで拡大しています。インバウンド消費のうち食関連消費は、我が国の食に対する海外からの需要という観点から輸出と同様に農林水産業・食品産業の収益確保に資するという考えの下、その拡大に向けて取り組むこととしています。
また、インバウンドによる食関連消費を拡大し、輸出拡大との好循環を形成する上では、都市部や主要な観光地のみならず、農山漁村の誘客につなげることが地方創生の観点から重要であり、そのためには、地域の魅力ある食材や歴史・文化をひとつのストーリーとして訴求していく必要があります。このため、農林水産省、観光庁、国税庁、内閣官房等が連携し、海外の日本食プロモーション、バイヤー招聘等の輸出施策とも連動させつつ、訪日前(旅マエ)、訪日旅行中(旅ナカ)、帰国後(旅アト)の各段階で、インバウンドに対して効果的にアプローチすることとしています(図表3-2-6)。
*1 正式名称は「独立行政法人国際観光振興機構」
*2 外国人正規入国者から、日本を主たる居住国とする永住者等の外国人を除き、これに寄港地上陸、通過上陸、船舶観光上陸の外国人を加えたもののこと
(インバウンド起点による日本産食品の輸出拡大を支援)
近年のインバウンドの増加により、これまで輸出を行っていなかった主に国内向けの食品においても海外からの需要が高まっています。
インバウンドに人気があるものの輸出につながっていない日本産食品について、成分や添加物等に関する規制への対応や、ハラール・ヴィーガン等の多様な食文化への対応を行うなど、輸出を実現するための課題を明らかにし、課題の解決に向けた事業者のモデル的な取組を支援することで、インバウンドを起点とした食品の輸出を拡大することとしています。
(コラム)大阪・関西万博で我が国の農林水産業と食文化の魅力を発信(大阪府)
令和7(2025)年に開催された大阪・関西万博において、農林水産省では、国税庁、文化庁と協力し、「農林水産業と食文化の発展は世界をもっと豊かにつなぐ」をコンセプトに、「食と暮らしの未来ウィーク」期間中に「RELAY THE FOOD~未来につなぐ食と風土~」と題した出展を行いました。
会場内を三つに分けたエリアのうち、「伝統をつなぐ」エリアでは、何世代も受け継がれてきた我が国の伝統的な農林水産業により形成された風景や地域の営み等を紹介することを目的として、六つのブースを設置しました。このうち、食文化ブースにおいては、和食文化の伝統と特徴や、伝統ある地域の多様な食文化の魅力を世界に発信しました。
「多様性をつなぐ」エリアでは、我が国に根差した多様性のある産物を見つめ直し、また、様々な産物から日本の食を再認識することを目的として、七つのブースを設置しました。このうち、輸出ブースにおいては、「世界にはばたけ!Tasty Japan(おいしい日本)!」と題し、海外から伝わった料理に日本人の知恵を加えたカレーライスやとんかつ等の「洋食」についてクイズを交えた形式で紹介し、日本食の多様性について情報発信しました。
「未来へつなぐ」エリアでは、食と暮らしを支える農業、林業、水産業それぞれの強み、課題、未来につなげていくための取組を紹介することを目的として、五つのブースを設置しました。このうち、スマート農業ブースにおいては、ミニトマトの熟度を検知して傷つけることなく収穫する全自動収穫ロボットや、次世代通信技術により万博会場と北海道の農場をつなぎ、遠隔操作等の体験ができるロボットトラクタ、いちごのパック詰めを全自動で行うロボット等を展示し、これらの操作体験等を通じて農業の未来の姿を発信しました。
このほか、JAS(日本農林規格)に親しんでもらい認知度を高める取組を実施するなど、食と文化を体感してもらうことを目的として多彩なプログラムを展開しました。
本出展を通じて、来場者に我が国の農林水産業と食文化の魅力を伝えることにより、全国各地へ誘客し、各地域での食文化等の体験や滞在を促し、地域振興やインバウンドを輸出につなげる好循環を構築していく考えです。
食文化ブース
輸出ブース
スマート農業ブース
(事例)インバウンドが快適に過ごせる環境でおもてなし(岡山県)
(1)ターゲットを絞りインバウンドを誘客

インバウンドによる食関連消費を拡大させるためには、様々な国・地域の事情を考慮し、インバウンドが安心して快適に過ごせる環境を整備することが求められます。とりわけ、イスラムの教えで許された健全な商品や活動の全般を意味する「ハラール」を考慮することは、世界で増加傾向にあるイスラム教徒(ムスリム)を誘客する上で重要です。
岡山県岡山市(おかやまし)は、豊富な歴史・文化遺産、豊かな自然や食文化を有しています。アジアの諸都市につながる航空網も有していることから、これらを活かした誘客促進の戦略の一つとして、真庭市(まにわし)、吉備中央町(きびちゅうおうちょう)とともに平成28(2016)年度に「岡山型(おかやまがた)ヘルスツーリズム連携協議会」(令和6(2024)年度から「岡山型(おかやまがた)ムスリムツーリズム連携協議会」に名称変更)を設立し、ムスリムをメインターゲットとした誘客に取り組んでいます。
(2)受入体制の整備、誘客プロモーションを実施
同協議会では、ムスリム観光客をスムーズに受け入れられるよう、独自の受入体制の整備と誘客プロモーションを行っています。
受入体制の整備のうち、ハラール認証については、その取得に多くの条件を満たす必要があるほか、取得に係る費用に見合う集客が見込まれない可能性があることが、地域の飲食店等にとっての高いハードルとなっていました。そこで、同協議会は、既存の設備等のままでもムスリム観光客に対応できる独自の基準について、地域に住むムスリムと検討の上、特産品である「もも」をシンボルとしたおもてなしマーク「ピーチマーク」を作成し、基準を満たした場合にこれを表示できるようにしました。地域の飲食店等が着実に対応を重ねていった結果、同マークを表示したことで、来店客数が増加した店舗もあり、令和6(2024)年度の同マーク取得店舗数は事業を開始した平成28(2016)年度の約2倍となっています。
誘客プロモーションについては、様々なツールを用いた情報発信、現地の旅行博覧会や商談会への出展等を行っています。公式サイトでは、同マーク認定店舗を紹介するなどの情報発信を行っているほか、ムスリム向けの観光ガイドブックを作成し、同サイトに掲載しています。
最近では事業者側からムスリムに関する研修の依頼があるなど、地域にムスリム対応の意識が強まってきており、同協議会は引き続き、同マーク取得店舗への定期的な訪問や、同協議会が作成した「おかやまムスリムおもてなしハンドブック」を活用しながら、安心して観光してもらえる環境整備を行い、ムスリム観光客も是非訪れたいと思える飲食店やスポットを増やしていくほか、近隣の地方公共団体とも連携したツアーの企画等を進め、観光の満足度を高めていくこととしています。
ピーチマークの基準
資料:岡山型ムスリムツーリズム連携協議会
お問合せ先
大臣官房広報評価課情報分析室
代表:03-3502-8111(内線3260)
ダイヤルイン:03-3501-3883




