第4節 多面的機能の発揮
農業・農村の多面的機能は、農村で継続的に農業生産活動が適切に行われることにより発揮され、国民生活と国民経済の安定に重要な役割を果たしています。一方、農村では人口減少や高齢化が進行する中、地域の共同活動や農業生産活動の継続等が困難となり、多面的機能の発揮に支障が生じつつあります。このため、地域の共同活動や農業生産活動の継続等を図るとともに、多面的機能の意義について国民理解を醸成し、農業政策の推進に理解・協力を得ていくことが重要です。
また、農業は環境に負の影響を与え、持続可能性を損なう側面もあることから、農業生産に由来する環境負荷を低減する取組等(*1)を進めながら、多面的機能を将来にわたって、適切かつ、十分に発揮させることが必要です。
本節では、多面的機能の発揮を促進する取組について紹介します。
*1 第5章第2節を参照
(1)多面的機能への国民理解促進
(農業・農村には多面的機能が存在)
国土の保全、水源の涵養(かんよう)、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承、癒しや安らぎの提供といった、農村で農業生産活動が行われることにより生まれる食料を供給する以外の様々な機能を「農業・農村の多面的機能」と言います(図表5-4-1)。

(多面的機能に関する国民の理解を促進)
農林水産省は、農業・農村が有する多面的機能について分かりやすく解説したパンフレットを作成し、学校や地方公共団体等に配布しています。
また、多面的機能やその発揮のための地域の共同活動に対する認知度向上や理解促進を図るため、農林水産省のウェブサイトにおける子供向け動画や農業学習に活用できる教材の公開、シンポジウムの開催等により、多面的機能に関する普及・啓発に取り組んでいます。
データ(エクセル:25KB)
令和6(2024)年10~11月に実施した調査によると、農業・農村には食料を生産すること以外に様々な役割があることを知っていると回答した割合は42.5%となっています。また、「多面的機能の中で、特に重要だと思う役割」として、「洪水防止機能」と回答した割合は41.8%、次いで「生物生態系保全機能」が18.9%、「土砂崩壊防止機能」が17.5%、「河川流況安定機能」が17.0%となっています(図表5-4-2)。一方、「重要だと思うものはない」と回答した割合は16.2%となっており、多面的機能の意義について、更なる周知を図っていくことが重要です。
農業・農村の有する多面的機能
URL:https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukan/nougyo_kinou
多面的機能パンフレット(子供向け)
(コラム)棚田の多面的機能の価値を見える化するため試行的な調査を実施
長野県上田市の棚田
資料:稲倉の棚田保全委員会
棚田地域における営農は、平地と比べ労力がかかる一方、多面的機能の発揮に重要な役割を果たしています。このため、農林水産省は、棚田における多面的機能の価値を見える化する目的で、令和6(2024)年度に試行的な調査を実施しました。
この調査では、長野県上田市(うえだし)の対象地域約3haについて、多面的機能の貨幣評価を行い、「洪水防止機能」や「河川流況安定機能」といった棚田が持つ様々な働きの一部について、その価値を見える化することができました。
このように、農業・農村の多面的機能の価値を明確化し、国民理解の醸成に努めているところです。
データ(エクセル:59KB)
(2)多面的機能の発揮の促進のための共同活動
(多面的機能の維持・発揮のためには地域が一体となった共同活動が重要)
農業・農村の多面的機能は、農村の住民だけでなく、国民に多くの恵みをもたらすものであり、言わば国民の大切な財産です。これを維持・発揮させるためには、継続した農業生産活動を行えるよう、農地や水路、農道の保全管理等の農地を良好に管理する共同活動が重要です。
農林水産省は、「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」に基づき、地域の共同活動による多面的機能の発揮を促進するための制度として、日本型直接支払(多面的機能支払(*1)、中山間地域等直接支払(*2)、環境保全型農業直接支払(*3))を実施しており、令和6(2024)年度の実施状況は、多面的機能支払は令和5(2023)年度と同水準、中山間地域等直接支払及び環境保全型農業直接支払は増加傾向となっています。
*1 第6章第4節を参照
*2 第6章第5節を参照
*3 第5章第2節を参照
(事例)雪中田植えを実施し、若い世代へ農村文化を伝承(秋田県)
(1)小正月の旧暦行事である雪中田植え

「雪中田植え」は、平らにした雪上の四隅に朴(ほお)の木を立て、しめ縄で囲った「田んぼ」に、稲わらや大豆がらを植え、御神酒や餅等をお供えして拝み、その年の作柄や豊凶を占う小正月(こしょうがつ)の旧暦行事です。その本質は、占い結果に一喜一憂せず、新年の始まりに当たって、それぞれの稲作に対する決意と技術を確認することとされています。
このような行事は、かつては秋田県の農村を始めとする一部の地域で伝承されていましたが、旧暦行事が簡略化され、作法が文書や図ではほとんど残されておらず、かつ核家族化や高齢化により家庭内での伝承が困難となったこと等から、雪中田植えを行う地域は減少しています。また、作法や習慣が地域や家庭ごとに違うのも特徴です。
(2)小学校や地域での雪中田植えにより、若い世代に農村文化を伝承
小学校の取組
資料:東成瀬村教育委員会
地域行事の雪中田植え
資料:秋田たかのす農業協同組合
秋田県東成瀬村(ひがしなるせむら)の東成瀬(ひがしなるせ)小学校では、「ふるさとの伝統行事を体験しよう」をスローガンに、学年ごとに旧暦行事に取り組んでいます。このうち、雪中田植えは5年生を対象として、同村の文化財保護協会の佐々木友信(ささきとものぶ)さんや「昔っこの会」の協力を得て行っています。佐々木さんが雪中田植えを行う理由や儀礼について教えた上で、5年生の代表2人が菅笠(すげがさ)、蓑(みの)、わらぐつといった昔の衣装をまとって実施しています。
また、同県北秋田市(きたあきたし)の綴子(つづれこ)地区では、昭和58(1983)年に地元の農家によって、一度途絶えた雪中田植えを復活させました。その後、秋田(あきた)たかのす農業協同組合青年部が引き継ぎ、毎年1月15日に地域行事として雪中田植えを行っています。
このように、学校の授業等を利用して、地域の旧暦行事に触れる機会を設けることで関心や愛着を高め、若い世代に農村文化を脈々と伝承しています。
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