このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー

第5節 食品産業の動向


食品産業は、農林水産業と消費者の間に位置し、食料の生産から消費までの各段階において、食品を品質と安全性を保ちつつ安定的に供給するとともに、消費者ニーズを生産者に伝達する役割等を担っています。また、地域における主要産業の一つとして、国内農林水産業とも深く結び付き、さらに雇用の場の提供といった重要な役割も有しているため、地方創生に欠かせない存在となっています。

輸入食品との競争が激化する中で、食品産業は、高齢化の進展や人口減少、女性の社会進出、ライフスタイルの多様化等による社会状況の変化に引き続き的確に対応し、今後更に、中小規模の事業者も含め食品産業全体の競争力を強化していくことが重要です。


(食品産業の位置付け)

平成25(2013)年度における我が国の第1次産業(農林漁業)、第2次産業(関連製造業)、第3次産業(流通・飲食業)を含めた農業・食料関連産業の国内生産額は97兆6千億円で、全産業の国内生産額からみても我が国の重要な分野の一つとなっています(図1-5-1)。

食品産業(食品工業、関連流通業、飲食店)の国内生産額は81兆円で、これは、農業・食料関連産業の国内生産額の8割を占めています。


図1-5-1 農業・食料関連産業の国内生産額
データ(エクセル:41KB / CSV:1KB

食品産業の景気の状況は、平成27(2015)年上半期に平成9(1997)年の調査開始から初めてプラス値となり、平成27(2015)年下半期も引き続き上昇改善となりました(図1-5-2)。これまでの食品産業の景気の状況をみると、全産業と比較して、景気に左右されにくい産業といえます。


図1-5-2 食品産業DIの推移
データ(エクセル:40KB / CSV:2KB

食品産業は、国内農業とも深く結び付いており、国産食用農林水産物の7割が食品産業向けとなっており、食品産業は国産農林水産物の最大の仕向先となっています。また、食品製造業が利用する原材料(農林水産物・加工食品)のうち7割が国産農林水産物となっており、消費者ニーズを生産者に伝達する役割等を担っています(図1-5-3)。


図1-5-3 国産食用農林水産物の用途別仕向割合及び食品製造業の加工原材料調達割合
データ(エクセル1:37KB2:37KB / CSV1:1KB2:1KB

(食品流通業の動向)

図1-5-4 食品卸売業の商業販売額の推移
データ(エクセル: 102KB/ CSV:1KB

食品流通業は、食料品の生産から消費までの段階において、食品の品質と安全性を保ちつつ、安定的かつ効率的に消費者に供給するとともに、小売業には食料品の情報を、生産者には消費者ニーズを伝達する役割を担っています。

食品流通業のうち食品卸売業の商業販売額をみると、加工食品を取り扱う食料・飲料卸売業は、卸売価格の上昇により、平成22(2010)年以降増加傾向で推移しています(図1-5-4)。一方、農畜産物・水産物卸売業は平成2(1990)年以降、販売数量の減少等により、減少傾向で推移していましたが、近年は横ばいとなっています。

卸売市場を経由して流通する生鮮食料品等の割合(卸売市場経由率)は、平成24(2012)年度では、青果物59%(国産青果物では85%)、水産物53%、食肉10%、花き79%となっており(*1)、食肉以外では減少傾向にあります。


1 農林水産省「食料需給表」、「青果物卸売市場調査報告」により推計。卸売市場経由率は、国内で流通した加工品を含む国産及び輸入青果物、水産物、食肉、花きのうち、卸売市場(水産物についてはいわゆる産地市場を除く。)を経由したものの数量割合(花きについては金額割合)の推計値

(食品流通の効率化や高度化等)

卸売市場を取り巻く環境は、少子高齢化に伴う人口減少の進展等による食料消費の量的変化、消費者ニーズの多様化、生産・流通構造の変化、生鮮食品等流通の国際化等、大きく変化しています。また、HACCP(危害要因分析・重要管理点)(*1)の考え方を採り入れた品質管理、積極的な情報の受発信、加工処理等の付加機能の充実等、生産者や実需者が卸売市場に期待する機能・役割は一層多様化しています。

卸売市場の機能・役割の強化・高度化に向け、平成28(2016)年1月、卸売市場における経営戦略の確立や、立地・機能に応じた市場間における役割分担と連携強化、生産者と実需者・消費者の多様化するニーズへの的確な対応等の新たな方向性を示した第10次の「卸売市場整備基本方針」を策定しました。各卸売市場においては、この方針に即した整備及び運営を行うことが求められます。

また、国際空港近辺の卸売市場は、輸出に係る手続の効率化、混載による物流費抑制等の観点から、国産農産物等の輸出促進の拠点となることが期待されます。そのため、輸出手続きのワンストップ化や輸出先が求める品質管理、多品目混載等に対応することが重要です。平成27(2015)年11月には、成田市公設地方卸売市場から英国への試験輸出が行われました。試験輸出では、卸売市場内における輸出手続のワンストップ化を検証したほか、ロンドンでの日本の農産物のPRや市場調査、在英国日本大使館でのレセプションを行いました。

食品流通の各段階におけるコスト縮減のためには、配送の共同化や取引の電子化の取組も重要です。生鮮品取引に伴う受発注等の情報交換は、電話やFAX、面談が中心であり、多大な労力と時間、コストが費やされています。このような業務等を効率化するためには、商取引に関する情報を標準的な書式に統一して、企業間で電子的に交換する仕組み(EDI(*2))が有効です。データ様式が取引先ごとに異なるとデータ変換のためのコストがかかることから、流通事業者が統一的に利用できる新たなEDIの標準仕様として「流通ビジネスメッセージ標準(流通BMS(*3))」が作成されています。流通BMSを導入している食品以外を含む卸・メーカーの企業数は8,850社以上(平成27(2015)年12月1日現在)(*4)と推定されています。


1 [用語の解説]を参照
*2 Electronic Data Interchangeの略
*3 Business Message Standardsの略
*4 流通システム標準普及推進協議会「第9回 卸・メーカーの流通BMS導入企業数調査」


コラム:東京都中央卸売市場築地市場の移転

豊洲市場完成予想図
豊洲市場完成予想図

東京都中央卸売市場築地市場は、昭和10(1935)年に開場し、首都圏の基幹市場として、消費者に生鮮食料品を安定供給する役割を果たしてきました。築地市場は、水産物では全国第1位の取扱高(量・金額)を誇っています。また、青果物については、取扱量が東京都では大田市場に次ぐ第2位
となっています。しかし、築地市場は施設が狭きょう隘あい・過密化するとともに、施設の構造や配置が時代のニーズに合わず、老朽化も深刻な状況にあります。また、荷さばき場も不足しているほか、気温・風雨による影響を受けやすいため、品質管理や衛生管理が必ずしも十分とは言えません。このため、昭和60年代より築地市場の再整備が検討されてきましたが、工事期間の長期化、建設費用の増大、営業活動への影響の懸念が予想されたため、新たな基幹市場として発展するためには、移転整備が最適という結論となりました。新しい市場には、時代のニーズに対応するために、高度な
品質・衛生管理ができる閉鎖型の売場や加工処理施設、広い駐車場や荷さばきスペース等の整備を行うことができる広い用地が必要です。また、大消費地である都心部の周辺で、交通条件の良好な位置にあること、築地の商圏に近く、機能・経営面で継続性が保つことができる位置
にあるといった条件を満たす場所として、移転先は江東区豊洲地区に決定されました。
平成28(2016)年11月に開場予定の豊洲市場では、市場施設を閉鎖型として品質・衛生管理を強化するほか、施設を一体的に配置し、物流を円滑化することにより効率的な物流を実現することとしています。また、最近では、スーパーや百貨店等のバックヤード不足から、商品の加工や袋詰めの対応を市場で行うことが求められているため、豊洲市場では、消費者ニーズに対応した加工・小分け・包装等のサービス機能も強化することとしています。今後、豊洲市場には、築地市場が有する活気やにぎわいを受け継ぎつつ、我が国の生鮮食料品等の物流拠点としての役割を果たしていくことが期待されます。

注:予想図提供は東京都中央卸売市場

(食品小売業の動向)

図1-5-5 業態別の食料品販売額の推移
データ(エクセル:39KB / CSV:2KB

食品小売業の業態別に食料品販売額の推移をみると、スーパーマーケット、コンビニエンスストアが増加傾向にある一方、百貨店は横ばいとなっています(図1-5-5)。スーパーマーケットでは近年、そう菜の販売額が大きな伸びを示している(*1)ことが増加の要因と考えられます。売上げの63%(*2)が食料品であるコンビニエンスストアでは、そう菜とカウンターで提供するコーヒーが好調に推移し、客単価も増加しています。また、百貨店では生鮮食品の売上げが減少しており(*3)、横ばいの要因と考えられます。


1 一般社団法人日本チェーンストア協会「チェーンストア長期統計」
*2 平成27(2015)年の一般財団法人日本フランチャイズチェーン協会正会員の店舗売上高(既存店ベース)のうち、日配食品と加工食品の合計の割合
*3 日本百貨店協会「最近の百貨店売上高の推移」

(外食・中食産業の動向)

図1-5-6 外食・中食産業の市場規模の推移
データ(エクセル:39KB / CSV:1KB

少子高齢化、単身世帯の増加、食の外部化(*1)等により、加工食品の支出が増大するなど、食料消費は大きく変化しています。

外食産業は、消費者の多様な食の志向に対応した食事、快適な時間や空間を家庭の外で提供することにより、豊かな食生活の実現に大きな役割を担っています。平成26(2014)年の外食産業の市場規模は24兆円と推計されており、1人当たり外食支出額の増加や訪日外国人の増加により、近年は回復傾向で推移しています(図1-5-6)。

また、持ち帰り弁当店やそう菜店、テイクアウト主体のファストフード店等の中食(*2)産業の市場規模は6兆円と推計されており、食の簡便化志向や世帯構造の変化等を要因に緩やかな増加傾向で推移しています。

一方で、外食・中食産業は調理や盛りつけ等、人手を要する工程が多い労働集約型産業であり、人手不足や労働時間の長さが課題となっています。


1、2 [用語の解説]を参照

(介護食品の取組)

図1-5-7 スマイルケア食普及促進ロゴマーク

食品産業の競争力の強化を図るためには、食品産業事業者が、食をめぐる様々な環境変化等を的確に捉え、新たな分野への進出等に積極的にチャレンジする取組を後押ししていくことが重要です。

我が国の65歳以上の高齢者人口は、平成26(2014)年度に過去最高の3,300万人となり、総人口に占める65歳以上の割合は26.0%(*1)となっています。平成26(2014)年における低栄養傾向の高齢者の割合は17.8%であり、85歳以上では23.6%の人が低栄養傾向にあります(*2)。このようなことから、介護食品の潜在的なニーズが急拡大しており、潜在的市場規模は2兆9千億円と試算されています。平成26(2014)年の介護食品の市場規模は約1,100億円程度(*3)となっています。

農林水産省では、これまで介護食品と呼ばれてきたものの範囲を、かむことや飲み込むことが難しい人向けの食品だけでなく、健康維持上、栄養補給が必要な人向けの食品として広く捉え、新しい介護食品として整理し、その愛称を「スマイルケア食」に決定しました(図1-5-7)。また、利用者がそれぞれの状態にあった商品を選択できるよう、「赤」「黄」「青」のマークを表示する早見表「新しい介護食品(スマイルケア食)の選び方」を整備し、公表しました。

これを受けて、農林水産省では、平成27(2015)年12月にこれらのマークを表示する規格基準の枠組みを取りまとめたところです。その上で、健康維持上、栄養補給が必要な人向けとして「青」マークを表示できる食品の基準や表示方法、表示に必要な手続について定める「スマイルケア食「青」マーク利用許諾要領」を平成28(2016)年2月に公表し、運用を開始しました。

このような取組により、介護食品の供給拡大に向けた環境を整え、食品産業の裾野の拡大を図っています。


1 総務省「人口推計」
*2 厚生労働省「国民健康・栄養調査」
*3 株式会社富士経済「高齢者向け食品市場の将来展望2015」

(食品産業のグローバル展開)

食品産業が持続的に発展していくためには、成長著しいアジア等の世界の食関連市場も取り込んでいくことにより、その事業基盤を拡大・強化していくことが重要です。

食料品製造業では、国内市場が人口減少・高齢化等を背景に縮小傾向にあることから、成長戦略を海外進出に求める動きが加速しており、食料品製造業等の海外現地法人企業数は増加傾向にあります(図1-5-8)。売上高は、平成20(2008)年以降増加しており、特にアジアにおける売上高の占める割合が高くなっています。


図1-5-8 食料品製造業等の現地法人企業数と売上高の推移
データ(エクセル:39KB / CSV:1KB

世界の食関連市場を取り込み、日本の食品産業の持続的な発展を図るため、産学官連携で日本の「強み」を活かした農林水産物の生産から製造・加工、流通、消費に至るフードバリューチェーンの構築を推進し、経済協力とも連携したビジネス環境の整備を進めることが重要です(図1-5-9)。そのため、農林水産省は、平成26(2014)年6月に策定された、世界的なフードバリューチェーンの構築のための基本戦略や地域別戦略等を示した「グローバル・フードバリューチェーン戦略」に基づき、官民合同での二国間政策対話や現地視察、多様な食関連企業の参画による官民協議会等を実施しています。これまでに、二国間政策対話を実施した国との間での中長期的なビジョンの策定や、対話に参加した官民協議会のメンバーがそれを契機にベトナムやブラジルで出資を決定するなど、官民連携による取組が進んでいます。


図1-5-9 フードバリューチェーンの構築

コラム:日越農業協力中長期ビジョンの策定

フードバリューチェーンの構築のためには、民間企業の投資とODA等の経済協力を連携させることが重要ですが、そのためには地域ごとの課題に応じた投資や経済協力の活用方法について、中長期的に検討する必要があります。

そのため、農林水産省はベトナム政府と両国の民間企業と協力して、ベトナムにおけるフードバリューチェーン構築のための中長期ビジョンを策定し、平成27(2015)年8月の日越農業協力対話第2回ハイレベル会合にて承認されました。同ビジョンは、ハノイ・ホーチミン等の大都市近郊やゲアン省、ラムドン省といったモデル地域を設定の上、高度人材の育成等の分野横断的な取組に加え、生産性・付加価値の向上、食品加工・商品開発、流通改善・コールドチェーン(*)といった諸課題について、ベトナム政府の取組やODA等による日本政府の支援のほか、民間企業等の今後5年間の行動計画について定めたもので、今後このビジョンを通じて、ベトナム農業の発展及び日本の食品産業の海外展開が促進されることが期待されています。

* [用語の解説]を参照

日越農業協力対話第2回ハイレベル会合
日越農業協力対話第2回ハイレベル会合
中長期ビジョンを含む議事録の署名式
中長期ビジョンを含む議事録の署名式
 

(食品リサイクルと食品ロス削減の取組)

図1-5-10 家庭における年齢階層別の食品ロス率(平成26(2014)年度)
データ(エクセル:36KB / CSV:1KB

食料資源を有効利用し、環境への負荷を低減するという観点から、食品ロス削減、リサイクル等に取り組むことが必要です。

農林水産省では、食品リサイクル法(*1)に基づき、食品循環資源の再生利用等を総合的かつ計画的に推進するため、おおむね5年ごとに基本方針を策定しています。平成27(2015)年7月には新たな基本方針を策定し、平成31(2019)年度までの再生利用等実施率目標を食品製造業95%、食品卸売業70%、食品小売業55%、外食産業50%へと引き上げました。

また、我が国で平成24(2012)年度に発生した2,801万tの食品廃棄物等の中には、まだ食べられるのに捨てられている食品ロスが642万t含まれると推計されています。そのうち、一般家庭から出される食品ロスは312万tとなっています。

平成26(2014)年度に調査した家庭における食品ロス率を年齢階層別にみると、29歳以下の若年層では直接廃棄の割合が大きいのに対し、60歳以上の高齢者では、皮むきや腐敗による過剰除去が多くなっています(図1-5-10)。

農林水産省では、食品ロスの削減に向け、関係府省との連携の下、個別企業等では解決が困難な商慣習等の見直しに向けたフードチェーン全体の取組や、フードバンク活動(*2)を行う団体の信頼性向上のための活動等を総合的に支援しています。


1 正式名称は「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(平成13(2001)年5月施行)
*2 特定非営利活動法人、社会福祉法人等が、食品関連事業者からこん包資材が破損等するなどの理由により販売することが困難となった食品等の提供を受け、福祉施設等へ無償で提供する取組


ご意見・ご感想について

農林水産省では、皆さまにとってより一層わかりやすい白書の作成を目指しています。

白書をお読みいただいた皆さまのご意見・ご感想をお聞かせください。

送信フォームはこちら

お問合せ先

大臣官房広報評価課情報分析室

代表:03-3502-8111(内線3260)
ダイヤルイン:03-3501-3883
FAX番号:03-6744-1526