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農林水産省

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農業DXの事例紹介(8)データを活用した農業経営の改善

(写真:「菊屋」の桑原友博さん、桑原こず枝さん)

(写真:「マルヨシ花園」の楠拓志さん、楠千春さん)


(写真上:菊屋さん、マルヨシ花園さんで使っているスター農家クラウドの画面例)

今、社会全体で、デジタル技術を活用して産業や社会をより良いものへと変革を目指すデジタルトランスフォーメーション(DX)の取組が進められています。

農林水産省も、農業や食関連業界の関係者の皆様に、通信機能を備えたセンサーやロボット、AIなどのデジタル技術を経営に活かしていただきたいと考えていますが、現場からは「デジタル化やDXという言葉を聞くようになったがどういう意味だろう」、「参考にできる事例はないのか」といった声が聞かれます。そこで、多くの皆様に農業分野でのDXの具体的なイメージを持っていただけるよう、農業や食関連業界におけるDXの実践事例を紹介していきます。

第8回目は、売上拡大と事業効率化を支援する経営管理サービスを利用して経営発展に取り組んでいる農業者をご紹介します。鹿児島県枕崎市でこのサービスを利用している花き農業者2軒を訪問し、お話を伺ってきました。

     まず、同市で「菊屋」を経営されている桑原友博さん、こず枝さんご夫妻にインタビューしました。 

――本日はよろしくお願いします。菊屋さんではどのような花きを生産・販売されているのでしょうか。

年間を通じて輪菊の生産を行っています。主に業務用・葬儀用の白の輪菊を栽培してきましたが、輸入菊の増加や葬儀の小規模化による需要減少もあり、最近は、自宅用のおしゃれでカラフルな洋花的な菊の栽培を増やしています。コロナ禍で葬儀用需要の減少は続いていますが、自宅用の「おうち需要」は増えていると感じています。販売先は9割以上が市場で、5つの市場と取引を行っています。 

――市場環境の変化を肌で感じていらっしゃるのですね。そのような中、経営管理サービスを導入されようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

今年(2021年)の初めに、県が主催する研修に参加し、スター農家クラウドという経営管理サービスを提供しているクロスエイジ社の講演を聞いたことがきっかけです。それまでは生産に重点を置いていましたが、講演を聞き、作業のデータを蓄積し、経営に活用することはコストをかけてでもやるべきと考えるようになりました。生産規模の拡大や菊の需要の変化もあり、人を雇用して安定的な経営を行うにはデータを使った販売管理が必要という考えに至り、クロスエイジさんの力を借りることにしました。
以前も普及員の支援を受けて栽培や販売のデータを入力していましたが、量が多く、生産作業を重視して断念しました。データ入力しても、どう経営に活かすのか考慮していなかったことが一番の理由と思っています。今回は、現状の経営課題を踏まえつつ、データをどう経営判断に活かすのかをクロスエイジさんと共に作り上げています。 

――実際にはどのようなデータを何に活用してるのでしょうか?

日々の販売先と販売価格を入力し、一元的に確認できるようにしました。菊は、市場、品種、等級ごと、さらに日により単価が変化するため、価格の妥当性判断が難しいのです。データ集約により日々の各市場、等級の平均単価や高値を把握できるため、市場とやりとりをしながら販売先や販売価格を判断できるようになりました。以前は勘と雰囲気で販売先と価格を決めていましたが、それだけでは失敗します。 

――データが日々の経営の意思決定に活きているのですね。他に導入の効果はありましたか?

毎月の売上がすぐ見えるようになり、設備や資材の投資判断が適切にできるようになりました。以前はキャッシュが入ってから投資していたため、タイミングを逸することもありました。また、データを活用した販売先と価格の判断を積み重ねていけば、年間を通じての収益にも効果が出てくると思っています。
利益管理ができるようになり、人や設備投資の計画が立てやすくなったので、将来の夢を考える時間もできました。今の目標は、スーパーでパック花の販売を行うことです。日本中の家庭にカラフルでおしゃれな菊を飾ってもらいたいと思っています。 

――素敵な目標ですね!花のある毎日がもっと広がることを祈っています。どうもありがとうございました! 

2軒目は、「マルヨシ花園」を経営されている楠拓志さん、千春さんご夫妻です。 

――本日はよろしくお願いします。まず、マルヨシ花園さんではどのような花きを生産・販売されているのか教えてください。

家族4人にパート・実習生含めて20人弱で年間200万本以上の菊を生産しています。伝統的な白い輪菊が中心でしたが、消費者ニーズが変わってきており、色鮮やかな洋菊の栽培も始めています。最近は品目も増えてきました。90%以上が市場販売で、8~10の市場と取引しています。 

――多品目の菊を非常にたくさん生産されているのですね。栽培管理も大変そうですが、スター農家クラウドを導入されたきっかけはどのようなものでしたか?

菊屋さんと同じ県の研修に参加したことがきっかけです。葬儀用の白い輪菊が中心だったので市場縮小するだろうという見通しは以前から持っていましたが、研修に参加し、今のままではいけないと感じました。データ入力も売上データの登録のみで経営に活かせておらず、販売方式や生産コストをタイムリーに把握、分析できていませんでした。
4~6月の3か月で現状課題の分析を行い、データの活用目的と優先順位の整理を行った上で7月からデータ登録を始めました。継続して改善活動を行い、定着してきたところです。

――実際にどのようなデータを何に活用されていますか?

日々の市場、品種、等級ごとの売上データを蓄積し、分析を行った上で、価格や販売先の交渉に用いています。同じ商品でも、どこに売るかで収益が全く異なります。実需者ニーズを捉えて、どの品目をどの市場に出すかの販売管理の重要性が増してきているのです。データ管理を始めたことで市場のバイヤーとより密度の濃い商談ができるようになったと思います。 

――データ管理により交渉力が上がり、より消費者ニーズを反映した販売が可能になってきたのですね。他に導入の効果はありましたか?

逆説的ですが、生産活動に集中できるようになりました。以前は、経営へのデータ活用について誰かに相談しようという発想がありませんでした。栽培にウエイトを置きたいが、一方で消費者ニーズが変化し販売管理の重要性が増してきている中で今のままではいけないという思いが募っていました。クロスエイジさんの力を借りてデータ活用を始めたことで、販売管理が上手くいくようになり、結果として栽培管理により集中できるようになりました。
また、データ活用など栽培管理以外の業務を自分たちだけでやるのが当たり前だったと思っていましたが、却って非効率になっていることに気づいたことも今回の取組の収穫です。 

――今後取り組みたいことはありますか?

作業者間での生産情報の共有にも取り組みたいと思っています。例えば、菊の栽培では電気の消灯作業が非常に重要なのですが、生産規模が大きくなり作業者が増えたので、消灯し忘れなどの人的エラーが増えています。生育状況や作業状況を口頭で伝えるため、伝達ミスも起きています。データで作業状況のリアルタイム共有ができれば改善できると考えています。さらに生産性も向上し、働き方改革もできるのではと思っています。
ふるさと納税や、サブスクなど、新しい事業形態にもチャレンジしたいと思っています。菊は抜群に日持ちします。エンドユーザーに届くまでの時間を減らし、生産者から直接鮮度よいものを届けることができれば、菊の良さを存分に味わってもらうことができます!また、地元の方々に菊をお届けできる仕組みづくりを目指し情報発信もしていきたいです。  

――新しいサービスへチャレンジのお話を聞いてとてもワクワクしました!どうもありがとうございました 

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いかがでしたか。今回は、データを経営の意思決定に活用されている菊屋さん、マルヨシ花園さんを紹介しました。どちらも、将来の夢をキラキラとした様子で語ってくださったのがとても印象的でした!!

今後も、DXに取り組む農業・食品産業の方を取材・紹介していきます。

それでは!

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