養蚕

養蚕農家が桑を栽培し、蚕を育て、繭を生産する一連の営みを養蚕業といいます。ここでは、その中の「桑の収穫」「蚕の飼育」「繭の取引」の3つの分野で使用された道具類をご紹介します。
桑の収穫などに使用された道具類
蚕は桑の葉を食べて育ちます。絹織物1反分(着物約1着分、約1kg)の蚕を育てるのに、約98kgの桑が必要と言われています。ここでは、桑切器など、桑の収穫などに使用された道具類をご紹介します。
桑つみ籠(くわつみかご)(古来)
桑を摘み、蚕室へ運ぶために使用。割竹製、径25cm、深さ27cm。
桑摘み爪(くわつみつめ)(明治~大正)
桑を摘むための爪。人差し指にはめて、桑柄を切断する。
桑こき(くわこき)(大正)
枝のまま採ってきた桑条から桑の葉をかき採るための道具。木の台にとりつけられた鉄の刃の間に桑の枝を挟み、引っぱることで桑の葉をこき落とす。
桑切器(くわきりき)(大正)
蚕への給桑用に、桑の葉を切断する道具。包丁を上下すると下の板にのせた桑が少しずつ移動し、効率的に桑を切ることができる。福島方面で発明し、大正期に諏訪地方、更に県下一円に普及したといわれている。桑を入れる部分は、木製で25×27×85cm、刃わたり35cmの鉄製の包丁がついている。切断の大きさも調節できる。
桑切包丁(くわきりぼうちょう)(明治)
稚蚕(ちさん)用に桑の葉を細かく切るために用いた包丁。

桑こき器(くわこきき)(大正)
ブリキ製の桑摘み器。桑の葉のついた枝をはさんで閉じ、桑の葉をかきとる。


蚕の飼育に使用された道具類
卵から生まれた蚕の幼虫は、約1ヶ月の間に4回脱皮した後、糸を吐いて繭を作ります。ここでは、蚕を広げる蚕箔(さんぱく)や、蚕が繭を作るときに営繭(えいけん)しやすくするための蔟(まぶし)など、蚕の飼育に必要な道具類をご紹介します。
カルトン(かるとん)(明治)
蚕種業者、養蚕農家で掃立て(はきたて)時や稚蚕(ちさん)を扱うために使用した。掃立ては、卵から孵化したばかりの毛蚕(けご)を、刻んだ桑葉の上へ、鷹の羽で掃くように落とす。和紙製で表面は漆が塗られている。「進行社 蚕種製造所」と記されている。
蚕架(さんか)(明治)
蚕を飼うために、8枚の蚕箔(さんぱく)を立体的に支える棚。4本の木製支柱と蚕箔を乗せる竹棒で構成されている。180×88×58cm。
蚕箔(さんぱく)(江戸時代)
蚕の飼育に使用した。ささ竹、割竹を組んだもの、むしろ付きのもの、細竹を編んだものや、蚕座紙を使用するもの等がある。
蚕網(蚕尻取り網)(各種)(さんもう(こじりとりあみ)(かくしゅ))(明治~大正)
蚕座で蚕を飼う時に用いる。蚕は上へのぼる習性があるので、蚕の上へ蚕網(さんもう)をかけ、桑を与えると、蚕は網目を通り上にあがる。蚕網の下は蚕のふんと桑の食べ残しが残る。網を上げると、蚕とふん、食べ残した桑の分離ができる。蚕の成長に合わせて網目の大きなものへ変えながら使用する。木綿製で柿渋につけて強度と防腐性を高めている。
蚕当計(さんとうけい)(明治初年)
養蚕用の寒暖計。天保13年に福島県伊達郡梁川町の中村善右衛門が考案したもので、これは明治初年、梁川町 田口半三郎氏の製作したもの。この温度計の発明により、養蚕の温度管理が可能となり、養蚕技術が飛躍的に向上した。
蚕室用暖房(さんしつようだんぼう)(明治)
鉄製、径27cm、高さ39cm 燃料は練炭や木炭を使った。
枝蔟(えだまぶし)(江戸~明治)
ハギ、竹、つが等の小枝を使い、営繭させる。
むかで蔟(むかでまぶし)(明治初年ごろ)
藁縄(わらなわ)に長さ18cm~20cm位のわらをはさんだ蔟。むかでのような形態をしている。日本で考案され、イタリアに渡り広く使用された。
折藁蔟(おりわらまぶし)(明治~大正)
藁蔟折機(わらまぶしおりき)で藁を折って製作する。営繭(えいけん)用に使用した。
藁蔟折機(わらまぶしおりき)(大正)
折藁蔟(おりわらまぶし)の制作に使用。両手で把手を持ち、交互にわらを折るようにして蔟をつくる。
改良折わら蔟(かいりょうおりわらまぶし)(明治)
折藁蔟(おりわらまぶし)はわらを折っただけであったが、これは藁を組んで山型にしたもので、作業が終わると、たたむことができ、何回も使用することができた。
製蔟器(せいぞくき)(明治)
藁蔟(わらまぶし)をつくるための道具。上下のフックへ藁を渡しながら連続山型の蔟(まぶし)とする。熟蚕(じゅくさん)を藁蔟に置くと、その空間部分に営繭(えいけん)する。
回転蔟、木枠(かいてんまぶし、きわく)(大正)
蚕は上蔟(じょうぞく)時に上にのぼる性質がある。その特性をうまく利用したのが回転蔟(まぶし)である。蚕がそれぞれの枠へ入り営繭(えいけん)するように区画されている。木枠に区画蔟をセットした状態で下に置き、熟蚕(じゅくさん)を入れると、蚕は蔟をはって上へのぼる。その後木枠を吊るすと蚕は上にあがり、上部が重くなるので蔟は回転する。上部の蚕は下方となり、また上昇する中で、空いた区画に入り営繭する。山梨で開発された。
繭乾燥器(まゆかんそうき)(大正時代)
自家用繭の殺蛹(さつよう)・乾燥に使用。木製で57×57×80cm。上部の金網に生繭を入れて殺蛹・乾燥する。下部に炭火の火つぼを入れて使用する。
毛羽取器(けばとりき)(明治)
収繭した繭の毛羽を取除く道具。台の上方へ置いた繭を左手で順次右方向へ送り出し、右手で毛羽除去棒についている把手を半時計方向へ回すことにより、除去棒へ毛羽を巻き取る。
毛羽取機(けばとりき)(大正~昭和)
繭表面の毛羽(けば)を取り除くために主に養蚕農家で使用した。上方の箱に入れた繭を左手で下方に移動させながら、右手で把手を回してゴムベルトを回転させ、ゴムベルトへ毛羽を巻き付かせて繭表面の毛羽を除去する。毛羽のとれた繭は下方へおちる。
縄巻蔟(なわまきまぶし)(昭和35年)
岐阜県蚕業試験場で考案された蔟。同地方で営繭用に使用された。木の枠(70×110cm)に藁縄(わらなわ)を巻きつけて作る。

平行蔟(へいこうまぶし)(昭和)
細い木材を組合せた蔟。関東地方で営繭用に使用した。細木は6mm角、長さ110cm。

区画蔟(くかくまぶし)(昭和20年代から)
山梨県甲府で考案された格子型の蔟で、厚く硬い和紙で作られている。枠の数は13×12で156区画。寸法52×39cm、深さ3cm。この使用により繭質が向上し、現在最も多く使用されている。回転枠に取り付けて使用する。


藁蔟手折機(わらまぶしておりき)(明治)
幅7cm、長さ29cmの板を14cmの距離をとって2箇所に立て、その間に藁(わら)を入れて、手で折りまげ、蔟(まぶし)をつくる。木製。



蚕一代記(かいこいちだいき)(大正)
片倉製絲紡績株式会社がニューヨークで開かれた万国博覧会に出品したもの。蚕が卵から孵化し、発育後、上蔟、発蛾、産卵する過程を示し、蚕の一生がわかる。


足踏み式毛羽取器(あしぶみしきけばとりき)(昭和45年頃迄使用)
収繭した繭を上方の繭置台へ置き、それを右手で下方へ送り出す。足でペダルを踏みそれを回転力に変えてゴムベルトを動かす。繭の毛羽はベルトに巻かれ、後でそれを取除く。



火鉢(ひばち)(明治)
蚕を飼育する蚕室(さんしつ)の温度を高めたり、空気を乾燥させるために、火鉢に炭をおこして暖めるもの。




培炉(ほいろ)(昭和)
生繭を殺蛹(さつよう)するためのもの。上段の引出しに繭を入れ、下段の火鉢で熱を加える。木製。裏側は紙で目張りがしてあり、熱が逃げないようになっている。





繭の取引に使用された道具類
養蚕農家が生産した繭は、製糸場者に引き渡されます。ここでは、繭の量を量るために使用された枡など、繭の取引に必要な道具類をご紹介します。
紙桝(かみます)(明治中期)
繭の取引をするときに繭量を測定する。紙製で折りたたみができる。
五升器:方6寸5分、深さ6寸5分。「官許長野県下製糸所」「信州佐久郡小林宇佐衛門」の黒印がある。
一斗器:方8寸7分 深さ8寸7分。「官許長野県下製糸所」「信州佐久郡小林宇佐衛門」の黒印がある。
折りたたみます(おりたたみます)(明治初期)
繭の取引に使用した。桐板を合わせ、角は紙でつなぎ、折りたたみができる。「開明社」で使用した。
桶桝(おけます)(明治~大正)
繭の取引に使用。工場では倉庫で毎日の繭の出し入れに使用。
2斗桝:檜製、径36cm、深さ48cm、焼印「2斗」「田辺製」、ヤマニ笠原組使用のもの
2斗5升桝:檜製、焼印「2斗5升」
繭ます用棒(まゆますようぼう)(明治~大正)
ますに繭を入れた際、上部の繭の高さを平らに揃えるための棒。「とぼ」と呼ばれた。
折りたたみ桝(おりたたみます)(明治)
繭の取引に使用した。桐板を合わせ、角は紙でつなぎ、折りたたんで携帯できる。
4升桝:方26cm、深さ12.8cm。明治14年東京勧業博覧会に出品し、進歩賞を得た商標がついている。焼印「上諏訪関善八郎製作」




風袋(ふうたい)(明治)
少量の繭などの取引に使用した。長さ36.5cm、幅26cmの和紙の袋で、表面に柿渋が引いてある。「ヤマニ」の屋号が書いてある。


風袋(ふうたい)(明治)
少量の繭の取引に使用。 66cm四方の和紙製。表面に柿渋が引いてあり、麻紐がついている。
天秤で繭の重さを測定した。「小平用具」「イリマルイチ春木屋」と墨書がある。



二斗ます(繭用)(にとます(まゆよう))(明治~大正)
繭の取引に使用。工場では倉庫で毎日の繭の出し入れに使用した。



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