農林水産分野の最新研究成果を紹介! アフ・ラボ
変色せず、たくあん臭もなし!
画期的なダイコンを生み出す品種「だいこん中間母本農5号」の開発に成功
近年、たくあんなどのダイコン加工品は、消費者から「着色料を使う必要がなく、たくあん臭のないものを」といった要望が寄せられます。そんなニーズに答えるため、新しいダイコンを作るもととなる品種(中間母本)が、新たに誕生しました。 |
「だいこん中間母本農5号」と従来品種の比較
「西町理想」と「農5号」 「農5号」(右)と「秋まさり2号」のたくあん。1カ月間塩押しで貯蔵し、そのあとにぬか漬けしたもの |
冷蔵・冷凍しても、臭いが出て変色する〝弱点〞が
現在、国内で生産されているダイコンの約6割が加工(たくあんなどの漬け物など)や業務用(大根おろし、つまなど)として利用されています。しかし、漬物に漬けたり、細かく切る・すりおろすなどの加工を行うと、時間の経過とともにたくあん臭や黄色い変色が生じてしまいます。現在は変色による色むらを補うため、着色をする必要があります。また、この臭いや変色はたとえ冷蔵や冷凍保存しても生じます。白くてたくあん臭がしないたくあんが登場する日も近い
たくあん漬のにおいや黄色い変色は、ダイコンの辛み成分の基となる4MTB-GSL という成分が化学変化することで生じます。しかし、これまで4MTB-GSLが含まれないダイコンは見つかっていませんでした。 そこで、(独)農研機構野菜茶業研究所と、お茶の水女子大学が、共同で研究をスタート。国内外の約650種類のダイコンを調査した結果、「西町理想(にしまちりそう)」という品種の中に、4MTB-GSL 含量が極めて少ない個体があることを発見しました。そこで、その個体を育てて採種し、さらにその中から4MTB-GSL が含まれない個体を選別するという地道な作業を5回繰り返し行い、4MTB-GSLがまったく含まれない品種「だいこん※中間母本農(ちゅうかんぼほんのう)5号」を開発しました。 しかし、この品種は収量が少ないなど、実用にはまだ問題があります。このため、現在、種苗会社と協力しながら、より優良な品種へと改良するための研究が進められています。 「新品種を開発するには、根に含まれる4MTB-GSL 含量を正確に測定する必要があります。しかし、根を大きく切って傷つけてしまうとダイコンは腐って枯れてしまいます。そうすると種も採れず、次の世代が育ちません。これを克服するために、葉を付けたままダイコンの根を縦半分に切って、半分は分析用に、半分は殺菌処理した上で土に植え種採り用にするというテクニックを確立しました。研究には、こんな地道な苦労もあるんですよ」と、農研機構の石田正彦さんは振り返ります。 この研究が実用化されることで、白色でたくあん臭がしない新しいタイプのたくあん漬、長時間白色を保つことができる大根おろしやつまなど、高品質なダイコン加工品が開発されることが期待されています。
※中間母本とは、品種を育成するための優れている特徴(病気に強いなど)を持っているが、栽培品種(果実を生産するための品種)としては、適していないものをいう。品種を開発するための交配を行うことなどに使用している。 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 |
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文/宗像幸彦 |