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農林水産省

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チャレンジャーズ トップランナーの軌跡 第92回

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山梨県 株式会社サラダボウル

元金融マンが立ち上げた農業ベンチャー
野菜栽培に、製造業の「カイゼン活動」を導入して急成長!


「みんなが幸せになるおいしい野菜が作りたい!」  その一心で、金融マンを辞めて、「株式会社サラダボウル」を設立した田中進さん。製造業で生まれた「カイゼン活動」を取り入れて着実に成長し、農業界に新風を吹き込んでいます。

サラダボウルの従業員は、ほとんどが農業未経験者。「これからの農業をけん引していく人を育てること」が田中さん(前列中央)の目標
サラダボウルの従業員は、ほとんどが農業未経験者。
「これからの農業をけん引していく人を育てること」が田中さん(前列中央)の目標

サラダボウルのトマト。ミネラルをたっぷり含んだ南アルプス山系の天然水で生産する

サラダボウルのトマト。ミネラルをたっぷり含んだ南アルプス山系の天然水で生産する
「農業をもっとよりよい産業にしたい。『農業の新しいカタチ』を創りたいんです」と田中さん

「農業をもっとよりよい産業にしたい。『農業の新しいカタチ』を創りたいんです」と田中さん

以前はバラバラに干していたマットも、上の空いたスペースを有効利用してスッキリ整頓

以前はバラバラに干していたマットも、上の空いたスペースを有効利用してスッキリ整頓

常に作業全体、数字、進捗状況の「見える化」を徹底。そのためにボードは必須のアイテム

常に作業全体、数字、進捗状況の「見える化」を徹底。そのためにボードは必須のアイテム

作業用長靴も定位置に収納。棚に足形を描くことでピタッと収まるようになった

作業用長靴も定位置に収納。棚に足形を描くことでピタッと収まるようになった

農業にはチャンスがある!そう意気込んでスタートしたが……
南アルプスと八ヶ岳に囲まれた山梨県中央市。農業が盛んなこの土地で、田中進(たなかすすむ)さんが「農業生産法人サラダボウル」を設立したのは、平成16年4月のことでした。

地元のトマト農家の次男として生まれ育った田中さんは、大学を卒業後、都市銀行に就職。5年後にはヘッドハンティングされて外資系の大手保険会社へ。32歳のときに、サラリーマン時代に貯めた資金を元手に、故郷でサラダボウルを立ち上げました。

「仕事でさまざまなベンチャー企業をサポートするうちに、農業にもビジネスチャンスがあると感じたんです」と田中さんは話します。

意気込んで金融マンから農家に転身したものの、現実は厳しいものでした。

60aの耕作放棄地を借りてハウスを建て、栽培はトマト一品目だけ。荒れ放題の土地を耕うん機で開墾する毎日が続きました。

そんななかで、田中さんを支えたのは「とにかくおいしい野菜を作る」という信念です。そのために、自分たちで落ち葉を集め有機質のたい肥を作るなど、土作りに力を入れ、味がよくなると聞いたことは、何でもチャレンジしました。その結果、同社のトマトは「新鮮で甘くて、びっくりするほどおいしい!」と評判に。

立ち上げからわずか1年で、作付面積は4.3倍の2.6haになり、従業員も6人から12人になりました。

「5S」や「情報の見える化」で生産工程を管理して、最適化!
野菜の評判が上がる一方で、大きな課題も出てきました。度重なる開墾労働に加え、品質維持のための作業も増え、従業員の労働過重が限界に来ていたのです。

そこで、効率化を図るために、「カイゼン活動」を取り入れることに。「カイゼン活動」とは、作業者自身が生産工程や職場環境を見直して生産性を向上させるもので、製造業では広く導入されています。

まず、カイゼン活動には欠かせないといわれる「5S(※)」を実施。適当に置いていた農機具の定位置を決め、戻す場所や個数が一目で分かるように配置。道具箱は中がぐちゃぐちゃになるので、あえて使用を禁止しました。

また、ほ場で誰がいつどこでどんな作業を行うかといった「情報の見える化」を徹底。さらに、日々のミーティングで、野菜作りにおける課題と解決策を出し合い、従業員一人ひとりの自主的な行動を促しました。

「サラリーマン時代に目にした、様々な企業の現場での工夫を、自分自身が取り入れてみたんです」と田中さん。従業員の労働時間は短くなり、作業精度も大幅アップ。野菜の質の向上にもつながりました。

現在、同社の従業員は40人、作付面積は約20haにまで拡大。栽培品目もトマト、キャベツ、キュウリなど約30品目まで増え、売上高は立ち上げ当初の約20倍になりました。

「すべては、食べて幸せになれるおいしい野菜を作るためです。子供の目の前にお菓子とトマトを置いたとき、トマトに手が伸びる。そんな野菜が理想ですね」と話す田中さん。サラダボウルの器は無限の広がりを見せています。

※「5S」とは、整理、整頓、清掃、清潔、躾(しつけ)のこと

トップランナーを支えた力!
サラダボウルでは、消費者の需要を的確にキャッチすることに力を入れています。たとえば、出荷に際し、規格を均一にすることよりも、鮮度を優先します。これは「消費者は、大きさが整っていることよりも新鮮であることに魅力を感じる」と考えたからです。とことん消費者目線で考えることで、ファンを着実に増やし、取引先のスーパーでは「サラダボウル」コーナーも設置されるほどです。


文/宗像幸彦
写真/松木雄一