このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー

チャレンジャーズ トップランナーの軌跡 第94回

  • 印刷

広島県 農事組合法人ファーム・おだ

地域再生の中核役割を果たす「農事組合法人」を設立
土壌改良で品質アップ、米粉パン製造販売の開始など
徹底した経営改善に挑戦し、9年連続で黒字を達成!


「ファーム・おだ」は広島県最大級の農事組合法人です。地区の米農家約154世帯が参加し、100haを超える規模の米づくりにチャレンジ。個人所有の農業機械の整理や土壌改良による米の品質向上、米粉パン工房の設立など経営改善に取り組み、年間売上1億円、9年連続の黒字を達成しています。

「ファーム・おだ」の従業員は、パン工房を含めると、49名。そのうち5名はUターンIターンした若者たち
「ファーム・おだ」の従業員は、パン工房を含めると、49名。
そのうち5名はUターンIターンした若者たち

「26年産は、昨年同様、約8000袋の米すべてが一等米。土づくりの成果です」と吉弘さん

「26年産は、昨年同様、約8000袋の米すべてが一等米。土づくりの成果です」と吉弘さん

収穫した米は「小田米」としてブランド化。「株式会社なかやま牧場」が経営するスーパー7店やJA・業者・直売所などで販売している


収穫した米は「小田米」としてブランド化。「株式会社なかやま牧場」が経営するスーパー7店やJA・業者・直売所などで販売している

米粉パン工房「パン&米夢(パントマイム)」の商品は40~50種類。女性ならではの視点を活かして開発しており、リピーターも多い

米粉パン工房「パン&米夢(パントマイム)」の商品は40~50種類。女性ならではの視点を活かして開発しており、リピーターも多い
6割の農家が「10年後には農業をやめたい」と答えたことに危機感
広島県のほぼ中央にある東広島市河内町小田地区は、椋梨(むくなし)ダムに程近い中山間地です。地区の世帯数は213戸。全農家の95%が加入する農事組合法人「ファーム・おだ」は、県内最大級の農業集落として、集落の維持・発展に大きく貢献しています。

法人を設立したのは、平成17年。「あのころ、地区は危機的な状況でした」と、組合長理事の吉弘昌昭さんは当時を振り返ります。

平成の大合併で小学校や診療所も閉鎖され、基幹産業の農業も赤字経営で、若者は都市に流出。アンケート調査では、農家の6割が「10年後には農業をやめたい」と回答するほどでした。

「先祖伝来の農地を守り、集落を維持発展させる方法はないものかと、毎日、夜中まで仲間と議論を重ねました」と、吉弘さん。

そして辿りついたのが一戸あたり平均70aの農地を、「農事組合法人」の下に集約し、約100haの農地を一括管理することで、農業経営を改善しようというものでした。

当初は「先祖から受け継いだ土地が、なくなるのではないのか?」と、反対の声も聞かれましたが、吉弘さんたちは、地道に説明会・勉強会を開催。

「最終的に、ほぼすべての農家が納得してくれました。そのおかげで、遊休施設や敷地・空き倉庫など、地域資源をフルに使えるようになったんです」

「農業で食べていけるなら」とUターンする人が続々
吉弘さんたちがまず取り組んだのは、農家の経営の足かせとなっていた、大量のトラクター・コンバインの整理です。法人設立前、地区内に各150台あったものを、大型機械10台に削減。地区の機械投資額を約7億円から約6000万円までカットしました。

次に、長年の課題であった土壌改良に着手。近隣の畜産農家と連携して、全農地に10a当たり2tもの牛糞堆肥を投入しました。吉弘さんは、「必要な農薬や化学肥料の量が、それまでの半分になり、おかげで、県の『特別栽培米』の認証を受けられたんです」と話します。

さらに、水田を効率的に利用しようと、大豆や小麦との二毛作を始めたほか、平成24年からは、米粉パンや、みそ、そばなどの加工品作りにもチャレンジ。米粉パン工房「パン&米夢(パントマイム)」は、年間3000万円を売り上げる人気店に成長しました。

現在、法人全体の売上は年1億円。9年連続の黒字を達成し、雇用する地元住民は設立当初の37名から49名に増えました。ここ数年は、「ファーム・おだ」という就職先ができたことで、都市に出て行った人々がUターンしています。

「大切なのは、いかに利益を上げるかということ。それによって雇用が生まれ、さらに事業を広げて、新たな雇用を生む。そのための仕組みが『ファーム・おだ』なんです」と吉弘さん。

平成26年からは、国・県の農業技術センターと連携し、リーフレタスの「浮き楽(うきらく)栽培」や飼料用米の「直播き栽培」など、新しい技術の導入にも挑戦中です。

「小田地区の農業をもっと魅力ある仕事にしたいですね。そうすれば、若い人たちが、もっと地域に来てくれるはず。目標は『住みよく楽しく明るい地域づくり』です」

そう語る吉弘さんの視線は、常に、ふるさとの未来に向けられています。

トップランナーを支えた力!
吉弘さんたちは、ファーム設立に当たり、説明会・勉強会を幾度も開催しました。「事業を成功させるためには、参加者全員が、農業経営についてしっかり考えることが大切。特に、これまで地域の農業を守ってきた女性には分かりやすく説明しました。各家庭で、実際にものごとを決めるのは、なんといっても感性に優れた女の人ですから(笑)」


文/茂島信一
写真/吉田真也