特集2 食文化研究家・清 絢(きよしあや)の味わい ふれあい 出会い旅(1)
第11回兵庫県淡路市 母子の健康を願う「ちょぼ汁」の故郷を巡る
食文化研究家のわたくし清 絢が日本各地の郷土食を巡る旅もいよいよ最終回。 四季を感じながら、その地方らしい風土と文化に触れる旅は、貴重な出会いの連続でした。 そんな連載の最後に訪ねたのは、出産祝いの伝統料理として受け継がれた、だんご入りの汁物「ちょぼ汁」です。 そこには、お母さんの体をいたわる工夫が詰まった、名実ともに温かい料理がありました。 |
![]() |
![]() |
清 絢( きよし・あや) 大阪府出身。日本各地の農山漁村を訪ね、伝統的な食文化や暮らしについて、調査研究を行う。 日本の食文化を次世代へ継承するために、執筆、講演など、さまざまな形で活動中。 |
![]() |
あわじ花さじき
季節の花が咲き誇る丘で心をリフレッシュ |
|
![]() ![]() 15haの園内には、いつ訪れても色鮮やかな花畑が広がり、春は菜の花やポピー、夏はヒマワリやクレオメ、秋はサルビアやコスモス、冬はストックが見頃に。近隣の馬術クラブの散歩コースでもあり、馬に出会うことも ![]() 文/清 絢 写真/川端正吾 イラスト/竜田麻衣 |
明石海峡大橋を渡ってやってきた兵庫県の淡路島は、古来より朝廷へ食料を献上する“御食国(みけつくに)”と称された「食の島」。ここには、産後の女性をねぎらい、赤ちゃんの健やかな成長を願って食べる「ちょぼ汁」という汁物が伝わっています。 ![]() |
パルシェ香りの館
淡路島を食べつくす大満足のビュッフェ |
|
![]() ![]() 館内では、お香作りやエッセンシャルオイルの抽出などの体験メニューを実施。その他、新鮮野菜のマルシェ(土日のみ)やフクシア大温室、「香りの宿」には温泉もある。淡路島ビュッフェは大人1,650円(税込)。ディナータイムには腕利きシェフのフランス料理が味わえる(要予約) ![]() |
次に訪ねたのは、日本のお線香生産量の70%を占める淡路市一宮地区にある、香りをテーマにした施設「パルシェ 香りの館」。 「館内にある『レストラン ベルレーヌ』のランチタイムには、淡路島産の豊富な食材を使った約50種類の料理をビュッフェ形式で味わえます。淡路特産のタマネギや淡路牛はもちろん、伝統料理も知ってもらいたいので、ちょぼ汁も提供しているんです」と企画リーダーの岩井宣樹さん。 人気のランチには観光客だけでなく地元の人も大勢やってきます。 ![]() |
![]() |
ちょこっと寄り道
淡路島 フルーツ農園 |
|
![]() 淡路出身の中谷 学さんがサラリーマン生活を終え、Uターンして始めた農園。淡路の農業に新しい風をと試行錯誤し、2年前にはカフェもオープン。連日多くの観光客でにぎわう。季節に応じてブドウ、ミカン、サツマイモ掘り体験なども可能 ![]() |
次に立ち寄ったのは、季節ごとに果物狩りができる「淡路島フルーツ農園」。併設のカフェには、果物を使ったスイーツもあり、旅の途中に一息つけるスポットです。![]() |
伊弉諾(いざなぎ)神宮 |
|
![]() ![]() ![]() 境内にある樹齢900年の夫婦大楠(めおとおおくす)には、夫婦神が宿ると信じられ、多くの絵馬が掛けられている。夫婦円満の御神鳥(ごしんちょう)セキレイの石碑など、子授け、安産にご利益がありそうなモチーフがあちこちに。夫婦神が描かれた大熊手も正月期間限定で授与される |
続いて「伊弉諾(いざなぎ)神宮」へ。淡路島がなぜ“御食国”と呼ばれたのか、宮司の本名孝至(ほんみょうたかし)さんに聞きました。 「『万葉集』では“御食向ふ淡路の国”と詠まれているんです。東は大阪湾、西は播磨灘、南は太平洋に囲まれ、海の幸が豊富で、製塩も盛んでした。さらに瀬戸内式気候で暖かく、イノシシやシカ、野菜や果物から、いにしえのチーズといわれる“蘇(そ)”まで献上していたようです。そんな豊かな土地だったからこそ、『日本書紀』の中で国生み神話の舞台に淡路島が選ばれ、御食国にもなれたのでしょう」と本名さん。 伊弉諾大神(いざなぎのおおかみ)と伊弉冉大神(いざなみのおおかみ)の夫婦神を祀る神宮は、夫婦円満や子授けにご利益があると、多くの参拝客が訪れます。そうした出産や赤ちゃんにまつわる郷土料理が、今回ご紹介するちょぼ汁なのです。 ![]() |
しづかグループ
お母さんの体を癒やし心も温まる郷土汁 |
|||||||
![]() ![]() |
作り方を教えてくれるのは、志筑(しづき)地区で農産物の直売所を運営する「しづかグループ」のみなさん。 「ちょぼ汁は、ササゲとズイキ(芋茎)のたっぷり入っただんご汁でね、産後のお母さんのために作るもの。ズイキは古い血を下ろして血をきれいにして、お乳の出もよくなるって、女性の体をいたわるために食べられたんよ」と、池田美重子さん。 かつては、出産した女性の母親が材料を持って里から訪れ、作ったものでした。だんごの形にも意味があり、女児が産まれたらまんまるに、男児なら先をとがらせて、健やかな成長を願いました。料理名は「おちょぼ口のようにかわいらしく育ってほしい」という意味も込められているのだとか。赤ちゃんをお披露目する日には、親戚や近所にも振る舞う習慣があったそうです。 一見ぜんざいのようですが、食べてみると、いりこだしの味噌汁でごはんによく合い、食べ応えも十分。産後の疲れきった体にも元気が湧いたことでしょう。最近は、島内のイベントでちょぼ汁を振る舞い、多くの人に魅力を伝えているみなさん。「自分がおばあちゃんになるときには娘に作ってあげたい」と言う若い方も増えてきたとか。母子の健康と成長を願う温かい思いとともに、これからも淡路の母の味として、受け継がれてほしいと願っています。
|
|