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農林水産省

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明日をつくる ~東日本の復旧・復興に向けて~(1)

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名物おやきに詰まっているのは、おふくろの味と、復興へのみんなの思い

岩手県陸前高田市 広田半島営農組合



震災直後から事業再建を目指し、組合員の思いを結集させた広田町。
名物おやきの復活や、地元大学と連携しての水稲作付けなど、さまざまな支援を受けながら、いち早い復興を遂げることができました。

地図画像
岩手県の南東部に位置する陸前高田市。
震災当日、広田湾と太平洋の両側から押し寄せた津波に襲われた広田半島は、一時、本島と分断されて「支援物資が届かない」「情報が滞る」など、行政の手が届きにくい“孤立状態”になりました。
広田半島営農組合の手作り工房「めぐ海」は、開業からわずか4カ月で震災に見舞われ、すべてを津波に流されてしまいました。
めぐ海
広田半島営農組合女性部により誕生した工房「めぐ海」。
津波により建物やレシピなどが流失したが、メンバーの強い思いとさまざまな支援・サポートを受けて見事に復活した


めぐ海
がんづき

しっとり、もちもちの食感に仕上げた「がんづき」。
材料に黒砂糖を配合し、こしあんを詰めた「黒糖がんづき」も人気


めぐ海焼き

人気商品の「めぐ海焼き」。米粉の生地の中に甘辛く煮つけた地元の海産物がたっぷりと入っている


広田のおふくろの味

“広田のおふくろの味”はすべて手作りによるもの。地元の海産物を全国へと広げていくのが目標


水稲作付け
復旧工事写真

比較的がれきの少ないほ場を活用して、急ピッチで復旧工事を進めたが、当初は塩分濃度がなかなか下がらず、田植えは予定の10分の1しかできなかった


田植機やコンバインなどの農業機械

東日本大震災農業生産対策交付金を活用し、田植機やコンバインなどの農業機械を導入した


岩手県立農業大学校学生達

岩手県立農業大学校と連携して田植えを実施。
若い学生がイキイキと働く姿に元気をもらった


人力による田植え作業

中山間部のため、かつては人力による作業が中心だった


稲写真

無事に稲が実り、収穫の時期をむかえることができた

工房「めぐ海」が届ける広田のおふくろの味

広田半島営農組合は、農作業の共同化を通じた効率的な農業経営の実現、農用地の利用集積を推進することを目的として、水田基盤整備を機に平成21年に設立。
地元産食材を使った工房「めぐ海」は組合の女性部(会員11名)により、22年11月に開業しました。

看板商品のおやきは、甘辛く煮つけた地元産のワカメやイサダ、ホタテが入り、米粉を練ったもちもちの皮との相性が抜群。

工房での販売に加えて、黒崎仙峡温泉や地元商店から注文が入るなど、上々のスタートを切った矢先でした。


「工房が津波で流され、私自身も体調を崩したこともあって、もう二度と立ち上げるのは無理だと思っていました」

と代表の村上豊子さん。


「家を流されて日々の生活もままならないメンバーもいる中、とても悩んだのですが、みんなから『やってみよう!』という声があがって、心が決まりました。
最初は私自身の夢だった工房は、この時からみんなの工房へと生まれ変わったんです」


そして24年6月3日、メンバーたちの復興への強い思いから工房「めぐ海」が再度立ち上がりました。

震災前は「海鮮焼き」と称していたおやきは、復活へ向けたみんなの思いを込めて「めぐ海焼き」と改称し、工房の目玉商品として売り出すことを決定。

かぼちゃやりんごなど季節の食材を使ったおやきや、郷土のおやつ「がんづき」や「米粉まんじゅう」などのメニューも加わり、“広田のおふくろの味”がますます充実してきています。

その手作りのおいしさが評判を呼び、現在は通信販売で全国からの注文も増加中。

めぐ海焼き

「新しい商品として、陸前高田市が売り出している『北限のゆず』を使ったあんに、地元で試験栽培している古代米のアサムラサキの皮で包んだミニ大福を開発しました。
地元産の素材をもっと全国の皆さんにお届けできたらうれしいですね」





被災後すぐに除塩を開始。
地元大学との連携で早期の作付けに成功

津波によって経営面積の3分の2が浸水したほか、トラクターや田植機などの農業機械も流失した広田町。

広田半島営農組合の組合員数は97名。とはいえ、高齢化もあり、存続に赤信号がともりました。

がれきが散乱し、ほ場が破壊され、皆が不安を抱く中、震災直後の3月末に岩手県大船渡農林振興センターと大船渡農業改良普及センターから被災水田での試験栽培の申し出があり、組合として復興を決断。

比較的被害の少なかった岩倉地区で1haの水田の除塩等を行い、いち早く作付けを実施しました。

岩手県立農業大学校などの協力により、主食米を試験栽培するとともに、東日本大震災農業生産対策交付金を活用し、本格的な作付け再開に向けて田植機やコンバイン等の農業機械を導入。

24年度には、これらの機械の活用や農業大学校の学生による作業研修を兼ねた支援により、前年度を大きく上回る主食用米(ひとめぼれ)2・8ha、飼料用米(どんぴしゃり)4・5haの作付けに成功しました。


「まだ残り10ha分が手付かずの状況なので、ここを28年度までに復旧させるのが当面の目標です。
堤防や道路から整備をしなければならないのですが、業者がなかなか決まらないなど、思うように進められないもどかしさもあります」

と語る組合長の臼井剛さん。

復旧と同時に生産コストの削減や6次産業化を進め、より地域に根ざした生産体制を整えていきたいと考えています。

水田


文/中山斉(フリート)
写真提供/広田半島営農組合