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MAFF TOPICS(2)

あふラボ 農作業の負担軽減に効果あり!「農業用アシストスーツ」の“今”



腰・股関節のサポートに特化した「パワーアシストスーツ」。荷物の持ち上げや中腰での作業、歩行の際にかかる身体への負担を軽減する
腰・股関節のサポートに特化した「パワーアシストスーツ」。荷物の持ち上げや中腰での作業、歩行の際にかかる身体への負担を軽減する


農業従事者の負担軽減に貢献
農作物の収穫や運搬など、力仕事が多い農作業の現場。これまで機械化が難しく、人の手で行う必要のあった果物や重量野菜の収穫、運搬作業に関しても、効率化や身体への負担の軽減を望む声が年々高まっています。
その一つが「農業用アシストスーツ」。身体に装着することで動作を補助し、作業時に身体へかかる負担を軽減する機能を持ちます。

「普及が進めば、高齢の農業従事者だけでなく、女性や若手農家にとっても、農作業を軽労化する頼もしい存在になるでしょう」と話すのは、「パワーアシストスーツ」を農林水産省からの委託により長年、研究・開発してきた和歌山大学産学連携・研究支援センターの八木栄一教授です。

八木教授が開発中のアシストスーツは、装着して力をアシスト(支援)するロボットです。

「スーツのように軽くて容易に脱着でき、さまざまな姿勢で作業する際に体から離れずに、適切なタイミングで必要な力を違和感なく支援できることがポイントです」その仕組みは、まず腰や股関節の角度や、手袋、靴底のオン/オフ信号を、センサーを通してコンピューターが感知。その計測データから装着者の動きに応じて電動モーターが作動し、荷物の持ち上げや運搬、傾斜地での歩行などをアシストしてくれるというものです。例えば、「30キロの収穫コンテナを持ち上げる際は、20キロ相当にまで軽減されます」と八木教授。

これまでのアシストスーツは、筋肉の表面に電極を貼り付け、身体を動かす直前に脳が発する微弱な信号を感知して、動作させる方法でした。しかし、動いたり汗をかいたりして電極が外れやすい農作業の現場では、実用的ではないことから、生体信号ではなく、力学的信号で動作させる方法を採用。

ところが、全身を支えるスーツを目指して開発された1号機は、総重量が40キロ。本体自体が重すぎて、逆に身体の負担を増やす結果になってしまいました。「そこで、特に要望が多かった腰への負担を中心に軽減する設計に変え、用途を腰・股関節をアシストする仕様に絞って開発を進めることにしました」

今夏に完成した最新モデルは、6キロ。フレームに航空機の機体にも使われている超々ジュラルミンと炭素繊維強化樹脂を併用するなどの改良を重ね、軽量化を実現したのです。

「パワーアシストスーツ」は、生活防水機能のほか、バッテリー駆動による3時間の連続使用といった実用性も備えており、平成28年度中の商品化を目指しています。


和歌山大学パワーアシストスーツの仕組み
和歌山大学パワーアシストスーツの仕組み
上半身の傾き具合と手袋のオン/オフ信号をセンサーが感知し、持ち上げ動作が開始されたことを判断
上半身の傾き具合と手袋のオン/オフ信号をセンサーが感知し、持ち上げ動作が開始されたことを判断
装着者の動きが制限されないよう、上半身に2カ所、下半身に4カ所の受動回転軸がある
装着者の動きが制限されないよう、上半身に2カ所、下半身に4カ所の受動回転軸がある


和歌山大学産学連携・研究支援センターの八木栄一教授 和歌山大学産学連携・研究支援センターの八木栄一教授


人工筋肉から腕の固定まで農作業をさまざまにアシスト
アシストスーツの活躍の場は農業だけでなく、介護や工事現場などさまざまな用途へと広がっていますが、すでに商品化されているものもあります。

東京理科大学などが出資するベンチャー企業、イノフィスの「マッスルスーツ」もその一つ。ナイロンメッシュで包まれたゴムチューブからなる人工筋肉に、圧縮空気を送り込んで収縮させることで、持ち上げなどの動作を補助し、負担を約3分の1に軽減する仕組みです。それぞれ体型に応じてフリーサイズとSサイズが選べ、重量は5.5キロと4キロで、装着もリュックのように背負うだけと簡単です。駆動用のエアーコンプレッサーが必要ですが、空気タンクを装着すれば屋内外を問わず使えます。介護用ではすでに700台以上が導入され、価格は1台64万8000円(税込み)から。

農業機械大手のクボタは、「ラクベストARM−1D」を販売しています。これは、ぶどうやなしといった果樹の棚下作業を想定したアシストスーツ。腕を適切な位置に固定することで、腕や肩にかかる負担を軽減できます。総重量は3.8キロ。単3電池4本で使用できる手軽さも魅力で、1台12万9600円(税込み)と導入しやすい価格です。


イノフィス製マッスルスーツ
イノフィス製マッスルスーツ 人工筋肉の収縮により腿フレームに固定されたワイヤーが引っ張られることで、背中フレームが回転して上半身を起こすなどの動作を補助する 人工筋肉の収縮により腿フレームに固定されたワイヤーが引っ張られることで、背中フレームが回転して上半身を起こすなどの動作を補助する


クボタ製 アシストスーツラクベスト
クボタ製 アシストスーツラクベスト 腕を上下90度までの範囲で6度刻みでロックすることができ、腕を上げたままの作業の負担を軽減 腕を上下90度までの範囲で6度刻みでロックすることができ、腕を上げたままの作業の負担を軽減


12月3日 「農業ロボットフォーラム」を開催!
「2015 国際ロボット展」(12月2~5日)が、東京ビッグサイトで行われます。その期間中の12月3日に、「農業ロボットフォーラム」を開催。会場内のメインステージで、農業ロボットコンテストの発表会と、スマート農業に関するパネルディスカッションを行います。

農業に関わりのなかった異分野の人に向けて、農業分野におけるロボット技術に対する期待を伝えることで、スマート農業関連の研究への新規参入やイノベーションの創出を図ることがねらいです。

あふラボ トリビア
パワーアシストスーツの歴史

近代のパワーアシストスーツの元祖は、1960年代に米国GE社などが研究開発したHardiman(ハーディマン)と呼ばれる、人間が装着する油圧式の大型ロボットでした。しかし、重量が680キロもあり、実際には使い物にならなかったそうです。



文/神野恵美