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農林水産省

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特集1 和牛(2)

[繁殖]ITを駆使してきめ細やかで安全な繁殖を

きもつき大地ファーム株式会社[鹿児島県]


繁殖経営の分業化により、年間1,000頭以上の子牛を生産している「きもつき大地ファーム」。
その特徴的な取り組みを紹介します。


生後間もない子牛は、分娩舎の牛房の隅に設置された専用の小屋で過ごす。
生後間もない子牛は、分娩舎の牛房の隅に設置された専用の小屋で過ごす。


繁殖牛の飼養のみに集中できる分業体制
繁殖農家の主な仕事は、母牛に子牛を産ませることです。そのためには、母牛用の飼料生産や子牛の育成など多くの労力が必要となります。それらを分業化し、母牛の繁殖管理に集中して取り組むことにより、肉用牛繁殖基盤の強化を図っているのが、きもつき大地ファーム株式会社です。

JA鹿児島きもつきと鹿児島県経済連が一体となり、「大規模繁殖分業方式モデル事業」の一環として平成22年に設立。農場は鹿屋(かのや)市と南大隅町の2カ所にあり、それぞれ母牛(繁殖雌牛)500頭、合計1000頭を飼育しています。

「JA鹿児島きもつきTMRセンターから供給される完全混合飼料(TMR〈※〉)により、ここでは繁殖雌牛の飼養管理と、おおむね9日齢までの子牛の哺育育成を行っています」と語るのは、鹿屋農場の場長・肥後愛貴(ひごあいき)さん。

※ TMR:Total Mixed Rationの略。牛に必要な飼料をすべて混合した完全飼料のこと。


場長の肥後愛貴さん(右端)を含む従業員4人とアルバイト1人で500頭の母牛を飼養している、きもつき大地ファーム鹿屋農場。20~40代という若さも特徴のひとつ。
場長の肥後愛貴さん(右端)を含む従業員4人とアルバイト1人で500頭の母牛を飼養している、きもつき大地ファーム鹿屋農場。20~40代という若さも特徴のひとつ。
JA鹿児島きもつきTMRセンターから供給される飼料。1日6トン以上を母牛に給餌する。
JA鹿児島きもつきTMRセンターから供給される飼料。1日6トン以上を母牛に給餌する。


発情や分娩の管理にITを導入
母牛の妊娠期間は約285日。1年に1頭の子牛を産むことができます。分娩間隔が延びると、子牛を産ませるまでの母牛の飼養費が余計にかかるため、1カ月で約4万円の損失と言われています。この分娩間隔が、地域内の組合員平均406日に対し、きもつき大地ファームでは平均355日を達成。

その背景には、分業化と同時に母牛のIT管理があります。一つは、母牛の発情をITで管理する「牛歩(ぎゅうほ)システム」。分娩後約1カ月で母牛の前足に発情行動を感知する器具を装着し、データをパソコンで管理。「朝、農場に来たら、まず発情データをチェックし、どの母牛に種付けするか判断します」と肥後さん。

もう一つは、繁殖農家にとって最も大変な分娩を管理する「牛温恵(ぎゅうおんけい)」です。分娩予定日1週間前の母牛に牛温恵を装着。分娩前の微妙な体温変化を感知し、「お産が始まります」「破水しました」などのメールが宿直当番のスマートフォンに入ります。

「お産に立ち会えれば、たとえ逆子などの難産でも獣医を呼ぶなどの対応ができ、事故を未然に防げます。牛温恵のおかげで100パーセントお産に立ち会えています」


母牛の前足に装着された「牛歩システム」。発情行動を感知し、パソコンへデータが送られる。
母牛の前足に装着された「牛歩システム」。発情行動を感知し、パソコンへデータが送られる。
グラフで表示される発情データ。これをもとに種付けを行う。
グラフで表示される発情データ。これをもとに種付けを行う。
分娩予定日1週間前から母牛に「牛温恵」を装着し、分娩を管理。
分娩予定日1週間前から母牛に「牛温恵」を装着し、分娩を管理。


こうして、無事に産まれた子牛は生後7日齢まで母乳を飲みながら母牛とともに過ごし、2日間のミルクやりを経て、鹿児島県経済連哺育・育成センターに移し、育てられます。

早期離乳することで、母牛は発情がスムーズに回帰し、次の種付けができる状態に。また、作業効率が高い機械で給餌するぶん、母牛や子牛の観察や衛生管理には細心の注意が払えます。

「昨年は500頭の子牛出産を達成したので、今年は昨年以上の子牛生産と、事故率の低減を目標に頑張っています」


子牛は生後7日齢まで母乳を飲みながら、母牛と一緒に過ごす。
子牛は生後7日齢まで母乳を飲みながら、母牛と一緒に過ごす。
子牛を早期離乳させることで、母牛たちはスムーズに種付けできる状態になる。
子牛を早期離乳させることで、母牛たちはスムーズに種付けできる状態になる。

生後数日経つと、牛房から外に出たがる元気な子牛も。
生後数日経つと、牛房から外に出たがる元気な子牛も。



取材・文/岸田直子
撮影/原田圭介


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