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MAFF TOPICS(1) あふラボ


MAFFとは農林水産省の英語表記「Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries」の略称です。
「MAFF TOPICS」では、農林水産省からの最新ニュースなどを中心に、暮らしに役立つさまざまな情報をお届けいたします。

樹木成分の新素材開発で林業を成長産業に

暮らしに役立つ最新の研究成果を紹介します。


リグニンを取り出し、乾燥させてパウダーに。
リグニンを取り出し、乾燥させてパウダーに。(1)
木材の成分構成比
木材の成分構成比


リグニンから作られたハイブリッドフィルム電子基板。電子機器の小型軽量化、薄型化に欠かせない。
リグニンから作られたハイブリッドフィルム電子基板。電子機器の小型軽量化、薄型化に欠かせない。(2)
リグニンから作られたハイブリッドフィルム。薄くて自在に曲げられる。
リグニンから作られたハイブリッドフィルム。薄くて自在に曲げられる。(3)


樹木成分「リグニン」は新たな産業の源
林業に関する研究開発や新しい取り組みが次々となされています。その一つが樹木の主成分「リグニン」の応用研究です。

リグニンは樹木の25~35パーセントを占める主要な成分です。炭素や水素などからなる高分子化合物で、語源はラテン語で木材を意味するリグナム。今まで樹木から材料利用できる形でのリグニンの抽出は困難でしたが、国立研究開発法人森林総合研究所の開発により、高分子化合物・ポリエチレングリコール(PEG)を混ぜて加熱することで、これに成功しました。リグニンは樹木成分「セルロース」と複雑に絡み合っていますが、PEGの成分によってほぐれ、容易に取り出すことができます。

この方法で抽出したリグニンは、プラスチックに似た性質を持つことが分かり、耐熱性が高く、価格が安いためさまざまな分野での使用が見込まれています。現在は、リグニンを使った車のエンジンカバーや電子機器の基板、配管の継ぎ目に使うパッキンなどの試作品が開発され、実用化に向かっています。木材から採掘される"森の黒いダイヤ"リグニンは、余剰スギの活用だけでなく、山間地の新たな産業として地方創生のきっかけになることが期待されています。

セルロースをほぐした「セルロースナノファイバー」
樹木のもう一つの主要成分・セルロースにおいても、ナノ(10億分の1メートル)サイズまで解きほぐして利用しようという研究開発が行われ、リグニンより先に工業利用がされ始めています。

セルロースは、ナノサイズまでほぐすと膨張・収縮しにくく、丈夫な性質を保ったまま、高強度で汎用性のある素材になります。この「セルロースナノファイバー(CNF)」に関しては、森林総合研究所などの公的研究機関、大学、民間企業で、高効率的な製造技術や用途の開発が進められています。

これまで、セルロースは大きな束状の繊維として利用されていましたが、CNFはその繊維を物理的な方法や化学的な方法でさらに細かく解きほぐし髪の毛の2万分の1の細さにしたものです。軽量・高強度で熱による変形が少なく、透明性、粘性などにも優れ、地球環境に優しい再生産可能な資源でもある"夢の素材"です。

これまでCNFを添加したボールペンインキ、紙おむつのシートが実用化されているほか、自動車部品、ディスプレイ用シート、包装材などへの応用が期待されています。

スギCNFの透過型電子顕微鏡写真。
スギCNFの透過型電子顕微鏡写真。(4)
左はスギCNFを1%含んだポリプロピレン樹脂のペレット状素材。右はペレットを型に流し込んで作った成形物。
左はスギCNFを1パーセント含んだポリプロピレン樹脂のペレット状素材。右はペレットを型に流し込んで作った成形物。(5)

写真提供/国立研究開発法人森林総合研究所(1、4、5)、国立研究開発法人産業技術総合研究所(2、3)


あふラボトリビア
樹木成分はまるで人間の体!?

樹木を人間の体に例えるとリグニンは「筋肉」でセルロースは「骨格」といわれます。人体は骨と筋肉が接するだけでなく、腱を通して互いにくっついています。最近の研究では、リグニンとセルロースも化学結合をしていて、人体の骨と筋肉のようにくっついていることが分かりました。まさに人間の体のようですね。


[地域林業を活性化] 早生樹の育成を国産材の切り札に
  西南地域での生育に適した早生樹「コウヨウザン」
樹木成分の利用のほかに注目を集めているのが、早生樹の育成です。早生樹とは、成長の早い樹木のこと。近年、木造住宅では輸入材の使用が増えています。日本の西南地域には、早く成長して木材強度が高い樹木が少ないこと、輸入材に材質・価格などで対抗できる国産樹木への要望が高いことから、この地域に適した早生樹「コウヨウザン」を育成する取り組みが、昨年度から行われています。

これによって日本の西南地域の林業・林産業を活性化させるとともに、森林所有者の造林意欲を高め、森林整備を向上させて森林資源の充実を図ることが期待されています。

コウヨウザンは中国南部原産のヒノキ科(旧分類ではスギ科)の常緑針葉樹。見た目はスギに近い植物です。ヒノキと同じ強度がありながら、成長速度はスギの1.4倍。製品として使われるようになるまでの生育年数は20年程度が見込まれます。

「コウヨウザンは強度と成長の早さを併せ持った樹木として注目されています。現在、全国の人工林の半分近くを占めているスギとともに、この樹木を育成していくことが望まれるでしょう。角材にして、またはスギとの合板にして住宅の建築材料に用いれば、需要が伸びるのではと思われます。今後は輸入樹木に対抗できる国産樹木にするため、よりよいものを交配させ、品種改良に取り組んでいきます」(国立研究開発法人森林総合研究所林木育種センター遺伝資源部・生方〈うぶかた〉正俊さん)
コウヨウザンはヒノキ科の常緑針葉樹。見た目はスギに似ている。
コウヨウザンはヒノキ科の常緑針葉樹。見た目はスギに似ている。

広島県庄原(しょうばら)市のコウヨウザン林。成長が早く、すくすくと育つ。
広島県庄原(しょうばら)市のコウヨウザン林。成長が早く、すくすくと育つ。

試験用の製材品。強度が高く、優れた建築材料になる。
試験用の製材品。強度が高く、優れた建築材料になる。



取材・文/細川潤子




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