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農林水産省

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今月の農林水産大臣賞 vol.6

「百年の森林(もり)構想」から生まれた六次産業化モデル 森と暮らしをつなぐ材木屋



人口1500人ほどの小さな村が、林業を軸とした地域再生に成功し、全国から注目を集めています。
その背景には、地場産木材に特化した商品の企画・販売を手がける"村の地域商社"の活躍がありました。


第1回ウッドデザイン賞農林水産大臣賞受賞 ウッドデザイン賞は、木のよさや価値を再発見させる製品や取り組みについて、特に優れたものを消費者の視点で評価し、表彰する新しい顕彰制度です。2015年から開催されており、最優秀賞には農林水産大臣賞が贈られます。


「みんなの材木屋」の人気商品、「ユカハリ・タイル」と「ヒトテマキット」。
「みんなの材木屋」の人気商品、「ユカハリ・タイル」と「ヒトテマキット」。


株式会社西粟倉・森の学校(岡山県)井上達哉さん 株式会社西粟倉・森の学校(岡山県)
井上達哉さん

1984年生まれ。広島県福山市出身。大学で森林資源について学んだあと、大阪で就職。その後、西粟倉・森の学校の初代社長と知り合い、2009年に西粟倉村へ移住。2015年に2代目社長に就任した。
所在地/岡山県英田郡西粟倉村長尾461-1
http://www.zaimoku.me/[外部リンク]


自分で作る喜びを木材を通して提案
既存の床の上に置くだけで無垢の床にリフォームできるタイル型床板「ユカハリ・タイル」、型から外して自分で削り磨いて木の食器を作り上げる「ヒトテマキット」。これらの開発・販売で、年間2億6000万円の売り上げを計上し、地域活性化に貢献している会社があります。村の95パーセントが森林に覆われた、人口約1500人の岡山県英田郡西粟倉村(あいだぐんにしあわくらそん)にある西粟倉・森の学校です。

「大工さんや業者さんだけではなく、自分で何かを作ることで暮らしを楽しみたいという人を対象に、西粟倉の杉と檜(ひのき)を使った商品の企画・販売、マーケティングを手がける会社です。商品は『みんなの材木屋』というオンラインショップで扱っています」と、代表取締役社長の井上達哉さん。

森を育てた人と暮らしをつくる人をつなぐ―。この先進性のある取り組みと、新たな国産材市場開拓の試みが高く評価され、第1回ウッドデザイン賞 最優秀賞(農林水産大臣賞)を受賞しました。

西粟倉・森の学校の製材所。「みんなの材木屋」はここから全国へ商品を発送している。 西粟倉・森の学校の製材所。「みんなの材木屋」はここから全国へ商品を発送している。
西粟倉・森の学校の製材所。「みんなの材木屋」はここから全国へ商品を発送している。


森の再生を地域の雇用や人口維持につなげる
西粟倉・森の学校が生まれた背景には、村の過疎化や林業の衰退などの問題がありました。西粟倉村は、2004年に近隣の市との合併を拒み、自立の道を選択したのです。

翌年、心と心をつないで価値を生み出していく「心(しん)産業」というコンセプトで、地域資源から仕事を生み出して起業型人材の発掘・育成を進め、村の森林を活用する「百年の森林構想」を打ち立てました。50年前に祖先が子孫のために植林した森を守り、50年先の次世代へ引き継ぎながら、健全な森を生かす地域経済の仕組みです。

そのためにファンドを設立し、「百年の森林構想」を事業化していく人材を外部から起用しました。そうして2009年に生まれたのが、西粟倉・森の学校です。

「当初は移住・起業支援事業と木材加工流通事業の2つを担い、木工や家具、遊具の職人さんを募ったり、製材業の裾野を広げてくれる挑戦者を募集して、移住者も150人くらい集まりました」

森は定期的に伐採することで再生されますが、そこから出る間伐(かんばつ)材は柱に使えるような真っすぐなものばかりではありません。でも、「必ず誰かの暮らしの役に立つ可能性がある。それを見つけるのが自分たちの使命だ」と、開発したのが間伐材を使った「ユカハリ・タイル」や「ヒトテマキット」です。そのヒットのおかげで、2014年には黒字化に成功。

西粟倉村自体のブランド力も上がり、10社以上のローカルベンチャー企業が誕生、森林関連の売り上げは約8億円に増加、100人以上の雇用が生まれるなど、日本の地域再生の成功モデルとして注目を集めるようになりました。

西粟倉村の森林から切り出された木材を、用途に合わせてカットしていく。
西粟倉村の森林から切り出された木材を、用途に合わせてカットしていく。
フローリング用に加工された木材。
フローリング用に加工された木材。

スタッフが試行錯誤を重ねて開発した「ユカハリ・タイル」シリーズ。賃貸アパートやマンションなど現状回復が必要で床施工が難しい住まいでのDIYキットとして大人気。
スタッフが試行錯誤を重ねて開発した「ユカハリ・タイル」シリーズ。賃貸アパートやマンションなど現状回復が必要で床施工が難しい住まいでのDIYキットとして大人気。



お金をかける時代から手間をかける時代へ
「昨年、移住・起業支援事業は先代社長が別会社を立ち上げて行うことになったので、僕たちは木材加工流通事業に専念することになりました。ウッドデザイン賞をいただいたことで、他地域の国産材に関わる業者さんとのつながりもより広がったし、これからはDIYマーケットに対して、どうやって国産材を供給していくか販路部分のサポートと、家具キットや住宅キットの商品化など新しいライフスタイルの提案ができればいいな、と思っています」

百年の森林をいとおしみ育むように、暮らしもまた自分で何かを作ることで、豊かに楽しくなる。

お金をかける時代から、手間や時間をかける時代へ。時流の変化をしっかりと捉え、西粟倉・森の学校は、森と暮らしの未来を見つめて、新たなステージへと進んでいます。

西粟倉村大茅(おおがや)地区にある人工林。村を挙げて森づくりに取り組んでいる。 西粟倉村大茅(おおがや)地区にある人工林。村を挙げて森づくりに取り組んでいる。



取材・文/岸田直子
撮影/原田圭介


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