

日本が誇る、美味しくて、質の高い農林水産物や食品。その品質は、国内だけにとどまらず、海外でも高く評価されています。農林水産物・食品の海外への輸出額は近年着実に増加を続けており、2021年には初めて1兆円を達成しました。本特集は、輸出の現状や海外の方から見た日本産食材の魅力、さらには輸出拡大に向けたさまざまな取り組みに迫ります。
2021年の農林水産物・
食品の輸出額は
1兆円を突破!
2021年の農林水産物・食品の輸出額は1兆2,385億円となり、政府がひとつの目標としてきた輸出額1兆円をはじめて突破しました。新型コロナウイルス感染拡大の影響が続く状況下でも、小売店向けやEC販売など、消費者のニーズの変化に応える新たな販路への輸出が好調だったほか、輸出拡大に向けて政府一丸となって行ってきたさまざまな取り組みも功を奏し、多くの品目で輸出額が増加しました。
農林水産物・食品の輸出額の推移

政府は、今後、2025年には輸出額2兆円、さらに2030年には輸出額5兆円を目標としており、引き続き、政府一丸となって、輸出拡大に向けた取り組みを進めていきます。
Pick Up!
輸出額の増加が
最も大きかった品目は?

前年と比較して最も輸出額の増加が大きかった品目はホタテ貝です。2021年の輸出額は約639億円で、前年の2倍以上に増加しました。中国や米国で外食需要が回復したこと、米国において生産量が減少したことで単価が上昇したことなどに加え、国内の主な産地である北海道での生産が順調で、生産量が増加したことなどが挙げられます。品質の高い日本産のホタテ貝は世界で高く評価されています。
海外の方から見た
日本産食材の魅力とは?

日本産食材は、その品質の高さから、海外でも高く評価されていますが、海外の方から見た魅力はどのようなところにあるのでしょうか。今回は、これまでロンドン、パリ、ニューヨーク、そして香港と、世界有数の美食都市の一流レストランでシェフを務め、各国のさまざまな食材を取り扱ってきた「Four Seasons Hotel Tokyo at Marunouchi」の「SÉZANNE(セザン)」総料理長ダニエル・カルバートさんに、日本産食材ならではの魅力について伺いました。
今回教えてくれたのは・・・

Four Seasons Hotel Tokyo at Marunouchi
SÉZANNE 総料理長
ダニエル・カルバート さん
1987年、英国生まれ。16歳で料理の道に入る。ロンドン「The Ivy」、「L’Autre Pied」などを経て、ニューヨークの3つ星レストラン「Per Se」では最年少のスーシェフに。その後パリの3つ星レストラン「Epicure」を経て、2016年香港「ベロン」のシェフに。2020年『アジアのベストレストラン50』の4位に選ばれ、ミシュラン1つ星を獲得。2021年7月から現職。
日本に興味をもったきっかけに
ついて教えて下さい。
16歳で料理の道へ進んでから、ロンドン、ニューヨーク、パリ、香港と世界的な美食都市の有名レストランで腕を磨いてきました。日本は季節の変化が大きく、四季折々の素晴らしい食材がある国なので、以前からずっと興味を抱いてきました。このため、いつか日本に行きたいと考えており、香港にいた時から何度も日本を訪れて、準備をしてきました。

ランチタイム前の準備が忙しい中、取材に対応してくれたシェフのダニエルさん。
日本産食材に対するこだわりに
ついて教えて下さい。
自ら日本各地に足を運び、惚れ込んだ日本の食材を厳選しています。そこに世界各国で吸収してきた様々な技術を駆使して、端正で美しいフランス料理に仕立てています。季節の変化が大きい日本には、その時期にしか最高の味で食べられない食材があります。その食材の産地などについても十分に理解したうえで、最高の一皿を追求しています。私たちが提供するフレンチが目指すのは、日本の寿司や懐石のようにアイデアがシンプルでありながら、とても高い技術や多くの手仕事で仕上げられている料理。季節の移り変わりが早いという日本ならではの特徴もいかせるよう、仕入れた素材から着想を得て生まれる1週間限定メニューやその日だけの一皿といった特別なもてなしも行っています。

「厚岸牡蠣 コシヒカリのリゾット オゼイユ添え」
北海道厚岸産の生牡蠣の上には生牡蠣のババロア、下にはロメインレタスと新潟県産コシヒカリを使ったリゾットがしかれています。
日本産食材のどのような
ところに魅力を感じますか?
日本の食材の品質は一貫してとても高く、素晴らしいと感じます。生産者の方々も最善を尽くし、それぞれの食材に誇りを持っており、共に働く仲間として強い信頼関係を築き上げられる点も魅力ですね。例えば長野の養鶏農家は軍鶏をリクエストしたサイズに育ててくれますし、北海道の猟師にジビエを明日欲しいとお願いすれば手配してくれます。

「有明山農場美膳軍鶏のポシェ ヴァン・ジョーヌ 杏茸」
長野県・有明山農場の軍鶏を丸ごと煮た後に、さまざまな野菜やジロール茸とともに、ヴァン・ジョーヌ(仏・ジュラ地方産の黄ワイン)に一週間ほど漬けたもの。噛みしめるごとに繊細で複雑な旨味が広がります。
日本産食材を扱う上で意識して
いることについて教えて下さい。
魚であれば、どこの地域の海で、またどのくらいの水深のところで獲れたものかを把握するように心掛けています。同じ種類でも産地によって味が違いますからね。また、果実の品質の高さも日本ならではだと思います。本当に完璧で、とても甘い。中でも桃は柔らかく、熟していて、美味しいと感じるのですが、ヨーロッパのものとは味わいが違います。その“違い”を理解し、日本の果実の魅力をより引き出せるような形で調理することを心がけています。

「宮崎県産マンゴー ショートブレッド クレームシャンティ」
宮崎県産の甘いマンゴーの上には、スコットランド伝統菓子のショートブレッド入りのクレームシャンティがたっぷり。新鮮な果実の下にはマンゴーのソルベが隠れています。
印象に残っている日本産食材に
ついて教えて下さい。
全て素晴らしいので選ぶのが難しいのですが、一例を挙げるなら魚でしょうか。冬の時期であれば、九州のクエが印象に残っています。脂が乗っており、味が濃厚でゼラチンが多い。1週間冷蔵庫に入れて熟成させることで、味を凝縮させています。冬の間だけ味わうことのできるとても特別な食材だと思います。

厨房の裏にある特別なシェフズテーブル席。個室に備えられた窓からは、厨房内で調理しているシェフの姿が見える。
今後の目標について
教えて下さい。
「旬」は、季節の移り変わりが大きい日本ならではのとても特別なものだと思うので、これからも、その時期ならではの食材を使って季節感を表現していきたいと考えています。今は目の前の料理に集中しているので、これから先の未来はその時になってみないと分からないのですが、「今年使った食材を更に進化させるために来年はどう料理しようか」ということは常に考えていますし、これからも考え続けていきたいですね。

「福岡県産苺 ブラッターチーズ」
いちごは、福岡県産の瑞々しいあまおうを使用しており、薄く切り込みが幾重にも入れられていて口に入れるとほどけるような触感を出しています。
取材協力

Four Seasons Hotel Tokyo at Marunouchi
東京駅から徒歩数分のスモールラグジュアリーホテル。小規模ホテルならではのきめ細やかなサービスや、窓から望む四季折々のダイナミックな景観が魅力。

SÉZANNE (セザン)
Four Seasons Hotel Tokyo at Marunouchi内のフレンチレストラン。ダニエル・カルバート氏が総料理長を務め、四季折々の旬の食材を使用したメニューを楽しむことができる。2021年には、オープンからわずか半年でミシュランの1つ星を獲得。
写真提供:Four Seasons Hotel Tokyo at Marunouchi(Q1のシェフとホテルエントランスの写真以外は全て)
日本産食材のさらなる
輸出拡大に向けて
~キーワードは
「マーケットイン」~
今後、世界規模での人口の増加などに伴い、世界の食料需要は大きく拡大することが見込まれています。このため、輸出拡大により新たな海外市場を開拓することは、日本国内の農林水産業や食品産業のさらなる活性化にもつながることが期待できます。しかし、海外の消費者のニーズはさまざまです。そこで重要となるのが、「マーケットイン」という考え方です。これは、海外の市場で求められる品質や規格等にあわせた産品を専門的、継続的に生産、販売すること。政府では、「マーケットイン」の輸出を実現する体制を整備するため、さまざまな取り組みを行っています。そのひとつが、「輸出重点品目」の設定です。
日本の農林水産物の強みを活かす
「輸出重点品目」とは?

輸出重点品目に指定された品目の一部。
上段左から:牛肉、ぶり、米/下段左から:ぶどう、いちご、日本酒 上段左から:牛肉、ぶり/中段左から:米、ぶどう/下段左から:いちご、日本酒
これまで日本から輸出してきた品目は多岐にわたっていましたが、それぞれの品目の輸出額は小さく、「日本ならでは」の強みを持つ産品のシェアが小さい状況でした。そこで、海外で評価される「日本ならでは」の強みを持つ28品目*を「輸出重点品目」として設定しました。28品目それぞれにターゲットとする国や地域、具体的な輸出目標やそれに向けた課題を明確にし、その実現に向けたさまざまな取り組みを行っています。ここでは輸出重点品目のひとつである「牛肉」について、具体的に見ていきましょう。
*2021年12月に新たに「柿・柿加工品」が輸出重点品目に追加され、合計28品目となりました。
日本が世界に誇る「和牛」

日本の和牛は、その柔らかな肉質や、繊細で芳醇な味わいが特徴で、欧米やアジアなどでも高く評価されています。2021年の輸出額は537億円で、2020年と比較して200億円以上も増加しています。この理由としては、主要な輸出相手国の米国などで外食需要が回復したことや、小売店、EC販売が好調であったことなどが挙げられます。国・地域別で見ると、特にカンボジア、米国、香港、台湾などへの輸出が多くなっています。
牛肉の国・地域別輸出実績(2021年)

牛肉のさらなる輸出拡大に向けて
政府の輸出拡大実行戦略では、今後、牛肉の輸出額について、2025年には1,600億円、さらに2030年には3,600億円を目標としています。この目標を達成するためには、牛肉の生産、加工・流通、販路拡大というそれぞれの段階における課題を解決していく必要があります。

牛肉の加工施設の様子。写真提供:(株)ミヤチク
例えば、加工においては、輸出先の国や地域によって、牛肉加工施設の構造や、衛生管理などの基準が異なっており、それぞれの国や地域が求める基準を満たす必要があります。こうした課題に対し、農林水産省では、輸出に対応できる施設を整備する段階から、関係省庁、都道府県、そして牛肉の加工施設や輸出事業者の方々と、施設の構造や衛生管理における課題を共有し、解決に向かうための協議を行う「5者協議」を実施するなど、省庁の垣根を越えて、政府一丸となって、輸出を行う上での課題の解決に向けた取り組みを行っています。
そのほかの品目についても、それぞれの品目の特徴や海外で評価される日本の強みを踏まえて目標を設定しています。さらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
宮崎牛の魅力を世界へ!
質の高い日本の農林水産物を海外に輸出するため、産地や事業者の方々はさまざまな取り組みを行っています。今回は、マーケットインの発想で、宮崎牛の輸出に取り組んでいる宮崎県の(株)ミヤチクの取り組みに迫りました。
今回教えてくれたのは・・・

(株)ミヤチク
管理部 販売企画課
横部 顕然(よこべ あきとし)さん
牛・豚の食肉処理および加工、輸出を含む販売事業、外食事業を通じて宮崎県産畜産物の需要拡大や付加価値の向上に努める。宮崎牛等の輸出への取り組みが評価され、「令和元年度輸出に取り組む優良事業者表彰」において農林水産大臣賞を受賞。さらに、令和2年度(第59回)の農林水産祭の多角化経営部門の出品財に選出され、日本農林漁業振興会会長賞を受賞。
輸出を開始したきっかけや、
当初苦労したことについて
教えて下さい。
1990年に日本で初めて弊社の高崎工場で対米牛肉輸出認可がおり、輸出をスタートしました。きっかけは、商社からの依頼でした。初の海外拠点は2012年にJA宮崎経済連が事務所を立ち上げた香港。以来輸出に本格的に取り組みました。今ではトップシェアブランドの一つとなったアメリカでの展開ですが、輸出を開始した当初は、文化の違いなどからセールスやプロモーション活動に苦労しました。

多くの国においては認定を受けた食肉処理施設(と蓄場・カット工場)で処理された食肉のみ輸出ができます。写真は平成31年3月に竣工しEU向け牛肉輸出認可を受けた都農工場。
写真提供:(株)ミヤチク
宮崎牛の輸出拡大に向けて力を
入れてきた取り組みについて
教えて下さい。
国ごとに文化が違うため、セールスのアプローチも異なりました。高級レストランのシェフも和牛を取り扱ったことがない場合が多かった香港では、弊社のシェフがセールスに同行し、肉の切り方をはじめとした調理技術を現地シェフに伝授。塊や切り出しの価値の違いを説明し、部位などの商品知識を伝えました。また、食肉文化が進んでいるアメリカも和牛の取り扱い方法が定着していなかったので、現地取引先のセールススタッフへの商品知識の共有からスタートしました。

香港での営業の際は同社のシェフが同行し、現地スタッフのもと宮崎牛の調理をレクチャー。
写真提供:(株)ミヤチク
主要な輸出先と、年間の輸出量を
教えて下さい。
輸出先の上位はアメリカ・台湾・香港で全体の輸出量の8割を占めています。そのほかの国や地域は、シンガポール・カナダ・マカオ・タイ・フィリピン・EU・オーストラリア・ベトナムなどです。輸出量は令和2年度で468トンに達しており、今年度は更に上回る予想です。

農林水産大臣賞受賞式の様子 写真提供:(株)ミヤチク
宮崎牛のさらなる輸出拡大に
向けた今後のビジョンを
教えて下さい。
県内の生産者の皆様が手塩にかけて育ててこられ、諸先輩方が礎を築かれてきた県産畜産品ですから、熟成市場、成長市場、未知市場とマーケットの特性を把握して戦略を変え、国内はもちろん、しっかり世界の皆様にお届けしていきたいと思います。EUへのさらなる販路拡大も視野に入れ、すでに輸出を開始しているスペインを中心に現地のパートナー企業と戦略をねりながら可能な限り進出して行きたいです。

マカオの得意先における商談の様子 写真提供:(株)ミヤチク
宮崎牛の魅力

宮崎県 県有種雄牛 耕富士号
写真提供:(一社)宮崎県家畜改良事業団

宮崎県 和牛共進会
写真提供:宮崎県HPより
宮崎県内種雄牛もしくは家畜改良のために指定された種雄牛を一代祖にもつもの、宮崎県内で生まれ育った黒毛和種であること、(公社)日本食肉格付協会が定める基準の肉質等級*が4等級または5等級であること、という3つの要件を満たした牛が宮崎牛として認められます。安定した量を高品質で提供でき、上品で芳醇な香りが特徴的で良質な脂は濃厚ながらクセのない味わいです。「和牛のオリンピック」とも言われる「全国和牛能力共進会」では、平成29年に宮城県で開催された第11回大会において、肉牛の部で内閣総理大臣賞を受賞し、史上初の3大会連続での内閣総理大臣賞の獲得を成し遂げるなど、その品質は国内外で高く評価されています。平成29年12月には、地理的表示(GI)*として登録されました。
*肉質等級は、「脂肪交雑(サシの入り方)」、「肉の色沢」、「肉の締まり及びきめ」、「脂肪の色沢と質」の4つの点から評価されます。5等級から1等級まであり、5等級が最も高くなっています。
*地理的表示(GI)保護制度とは、地域で育まれた伝統を有し、その高い品質等が生産地と結び付いている農林水産物や食品等の名称を、知的財産として保護する制度です。

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日本産食材の魅力を世界へ
輸出の「いま」を知る -
戦略的に海外のニーズに応える
輸出拡大を目指す産地の挑戦 -
オールジャパンで取り組む
日本産食材の海外への
プロモーション -
「その土地ならでは」の
魅力を保護し、世界へ
地理的表示(GI)を知る -
輸入規制の撤廃と技術開発で
日本産食材の輸出拡大を支える
編集後記
冬の間ほぼ毎日のようにみかんを食べていましたが、そろそろ今シーズンは終わりの時期ですね。みかんに限らず、りんごにしても、ぶどうにしても、日本の果物は本当に甘くてみずみずしく、食べるたびにその品質の高さに驚かされます。四季があり、それぞれの季節ならではの旬の食材がある、というのは日本にいるとどうしても当たり前のことのように感じてしまいますが、取材させて頂いたダニエルシェフのお話から、日本ならではの特別なものだということを改めて教えて頂きました。これからもその時期ならではの旬の食材を大切にして楽しんでいきたいですね。今月は1ヶ月とおして「輸出」をテーマに、さまざまな話題をお届けします。輸出に向けたさまざまな取り組みについてはもちろんですが、普段何気なく口にしている日本産食材の魅力についても、改めて見直すきっかけになれば嬉しいです。(広報室AY)
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大臣官房広報評価課広報室
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