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aff 2022 JUNE 7月号
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廃校再生プロジェクト

廃校再生プロジェクト

第2回 NPO法人 ほしはら山のがっこう[広島県三次市] 第2回 NPO法人 ほしはら山のがっこう[広島県三次市]

ふるさとを
次世代につなぐ
農山村体験交流施設

広島県北部、山間の小さな町、上田町にある「ほしはら山のがっこう」は、廃校となった上田小学校の木造校舎を活用した農山村体験交流施設です。都市からの参加者と地域の方々をつなぎ、この地に息づく豊かな自然と田舎暮らしを体験できる場づくりを行っています。

「ないからこそあるもの」探しで
地域の魅力を再発見

日本の原風景が残る上田町の集落

三次(みよし)市中心部から約20キロ離れた上田町は、標高約350メートルから550メートルの中山間地域。「ふるさと」という言葉がぴったりの里山集落が点在しています。地域の方々の多くは農林業を営み、隣近所で支え合いつつ、昔ながらの半自給的な暮らしをしています。
近年は過疎化と少子高齢化が進み、農林業の担い手不足、耕作放棄地や荒れた森林の増加など、さまざまな課題を抱えています。1874(明治7)年開校の長い歴史を持つ上田小学校も時代の流れに逆らえず、2003(平成15)年3月に廃校となりました。

1954(昭和29)年に建て替えられた木造校舎

町民有志による「上田小学校跡地利用プロジェクト委員会」が結成されたのは、廃校が決定した2001(平成13)年末のこと。当初「更地にするか活用するか地域で話し合ってください」と三次市役所から説明を受けた町内会役員は、後世に負の遺産を遺したくないと、更地化を決断しかけたそうです。
しかし「思い出深い校舎を、地域のシンボルとして保存し役立てたい」という声が多く上がり、自分たちで活用していく道を選びました。老朽化したものの、趣ある佇まいの木造校舎は、地域の方々の心の拠り所であり、失いたくないものだったのです。

元教室の窓から見える風景

どのように活用するか話し合いを重ねる中で、農山村体験交流施設にする構想が生まれました。このとき、プロジェクト委員会に招き入れられたのが、現在も施設の副理事長・ふるさと自然体験塾長として活躍する浦田愛さんです。「田舎暮らしに憧れて福岡からこの地に移住し、農家に嫁いだ私は、当時、近隣の町で自然体験活動を指導していました。それで話を聞かせてほしいと呼ばれたのです」

都市から来る人たちに農山村の素晴らしさを伝える拠点にしたい。この地域を第二のふるさとと思ってもらえるような体験と交流の場をつくりたい。そんな想いを委員たちで共有し、体験交流プログラムの具体化に向けたワークショップが始まりました。

美しい星空が自慢

「そうはいっても観光名所もない、温泉も出ないこんな山奥に来る人がいるのか」と、最初は懐疑的な意見が飛び交ったそうです。「でも『ないもの』を出し尽くしたとき、今度は『街灯はないけど星がきれいに見える』『店はないけど半自給的な暮らしがある』といった『ないからこそあるもの』探しが始まったのです。『うちにはまだ薪風呂がある。そんなものも体験してもらったらどうか』と提案してくれる方もいました」と浦田さん。
みんなが地域を客観的に見つめ直し、その魅力を再発見していきました。旧上田小学校の校歌に出てくる言葉「ほしはら(=星がきれいな原っぱ)」を、「ないからこそあるもの」の象徴として施設名に冠し、「ふるさと体験スクール(現ふるさと自然体験塾)」をスタートさせたのは、廃校となった2003(平成15)年夏のことでした。

地道に活動実績を
積み重ねる

自然体験プログラムで参加者と触れ合う浦田さん
森遊びで子どもたちの笑顔がはじける

「市役所の農政課の方から『体験交流施設として活用するなら、国の補助金を活用できるかもしれません。市もできる限り応援させていただきます』と助言をいただきました。それで生き物観察や農家民泊、子どもキャンプなど、さまざまなプログラムを企画・実践していきました」
スタートしてほどなく「トム・ソーヤースクール企画コンテスト」に「ふるさとを遊ぼう 秋の民泊体験」で応募し、文部科学大臣奨励賞を受賞したのは、大きな実績になったといいます。このコンテストは「安藤スポーツ・食文化振興財団」が全国の学校や団体から自然体験活動の企画案を募集し、優秀団体を表彰するもの。「実施支援金をいただいたのも、資金のないスタート時にはありがたかったですね」

無農薬の茶畑で虫捕り
星空の下でキャンプファイヤー

地道に実績を積み重ねたことで、2004(平成16)年に「地域連携システム整備事業(当時)」の補助金を受けることに。これを使って地域資源の発掘、体験プログラムの作成、モデルツアーの実施といったソフト事業を行ったそうです。
翌2005(平成17)年には、ハード事業用として「やすらぎ空間整備事業(当時)」の補助金を受給。「おかげで木造校舎の改修工事と耐震補強、シロアリ駆除などを行うことができました」。改修工事はこの後も三次市の単独市費事業として何度か実施されています。

元教室を畳敷きにし、宿泊可能に

2012年(平成24)年には任意団体からNPO法人になりました。この年に宿泊施設としても使われ始め、さまざまな責任を伴うことから法人格を持つことにしたといいます。「非営利であることを名称で表現できる、NPO同士の横連携がしやすい、行政の補助を受けやすいなど、NPO法人のメリットはいろいろあります」
2020(令和2)年には三次市が施設を行政財産と位置付け、指定管理者制度を導入。「ほしはら山のがっこう」が指定管理者に選定されました。目的と役割を市と共有し、常に対話をしながら運営しているそうです。

「生きる力」を
育む農山村体験交流

種をまいて育てたそばを刈り取り、手で脱穀
創作交流室でそば打ち体験

廃校が「ほしはら山のがっこう」に生まれ変わって、間もなく20年。体験交流活動は変わることなく活発に行われています。「ふるさと自然体験塾」のプログラムは、公式サイトやFacebookで募集すると、すぐ定員に達してしまう人気ぶり。参加者は親子で広島県各地からはるばるやってきてくれるそうです。「『子ども時代に自然と触れ合えなかったので、自分も体験できてうれしい』と親御さん自身が楽しんでいるのが印象的です」

地域の方の棚田を借りて田植え体験
田植えのあとは、田んぼの生き物探し

自然に親しみ、地域の方々から田舎暮らしの知恵を学ぶ体験交流は、子どもたちの感性を磨き、観察力や探求心といった「生きる力」を育みます。「たとえば田んぼの泥に足を踏み入れ、そこに棲む生き物たちと遊んだ思い出は、一生子どもたちの心に残り、人生を豊かにしてくれるでしょう。生き物目線で自然環境を考える大人になってくれるだろうとも期待しています」

施設裏の「ほしはらの森」での1シーン

こうした活動に共感し、体験交流をサポートするためにやってくる学生ボランティアが多いのも「ほしはら山のがっこう」の特徴です。若者や子どもがたくさん訪れるようになり、人口158人、高齢化率60パーセント(2022年4月末現在)の上田町に活気が生まれています。

地域と丁寧に
つながり続ける

周辺エリアをポタリング

近隣の町々と連携した広域の体験交流プログラムにも取り組んでいます。上田町を含む5つの町で構成された川西地区を、電動アシスト付きレンタサイクルでめぐる「川西Eバイクdeポタリング」はその一例です。ポタリングとは自転車で散歩するようにゆったり走ること。施設を川西地区全体の体験交流と地域づくりの拠点と位置づけることで、活動がより広がりを見せています。

地域の方々にポタリングコースをプレゼン

体験交流活動は地域の方々の協力なくして進めていくことはできません。地域とともに歩むにはどうしたらいいかをいつも考えているという浦田さん。「施設は公民館としての役割も担っています。ですからあまり頻繁にイベントを入れすぎないことを心がけています」。地域と丁寧につながり続けることが、持続可能な活動のためには欠かせないのです。

子どもたちが地域に元気を届ける

なかなか大きな収益にならない体験交流活動ですが、お金では計れない効果をもたらしています。「子どもの声が聞こえると元気になる」と話すお年寄りが多く、参加者の来訪が、地域に対する誇りを取り戻すきっかけになっているといいます。「ほしはら山のがっこう」は、ふるさとを次世代につなぎ、地域を活性化する挑戦を続けています。

NPO法人 ほしはら山のがっこう

今回お話を聞いたのは…

NPO法人 ほしはら山のがっこう 副理事長・
ふるさと自然体験塾長
浦田愛さん

福岡県福岡市出身。大学で児童教育を学び、22歳で上田町にIターン。農家に嫁ぎ、子育てをし ながら「ほしはら山のがっこう」の運営と地域づくりに携わる。自然体験活動のエキスパート。

(PDF:15,375KB)

お問合せ先

大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

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