このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー
aff 2022 OCTOBER 10月号
10月号トップへ戻る

“農泊”を楽しもう 職人の技の体験を通じて 伝統文化に触れる農泊

“農泊”を楽しもう 職人の技の体験を通じて 伝統文化に触れる農泊

全国の農山漁村には、古くから人々の暮らしを支えてきた伝統の技が伝えられており、その技の一端に触れることができるのも、農泊の大きな魅力です。第2回目は、茅葺き屋根の屋根葺き体験(京都府)と日本酒造り体験(長野県)ができる農泊事例を取り上げます。

茅葺き屋根の民家に泊まって屋根葺きを体験 美山FUTON & Breakfast 京都府南丹市美山町 茅葺き屋根の民家に泊まって屋根葺きを体験 美山FUTON & Breakfast 京都府南丹市美山町

“Miyama FUTON & Breakfast”

かつては日本の集落でよく見られた茅葺き屋根ですが、時代の流れとともに民家の屋根は瓦葺きなどが主流に。しかし、一部の山村集落では今なお茅葺きの民家が立ち並んでいます。京都府のほぼ中央に位置する南丹市美山町もそんな集落の一つ。周囲を高い山々に囲まれ、その山間を縫うように流れる由良川沿いに、昔ながらの茅葺き屋根の民家が点在し、訪れるとまるで昔話の世界に入り込んだ気分にさせてくれます。今回訪れたのは、この地域で茅葺き屋根の宿泊施設を営む「美山FUTON & Breakfast」。ここでは、3月中旬から11月下旬まで茅葺き屋根の屋根葺き作業を体験することができます。

多くの茅葺き民家が現存している美山町。中でも「かやぶきの里」として知られる北地区は、50戸のうち39戸が茅葺き屋根で、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。

「美山FUTON & Breakfast」の建物は5棟あり、各々が数キロほど離れて点在しています。そのうち昔ながらの茅葺き家屋は「本館」と「美十八(みとや)」の2棟です。写真の「本館」は江戸時代末期に建てられたもので、国の登録有形文化財に指定されています。階段箪笥(たんす)を通じて屋根裏に上がり、茅葺きの裏側をじっくりと見ることができるのが最大の魅力。1階と2階の双方に寝室があるので、大人数のグループでもゆったり過ごせます。

もう1棟の茅葺き家屋である「美十八」。こちらも築150年の古民家をリノベーションしたもので、特徴は広い縁側。縁側からは昔ながらの美山の葺き方をした屋根の、美しく刈りそろえられた軒を鑑賞できます。本館同様に1階には大きな囲炉裏があり、みんなで鍋を囲んで食事を楽しむことができます。

Experience

茅葺き屋根の屋根葺き体験

まず、茅葺きの基本的な知識について、専用ガイドブックや映像鑑賞などで30分ほど学びます。その後は法被と手拭いの職人スタイルになって体験場へ。移動の際には写真の「美山かやぶき美術館」など近隣の茅葺き家屋を見学します。

体験場には特別に組んだ体験用の屋根組があります。インストラクターの職人さんが見本を示しつつ丁寧にレクチャーしてくれるので、それに従って屋根を葺いていきます。

屋根葺きの作業は、内側と外側で連携しながら行います。茅を一列並べたら、上から竹で押さえつけたうえで、縄を通してしっかりと結びつけます。茅の厚みがあるので、外側から長い針を突き刺して縄を通し、屋根裏にいる職人が受け取って固定します。作業を円滑に進めるにはチームワークが大切です。

再び外側に戻した縄を「男結び」という結び方でしっかり竹に結び、茅を固定します。強く結べるようになるには相当な練習が必要だとか。

茅を縄で屋根に固定したら、「たたき」というコテ状の道具で叩いて形を作ります。そして仕上げとして、刈り込み鋏を使って茅の表面を美しく整えたら完成です。

体験作業の終了後はみんなで記念撮影。ガイドブックの最後にこの写真を貼れるようになっていて、これが修了証になります。

茅は、ススキやアシ、スゲといった屋根を葺く草の総称で、これらで葺いた屋根は断熱性や通気性、吸音性などに優れているのが特長と言われています。夏は涼しく、冬は暖か。たとえ激しい雨に打たれていても静かで、茅葺き屋根の下の落ち着ける空間で過ごす1日は、まるで時間がゆっくりと流れているかのようです。そしてこの茅葺き屋根の下の暮らしを守り、支えてきたのは、古くから受け継がれた茅葺き職人の技です。「美山FUTON & Breakfast」をプロデュースするのは、関西圏を中心に茅葺き屋根の葺き替えや修繕などを手がける「屋根晴」。代表の西尾晴夫さんは大学の卒業間際に「茅葺き職人見習い」の募集記事を見て美山町に移住。その後国内外で修業を積み、2007年に独立しました。そんな西尾さんが2011年から宿泊事業を始めたのは、茅葺き家屋の魅力をもっと多くの人に伝えたいという思いから。実際、本館は西尾さんが家族で暮らしていた建物なのだそうです。日本の伝統建築工匠の技のひとつとして、2020年にユネスコの無形文化遺産に登録された茅葺き。茅葺きの宿に泊まり、茅葺き体験をすることで、その価値を実感してみてください。

美山FUTON & Breakfast 京都府南丹市美山町
公式サイトはこちら
外部リンク

本格的な日本酒造りを経験できる蔵人体験プログラム KURABITO STAY 長野県佐久市 本格的な日本酒造りを経験できる蔵人体験プログラム KURABITO STAY 長野県佐久市

“Kurabito Stay”

長野県の東の玄関口、佐久地方。周囲を浅間山や八ヶ岳、秩父山地などに囲まれた高原性の盆地は、佐久平(さくだいら)と呼ばれています。山々から流れ出る清涼な水は、佐久平の南北を貫いて流れる千曲川に乗って大地を潤し、昼夜の気温差が大きい内陸性気候と相まっておいしい高原野菜や果樹、そして米を育みます。このきれいな水とおいしい米を活かして、300年以上前から酒造りが行われてきた佐久には、古くから続く中小の13の酒蔵があります。1696年創業の「橘倉(きつくら)酒造」もそのひとつ。長野県産の米と蔵内で汲み上げた八ヶ岳系伏流水の井戸水を使い、自然の恵みを活かした酒造りを行っています。そんな酒蔵の敷地内にあるのが、“酒蔵ホテル”の「KURABITO STAY(クラビトステイ)」です。ホテルと言っても、一般的なホテルのように部屋と食事だけを提供するのではなく、酒造りを始めとした体験プログラムと1泊または2泊の宿泊がセットになっています。参加者は築100年以上の古民家を改装した酒蔵ホテルに泊まり、本格的な蔵人体験を味わうことができます。

橘倉酒造を含む、佐久13蔵の日本酒。13の蔵すべての若手蔵元たちが参加する「佐久若葉会」では毎年、酒の共同醸造を行うなど地域ぐるみで佐久の酒造りを盛り上げています。

KURABITO STAYの建物は、元は酒蔵で働く杜氏たちが寝泊まりする広敷と呼ばれる場でした。20年ほど前まで使用された後、倉庫となっていたのをホテルとして改装しています。趣のあるラウンジは酒蔵に直結していて、窓越しに蔵の様子を見ることができます。

ホテル内にはコイン式の酒サーバーがあり、佐久地域で醸造された日本酒を楽しむことができます。日本酒好きにはたまらない設備です。

Experience

蔵人体験の酒造りプログラム

精米した米の糠(ぬか)や米くずを洗い流す「洗米」の作業。その後に米を水に浸して水分を吸収させる「浸漬(しんせき)」の作業を行います。

蒸した米を、麹(こうじ)用、酒母(しゅぼ)用などそれぞれの用途に応じた適温まで冷ます「放冷」という作業を行います。

麹室(こうじむろ)という部屋で、麹用の米に麹菌を繁殖させる作業を行います。杜氏が種麹をふりかけた後、参加者全員が手で米を混ぜ合わせる作業を繰り返すことで、麹の「種付け」が完了。この麹造りは「製麹(せいきく)」とも呼ばれます。「一麹、二酛(もと)、三造り」という言葉があるぐらい、重要な工程です。1泊2日のプログラムでは、だいたいここまでの作業ができます。

2泊3日のプログラムでは、製麹の先の「酛立て(もとたて)」の作業ができます。水、麹、蒸し米、酵母をタンクに投入し、約2週間かけて酵母の増殖を促します。こうして酵母を大量に増殖させたものが酒母で、酛とも言います。また櫂棒を使って酒母や醪(もろみ)などを混ぜることを「櫂入れ(かいいれ)」と言います。

酒母を大きな仕込みタンクに移し、そこに水、蒸し米、麹を3回に分けて追加し麹を発酵させます(三段仕込み)。タイミングが合えば、この醪の作業ができることも。さらに醪を搾って清酒ができあがる作業(上槽)に立ち合えたり、そのできたての清酒のテイスティングができたりする場合もあります。

プログラムの最後にはクイズ形式の修了試験を行ったうえで、KURABITO STAYの蔵人の一員になった証として蔵人体験修了証が授与されます。

「観光向けのお試し体験ではなく、実際に販売する酒造りなので真剣です。初日はチェックイン後、オリエンテーションと夕食懇親会ですが、翌日は朝早くから夕方まで、休憩を挟みながら蔵人体験を堪能していただけます」と語る、KURABITO STAY代表の田澤麻里香さん。

この「KURABITO STAY」の蔵人体験は、農林水産省が2019年から毎年実施している「食かけるプライズ2020」で「食かける賞」を受賞しています。この表彰制度は、食と異分野を掛け合わせた日本の食・食文化を深く知ることができる多様な食体験を募集・表彰するもので、酒蔵ホテルに泊まりがけで日本酒づくりを実際に行うという点が評価されました。
蔵人体験のプログラムは、週末を中心に、基本的に11月から3月は2泊3日で日本酒の酒造り、4月から10月は1泊2日で甘酒造りなどの作業を行います。日本酒の酒造り体験では、蔵元の指導に沿って、洗米に始まり、蒸米に放冷、製麹、そして酛立てや櫂入れ、上槽に至るまで、酒造りのほぼすべての作業に携わるチャンスがあります。“チャンスがある”と記したのは、酒造りは微生物の働きに合わせて行われるため、工程が日によって大幅に変動するからです。おおよそ8割程度は予定通りの作業ができますが、残り2割はサプライズ。タイミングによっては予定以上の作業ができることも。「これまでに参加した方の多くが『ここまでやらせてもらえるとは』と驚かれます」と語る田澤さん。充実した楽しい時間が忘れられず、リピーターになる方も多いのだとか。「麹や発酵に関するセミナーなど、酒造り以外のプログラムも豊富です。雄大な自然によって育まれてきた佐久地域の日本酒文化・食文化にぜひ一度触れてみてください。」

KURABITO STAY 長野県佐久市
公式サイトはこちら
外部リンク

農泊に関する情報サイト
農泊ポータルサイト

農泊に取り組む地域と農泊を体験したいユーザーをつなぐ情報を集約した総合サイト。全国の農山漁村の宿泊施設や飲食施設、農業体験などの情報を網羅し、エリアやジャンルの他、フリーワードでも検索できます。また宿泊施設はオンライン予約も可能。農泊に関するニュースやコラムも充実しています。

公式サイトはこちら
外部リンク

今週のまとめ

古くから伝えられてきた
日本の伝統技術。
職人になりきって作業を体験すれば、
技の伝承の一端に
加われた気分が味わえます。

(PDF:17,636KB)

お問合せ先

大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。

Get Adobe Reader