“農泊”を楽しもう 農山漁村で過ごすひとときを 仕事や教育に活用する農泊
リモートワークが普及するなか、時間や場所にとらわれない働き方として注目されているのが、「ワーケーション(workcation)」。「work(仕事)」と「vacation(休暇)」を組み合わせた造語で、職場や自宅から離れた観光地やリゾート地などの旅先で、仕事をしながら休暇も楽しむという働き方のスタイルです。近年、このワーケーションの滞在先として地方の農山漁村を選ぶケースが増えており、また各自治体でも農山漁村をワーケーションの受入れ地域として盛り上げることで地域活性を図るケースも増えています。蔵王連峰の裾野に位置する、宮城県刈田郡蔵王町もそんな町のひとつ。蔵王農泊振興協議会では、別荘地「蔵王山水苑」を中心に、ワーケーションに適した1棟貸しの宿泊施設と、さまざまな体験プログラムを用意しています。
蔵王町遠刈田温泉にある蔵王山水苑の苑内を流れる松川にかかる橋からは、西に勇壮な蔵王連山を望むことができます。
苑内に立つ500軒以上の住宅のうち約7割が別荘ですが、そのうちの23軒が1棟貸し切りの別荘として提供されています。丘陵地の高台に立つ家や森の中に佇む家、2階建てに平屋、ログハウスなど、さまざまなタイプがあります。
ゆったりくつろげるリビングに薪ストーブ。書斎を備えた家もあります。またすべての家で温泉を楽しむことができます。温泉の露天風呂のほかに、沸かし湯の内風呂を備えた家もあります。
無線LANもすべての家に設置。ベランダやバルコニーで川のせせらぎや鳥の声をBGMに仕事をすれば、いつもとは違う開放的な雰囲気で能率もアップしそうです。ベランダにはリスが遊びに来ることも。
研修などグループで利用する場合に備えて、プロジェクターとスクリーンのレンタルも可能。
家族とワーケーション中、一人で仕事に集中したい時などは、車で約20分の東北新幹線白石蔵王駅前のシェアオフィス「道」が利用できます。
滞在中には、農泊ならではのさまざまな体験ができます。写真左は農作業体験、写真上はみやぎ蔵王の樹氷めぐり(12月下旬から3月中旬)、写真下は「みやぎ蔵王こけし館」での絵付け体験。体験プログラムはこの他にも陶芸、染物、着付けなど魅力的なコンテンツがそろっています。
1棟貸しの家には食事のサービスはなく、基本的に自炊か外食になります。蔵王山水苑に隣接する「ワイルド蔵王ビレッジ」に、スープカレーが人気の農家レストラン「蔵王わくわくファーム」やBBQ会場があります。BBQでは蔵王のブランド豚「JAPAN X」などの食材が用意されています。また10人以上で滞在する場合は数軒のコテージに分宿となりますが、派遣シェフを頼み苑内のパーティースペースでみんなで食事を楽しむこともできます。
ワーケーション目的での利用というと、時間に融通が利きやすい職業の方などを思い浮かべますが、蔵王山水苑の利用者には会社員の方も多いそうです。まとまった期間リモートワークできるが、自宅のリビングやダイニングなどでは仕事に集中しづらいという方は、環境が整ったリゾート地で仕事をする方が効率アップするかもしれません。またお子さんがいる家庭なら、夏休みや冬休みの時期に家族でワーケーションしてみるのはいかがでしょうか。蔵王町および近隣の市町村には、蔵王山水苑以外にも蔵王農泊振興協議会が管理する宿泊施設が多数あります。そしてアクティビティも含めた自然体験から伝統文化体験や農業体験まで、さまざまなプログラムが用意されています。
外部リンク
修学旅行や林間学校など教育旅行の受入れ先になることが多い農山漁村地域。豊かな自然や農林漁業に触れることは、こどもたちの生きる力を育む良いきっかけ。ふるさとのような雰囲気の中で、農林漁家の人や地域の住民と交流しながらさまざまな体験活動を行っていくことで、自然と人のつながり、人と人のつながりを実感でき、同時にその地域への理解や関心が深まります。教育旅行を積極的に受入れている農山漁村地域は全国にたくさんありますが、新潟県の上越市や十日町市には長年取り組んできた豊富な経験と実績から、宿泊や体験プログラムに協力する農家や宿泊施設が充実しています。上越市大島区田麦の「コメ農家+農家民宿 うしだ屋」もその1軒です。うしだ屋がある上越市東部から十日町市にかけての一帯は、なだらかな山々の間に集落が点在し、その周囲に棚田が広がる中山間地域。 “ふるさと”という言葉からイメージされるような、昔ながらの里山の暮らしが体験できます。
築100年以上の伝統的な農家住宅を改装したうしだ屋は、最大定員6名の小さな宿。周辺は、山里や棚田が続く東頸城(ひがしくびき)丘陵地帯にある50軒ほどの集落です。
春の棚田。雪解け後、まだ稲が育つ前の棚田は、水が光を反射して鏡のように美しく輝きます。
雪が解けると、地面から一斉に植物の芽が顔を出します。田んぼのまわりでもこごみの元気な新芽が。農作業のついでにこうした山菜をとって帰ることも。
5月に入ると田植えが始まります。うしだ屋の田んぼでは、コシヒカリと餅米のこがねもちを植えています。田植えや稲刈りなどの農作業イベントは、事前に日程などを決めたうえで、ホームページやSNSでお知らせしています。
新緑のブナ林。宿から歩いて10分ほどのところにあるこの「田麦ぶなの森園」は、棚田の水源です。約90ヘクタールの園内では自然観察の他、キャンプを楽しむこともできます。
宿の玄関前には小さな池があり、カエルやエビ、水棲昆虫などを観察できます。生きもの好きなこどもなら、いつまでも飽きずに眺めていられます。また初夏の夜の棚田では、無数のホタルが飛び交う光景を見ることができます。
空気が澄み、灯りも少ない山の中だけに、晴れた日の夜には宿から一歩外に出るだけで満天の星々を見ることができます。あまりの星の多さに、大人もこどもも言葉を失ってしまうほど。
自然のなかでの新しい体験を通じて成長していくこどもたち。そのようすを間近で感じることができます。
秋になると、周囲の木々は赤や黄色に色づき始めます。茅葺き屋根の民家が残る集落の風情は、どこか懐かしさを感じさせてくれます。
9月中旬頃になると、稲刈りが始まります。うしだ屋は農繁期のピークには営業をストップしますが、田植え同様に日時を決めて体験イベントを行っています。
上越市大島区には27の集落があり、4つの地区に分けられています。うしだ屋がある田麦を含む4つの集落がある旭地区(旧東頸城郡旭村)では、秋に合同で五穀豊穣を願うお祭りを開催し、神輿の渡御(とぎょ)を行います。
うしだ屋のある一帯は、豪雪地帯で知られる地域。冬になると大人の背丈を優に超える高さまで雪が積もります。
雪が残る3月頃までは、スノーシューを使った雪上トレッキングやそり遊び、かまくら作りなどのアクティビティを楽しめます。
毎年小正月の1月15日前後の日曜日に各地で催される「賽(さい)の神祭り」。みんなで持ち寄った藁で作った賽の神に年男と年女が火をつけ、豊穣や無病息災を祈ります。
主に冬の間は、笹団子作り、藁細工、味噌作りなどの伝統文化を体験できます。2月から3月にかけて行う味噌作りでは、作った味噌は持ち帰り可能。9カ月ほど寝かせて熟成し、秋の新米の時期に食べ頃を迎えます。
うしだ屋のオーナーをつとめる、牛田光則さん(右)と牛田詩歩さん(左)ご夫妻。旅好きが高じて宿泊・サービス業に携わる中で、いつか自分の宿を持ちたいと考えていた光則さんと、学生時代の援農体験を機に農家を志してきた詩歩さんの夢が一体となって、2017年に「コメ農家+農家民宿うしだ屋」がオープンしました。
「こどもたちに人気なのは、生きものとのふれあいの体験ですね」と語る、光則さん。「生きものに慣れていない子も、最初はおっかなびっくりという感じですが、じっくり観察しているうちに『よくわからなくてこわい』ものでなくなっていきます」。牛田さんにガイドを頼めば、昆虫に限らず里山の動植物について解説してくれます。一方、大人に人気なのはモノ作りに関する体験。「冬から田植えの時期ぐらいまでは、アクティビティの他に、私たちの暮らしの一部を一緒に体験してもらうようなプログラムを多めに用意しています」。新緑が美しい春からホタルが舞う夏に稲穂が揺れる秋、そして雪に覆われる冬まで、新潟県は四季折々の表情が豊かです。「リピートされるお客さまも多いですが、季節を変えていらっしゃると、同じ場所とは思えないと驚かれます」。また約200枚の水田が斜面に広がる星峠の棚田(上写真)や、3年ごとに開催される野外アート展「大地の芸術祭」など、お隣の十日町地域の人気スポットやイベントへのアクセスもよく、いつ訪れても新しい発見や楽しみがあります。親子で一緒にさまざまな体験をすることで、こどもの確かな成長を実感することができるでしょう。
教育旅行・団体旅行を受入れてきた 「越後田舎体験」事業
上越市と十日町市では、行政と観光施設と地域住民が連携してこどもたちの体験旅行の受入れを行っています。受入れには24年の経験があり、学校団体を中心に年間30団体から40団体の受入れ実績があります。これまで宿泊に関しては民泊を中心にしてきましたが、近年は農家の高齢化や新型コロナウイルス感染症の影響もあり、宿泊場所を別で用意しつつ、各農家では「探究学習プログラム」を体験してもらう、といった形で対応しています。
外部リンク
農泊に関する情報サイト
子供の農山漁村体験
支援サイト
ふるさとホームステイ
豊かな自然環境がある農山漁村の地域で生活している家庭にこどもがホームステイし、家族の一員として交流や生活体験をするのが「ふるさとホームステイ」。このサイトでは、ホームステイの受入れ先を全国から検索できます。また農業体験や林業体験、動物・昆虫体験といったオプション体験から探すことも可能です。
外部リンク
今週のまとめ
農山漁村地域の自然豊かで
落ち着いた環境や
そこで得た体験は、
仕事の効率を向上させてくれたり、
こどもの成長を育むことにも
つながります。
お問合せ先
大臣官房広報評価課広報室
代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449