
2026年9月号
ジビエの
新しい価値
体験してこそわかる!
旅して楽しむジビエ
レストランで食べるだけでなく、現地で楽しむイベントや体験アクティビティも人気になりつつあります。
全国に広がる、旅して楽しむ「ジビエツーリズム」の魅力を紹介します。
近年、ジビエについて学んだり、体験したりできる施設やツアーが全国で増えており、ジビエへの認知度や理解の広がりを後押ししています。
狩猟体験や解体見学、ジビエ料理を味わうツアーなど、現地に足を運んで楽しむジビエツーリズムが注目を集めています。中には、自分たちで実際に野生鳥獣を解体するなど、日常では体験できないような貴重な経験ができるものもあります。
また、単にジビエを食べるだけでなく、野生鳥獣による地域への被害の実態や"命をいただく"ことの意味について、体験を通じて自分ごととして理解し、考えてもらうきっかけにしてもらうことを目的とするプログラムも少なくありません。野生鳥獣の捕獲に漠然とした不安や抵抗感を持つ人もいるかもしれませんが、実際に体験して正しい知識を得ることで、ジビエや野生鳥獣の捕獲への理解も深めることができます。それは持続可能な農業や環境保全を考えるきっかけにもなっていくはずです。
道の駅に隣接。気軽にジビエ体験を
山梨県富士吉田市の道の駅・富士吉田に隣接するのが、富士山ジビエセンターDEAR DEER(ディアディア)。2024年のオープン以来、年間3万人ほどが訪れています。富士山の麓にあるこの地域では、シカによる食害が年々深刻化。ハンターの高齢化や減少も課題となる中、クラウドファンディングで資金を集め、ジビエ処理加工施設としてオープンしました。
ここには、全国的に見ても珍しい特徴が揃っています。まずは道の駅に隣接する便利な立地。「全国にジビエ処理加工施設は800以上ありますが、多くの施設は人目のつきにくい場所に設置されていると思います。日常的にジビエを知ってもらうには人が集まる場所にあることが重要と考えました」と、施設を運営する(株)ふじよしだまちづくり公社の水越欣一さんは語ります。二次加工設備のほか飲食物も楽しめるショップを併設しているのもポイントで、注文を受けてからパテを焼き上げる「鹿肉ハンバーガー」はDEAR DEERの大人気商品です。
ジビエの意義を正しく知ってもらう場に
DEAR DEERは、「多くの人にジビエを正しく知ってもらいたい」という思いから、教育施設の役割も担っています。屋外の壁面展示、解体や加工が見学できる学習会や研修会の他、2026年7月から団体向けの「キッズプログラム」もスタート。トヨタ自動車(株)の社会貢献活動「ソーシャルフェス」や職業体験型テーマパーク「キッザニア」と連携したプログラムなども実施してきました。富士山ジビエセンター長で現役ハンターの古屋明広さんは、「ハンターとして捕獲した個体の命を無駄にせず活用できるのが、何よりもうれしいです」と語ります。美術館のようなデザイン性の高い建物は、訪れやすくするための仕掛けのひとつ。この中で解体や加工の様子をガラス越しに見学し、"命をいただく尊さ"を体感することができます。今後は捕獲した個体の全頭買い取りや若手ハンターの育成にも力を入れ、全国のモデルとなるのが目標です。
富士山ジビエセンター DEAR DEER
URL https://mtfuji-deardeer.com/[外部リンク]
撮影=田子芙蓉
ジビエ体験の中でも人気を呼んでいるのが、野生鳥獣の狩猟とジビエ加工が体験できるツアーです。先駆的な岩手県大槌(おおつち)町での取り組みの背景とその意義を伝えます。
岩手県大槌町でも、シカやイノシシによる鳥獣被害は地域の大きな課題となっています。三陸海岸に面した大槌町の森はミズナラやクリなど木の実が豊富で、ここで育つシカは大型化する可能性が高くなります。それが、農業被害増大の一因になっているのです。この課題を町の財産に変えようと2017年に始まったのが、有志による大槌ジビエ勉強会でした。40回を超える議論を重ね、行政と民間が連携した「大槌ジビエソーシャルプロジェクト」が誕生。この取り組みは、2021年度、第5回ジャパンSDGsアワード特別賞を受賞するなど、小規模自治体のロールモデルとしても高く評価されています。2021年からは、狩猟や解体を体験できる「大槌ジビエツーリズム」も本格始動。食肉加工を担うMOMIJI(株)とNPO法人おおつちのあそびが共催し、参加者に現地でのリアルな体験をしてもらうことで、鳥獣被害への理解を広げることを目指しています。
「大槌ジビエサイクル」が生む地域の好循環
大槌ジビエソーシャルプロジェクトの取り組みの基盤となる考え方が、「大槌ジビエサイクル」です。シカを捕獲するハンターから、食肉は処理加工を担うMOMIJI(株)へ、革や角はクラフト作家へと橋渡しする仕組みです。ここから生まれた商品や作品は、大槌町のストーリーとともに通販サイトなどで消費者のもとに届けられます。さらにスタート直後から人気を呼んでいる大槌ジビエツーリズムでは、狩猟同行ツアーに年間約300人が参加。全国から大槌町へ観光客が訪れることで、宿泊施設や飲食店など地域全体に経済的メリットをもたらしています。他にも若手ハンターの育成、地域と都市部の交流が増えて関係人口も増加するといった好循環も生まれつつあります。こうした先行事例に学ぼうと、視察に訪れる自治体や企業も少なくありません。
リピーター続出。命に向き合う狩猟体験
大槌ジビエツーリズムは、ベテランハンターに同行する「狩猟同行」、シカ1頭をさばく「解体体験&ジビエBBQ」、若手ハンターとの「プチ狩猟体験」など、多彩なプログラムが揃っています。都会から非日常を求めて参加する人の他、(株)雨風太陽が主催する親子地方留学プログラムとも提携して子どもたちも多数参加。リピート率も高く、体験者の3分の1にものぼります。「狩猟同行では、なぜシカを狩るのかを最初に丁寧に説明し、食害の実態や狩猟の意義、命への感謝を共有してから猟場へ行きます。参加した子どもたちから手紙をもらうことも多く、家に帰ってからも『(命を)いただきます』を大事にしていると言ってくれるのが、うれしいですね」と、大槌ジビエツーリズムのハンター兼澤(かねさわ)幸男さんは顔をほころばせます。
大槌ジビエツーリズムURL
https://otsuchinoasobi.com/program#gibier
[外部リンク]
大槌ジビエツーリズムには、"旅"と"学び"を掛け合わせた親子向けプログラムもあります。夏休みに実施された「ポケマルおやこ地方留学」に密着。岩手プログラムの中の、イチ押し企画「ハンターさんと鹿猟同行体験」をレポートします。
7月31日、日の出前の岩手県大槌町。早朝にスタートした狩猟同行は、私たちが何気なく行っている「食べる」の裏側にある"いのち"を考えるという、かけがえのない6時間半でした。現役ハンターに同行する狩猟体験ツアーは、単にシカを狩るだけではなく、地域が抱える現状を知ることで「狩る」意味も考えることのできる貴重な体験です。その一部始終をお届けします。
MOMIJI(株)は、「捕獲」「処理・加工」を行う大槌ジビエサイクルのスタート地点。
まずは、ハンターの兼澤幸男さんと俵航海大(たわらこうだい)さんから、シカ被害の現状と捕獲狩猟の意味を学ぶ。この日は小学生4人と、付き添いの親2名+密着取材者1名の、計7名が参加!狩猟中の注意も教わる。
狩猟前は、必ず神社で「これから命をいただきに山に入ります」と神様にお伝えし、無事も祈願する。「あそこにシカの群れがいるぞ」とハンター兼澤さんが指さす方向には、10頭近くのシカの群れが走っていた。
「パーン!」と大きな銃声が響く。仕留めたのは、比較的大きな雄ジカ。ただちに放血を行う。倒れたシカをジッと見つめて何を思うのか…。
ハンターの俵さんに、シカを狩る意味と、狩った命を無駄にしない大切さを改めて教わる。みんな真剣に聞いている。
「ヨイショ、ヨイショ」。90キログラム超のシカをみんなで力を合わせて運ぶ。大人の力が欠かせない…。
トラックに乗せ、みんなでシカに氷をかけて冷却。1時間以内に施設に運び、素早く処理・加工することで新鮮かつ上質なシカ肉になるそう。狩猟後、神社で捕獲の報告と感謝を伝えて、山を下りる。
処理加工施設に到着。シカを吊るし、体表を洗浄した後、皮を剥ぎ、丁寧に解体される。
皮はぎを体験!力を入れて一気に引っ張って剥がす。「雄ジカは脂のりがいい。脂も無駄にせず、利用するよ」と俵さん。
取り出した心臓を手にして、命の重さを実感。自然と"感謝"の気持ちに変わる。
重さを体感した新鮮な心臓は、すぐに焼いて提供される。「いただきます」の意味は、命をいただくこと。目の前の料理が、もとはどんな姿をしていて、どう命を奪われたのかを知ることで、食べものにも、命にも心から感謝できるのだと教わる。
体験の振り返りを経て、6時間半の狩猟同行体験終了!「食べる」と「命」はつながっている。体験してこそわかる命の大切さ。貴重かつ充実のツアーだった。
撮影=KEN
イラストレーション=ヤマトアノン
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