1 健康寿命の延伸につながる食育の推進
厚生労働省では、平成25(2013)年度から開始した国民健康づくり運動である「健康日本21(第二次)」において、健康寿命の延伸と健康格差の縮小の実現を目指し、主要な生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底に関する項目や、栄養・食生活、身体活動・運動等に関する53項目の目標を設定しています。例えば、適正体重を維持している人を増加させるため、肥満及び20歳代女性のやせの人の割合を減らすという目標を設定しています。また、成人だけでなく子供においても偏った栄養摂取や不規則な食事等の食生活の乱れによる肥満や痩身の傾向が見られることから、肥満傾向にある子供の割合の減少についての目標も設定しています。さらに、野菜と果物の摂取量の増加については、野菜摂取量の平均値を350g以上にすることや、果物摂取量100g未満の人の割合を30%以下にすることを目指しています。こうした目標も勘案し、都道府県や市区町村においては、健康増進計画を策定し、計画に基づき様々な健康づくりに関する取組を実施しており、管理栄養士等による栄養指導や運動指導が行われています。
また、目標の達成に向けて、主要な項目については継続的に数値の推移等の調査や分析を行い、都道府県における健康状態や生活習慣の状況の差の把握に努める必要があることから、平成26(2014)年度から「健康日本21(第二次)分析評価事業」を行っており、「健康日本21(第二次)」の目標項目について、現状値を更新するとともに「健康日本21(第二次)」の目標設定等に用いられている「国民健康・栄養調査」における主要なデータの経年変化と諸外国との比較に関する分析を行っています。分析等の結果については、厚生労働省及び本事業の委託先である国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所国立健康・栄養研究所のウェブサイトに掲載しています。

「スマート・ライフ・プロジェクト」
ロゴマーク
「健康日本21(第二次)」の運動を更に普及、発展させるため、健康寿命の延伸に向けて、企業・団体・地方公共団体と協力・連携した取組として「スマート・ライフ・プロジェクト」を推進しています。毎年9月に展開している食生活改善普及運動では「食事をおいしく、バランスよく」を基本テーマに、主食・主菜・副菜をそろえた食事、野菜と果物の摂取量の増加、食塩摂取量の減少及び牛乳乳製品の摂取習慣の定着に向けた取組を実施しています。また、食生活改善の重要性を普及啓発することに焦点を当てた普及啓発ツールを、「スマート・ライフ・プロジェクト」のウェブサイトに掲載し、地方公共団体等とともに普及啓発ツールを用いた食生活の改善に関する取組を行いました。
「健康日本21(第二次)」の計画期間は令和5(2023)年度末までとなっており、約10年間の取組の評価を行い、令和4(2022)年10月に最終評価報告書を取りまとめました。また、最終評価を踏まえ、令和6(2024)年度から開始する「健康日本21(第三次)」を令和5(2023)年5月に公表しました。

食生活改善普及運動 普及啓発ツール

健康日本21分析評価事業
(国立研究開発法人医薬基盤・健康・
栄養研究所国立健康・栄養研究所)
URL:https://www.nibiohn.go.jp/eiken/
kenkounippon21/index.html(外部リンク)

食生活改善普及運動(厚生労働省)
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/
bunya/0000089299_00003.html(外部リンク)
近年、活力ある「人生100年時代」の実現に向けて、健康寿命の更なる延伸が課題となっている中、健康への関心が薄い層も含めて自然に健康になれる食環境づくりの推進が急務となっています。厚生労働省では、自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた産学官等連携の在り方について検討するため、「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりの推進に向けた検討会」を開催し、令和3(2021)年6月に報告書を取りまとめました。そして、同報告書及び「東京栄養サミット2021」における日本政府のコミットメント(今後実施する政策等に関する誓約)を踏まえ、令和4(2022)年3月に産学官等連携による食環境づくりの推進体制として、「健康的で持続可能な食環境づくりのための戦略的イニシアチブ(以下「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」という。)」を立ち上げました。健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブでは、「食塩の過剰摂取」、「若年女性のやせ」、「経済格差に伴う栄養格差」等の栄養課題等の解決に向けた参画事業者の行動目標の設定及び遂行について、事業者の環境・社会・企業統治(ESG(*1))評価向上の視点も踏まえた支援を行いながら、食環境づくりを推進しています。こうした活動により、食環境づくりが効果的に進み、国民の健康寿命の延伸を通じて、活力ある持続可能な社会の構築につながることを目指しています。また、この健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブを通じた産学官等連携による食環境づくりの取組は、令和5(2023)年9月に、世界保健機関(WHO(*2))の非感染性疾患等の予防・管理のためのマルチセクトラル・アクションに関する各国事例の報告書に掲載されました。
*1 Environmental, Social and Governanceの略
*2 World Health Organizationの略

「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」が目指す世界
日本人の野菜、果実の消費量は減少傾向にあります(図表2-3-1)。
第4次基本計画では、健康寿命の延伸を目指す「健康日本21(第二次)」の趣旨を踏まえ、令和7(2025)年度までに、1日当たりの野菜摂取量の平均値を350g以上、果物摂取量(*3)100g未満の者の割合を30%以下とすることを新たに目標として設定しました。「令和元年国民健康・栄養調査」によると、1人1日当たりの野菜類摂取量の平均値は280.5g、果実類摂取量の平均値は100.2gとなっています(図表2-3-2、2-3-3)。また、果物摂取量100g未満の者の割合は61.6%です。
野菜の摂取量を年齢階級別にみると、特に20~40歳代で少ないことが摂取量の平均値を下げている原因と考えられます。同調査によると外食を週に1回以上利用している者の割合は、20~30歳代では5割を超えており、その世代の野菜類摂取量が少ないことの理由の一つと考えられます(*4)。また、日頃の食生活において、自分自身が摂取している野菜の量や不足している野菜の量を正しく把握できていないことも理由の一つと考えられます。
*3 果実類のうちジャムを除く摂取量
*4 「平成27年国民健康・栄養調査」において、外食を毎日1回以上利用している者はそれ以外の者に比べ、野菜類の摂取量が少ないという結果が得られている。
農林水産省では、令和2(2020)年12月から、1日当たりの野菜摂取量の平均値を350gに近づけることを目的として、「野菜を食べようプロジェクト」を実施しており、本目的に賛同する企業・団体等の「野菜サポーター」とともに野菜の消費拡大に取り組んでいます。
令和5(2023)年度には、農林水産省や「野菜サポーター」が、「野菜を食べようプロジェクト」のロゴマークやポスターを活用し、野菜の消費拡大に資する様々な啓発活動に取り組みました。また、「野菜の日(8月31日)」には、ユネスコ無形文化遺産「和食;日本人の伝統的な食文化」が令和5(2023)年12月に登録から10周年を迎えることを踏まえ、和食の一つである「漬物」をテーマに取り上げ、「漬物から野菜の消費拡大を考える」と題するウェブシンポジウムを開催しました。シンポジウムでは、最新のデータに基づいた漬物の特徴等に関する基調講演を行うとともに、時代に合った漬物の生産や、食生活の中での新たな取り入れ方等について、登壇者によるパネルディスカッションを行い、参加者は漬物と野菜消費の重要性等について理解を深めました。そのほか、令和4(2022)年度に引き続き、「野菜の日(8月31日)」の特別企画として、日頃の野菜摂取状況が把握できる測定機器を農林水産省内に設置し、職員及び来庁者に対して日頃の食生活に適量の野菜を取り入れることが習慣となるような機会を作りました。

「野菜を食べようプロジェクト」(農林水産省)
URL:https://www.maff.go.jp/j/
seisan/ryutu/yasai/2ibent.html

「野菜の日(8月31日)」ウェブシンポジウム(農林水産省)
URL:https://www.maff.go.jp/j/
seisan/ryutu/yasai/2ibent.html#3

「野菜を食べようプロジェクト」ポスター
(令和4(2022)年度農産局長賞)

「1日350g」と目安を表した「野菜を食べよう
プロジェクト」ロゴマーク
果実の摂取量を年齢階級別にみると、特に20~50歳代で少ないことが摂取量の平均値を下げている原因と考えられます。近年、国産果実の高品質化、生産量の減少等により価格が高値傾向にあることや、皮むきや切る手間が敬遠されること等が主な理由として考えられます。果実は、どの年代も生鮮果実の摂取が中心であり、高年齢層ほどその特徴が顕著です。一方、若い年齢層では、摂取しやすいカットフルーツ等の果実加工品も好まれています。20~50歳代の果実摂取量の増加に向けた取組として、農林水産省では、外食やコンビニエンスストアで扱いやすい果実加工品の安定供給に向け、省力型栽培技術体系の導入等による加工用の原料果実の安定供給や果実加工品の試作等の取組を推進しています。
また、果実は各種ビタミン、ミネラル及び食物繊維の摂取源として重要な食品であることから、「果樹農業の振興を図るための基本方針(*5)」(令和2(2020)年4月30日農林水産省決定)に基づき、日常的な果実摂取が生涯にわたる食習慣として定着するよう、消費拡大の取組を推進しています。具体的には、生産者団体等と協力し「毎日くだもの200グラム運動」による家庭や学校給食等における果実の摂取を促進するほか、健康の維持・増進に役立つ機能性関与成分も含まれているといった健康への有益性の周知、社会人(企業)を対象とした普及啓発(「デスクdeみかん」等)に取り組んでいます。そのほか、令和5(2023)年度には、特に若い世代の果物の消費拡大を図るため、年間を通して販売されている「りんご」を使った「カフェメニューコンテスト」を実施しました。広く一般からカフェ等で提供することを想定したレシピを募集し、一次審査を通過した90品の中から、カフェ等を営業する外食事業者により、自社のメニューとして採用したい特に優れたレシピとして4品が選ばれ、実際のメニューとして市販化されました。
*5 果樹農業の振興に関する基本的な事項等に関する基本方針であり、食育等の消費拡大に向けた対策の推進が挙げられている。
コラム:「健康日本21(第三次)」について
○「健康日本21(第三次)」の策定
「二十一世紀における第三次国民健康づくり運動(健康日本21(第三次))」は、全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現に向けて令和6(2024)年度から開始する12年間の計画であり、この計画を推進するために令和5(2023)年5月に「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」が厚生労働大臣によって告示されました。
人生100年時代を迎え、社会が多様化する中で、各人の健康課題も多様化しており、それぞれの健康課題に寄り添いつつ、誰一人取り残さず、より実効性のある取組を進めていくことが、国民の健康づくりにおいて求められています。そのため、健康日本21(第三次)では、「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」のため、健康寿命の延伸を引き続き最終的な目標として、「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」、「個人の行動と健康状態の改善」、「社会環境の質の向上」、「ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり」の4つの基本的な方向で運動を進めることとしています。
○栄養・食生活に関連する目標設定
栄養・食生活は、生命の維持に加え、子供たちが健やかに成長し、また人々が健康で幸福な生活を送るために欠くことのできない営みです。また、多くの生活習慣病の予防・重症化予防のほか、やせや低栄養等の予防を通じた生活機能の維持・向上の観点からも重要です。さらに、個人の行動と健康状態の改善を促すための適切な栄養・食生活やそのための食環境の改善を進めていくことも重要であり、健康日本21(第三次)における栄養・食生活領域では、健康・栄養状態レベルとして「適正体重を維持している者の増加」、適切な量と質の食事を摂取する観点で、食事レベルとして「バランスの良い食事を摂っている者の増加」、食品レベルとして「野菜摂取量の増加」、「果物摂取量の改善」、栄養素レベルとして「食塩摂取量の減少」について目標設定を行いました。
また、こうした個人の行動と健康状態の改善を社会環境の質の向上によって促すために、社会とのつながり・こころの健康の維持及び向上として「地域等で共食している者の増加」、自然に健康になれる環境づくりとして「「健康的で持続可能な食環境づくりのための戦略的イニシアチブ」の推進」、誰もがアクセスできる健康増進のための基盤の整備として「利用者に応じた食事提供をしている特定給食施設の増加」を掲げており、栄養・食生活領域と連動させながら、取組を進めることとしています。
○多分野との連携
今後は、誰一人取り残さない健康づくりを効果的に展開するため、これまで以上に国、都道府県、市区町村、保険者、産業界、学術機関等の関係者が連携して、健康づくりに向けた対策を充実・強化していくことが重要です。


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