第3節 地域の多様な食文化の継承につながる食育の推進
(1)「和食」の保護と次世代への継承のための産学官一体となった取組
平成25(2013)年に、「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを契機として、海外の日本食レストランがこの10年間で約3.4倍の約18万7千店(外務省調べに基づき、農林水産省において集計)に増加しました。また、訪日外国人が訪日前に期待していたこととして「日本食を食べること」が最も多くなるなど(*1)、海外における日本食への関心が高まっています。一方、我が国では、食の多様化や家庭環境の変化等を背景に、和食や地域の食文化を受け継ぎ、伝えることが困難になりつつあります。
令和5(2023)年12月4日には、「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されてから10周年を迎えました。農林水産省では、10周年に向け、機運を醸成するため、全国3か所で和食文化を普及するイベントを開催しました(コラム「和食文化の保護と継承のための取組」参照)。また、「和食文化の魅力」を若い世代や子育て世代等に発信するキャンペーン「行くぜっ!にっぽんの和食」を企業・団体と協力して実施するなど、和食に対する興味や関心を高める取組を行いました。
文化庁においては、国の登録無形文化財である「菓銘(かめい)をもつ生菓子(なまがし)」や「京料理」、「伝統的酒造り」を活用したセミナーやイベント等を行うことで、和食がユネスコ無形文化遺産に登録された経緯や食文化の価値を多くの方々に知ってもらい、食文化振興の機運を高めました。
このほか、農林水産省ではこれまでに引き続き、地域の食文化を保護・継承していくため、47都道府県の郷土料理の歴史・由来、関連行事、使用食材、レシピ等をデータベース化したウェブサイト「うちの郷土料理」を基に海外向けに翻訳したウェブサイト「Our Regional Cuisines」、全国に存在する伝統的な加工食品(伝統食)をデータベース化したウェブサイト「にっぽん伝統食図鑑」において、国内外に向けた情報発信を行っています。また、次世代を担う子供たちに和食文化を伝えていくための取組を行っています。具体的には、子供たちや子育て世代に対して和食文化の普及活動を行う中核的な人材(和食文化継承リーダー)を育成するため、栄養教諭・栄養士・保育士等を対象とした研修会を開催しています。さらに、文部科学省やユネスコスクール(*2)の加盟校等と連携して、発達段階に応じて和食文化の全体像が学べる小学生向けの学習教材等を利用したモデル授業を7校で行いました。
「地域の和食文化ネットワーク」において、和食文化に関連したセミナーや勉強会等のイベントの開催情報、活動に使える予算(活動費)等の情報を定期的に発信しています。
また、砂糖の消費量が減少している中で、砂糖に関する正しい知識や砂糖・甘味に由来する食文化の魅力等について広く情報発信する「「ありが糖運動」~大切な人への「ありがとう」をスイーツで~」を展開しています。令和2(2020)年4月に「ありが糖運動」ロゴマークを制定したほか、「ありが糖運動」公式SNS(Facebook及びX(旧Twitter))も開設し、砂糖に関する情報発信を継続・強化しています。
文化庁では、文化審議会食文化ワーキンググループの報告書に基づき、「文化財保護法」(昭和25年法律第214号)に基づく文化財の登録等を推進するとともに、特色ある食文化の継承・振興に取り組む地方公共団体等に対して、調査研究や地域での保護継承、文化的価値を分かりやすく伝える「食文化ストーリー」の構築・発信等を行うモデル事例の形成を支援しています。事業に採択された団体においては、地域の食文化の文化財としての登録等に向けた調査研究や市民講座、シンポジウムの開催、SNSや映像コンテンツを活用した発信等の取組を行っています。
また、我が国の多様な食文化の継承・振興への機運を醸成するため、「100年フード」及び「食文化ミュージアム」の取組を実施しています。「100年フード」は、地域で世代を超えて受け継がれてきた食文化を、文化庁とともに継承していくことを目指す取組です。「食文化ミュージアム」は、食文化への学びや体験の提供に取り組む博物館、道の駅、食の体験・情報発信施設等に関する情報を一体的に発信する取組です。令和6(2024)年3月には「第二回100年フードサミット」を開催し、地域の食文化の継承と、その魅力を発信する取組について、パネルディスカッション等を行いました。
和食文化の保護・継承に取り組む一般社団法人和食文化国民会議(以下「和食会議」という。)は、講演会の開催のほか、平成27(2015)年から、「和食の日(11月24日)」の前後には、全国の小・中学校、保育所等を対象として和食給食の提供や和食文化に関する授業を行う「だしで味わう和食の日」の取組を実施しています。さらに、小・中学校、保育所等で、和食に関するチラシやポスターを配布したり、和食やだしに関する出前授業を行ったりしました。
また、「五節供(ごせっく)(*3)」にちなんだ和食を推進する取組の一つとして令和3(2021)年7月に和食会議のウェブサイト「くらしの歳時記」を、令和4(2022)年7月からは「「和食」のつぼ」を開設し和食文化にまつわる情報を発信しています。令和5(2023)年12月4日には和食のユネスコ無形文化遺産登録10周年記念イベントとして、「「1204和食セッション」~次世代に繋ぐ和食の集い~」を開催し、健康寿命延伸への貢献と、体験を通じた知恵と工夫の再発見という視点から「和食」の価値・魅力を伝えるなど、「和食」の保護・継承活動を行っています。
今後も、産学官が一体となって和食文化の保護・継承の取組を推進するとともに、地域活性化につなげていくことが重要です。
*1 観光庁「訪日外国人消費動向調査2022年年次報告書」
*2 ユネスコ憲章に示されたユネスコの理念を実現するため、平和や国際的な連携を実践する学校
*3 「人日(じんじつ)の節供(1月7日)」、「上巳(じょうし)の節供(3月3日)」、「端午(たんご)の節供(5月5日)」、「七夕(しちせき)の節供(7月7日)」及び「重陽(ちょうよう)の節供(9月9日)」のこと。合わせて「五節供(ごせっく)」とされる。節供は、節日に旬の食材でご馳走を作り、神さまにお供えした上で皆と分け合っていただくことで、家族や友人の無病息災を願うことから、「節句」ではなく、本来の意味を伝える「節供」で表現。一般社団法人和食文化国民会議ウェブサイト参照:https://gosekku-washoku.jp/about/(外部リンク)

和食会議ウェブサイト
(一般社団法人和食文化国民会議)
URL:https://washokujapan.jp/(外部リンク)
コラム:和食文化の保護と継承のための取組
「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されてから、令和5(2023)年12月4日に10周年を迎えました。農林水産省は、日本の伝統的な食文化を守り、和食文化を未来に伝えるため、令和5(2023)年9月30日に大阪会場、10月12日に仙台会場、10月23日に福岡会場の3会場で和食文化を普及するためのイベントを開催しました。本イベントは会場ごとにテーマを設定し、料理人による基調講演、パネルディスカッションを行いました。
大阪会場では「つなげよう、ひろげよう、和食の“わ”」、「伝え継ぎたい、家庭の和食文化」をテーマとした基調講演やパネルディスカッションのほかに、親子を対象として、料理人による調理の実演、料理の体験を実施しました。仙台会場では「世界に誇る和食文化の魅力」、「健康的な食生活を支える、和食のチカラ」をテーマに、海外からも人気が高まっている和食文化の魅力について、精神面、健康面での影響について紹介しました。福岡会場では「サステナブルな和食」、「地域の多様な和食文化を未来に残すために」をテーマに、和食とサステナブルの関係について、目に見える料理だけでなく、その背景にある水産資源や漁業の話も踏まえ、地域で実践されている事例等を紹介しました。
今後も、和食文化が着実に次世代へ継承されるよう、和食文化の保護・継承活動を推進していきます。
事例:だしでこんなに美味しくなる!~だしの役割、取り方を学ぶ~
千葉(ちば)市立作新(さくしん)小学校(千葉県)
小学校学習指導要領解説の家庭編においては、「和食の基本となるだしの役割についても触れること。」とされていますが、だし単体を授業で扱う学校は多くありません。そうした中、千葉市にある作新小学校では、調理実習を行う5年生の家庭科の時間において、だしについての授業を行っています。
授業では、子供たちにだしとは何か、また、そもそもおいしさをどこで感じるのかについて問いかけ、活発な議論が行われます。その後、市販の顆粒だしを湯に溶かしただしと、昆布とかつお節の合わせだしの2種類を、正体を伏せたまま飲み比べます。ここでまず、だしの味や香りの違い、また、それぞれのだしの特徴を感じ、和食の根幹として重要な役割を果たすだしについて、ダイレクトに体感してもらっています。
その後、実際に1人1人煮干しでだしを取り、実なしの味噌(みそ)汁を作って試飲します。さらに、湯にただ味噌を溶いたものとも飲み比べさせると、中には「だしがあるのとないのとでは全然味が違った。」といった感想を持つ子供もいます。また、普段は魚が苦手という子供も、だしの大きな効果を実際に体験でき、その重要性を感じることができる貴重な機会となっています。
今後は、子供たちが自ら考案した味噌汁のメニューを実際に作るといった授業を予定しており、だしを始めとする和食の基本となる要素について、子供たちに伝えていく授業を充実させていきます。
(2)地域の食文化の魅力を再発見する取組
四季折々の食材に恵まれた日本は、長い年月をかけて地域の伝統的な行事や作法と結び付いた食文化を形成してきました。
一方で、食生活の多様化に伴い、地域の郷土料理や伝統料理等の食文化が次世代に十分に継承されない傾向も見られます。地域の食文化を継承していくためには、伝統的な郷土料理や食文化を支えてきた地域の食材等の特徴を理解し、伝えていくことが大切です。
家庭での継承が難しくなっている近年の状況を踏まえ、地域において、市町村や民間団体、農業協同組合、生活協同組合等が、子供たちや子育て世代を始めとする地域の消費者を対象に、郷土料理作り教室の開催や大豆の種まきから行う味噌作り体験、食品工場見学等を実施しています。また、地域の伝統野菜や米等の植付けから収穫までの一連の農作業体験を通じて、農作業の楽しさや苦労等を学ぶことのできる農業体験の機会の提供が全国で行われています。これらの取組を通して、地域の食文化や地場産物等への理解や関心を高めることが期待されています。
農林水産省では、地方公共団体、農林漁業者等が連携した、全国各地で行われている郷土料理や伝統野菜を始めとする伝統的食材等の魅力の再発見につながる取組を支援しています。
事例:郷土料理の伝承を通した地域づくり(第7回食育活動表彰 消費・安全局長賞受賞)
京津畑(きょうつはた)自治会(岩手県)
京津畑自治会では、自治会員が一丸となって郷土料理の伝承や活力ある地域づくりに取り組んでいます。“なつかしい山里食(やまざとしょく)の再発見”をテーマに「京津畑まつり「食の文化祭」(以下「食の文化祭」という。)」を長年に渡って開催し、子供から高齢者まで自治会の幅広い世代が参加し、郷土料理を調理して出展し、来場者への普及啓発を図りながら、一関(いちのせき)地方に古くから伝わる郷土料理の伝承活動を行っています。
約40世帯、人口120人の小集落が約1,000人の人出で賑わう「食の文化祭」は、秋の「風物詩」と言われるようになり、メディアにも取り上げられています。
「食の文化祭」をきっかけに起業した女性中心の郷土食の加工グループ「やまあい工房」は、活動を20年間続けており、郷土料理を工夫して発展させた弁当や惣菜の加工販売、高齢者世帯への配食サービス、小・中学校への出前講座等、多様な食の活動で地域に活力をもたらしています。
また、「食の文化祭」を継続していく中で、かつての山里の食が再び脚光を受け、さらに現代風にアレンジされ、若い世代にも「新鮮な食事」として見直されています。
今後も、未来につなぐ郷土料理の伝承と地域づくりに貢献していきます。
事例:地域の食文化の継承(第38回国民文化祭「いしかわ百万石文化祭2023」について)
文化庁では、都道府県等と共催で、観光やまちづくり、国際交流、福祉、教育、産業等の施策と有機的に連携しつつ、地域の文化資源等の特色を生かした文化の祭典として、「国民文化祭」を昭和61(1986)年から開催しています。
令和5(2023)年10月14日から11月26日まで開催された第38回国民文化祭「いしかわ百万石文化祭2023」では、古くから受け継がれてきた金沢(かなざわ)の多様な食文化の魅力を発信するイベント「金沢食文化フェスタ」や、能登(のと)の里山里海の、海の幸・山の幸を味わいながら能登の文化を楽しむイベント「のと里山里海フェスタ」を開催しました。
○金沢食文化フェスタ(10月21日・22日 石川県政記念しいのき迎賓館等(石川県金沢市))
会場では、発酵食や和菓子等をつくるワークショップを開催したほか、旬の食材を使った料理をブースで提供するなど、料亭や加賀野菜、和菓子に至るまで様々な面を持つ金沢の食文化を紹介し、県内外に金沢の食文化の魅力を発信しました。
また、有識者を招き金沢の食文化の魅力を発信するフォーラムや、金沢の食文化の奥深さに触れる調理交流会を、若者を対象に実施しました。
○のと里山里海フェスタ(10月28日・29日 のと里山空港(石川県輪島(わじま)市))
食を通して能登の魅力を体感してもらえるよう、能登の食材や料理を味わえるブースを出展したほか、日本遺産にも認定された能登を代表する祭礼「キリコ祭り」で使用されるキリコ(切子灯篭(きりことうろう)を縮めた呼び名であり、長方形の形をした山車の一種)の展示やキリコを担ぐ体験、能登の自然や伝統工芸を体験できるワークショップや地元の子供たちによるダンスステージ・書道パフォーマンス等、来場者が能登の里山里海の祭り・食・文化体験を楽しむイベントを実施しました。
コラム:お茶の食育「茶育(ちゃいく)」についての取組
お茶は伝統と文化を育みながら国民の生活に深く浸透しており、お茶の普及活動を行っている団体等の多様な主体と連携・協力するなど、お茶に関する効果的な食育活動を促進することが第4次食育推進基本計画にも記載されています。一方、お茶の消費量は長期的に減少しており、特に若い世代で顕著になっています。
こうした状況を踏まえ、地域住民が子供の頃からお茶に親しむ習慣を育むことができるよう、学校教育の場でお茶を活用した食育(以下「茶育」という。)に取り組む茶業(ちゃぎょう)関係者もいます。農林水産省においても茶育に取り組んでおり、令和5(2023)年1月から、茶育に取り組む茶業関係者とその内容等を「見える化」し、学校関係者に共有することでマッチングを図る「茶業関係者×農林水産省「茶育」プロジェクト」を実施しています。
茶育の取組では、茶摘み体験やお茶の淹(い)れ方講座等、日本茶に関する体験を含め様々な取組が各地域の茶業関係者により提供されており、お茶を通じた日本型食生活の実践の推進や、地域の食文化に対する理解の促進が期待されます。
今後は、更に多くの子供たちに茶育の効果を広く知ってもらうとともに、お茶に親しむ機会を届けられるよう、茶育の具体的な取組事例を発信していきたいと考えています。
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