2 環境と調和のとれた持続可能な食料生産とその消費にも配慮した食育の推進
我が国の食料・農林水産業は、高品質、高付加価値な農林水産物、食品を消費者に提供するとともに、日本固有の食文化の魅力の源泉として国内外から高い評価を受けています。一方、生産者の減少・高齢化、地域コミュニティの衰退といった課題、国内外で重要性が増している地球環境問題やSDGsへの対応の必要性等を踏まえ、農林水産省では、持続可能な食料システムの構築に向け、令和3(2021)年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定しました。

本戦略の実現に向けては、食料・農林水産業の調達から生産、加工・流通、消費までの一連の活動の各段階で課題の解決に向けた行動変容を促すことが鍵となります。消費分野では、見た目重視から持続可能性を重視した消費の拡大など、環境にやさしい持続可能な消費の拡大や食育の推進などが期待されます。食育に関する取組としては、特に「環境にやさしい持続可能な消費の拡大や食育の推進」として、「栄養バランスに優れた日本型食生活の総合的推進」の中で、栄養バランスに優れた日本型食生活に関する食育、地産地消の推進や持続可能な地場産物や国産有機農産物等を学校給食に導入する取組の推進等を実施するとしています(図表2-5-1)。
令和4(2022)年7月には、みどりの食料システム戦略の実現に向けて「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」(令和4年法律第37号)が施行されました。同法では、消費者の努力として、環境と調和のとれた食料システムに対する理解と関心を深め、環境への負荷の低減に資する農林水産物等を選択するよう努めなければならない旨を規定しているほか、環境負荷の低減に資する農林水産物等の消費を促進する観点から、食育の推進が位置付けられています。
第4次基本計画では、「取り組むべき施策」として「環境と調和のとれた持続可能な食料生産とその消費にも配慮した食育の推進」を掲げており、有機農業を始めとした持続可能な農業生産や持続可能な水産資源管理等、生物多様性と自然の物質循環を健全に維持し、自然資本を管理し、又は増大させる取組に関して、国民の理解と関心の増進のため普及啓発を行っています。
具体的には、学校給食での有機食品の利用など有機農業を地域で支える取組事例の共有等を行うため、農林水産省は、「有機農業と地域振興を考える自治体ネットワーク」の活動として、令和4(2022)年12月のオーガニックビレッジ全国集会において各自治体の事例等を共有するセミナーを開催するなど、関係者の取組が進むよう連携の強化に取り組むとともに、令和5(2023)年1月には、都道府県等の食育担当部局に、学校給食における有機農産物の活用に係る支援策や事例の紹介による情報発信を行っています。例えば、熊本県山都町(やまとちょう)では県内のホテルのシェフと学校の栄養教諭が協働して、有機野菜を使用した学校給食の献立を作成し、町で定めたオーガニック給食週間に提供することで、子供たちに有機農業と町の魅力を伝えています。
世界の有機食品市場は令和2(2020)年時点で1,290億ドルであり、ここ10年で2倍以上に拡大しています(図表2-5-2)。日本の有機食品市場についても、直近5年間で約1.2倍に拡大しており、更なる市場の拡大を目指して、国産有機農産物を取り扱う小売事業者や、飲食サービス事業者により構成される国産有機サポーターズ(令和4(2022)年度末時点で97社が参画)の拡大や、国産有機農産物等の消費者需要及び加工需要を喚起する取組への支援を行っています(図表2-5-3)。

また、食や農林水産業の持続可能な生産消費を促進するためには、生産から消費までのサプライチェーン全体での行動変容を促すための様々な取組が必要です。そのため、農林水産省、消費者庁、環境省が連携し、企業・団体、国が一体となって、持続可能な生産と消費を促進する「あふの環(わ)プロジェクト」を令和2(2020)年6月に立ち上げ、勉強会や交流会を行っています。
具体的には、令和4(2022)年9月に、「食と農林水産業のサステナビリティ」について知ってもらうため、一斉に情報発信を行うサステナウィークを開催し、その中で、温室効果ガスを削減する取組の効果を星の数で分かりやすく「見える化」した米、トマト、キュウリの実証を実施しました。また、展示イベントにおいて、「未来につながるおかいもの」をテーマに、身近な食べ物を通じて、SDGsやサステナビリティを考えるクイズやパネル展示等を行い、「見た目重視から持続性重視」の消費選択に資する情報の発信を行いました。
令和5(2023)年1月に「あふの環(わ)プロジェクト」がAgVenture Lab(アグベンチャーラボ)と共同で開催した「サステナアワード2022伝えたい日本の“サステナブル”」では、食と農林水産業に関わる持続可能な生産・サービス・商品を扱う地域・生産者・事業者のサステナブルな取組を分かりやすく紹介する動画を表彰しました。O2Farm(オーツ―ファーム)の「「ランドスケープ農業」を目指して」が農林水産大臣賞、南種子町(みなみたねちょう)有機農業推進協議会と(有)かごしま有機生産組合の「南種子町のリサイクル」が環境大臣賞、松川町(まつかわまち)ゆうき給食とどけ隊の「ゆうきの里を育てよう」が消費者庁長官賞、株式会社OKUTA(オクタ)の「有機農業転換支援「こめまめプロジェクト」」がAgVenture Lab賞を受賞しました。
世界的に健康志向や環境志向等、食に求める消費者の価値観が多様化していること等を背景に、生産から流通・加工、外食、消費等へとつながる食分野の新しい技術及びその技術を活用したビジネスモデルであるフードテック(*1)への関心が高まっています。農林水産省では、令和2(2020)年10月、食品企業や、スタートアップ企業、研究機関、関係省庁等の関係者で構成する「フードテック官民協議会」を立ち上げ、同協議会には令和5(2023)年2月末現在、約1,160人が入会しています。同協議会では、令和5(2023)年2月に、会員からの意見聴取やパブリックコメントを経て、フードテック推進ビジョン及びロードマップを策定しました。また、同協議会において、令和5(2023)年2月、新たなビジネスの創出を目的に「未来を創る!フードテックビジネスコンテスト」を初めて開催し、アイデア部門、ビジネス部門において、計5件の表彰を行いました。
そのほか、農林水産省は、フードテック分野の研究開発を推進するとともに、投資促進を図りながら、新たな市場の創出を促進することとしています。
*1 我が国においては、大豆ミートや、健康・栄養に配慮した食品、人手不足に対応する調理ロボット、昆虫を活用した環境負荷の低減に資する飼料・肥料の生産等の分野で、スタートアップ企業等が事業展開、研究開発を実施している。
コラム:農業からの温室効果ガスを削減する取組の「見える化」
環境と調和のとれた食料システムの確立を図るためには、生産、加工、流通、販売それぞれの段階で、環境負荷低減の取組を「見える化」することを通じ、関係者の行動変容に結び付くことが重要です。
このため、農林水産省では、「みどりの食料システム戦略」に基づき、化石燃料や化学肥料、化学農薬の使用低減、農地土壌へのバイオ炭の施用等の農業由来の温室効果ガス削減に貢献する取組を行っている生産者の努力を「見える化」するため、農産物の温室効果ガス簡易算定ツールを作成しました(図表1)。
令和4(2022)年度は、このツールを活用し、温室効果ガスの削減率を星の数で等級ラベル表示した農産物(米、トマト、キュウリ)の実証を全国累計115か所(令和5(2023)年3月28日時点)で実施し、消費者等に分かりやすく表示・広報するとともに、消費者の意識や行動の変化を検証しました。
今後は、対象品目の拡大やラベル表示の効果的な表示方法、生物多様性保全の指標の追加の検討を行い、環境負荷低減の取組の「見える化」を進めていくこととしています。

事例:佐渡(さど)市における有機農業の推進と連携した食育活動
新潟県佐渡市
新潟県佐渡市では、「朱鷺(とき)と暮らす郷づくり認証制度」や「給食を地域で支える仕組づくり」により、有機農業に先進的に取り組んでいます。
「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」では、具体的な取組として、田んぼの生物を調査し、農家だけでなく、子供たちや都市部に居住する人たちも参画して、都市との交流や環境教育を行っています。また、「生きものを育む農法」では、田んぼやその周辺に生物が生息できる環境整備の取組を行います。例えば、江(え)の設置、魚道(ぎょどう)の整備、除草剤を使用しない畔草(あぜくさ)刈りを行っています。学校給食等で地場産の有機食材の使用を試験的に開始し、「給食を地域で支える仕組みづくり」を進めています。食に関して理解をより深めてもらうために、市長による小学校での食育の授業や、農業や環境、地域について児童が中心となり話し合う授業が行われています。
その結果、児童が有機農業で育てたお米を自由研究で調べてみたり、保護者から「販売してほしい」といった声が聞かれたりするようになりました。農家からも「地域の人にもっと知ってもらいたい」、「今まで有機農業を導入していなかったが、今後挑戦したい」という声もあり、今後の取組が期待されます。
この活動をより多くの人に知ってもらい、有機農業を通じて農家だけでなく消費者の意識を変えていくことも必要です。今後も、健康だけでなく農業や生物、環境のことにも意識した食育活動を進めていきます。
事例:地域資源とマネジメント視点を活用した体験型環境食育の推進
~食の環境負荷を低減し価値を高める食育~
(第6回食育活動表彰 農林水産大臣賞受賞)
NPOエコラボ(石川県)
NPOエコラボでは、食の生産・流通・保存・調理・廃棄に注目し、持続可能な社会の構築に貢献する食育を目指し、地域資源を活用した体験型の環境食育の活動を実施しています。地域での持続可能な食料システムの価値に注目し、地域の住民が生産から廃棄に至るまでの環境負荷低減に配慮した行動を実践できる食育が必要と考え、本活動が開始されました。
育てて食べる親子エコ農園は、五感にひびく食農体験として地域の農園と協働で実施し、体験の場を提供することで環境保全への意識の醸成を図っています。また、キッチンにおけるごみの発生抑制の取組として、在庫の把握、適量の購入・保存、献立の立て方、食品ロスを削減する調理等を学ぶ講座を開催し実践につなげています。そのほか、再生可能エネルギーの活用と被災時の食の確保を可能とするため、ソーラークッキングの体験講座、大学や地域防災組織との連携で、北陸で使いやすいクッカー開発と防災プログラムを開発しています。
これらの活動については、参加者に対してアンケートやヒアリングを実施し、参加者からは「野菜やお米を育てて食べる過程が大切だと思いました。」、「普段できないとても楽しい経験でした。」、「大人も子供も勉強になりました。」といった声が聞かれており、継続的な取組につなげています。
本活動の参加者が地域における食育の担い手として活動できるよう、人材育成も視野に入れた情報発信を行うとともに、引き続き、地元の米や野菜、地域の伝統食、自然環境等の地域資源を活用しながら、環境負荷の低減も目指す食育活動を拡大する予定です。
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