諸外国の取組み
2002年に焼いたり揚げたりしたばれいしょ加工品や穀類加工品にアクリルアミドが含まれていることが発表されて以降、欧米を中心とした諸外国において、食品中のアクリルアミド低減に向けた取組みが行政機関、食品事業者等が一体となって行われてきました。現在実施されている主な諸外国の取組みについてご紹介します。
EU | 英国 | スイス | 韓国 |
台湾 | 米国 | カナダ | オーストラリア・ニュージーランド |
中国 | 香港 | シンガポール |
【食品中のアクリルアミドに関して指標値を設定している国や地域の取組み】
- EUでは、食品中のアクリルアミド濃度の低減に向けて、ばれいしょ加工品や穀類加工品等の対象食品を製造・販売する事業者に対し、低減対策の実施やアクリルアミド濃度のモニタリングを義務付ける欧州委員会規則(Commission Regulation 2017/2158、以下EU規則)が採択され、2018年4月に適用されました[*1]。同規則では、含有実態調査等に基づいて、低減対策の有効性を検証するために使用される指標値であるベンチマークレベルを対象食品ごとに設定しており、食品事業者は、対象食品中のアクリルアミド濃度がベンチマークレベルを超過した場合に、低減対策を見直す等の改善措置を実施することが定められています。
品目 | ベンチマークレベル(µg/kg) |
フレンチフライ | 500 |
ポテトチップス、ポテトクラッカー、その他ポテト製品 | 750 |
ソフトブレッド 小麦を主原料とするパン 小麦以外を主原料とするパン |
50 100 |
朝食用シリアル ふすま製品、全粒シリアル、膨化製品 小麦、ライ麦を主原料とするもの トウモロコシ、えん麦、コメ等を主原料とするもの |
300 300 150 |
ビスケット、ウエハース クラッカー(ポテトクラッカーを除く) クリスプブレッド ジンジャーブレッド その他同様の製品 |
350 400 350 800 300 |
焙煎したコーヒー | 400 |
インスタントコーヒー | 850 |
コーヒー代用品 穀類のみから作られる製品 穀類及びチコリーの混合物から作られる製品 チコリーのみから作られる製品 |
500 配合比を考慮して設定 4000 |
ベビーフード、ビスケット及びラスクを除く乳幼児用穀類加工品 | 40 |
乳幼児用のビスケット及びラスク | 150 |
- EU規則については、現在、欧州委員会に設置されている植物・動物・食品・飼料に関する常任委員会(PAFF)において、現行のベンチマークレベルの見直し、ベンチマークレベルの対象品目の追加、一部対象食品に対する最大基準値の設定について検討が行われているところです。
- EUの食品業界連合である欧州食品飲料産業連盟(FoodDrinkEurope)は、穀類加工品、ばれいしょ加工品、コーヒーのアクリルアミド低減方法に関する調査研究を行い、中小の食品企業でも実施可能な低減技術について情報提供を行っています。この成果は、アクリルアミド・ツールボックス(Acrylamide Toolbox)として公表されており、EU規則の実行に役立つものとなっています。
- 欧州食品安全機関(EFSA)は2022年にアクリルアミドの発がん性についての作用機序に関する最新の科学的報告書を公表しました[*2]。本報告書では、最近の新たな試験で確認された、アクリルアミド及びその代謝物であるグリシドアミドの有する染色体異常誘発性や突然変異誘発性といった遺伝毒性に関するエビデンス及び発がん性に対する非遺伝毒性作用に関するエビデンスから、EFSAが2015年に公表した意見書の更新は必要でないと結論しています。
- 英国食品基準庁は、家庭調理段階におけるアクリルアミドの低減対策として、主に、(1)ばれいしょ等のデンプンを多く含む食品を加熱する際は、黄金色又はそれより薄い色にすること、(2)包装に記載されている方法に従って加熱調理を行うこと、(3)バランスのとれた食事をすること、を助言しています[*3]。また、ベンチマークレベルの設定などEU規則を英国でも導入するとともに、食品事業者の評価を行う地方自治体に対してEU規則に関するガイダンスを作成しており、食品事業者によるアクリルアミド低減の取組を進めています[*4]。
- スイスでは、低糖度で揚げ料理や焼き料理に適したばれいしょを区別して販売したり、加熱後の色について注意喚起を行ったりするなど、アクリルアミドの低減に取り組んできました。スイス連邦食品安全獣医局は、2016年に汚染物質条例を制定し、最終製品中のアクリルアミドの含有量を最小限にするよう配慮することを定めています。さらに2018年にEU規則が適用されたことを踏まえて、2020年に食品製造者の取組を検証するための指標値やEU規則で規定された分析手順に従って自社製品のモニタリングを行うことを本条例に追加し、対策を強化しています[*5]。
- 韓国食品医薬品安全処は、2021年から菓子やフライドポテト、乳児用食品等の国内で製造・加工、又は輸入される食品に対してアクリルアミドの推奨規格を設定しており、低減措置を実施するよう食品業界に求めています[*6]。推奨規格は2年ごとに見直しを行うこととしており、推奨規格から基準・規格に切り替えるかどうかも含めて検討がなされる予定です。
品目 | 推奨規格(µg/kg以下) |
乳幼児用離乳食 シリアル類 |
300 |
コーヒー(焙煎コーヒー、インスタントコーヒー、調整コーヒー) | 800 |
菓子 フライドポテト 茶類 穀類加工品 即席食品 |
1000 |
- 台湾衛生福利部食品薬物管理署は、バランスのとれた食事をし、揚げ物や焙煎食品の摂取を適量とするよう消費者に促すとともに、2016年には食品事業者向けに「食品中のアクリルアミド指標値参考手引き」を策定し、品目ごとにアクリルアミドの指標値を設定しています[*7]。
品目 | 指標値(µg/kg) |
フレンチフライ | 600 |
ポテトチップス ポテトクラッカー |
1000 |
パン 小麦を主原料とするパン 小麦以外を主原料とするパン |
80 150 |
朝食用シリアル(粥を除く) ふすま製品、全粒シリアル、膨化製品 小麦、ライ麦を主原料とするもの トウモロコシ、えん麦、コメ等を主原料とするもの |
400 300 200 |
ビスケット、ウエハース、クラッカー(ポテトクラッカーを除く) クリスプブレッド ジンジャーブレッド |
500 450 1000 |
焙煎コーヒー | 450 |
インスタントコーヒー | 900 |
穀類以外の乳幼児用食品 乳幼児用ビスケット及びラスク 穀類から製造された乳幼児用食品(ビスケット及びラスクを除く) |
50-80 200 50 |
黒糖 | 1000 |
油条(小麦粉を練って棒状にして揚げたもの) | 1000 |
【食品中のアクリルアミドに関する指標値を設定していない国や地域の取組み】
- 食品医薬品庁[*8]は、2002~2006年、2011~2015年に食品中のアクリルアミドの含有量の調査を実施しており、その結果を製品別に公表しています。2011~2015年に実施された調査では、ポテトチップスやクラッカーといったアクリルアミド濃度が前回調査よりも低減した食品もありましたが、引き続きアクリルアミド低減に向けた努力を行うべきとしています。食品製造者などの食品業界に対しては、食品中のアクリルアミド濃度の低減に向けて推奨する取組を示したガイダンス(Guidance For Industry )を2016年に公表するとともに、穀類加工品やばれいしょ加工品に関してアクリルアミドの情報をまとめたファクトシート(穀類加工品(PDF:226KB)、ばれいしょ加工品(PDF:220KB))を提供しています。また、消費者に対してもトーストやフライドポテトの調理や食材の保管方法について注意喚起を行っています。
- カリフォルニア州では、「安全飲料水及び有害物質施行法(Proposition 65)」という州法により、カリフォルニア州で販売・流通させる製品が有する危険性について、製品のラベルや小売店の商品棚にて警告表示を行うことが課されています[*9]。州法の対象となる有害物質のリストにはアクリルアミドも含まれており、食品において発がん性に関する警告表示を行う必要があります。
- カナダ保健省は、Chemicals Management Planに基づいて2009年に行ったアクリルアミドのリスク評価を踏まえて、カナダ国民のアクリルアミド摂取量を可能な限り低減するため、モニタリングの継続やアクリルアミド低減に取り組む事業者のフォローを行っています[*10]。
- オーストラリア・ニュージーランド食品基準機関(FSANZ)は、アクリルアミド低減に向けて、家庭でできる低減策を記載した消費者向けと食品製造の際に推奨される低減策を記載した事業者向けの2種類のインフォグラフィックを公表するなどして注意喚起を行っています[*11]。また、アクリルアミドの前駆物質である還元糖やアスパラギンの産生量を低下させることでアクリルアミドを低減できる、遺伝子組換えジャガイモの使用が認められています。
- 2021年に公表したリスク評価に関するレポートの中で、油で揚げた食品が国内でよく食べられていることを踏まえ、アクリルアミドの低減に向けて、過度に長時間・高温調理を行うことを避け、バランスの良い食事を推奨するとともに、食品事業者に対して加工・調理条件の最適化を求めています[*12]。さらに、国家衛生健康委員会により、食品中のアクリルアミド低減に向けた実施規範の策定が検討されているところであり、食品安全に関する学会のHPにおいて草案が掲載されています[*13]。
- 香港食物環境衛生署食物安全センターは、食品中のアクリルアミド濃度の低減に向けて、家庭で調理を行う際の注意点について情報提供を行うとともに、ばれいしょ加工品、穀類加工品及び野菜炒めについての事業者向けのガイドライン(Trade Guidelineson Reducing Acrylamide in Food(PDF:1,473KB 外部リンク))を公表しています[*14]。
- シンガポール食品安全庁は、コーデックス委員会が策定した実施規範を踏まえて対策をとるよう事業者に推奨するとともに、消費者が家庭でできる対策について情報提供を行っています[*15]。
【出典(各国のウェブサイト等)】
*1 European Commission Food safety | Acrylamide (EU)
*2 European Food Safety Authority | Assessment of the genotoxicity of acrylamide (EU)
*3 Food Standards Agency | Acrylamide (英国)
*4 Food Standards Agency | Acrylamide legislation (英国)
*5 Bundesamt für Lebensmittelsicherheit und Veterinärwesen | Acrylamide (スイス)
*6 食品医薬品安全処 | 食品別推奨規格の設定に係るプレスリリース (韓国)
*7 台湾衛生福利部食品薬物管理署 | 食品中丙烯醯胺指標值參考指引 (台湾)
*8 Food&Drug Administration | Acrylamide (米国)
*9 California Office of Environmental Health Hazard Assessment | Proposition 65 (カリフォルニア州)
*10 Health Canada | Acrylamide in food (カナダ)
*11 Food Standards Australia New Zealand | Acrylamide and food (オーストラリア・ニュージーランド)
*12 食品中丙烯酰胺的危险性评估-国家食品安全风险评估中心 (cfsa.net.cn) (中国)
*13 中国食品科学技术学会 | 食品安全国家标准 食品中丙烯酰胺控制规范(草案) (中国)
*14 Centre for Food Safety | Process Contaminants in Food (香港)
*15 Singapore Food Agency | Something’s Burning - Acrylamide in Heat-Processed Food (シンガポール)
お問合せ先
消費・安全局食品安全政策課
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