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農林水産省

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(10)畜産物


(畜産経営は生産基盤の維持・強化が課題)

近年、主要畜種の飼養戸数は、生産者の高齢化等により減少傾向で推移しています(表2-4-3)。一方、1戸当たりの飼養頭羽数は増加しており、大規模な経営体に生産の集積が進んでいます。

しかしながら、大規模化を進めるには規模に応じた体制を整備する必要があり、設備投資の負担や限られた労働力による適切な個体管理、深刻な人手不足等が課題となっています。

このため、畜種ごとの経営安定対策の着実な実施、後継者や多様な担い手への経営継承の円滑化や新規参入の促進、ロボット技術やICT(*1)の活用促進、ヘルパー組織等の各種支援組織の活用促進等に加え、畜産農家と関係者が連携・結集し、地域全体で収益性を向上させる畜産クラスター(高収益型畜産体制)の下での取組の推進により、生産基盤の維持・強化に取り組んでいくことが重要です(図2-4-18)。また、安全・安心への関心や健康志向の高まりなど、多様化する消費者のニーズに対応する必要があります。


*1 Information and Communication Technologyの略。情報や通信に関する技術の総称


図2-4-18 畜産クラスターのイメージ

(新たな酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針等)

我が国の酪農及び肉用牛生産の振興及び家畜の改良増殖施策については、それぞれ「酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律」及び「家畜改良増殖法」に基づき、酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針及び家畜改良増殖目標を、おおむね5年ごとに定めています。

酪農・肉用牛生産に係る方針は、飼料価格の上昇もあいまって、農家戸数や飼養頭数が減少しているなど、生産基盤が弱体化している現状を踏まえ、分業化による労働負担の軽減、繁殖・肥育の一貫経営の推進、放牧の活用などの取組を提示した上で、「人・牛・飼料」の観点から、畜産クラスターの取組も活用して、地域全体で畜産の収益性向上と生産基盤の強化を目指すものとしています。また、家畜改良増殖目標については、家畜の生産性向上を図るとともに、消費者の多様なニーズにもしっかりと応えることのできる強みのある畜産物を安定的に供給していくための家畜の改良を目指すこととしています。


(牛乳の消費量は減少・乳製品は増加)

平成25(2013)年度の生乳生産量は、夏季の猛暑の影響等により搾乳量が減少したため、前年度に比べ2%(16万t)減少し745万tとなりました(図2-4-19)。

一方、消費仕向量は、近年、牛乳の消費は減少傾向となっていますが、生クリーム等の乳製品の消費は増加しており、全体としては安定的に推移しています。

平成26(2014)年度は、生乳生産量が減少する中、バター、脱脂粉乳等の生産量が減少したため、カレントアクセス(*1)とは別に、5月にバター7千t、9月にバター3千t、脱脂粉乳1万tの追加輸入を決定しました。これにより、全体量としては、年度内に必要な量が確保されました。一方で、秋から年末にかけてスーパーマーケット等において家庭用バター等が品薄となったため、農林水産省は、乳業界に向けて家庭用バター等の最大限の供給を依頼する等の取組を行いました。

近年、飼料価格の上昇等による生産費の増加や労働時間の長時間化等により生産基盤が弱体化している中、牛乳・乳製品の安定供給を図るため、今後は、生産基盤の維持・拡大のため収益性の向上や労働負荷軽減を一層図るほか、国による輸入の適切な実施や消費者への情報発信を行う必要があります。


*1 独立行政法人農畜産業振興機構が、国際約束に従って、生乳換算13.7万t/年のバター、脱脂粉乳等を輸入するもの

(牛肉の生産量は近年横ばい)

平成25(2013)年度の牛肉の生産量は、前年度並みとなっており、近年50万t程度で推移しています(図2-4-20)。

消費仕向量についても、近年は安定的に推移しています。

しかしながら、近年、和牛繁殖経営において、生産者の高齢化に伴う飼養戸数の減少等により和牛子牛の生産が減少しています。このため、繁殖基盤の強化を図りつつ、酪農分野における受精卵移植・性判別技術の活用等により、酪農由来の和牛子牛生産を拡大し、国産牛肉の安定供給を図ることが重要です。

また、国産牛肉の需要拡大を図るためには、消費者ニーズを踏まえた生産や牛肉の輸出促進等に取り組む必要があります。

さらに、地域における生産基盤の強化のため、生産、加工・流通及び販売業者等が一体となって、地域全体で収益性の向上を図る必要があります。

 

(肉用子牛の取引価格が上昇)

肉用子牛の取引価格は、平成13(2001)年度のBSE(*1)発生の影響により大きく低下し、その後回復傾向で推移した後、平成19(2007)年度以降、景気の低迷等による牛枝肉価格の低迷の影響等により低下しました。平成22(2010)年度以降は、生産者の高齢化に伴う飼養戸数の減少や平成22(2010)年4月に宮崎県で発生した口蹄疫(*2)の影響等により、子取り用めす牛が減少し子牛の出生頭数が減少したこと等から肉用子牛の価格が上昇しています(図2-4-21)。


*1、2 [用語の解説]を参照


(豚肉の生産量は近年横ばい)

平成25(2013)年度の豚肉の生産量は、前年度に比べ1%(1万t)増加し131万tとなっており、近年130万t程度で推移しています(図2-4-22)。

消費仕向量についても、近年は安定的に推移しています。

国産豚肉の安定的な需要の確保のため、輸入品と差別化できる、特色のある豚肉生産等により、消費者の多様なニーズに対応する必要があります。

また、生産基盤の強化のため、悪臭等環境問題による経営存続の危機に適切に対処し、生産基盤の維持・拡大等を図る必要があります。

さらに、平成25(2013)年10月以降発生が認められている豚流行性下痢(PED)(*1)による子豚の損耗を防止するためには、消毒などの飼養衛生管理の徹底、ワクチンの適切な使用等の防疫対策の実施が重要です。

平成26(2014)年6月には、養豚農家の経営の安定、国内由来飼料の利用の促進、豚の飼養衛生管理の高度化、安全で安心して消費することができる豚肉の生産の促進及び消費の拡大、豚肉の流通の合理化等により、養豚農業の振興を図ることを目的とした「養豚農業振興法」が施行され、平成27(2015)年3月に同法に基づき、養豚農業の振興に関する基本方針が策定されました。



(鶏肉の生産量は増加、鶏卵は横ばい)

平成25(2013)年度の鶏肉の生産量は前年度並の146万tとなっており、低価格志向や国産志向といった需要の高まりを受け、近年、消費仕向量とともに増加傾向で推移しています(図2-4-23)。

国産鶏肉の安定的な需要の確保のため、加工・業務用を始めとした国産鶏肉の利用拡大を図る必要があります。

また、平成25(2013)年度の鶏卵の生産量は前年度並の252万tとなっており、消費仕向量と同様に安定的に推移しています。

国産鶏卵を安定的に供給していくためには、需給バランスを踏まえた生産により養鶏経営の安定を図っていくことが重要となっています。

 

(自給飼料の利用拡大を推進)

畜産経営は飼料価格の変動の影響を受けやすく、近年における畜産物の生産費や農業経営費に占める飼料費の割合は、牛では4割から5割、豚や鶏では6割から7割となっています(図2-4-24)。

家畜の飼料は、大きく分けて牛等の草食家畜に給与される粗飼料(*1)と、牛のほか、豚や鶏に利用される濃厚飼料(*2)があります。

特に我が国は、配合飼料の原料である濃厚飼料については9割近くを海外からの輸入に依存しており、開発途上国等の穀物需要の増大、異常気象等による価格上昇等の影響を受けやすい状況にあります。配合飼料価格は、穀物価格の上昇等により約10年前と比べて値上がりしています(図2-4-25)。


*1 乾草やサイレージ(飼料作物を乳酸発酵させ、保存性・嗜好性を高めた飼料)、稲等
*2 とうもろこしを中心とする穀類、糠類、粕類等


このため、自給飼料の生産施設の整備や飼料作物の作付面積拡大への支援、食品残さ等の飼料利用拡大等への支援を行うとともに、畜種ごとの特性に応じた経営安定対策や振興対策を実施しています。

また、8割近くを自給している粗飼料については、濃厚飼料の利用削減を含めた国産飼料の生産・利用の拡大を図るため、草地整備の推進や飼料作物の優良品種の開発・普及等を図るとともに、コントラクター(*3)やTMRセンター(*4)による飼料の省力的かつ効率的な生産・供給体制の構築が推進されています。

さらに、水田フル活用を図るため生産振興を推進している飼料用米とWCS用稲については、近年、作付面積が増加しています。飼料用米については、各地域において農家が安心して飼料用米を生産できるよう、国、都道府県、関係団体等が連携し、生産要望のある耕種農家と利用要望のある畜産農家とのマッチング活動、配合飼料工場と産地のマッチング等による飼料用米を活用した配合飼料の供給体制の構築が図られるよう取組が進められています。


*3 飼料作物の収穫作業等の農作業を請け負う組織
*4 粗飼料や濃厚飼料等を混合し、牛が必要としている全ての栄養素をバランスよく含んだTMR(Total Mixed Rations:完全混合飼料)を農家に供給する施設。TMRは栄養的に均一なため家畜が選び食いができないという特徴がある。

事例:新しい飼料用米の形態「SGS」の取組

青森県十和田市
福澤秀雄さん
福澤秀雄さん
SGSを食べる牛
SGSを食べる牛

青森県十和田市(とわだし)の福澤秀雄(ふくざわ ひでお)さんは、黒毛和牛39頭を飼養する繁殖農家で、飼養している牛に与える配合飼料は全量を自家生産することにより輸入に頼らない経営を行っています。

福澤さんは、近年の飼料の値上がりを受け、飼料代の軽減を図ることができないか考え、平成23(2011)年に、現地の普及組織の指導を受けながら、生籾を乳酸発酵させるSGS(ソフトグレインサイレージ)の試験製造を開始しました。同時に十和田市による産学官連携事業(十和田市、生産者、北里大学、上北地域県民局による連携事業)を活用して、飼料給与と6か月に1度の血液成分の検査等によりデータを積み上げ、足りない栄養を補うための添加飼料(ヘイキューブ粉砕飼料、大豆かす等)の最適な給与バランスの検討を行いました。

良好な試験結果とともに、繁殖雌牛も嗜好したことから、平成25(2013)年度に畜産リース事業(独立行政法人農畜産業振興機構の実施する畜産収益力向上緊急支援リース事業)を活用して籾粉砕機を導入するなど本格的なSGS生産を開始しました。

本格導入後もSGSに起因した事故は発生せず、子牛の増体重も標準(1kg/日)以上で過去の発育実績と比較しても向上しており、経営は好調となっています。

飼料生産の基盤として、借地を含めて牧草14.6ha、えん麦8ha、WCS用稲3.2ha、SGS用稲9haで作付けを行っています。また、作業については、施肥や播種、その他の管理作業や収穫作業を集落の水稲農家と分担することにより作業の軽減化を図っています。

平成25(2013)年には、市内の農家5人とSGSの加工や地域農家の依頼で飼料米栽培を請け負う任意組合「SGSフロンティア十和田」を設立しました。組合設立後は、福澤さんも飼料用米の生産やSGSの加工を同組合傘下で行っています。同組合の平成25(2013)年度のSGS生産量は135tとなっており、平成26(2014)年度は300tを生産する予定です。

今後は、各畜産農家において適切な規模の機械を揃え、自らがそれぞれ生産できる体制の普及・拡大を図っていきたいと考えています。

 

また、食品製造副産物(食品工場で発生するパンの耳等)や余剰食品(スーパーマーケットで売れ残ったそう菜等)等の食品残さ等を活用した飼料(エコフィード)の生産・利用の取組も進められており、平成25(2013)年では、我が国における濃厚飼料全体のエネルギー量の約6%に相当する量が利用されています。今後、エコフィードの生産・利用の推進に当たっては、生産・利用拡大に向けた取組への支援のほか、「エコフィード認証制度」によるエコフィードの安全性及び品質の確保や、「エコフィード利用畜産物認証制度」によるエコフィードの取組に対する社会の認識と理解醸成等を図る必要があります。



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