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農林水産省

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(1)環境保全に向けた農業の推進


(環境保全に向けた取組の推進)

環境保全に向けた農業分野の取組としては、化学肥料や化学合成農薬の使用量を地域の慣行レベルに比べて低減する栽培のほか、病害虫の発生予察情報等に基づき天敵の利用や輪作、農薬散布等を組み合わせて防除を実施する総合的病害虫・雑草管理(IPM(*1))、有機農業等様々な考え方や手法があります。

農林水産省では、持続性の高い農業生産方式を導入している農業者であるエコファーマー(*2)の普及推進を図っています。エコファーマーに対しては、環境保全に効果の高い営農活動に取り組んだ場合に環境保全型農業直接支払(*3)等の支援措置が講じられています。

エコファーマーの認定件数は平成26(2014)年3月末時点で18万6千件となっており、前年に比べ約1万5千件減少しました(図2-6-1)。認定件数が減少した背景としては、平成25(2013)年度に計画期間(5年間)が終了した者が高齢化等を背景に再認定申請を行わなかったこと等によるものと考えられます。一方で、新規に認定を受けた者は7千6百件となっており、作物別にみると、水稲、野菜及び果樹で9割を占めています。


*1 Integrated Pest Managementの略
*2 「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」に基づき、土づくり、化学肥料及び化学合成農薬の使用低減技術の導入に一体的に取り組む計画を作成し、都道府県知事から認定を受けた農業者の愛称


(新たな「有機農業の推進に関する基本的な方針」に基づく更なる推進)

環境保全型農業の一環として、有機農業の取組を推進していくことも重要です。有機農業とは、化学肥料や農薬を使用しないことと遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法であり、有機農業のうちJAS法(*1)に基づき定められた、有機農産物の表示のルール・生産方法を満たしているものについては、有機農産物のJAS認定を受けることができます。

有機農業の取組状況をみると、平成26(2014)年における有機JAS認定ほ場(*2)の面積は、認定取得に際して必要な栽培管理記録の作成事務の負担等により、9,937haと微増傾向で推移しています(表2-6-1)。また、有機JAS認定ほ場を含めた有機農業に取り組んでいるほ場全体の面積は、我が国の耕地面積の0.4%程度(*3)と推計されており、諸外国と比べて低い水準となっています。

有機農業については、都道府県の推進体制の整備が一定程度進んだことに加え、有機農業による就農希望者や慣行農業から有機農業への転換者が相当数見込まれるとともに、消費者や実需者の需要の増加も見込まれる状況です(*4)。有機農業の一層の拡大を図るため、平成26(2014)年4月に策定した「有機農業の推進に関する基本的な方針」において、現在、0.4%程度の我が国の耕地面積に対する有機農業実施ほ場面積の割合を、おおむね平成30(2018)年度までに、1%とする目標を設定しました(図2-6-2)。

今後、目標達成に向けて、円滑に有機農業を開始するための就農相談や実需者ニーズに応えたロットの拡大・産地化、有機JAS認定取得で必要な記録の作成事務の省力化支援、地域の気象や土壌特性に適合した技術体系の確立等を推進することとしています。


*1 正式名称は「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」。平成27(2015)年4月の「食品表示法」の施行に伴い、名称が「農林物資の規格化等に関する法律」に変更
*2 堆肥等による土づくりを行い、播種・植付け前2年以上及び栽培中に(多年生作物の場合は収穫前3年以上)、原則として化学肥料及び農薬を使用しないほ場であって、農林水産大臣が登録した登録認定機関から認定を受けたほ場
*3 特定非営利活動法人MOA自然農法文化事業団「平成22年度有機農業基礎データ作成事業報告書」
*4 農林水産省「有機農業をはじめとする環境保全型農業に関する意識・意向調査結果」(平成19(2007)年11月公表)


また、我が国の有機制度と諸外国の制度について同等性が認められれば、有機JAS認定を受けた我が国の有機農産物等に「organic」等と表示して、相手国に輸出できるようになります。これまで米国、EU等と相互認証を行い、平成26(2014)年9月、新たにカナダと合意し、平成27(2015)年1月から合意内容に基づいた輸出入を開始しました。引き続き、輸出促進の観点から、同等性の相互認証を推進していくことが重要です。


図2-6-2 新たな「有機農業の推進に関する基本的な方針」の概要

事例:販路を開拓しながら規模拡大し続ける有機農家の取組

石川県金沢市
井村辰二郎さん
井村辰二郎さん

石川県金沢市(かなざわし)の井村辰二郎(いむら しんじろう)さんは、有機農産物の販路を地道に開拓し、それに併せて耕作放棄地を受け入れ、麦や大豆、米等の生産を拡大し続けています。

井村さんは、平成9(1997)年の就農時から、農産物を生産者の顔が見えるように販売することで、消費者に指名してもらうことを目指すとともに、作った有機農産物は、その個性を発揮するため、慣行栽培の農産物と混ぜずに加工・流通したいと考えていました。このため、国産有機大豆による豆腐や、既存市場のなかった国産有機大麦による麦茶パック等の製造・販売に自ら取り組み、平成14(2002)年には、製品を量産するため株式会社金沢大地を設立しました。

金沢大地ブランドの商品は自社農場で生産された有機農産物を中心とし、消費者の高い信頼を得るとともに、消費者ニーズに応え堆肥となる鶏ふん、米糠(ぬか)、おから等まで生産流通履歴を確認できる体制を整えています。さらに、能登地域で生産した有機農産物は、世界農業遺産にも登録された「能登」の高い知名度と自然・海といったイメージの良さを活かし、「のと」ブランドで販売しており、能登地域の耕作放棄地を積極的に受け入れています。

販路としては、平成19(2007)年にインターネット販売を開始、平成23(2011)年には地元に直営店舗をオープンし、現在、店舗とインターネットを合わせた売上は、自社製品の売上全体の半分を占めています。

今後も、販路を開拓しつつ、耕作放棄地を受け入れて規模拡大を進めるとともに、地域農業の担い手を育成していきたいとしています。

 

(農業分野における生物多様性保全の推進)

農林水産業は、生物多様性(*1)と密接に関係しており、生物の生息・生育環境の提供、特有の生態系の形成・維持等の形で生物多様性に貢献している一方で、農薬や肥料の不適切な使用、経済性・効率性を優先した農地・水路の整備等によって生物多様性に負の影響を与えることもあります。また、耕作放棄地(*2)の増加による田園地域特有の生態系を構成する種の減少や、鳥獣被害の深刻化等、様々な問題も発生しています。

農林水産業は生物多様性と自然の物質循環が健全に維持されることにより成り立つものであることから、農林水産業を持続可能なものとして維持・発展させていくためには、生物多様性保全を重視した農林水産業を推進することが重要です。

このような中、近年、国際的には、「生態系と生物多様性の経済学(TEEB(*3))」が提唱されるなど、生物多様性の社会的、経済的価値への関心が高まっています。我が国においても農林水産分野における生物多様性保全の取組の更なる発展のため、農山漁村における生物多様性保全のための活動の経済的な評価を行うことにより、企業、NPO(*4)、地域住民等による理解を深め、活動への参画につなげていく必要があります。

このため、農林水産省は、平成26(2014)年に、生物多様性保全のための活動について、いくつかの先進事例を対象として経済的にその価値を把握し、農林漁業者と企業等がこれを基に経済的連携関係を構築するための手法について取りまとめた手引きとパンフレットをホームページにおいて公表しました。この手引き等を活用した多様な主体による生物多様性の保全に資する取組の拡大が期待されます。


*1 <1>森林・里地・里山、藻場・干潟等様々な自然環境に応じた「生態系の多様性」、<2>同じ生態系であっても、動物や植物、土壌中の微生物に至るまで、様々な生き物が生息している「種の多様性」、<3>同一種であっても、姿・形の違い、病気への耐性等個体差を生み出す「遺伝子の多様性」が存在
*2 [用語の解説]を参照
*3 The Economics of Ecosystem and Biodiversityの略。増加する生物多様性損失と生態系劣化のコスト明確化を主要な目的とする、生物多様性の経済的便益に注目を集めるための国際イニシアティブ
*4 [用語の解説]を参照


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