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農林水産省

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(2)農業の復興に向けた取組


(津波被害を受けた農業経営体の農業所得は順調に回復)

津波被害を受けた農業経営体の経営の回復状況を継続的に把握するため、市町村を通じて協力を得られた経営再開の意志を有する297経営体を対象に、震災から数年間、定点調査を実施することとしており、調査対象経営体のうち平成25(2013)年12月末までに274経営体が経営を再開しています(表4-1-4)。

経営を再開した経営体について、震災前(平成22(2010)年)の農業所得を100とした場合の平成25(2013)年の水準は64まで回復しました(図4-1-5)。これは、各県で農地の復旧が進んだためです。

また、営農類型別にみると、農地の復旧により露地野菜主体の経営体では平成24(2012)年の70から平成25(2013)年の80、施設野菜主体の経営体では48から52と農業所得は回復傾向であるものの、水稲主体の経営体では平成25(2013)年の米価の低迷による影響等があり77から78となりました。

経営を再開し、農業所得の回復を図るためには、販売面における課題等にも対応していくことが重要です。




(農業者への支援等)

農林水産省は、被災農家経営再開支援事業により、被災した農業経営体が地域農業復旧組合を設立し、農地に堆積するごみや礫(れき)の除去等の経営再開に向けた復旧作業を共同で行う取組に対して、経営再開のための支援金を交付し、地域農業の再生と早期の経営再開に取り組んでいます。平成26(2014)年度においては、13市町村、30組合で取組が実施されています(図4-1-6)。また、被災した農業者の経営再開を支援するため、平成23(2011)年度から、被災農業者等が借り入れる株式会社日本政策金融公庫等の災害復旧・復興関係資金について、一定期間(最長18年間)実質無利子、実質無担保・無保証人での借入れ(*1)を可能とする措置を講じています。


*1 担保や保証人を徴求する場合にあっては、融資対象物件担保や同一経営の範囲内の保証人のみ徴求

図4-1-6 被災農家経営再開支援事業の概要

事例:津波による壊滅的な被害直後からの水稲作付再開

岩手県陸前高田市
広田半島営農組合・工房「めぐ海」の皆さん(臼井剛組合長(右から2番目))
広田半島営農組合・工房
「めぐ海」の皆さん
(臼井剛組合長(右から2番目))

岩手県陸前高田市(りくぜんたかたし)の広田半島営農組合は、耕作放棄地の解消のため、農作業の共同化を通じた効率的な農業経営の実現、農用地の利用集積を推進することを目的として平成21(2009)年に集落営農(*)組織として設立されました。

しかし、平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災により、営農組合の事務所や整備したばかりのほ場等が津波で全て流される大きな被害を受けました。

震災で組合員の生命・財産に被害が発生し、事務所等の施設が流失した状況ではありましたが、震災直後から比較的被害の少ない岩倉地区に復興のシンボルとして1haの水田の除塩等を実施し、作付けを行いました。

平成26(2014)年には作付面積を15haまで拡大し、広田半島に住んでいる地元住民に食料を供給することを第一の目標として営農活動を行っています。今後は、規模拡大を進めるとともに、地域の活性化のために後継者の育成にも取り組んでいくこととしています。

また、震災前の平成22(2010)年から、営農組合の中の女性部11人で地元産の食材を利用した手作り工房「めぐ海(み)」を開業し、積極的にイベント等を行っていましたが、こちらも津波により大きな被害を受けました。

しかし、メンバーたちの復興への強い思いから、平成24(2012)年5月には、工房「めぐ海」も再開させました。工房では、営農組合が生産した米粉やかぼちゃ等の野菜、地元産のホタテやワカメなどの海産物を利用したおやき等を作っており、全国のイベント等でも販売されています。今後も、地元に愛される工房を目指し、おやきの具となる海産物の種類を増やすことや、営農組合の生産物を利用したみそや麹を使った新商品の開発を進めるなど、積極的に活動していくこととしています。


*[用語の解説]を参照。

東北地方では、震災前から人口減少、高齢化、産業の空洞化など、全国の地域が抱える課題が顕著に表れていました。このため、復興庁は、復旧・復興に取り組むに当たっては、単なる原状回復にとどめるのではなく、企業・大学・NPO(*1)等の民間の人材やノウハウの活用によりこれらの課題の解決を進めることで、我が国や世界のモデルとなる「新しい東北」を創造することとしています。

まず、被災地で既に芽生えている先導的な取組を加速し、「新しい東北」の創造に向けたノウハウを構築するため、植物工場を活用した新たな農業モデルの構築等の先導モデル事業を実施しており、平成26(2014)年度は95事業を選定・支援しました。

また、先導モデル事業等の成果を被災地に広めるとともに、震災復興に取り組む企業、大学、NPO等の多様な主体間の連携構築を推進するため、官民連携推進協議会を運営しています。平成26(2014)年度は、協議会会員が互いの取組について情報共有・意見交換を行う「会員交流会」を岩手県、宮城県及び福島県の3県で開催しました。

このほか、金融機関等の投融資を促進する取組として「復興金融ネットワーク」の立ち上げやビジネスコンテストの開催、水産加工業等の販路開拓に向けて民間のノウハウを結集する取組として「販路開拓支援チーム」の立ち上げ等を進めています。


*1 [用語の解説]を参照

事例:新しい東北の創造に向けた取組

(1)東北産花きのブランド化等の取組

イベントで展示されたビクトリーブーケ
イベントで展示された
ビクトリーブーケ

東北地方は、夏場の花きの生産地として重要な役割を担っており、平成32(2020)年夏に開催予定の「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会」においても花きの供給地として期待されています。復興庁の「新しい東北」先導モデル事業に採択された「東北発「被災地花き」高品質ブランド創造支援」では、東北産花きの販路の拡大やブランドの確立、次代を担う人材の育成を目的として、東北産花きを使った先導的な取組を行っています。支援内容として、産地、量販店、研究機関、市場、華道家等が連携し、日持ちが良く華やかなブーケ等の新たな商品開発や、プロモーション活動、生産者への教育活動等を行うこととしています。

平成26(2014)年9月には、イオンモール幕張新都心店において、東北産花きの復興をテーマにしたイベントを開催し、華道家によるフラワーデモンストレーション、生け花のワークショップ、消費者参加の模擬せり、従来のイメージを脱却するようなブーケ展示等の様々な催しを行いました。

また同イベントには、東京電力株式会社福島第一原発事故の影響により栽培中止を余儀なくされ、平成26(2014)年に4年ぶりに出荷を再開した福島県川俣町(かわまたまち)山木屋(やまきや)地区のトルコギキョウ(*)も利用され、多くの消費者にその魅力を伝えました。



(2)平成26(2014)年4月に全線開通した三陸鉄道と連携し、沿線地域を活性化

岩手県釜石市

東日本大震災後、岩手県釜石市内(かまいしし)の飲食店事業者の再起を目指して始まった「かまいしキッチンカープロジェクト」は、市内の仮設住宅や飲食店の少ない地域に出張し、食料へのアクセス改善の役割を担ってきました。現在は、キッチンカーの機動力を活かし、その活動範囲を広げています。

同プロジェクトは、平成26(2014)年度より「新しい東北」先導モデル事業として、キッチンカーと三陸鉄道、地元NPOが連携する新しい取組を開始しています。三陸鉄道沿線の地域活性化を目的とし、農業・漁業事業者や沿線住民が参加して地元の農水産物を使った新商品開発や三陸鉄道での車内販売、さらには、農業・漁業体験を通じて地元住民との交流を図るツーリズムを企画・実施しています。

「かまいしキッチンカープロジェクト」のメンバーの皆さん
「かまいしキッチンカープロジェクト」のメンバーの皆さん

三陸鉄道を始めとした地域鉄道は、地域住民や観光客の移動手段として重要な役割を担うとともに、本事業では地域鉄道そのものを観光資源として捉え、農山漁村で展開する6次産業化(*)と連動させることで地域活性化を図る取組であり、地域鉄道のある地域活性化のモデルとなることが期待されています。


*[用語の解説]を参照
 

東日本大震災は、食品産業にも大きな影響を及ぼしました。被災直後から東北6県と茨城県では、多くの卸売市場や、小売業者、流通業者、外食・中食産業事業者が被災し、営業停止等の事態を余儀なくされました。

被害を受けた食品事業者の経営再開も進んでおり、震災後に経営を再開するとともに、新たな商品の開発や新たな栽培方法の実証試験を行うなどの積極的な事業展開を図る食品事業者も出てきています。

また、小売業者や流通業者による被災地域に対する復興支援は、平成26(2014)年度も継続して行われました。


事例:食品事業者、流通業者の復興に向けた取組

(1)ぶどう液の復活と山元町6次化ブランドの確立

宮城県亘理郡山元町
田所林一さん
田所林一さん

宮城県亘理郡(わたりぐん)山元町(やまもとちょう)の田所食品株式会社は、大正7(1918)年から続く山元町のぶどう生産及び加工を引き継ぐ数少ない会社です。同社では、自家栽培の原料ぶどうを加工し、1年から2年熟成させたぶどう液を「マルタの果汁」として販売しています。

同社は、平成23(2011)年3月11日に発生した東日本大震災により、2haのぶどう園が津波で浸水し、樹木等が流出したほか、果汁加工施設や作業所、隣接する自宅も津波による被害を受けました。

被災後すぐに従業員の安否や施設等の確認を行った結果、施設や機械等は大きな被害を受けたものの、<1>人的被害がなかったこと、<2>後継者がいたこと、<3>貯蔵していたぶどう原液が回収できたこと、<4>なじみの顧客から励ましを受けたこと等から経営再開を決意しました。

経営再開後は、岩手県の同業者の施設を借りて瓶詰めを行い、地元でラベル貼りを行うなどの苦労はありましたが、被災4か月後の7月から販売を開始しました。平成24(2012)年度には、東日本大震災農業生産対策交付金により、ぶどう園1.3haの造成と果汁加工施設を整備し、販売も被災前からの顧客にも助けられ、大きく落ち込むことなく、現在では、被災前の水準を上回るまでになっています。

代表の田所林一(たどころ りんいち)さんは、町に貢献したい、地域が元気になってほしいとの思いから、地元のいちごやりんごを利用した加工や新商品の開発、新たなブランド確立の取組など様々なことを行っています。また、今後もぶどう園を順次拡大し、加工用ぶどう以外の生食用ぶどうや他品目の栽培、いちご産地と連携した観光農園の展開等についても模索しています。

 

(2)大手小売業による復興支援企画「東北かけはしプロジェクト」の取組

株式会社セブン&アイ・ホールディングスは、福島県、宮城県及び岩手県等の東北各県や被災した生産者、企業と連携し、「東北かけはしプロジェクト」として、商品開発や販売のほか、キャンペーンや年3回程度のイベントの実施を通じて、東北の農畜水産物の消費拡大及び観光の復興を支援しています。同プロジェクトは、三カ年計画として平成23(2011)年11月から協賛・参加社数22社、取扱商品約200点で開始されましたが、平成26(2014)年7月からは新たな三カ年計画が始動し、平成27(2015)年3月には、協賛・参加社数250社、取扱商品約1,850点まで拡大され、全国のセブン&アイグループ各社約410店舗において復興支援フェアが実施されました。

東京都江東区のイトーヨーカドーにおけるイベント
東京都江東区のイトーヨーカドーにおけるイベント

今後も生産者と消費者双方をつなぐ小売業の強みを活かし、取組を継続・発展させていきたいとしています。

 

(産学官が連携した先端的技術の大規模実証研究)

東日本大震災の被災地を新たな食料生産地域としてより一層早期に復興させるため、農林水産省は、「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」により、これまで産学官が開発してきた多くの農林水産分野における先端技術を組み合わせ、岩手県、宮城県及び福島県の3県で48の研究課題をテーマとして行うとともに、その普及・実用化を推進しています。

具体的な事例としては、<1>津波で被害を受けた宮城県の仙台平野における水田の畝(うね)を取り外してほ場を大区画化し、GPSを利用したほ場均平技術や畑作用の大型機械を利用した乾田直播(ちょくはん)栽培技術、ICT(*1)を活用した栽培管理技術等の先端技術を組み合わせた大規模土地利用型農業の実証研究や、<2>岩手県陸前高田市における岩手県産の木材を利用した木骨ハウスや地域の間伐材を利用した木質バイオマス加温機、傾斜地や狭い土地にも対応可能な建設用足場を利用した低コストハウス、中山間地域に適応した施設園芸技術の実証研究等を行っています(図4-1-7)。


*1 Information and Communication Technologyの略。情報や通信に関する技術の総称

図4-1-7 複数の先端技術を組み合わせた大規模実証研究の例

また、実証研究によって得られた研究成果を速やかに被災地へ普及するため、3県に設置した開放研究室(オープンラボ)を活用した研究成果の展示や、生産、普及、研究に携わる関係者等を対象に最新の研究成果・情報を発信するとともに、関係者からの意見を実証研究に反映することを目的とした研究成果発表会や現地検討会の開催、農林水産省ホームページにおける技術情報の発信など積極的な取組を行っています。

実証研究の普及例としては、被災前は「東北一のいちご生産地」として知られていた宮城県亘理町・山元町において、復興交付金等を活用したいちご生産団地が建設されていますが、これまでの土耕栽培方式に代わって、実証研究機関が提示した高設ベンチ養液栽培方式(*2)や株元温度管理技術(*3)などの研究成果の導入が進んでいます(図4-1-8)。

農林水産省は、実証研究を通じて、東日本大震災による被害を受けた地域における農林水産業の復旧を加速化し、単なる復旧にとどめることなく、多様な環境に応じた新しい技術体系の確立を目指し、持続可能な営農のために必要な研究開発等を実施しています。


*2 苗の位置を高くして、立ったままでの管理作業を可能とし、作業負担の軽減を図る方式。また、養液栽培により、肥料成分が容易に調節でき、安定的な生産が可能
*3 いちごの株元(クラウン)を部分的に加温・冷却することにより、施設全体の温度管理と比べてエネルギーロスを減らし、省エネルギー・安定生産を実現する技術

図4-1-8 大規模実証研究の導入例


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