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農林水産省

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(1)女性農業者の活躍の軌跡 ~「生活改善」から「活躍」の時代へ~


女性農業者は、第二次世界大戦後、昭和23(1948)年から開始された生活改善普及事業(*1)により過重労働から徐々に解放され、やがて自らの意思で経営に参画するようになっていきました。本節では、第二次世界大戦後から令和の現在までの女性農業者の役割、女性農業者を対象とした施策の推移を振り返ります。

*1 生活改善普及事業とは、連合国軍総司令部(GHQ)の指示で実施された農村の民主化を目指した運動。生活をより良くすることと、考える農民を育成するという目的で進められた。

(農村の生活改善から女性の農業経営への参画へ)

農村女性は、農作業だけでなく、家事、育児、介護により過重労働であったと考えられます。第二次世界大戦後の昭和23(1948)年から、実践的な生活技術の普及により、「農家婦人の地位向上」と「農村社会の民主化」を促進し、農業生産と農家生活の調和のとれた改善を図る生活改善普及事業が実施されました。都道府県ごとに採用された生活改良普及員によって、農村女性は、かまど・台所改善による家事労働の効率化や、近代的な衛生学や栄養学を踏まえた家庭経営を学び、これまでのやり方を変えていくようになりました。また、効率的に農家を指導できるよう、生活改良普及員が意欲のある地域を重点的に指導し、女性農業者で構成される生活改善実行グループを作り、グループ同士でも横のつながりを持つようになりました。

昭和30(1955)年から昭和48(1973)年の高度経済成長期には、年平均10%以上の経済成長を遂げ、男性の農外就労機会が拡大しました。「とうちゃん」は農外就労し、「じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃん」が農業を営む、いわゆる「三ちゃん農業」という形態が多く見られるようになり、女性は農業生産において、より中心的な役割を果たすようになるとともに、家事、育児、介護も負担していました。この頃の農業を支えたのは農家に嫁いだ女性たちでしたが、家庭や農村における地位は低く、経営での発言・決定権は十分ではありませんでした。このため、生活改善普及事業では農繁期の共同炊事、共同保育や、農薬散布用作業着の作製等健康維持のための支援も行われました。

昭和45(1970)年頃からは、稲作機械の導入と省力化が進みました。女性が作業をしなくても、農外就労する男性が休日に機械による稲作作業をすることが可能となり、農作業労働が軽減されていきました。これを機に、女性は生活改善実行グループを核に、特産品づくりや農産物直売所の運営等の起業活動に取り組み、注目を集めるようになりました。女性ならではの発想や知恵を活かした起業活動が生まれたことで、女性の資産形成に一定の役割を果たし、また、女性が自らの意思によって経営等に参画するようになっていきました。

かまどの改善(昭和23(1948)年)

かまどの改善
(昭和23(1948)年)

資料:一般社団法人全国農業改良普及協会
「写真でたどる農業と普及事業の50年」

商品化された加工品の販売(平成4(1992)年)

商品化された加工品の販売
(平成4(1992)年)

女性経営者セミナー研修会(平成8(1996)年)

女性経営者セミナー研修会
(平成8(1996)年)

(男女共同参画社会基本法の施行と農業分野における女性施策)

農林水産業・農山漁村の発展に向け、女性が農林水産業の重要な担い手として、より一層能力を発揮していくことを促進するため、農林水産省は昭和63(1988)年に、毎年3月10日 を「農山漁村婦人の日」(後に「農山漁村女性の日」に改称)と定めました。この時期は、農作業が比較的少なく女性が共に学び合う条件が整っていること、女性の3つの能力(知恵、技、経験)をトータル(10)に発揮してほしいという願いが込められています。

また、政府全体でもあらゆる分野で男女が共同して参画する社会の形成を目指し、平成3(1991)年に「西暦2000年に向けての新国内行動計画」が定められました。そして、新国内行動計画に示された政府の方針が、農山漁村で暮らす女性にとって身近なもの、実効あるものとなるよう、具体化することが必要となり、平成4(1992)年に、農林水産省で初めての女性行動計画である「2001年にむけて 新しい農山漁村の女性」(農山漁村の女性に関する中長期ビジョン懇談会報告書 )(以下「中長期ビジョン」という。)が策定されました。中長期ビジョンでは、方針策定の場への女性の参画促進、家族経営協定(*1)の締結、能力の向上と多様な能力開発に向けた環境整備のための女性の起業支援等が明記されました。

このうち、家族経営協定については、家族経営体(*2)における世帯員相互間のルールづくりの意義を有するものであり、その締結を推進することが労働時間、報酬、休日、職業訓練機会、老後の保障等の就業条件を明確にする手段として有効であると考えられました。このため、平成7(1995) 年に、農林水産省は家族経営協定の普及推進に係る通知を発出し、国、地方公共団体や農業委員会、農業協同組合(以下「農協」という。)等の関係機関が連携して、全国で家族経営協定の締結を推進してきました。

平成11(1999)年には、男女共同参画社会の形成のための基本的枠組みを定め、社会全体で、性別に関わりなく、個性と能力を十分に発揮することができる社会の実現を目的とした男女共同参画社会基本法が施行されました。

また、農政においても、平成11(1999)年に施行された食料・農業・農村基本法において、男女共同参画の規定が盛り込まれました。これにより、女性の農業経営における役割を適正に評価し、女性自らの意思によって農業経営等に参画する機会を確保するための環境整備を目指していくこととなりました。

農林水産省では、これらの法律に基づき、男女共同参画の普及・啓発、家族経営協定締結の促進、起業活動・6次産業化(*3)の支援、認定農業者(*4)になるための研修、次世代リーダーの育成等の幅広い施策を講じてきました(図表 特2-2)。これに加えて、各都道府県でも女性農業者向けの起業活動の支援や、経営管理技術を習得するための研修等が行われてきました。

また、これらの女性農業者向けの施策に加え、強い農業・担い手づくり総合支援交付金や農山漁村振興交付金等の幅広い農業者を対象にした事業等においても女性の活躍推進に向けた措置が設けられてきました(図表 特2-3)。

図表 特2-2 男女共同参画社会基本法施行以降の女性農業者向けの施策

データ(エクセル:29KB / CSV:3KB

図表 特2-3 女性の活躍推進に向けた事業(令和元(2019)年度)

データ(エクセル:31KB / CSV:2KB

*1 用語の解説3(1)を参照

*2 用語の解説1、2(1)を参照

*3、4 用語の解説3(1)を参照

事例:グループで個人で進む女性の起業(栃木県、千葉県)

(1)グループ経営起業:企業組合らんどまあむ(栃木県)

栃木県下野市
代表 大越歌子さん(前列右から2人目)と企業組合らんどまあむの皆さん

代表 大越歌子さん(前列右から
2人目)と企業組合らんどまあむ
の皆さん

栃木県下野市(しもつけし)の企業組合らんどまあむ(代表 大越歌子(おおこしうたこ)さん)は、平成23(2011)年、道の駅しもつけの開設に合わせ、地域産品を提供することを目的に、農村生活研究グループメンバーを中心に設立されました。現在、管理栄養士や調理師、介護ヘルパー等の構成員10人(うち女性9人)で地域特産品の加工・販売、配食サービスを行っています。

市から委託され高齢者への配食サービスを実施していますが、配食だけでなく、安否確認や悩み相談も行うなど、女性ならではの心配りが活かされています。

同組合は全員が多彩な能力を発揮しつつ、「やりがい」と「生きがい」を持って活動を行うことで、加工品のブランド化、地産地消、食の改善等を推進し、地域コミュニティの維持・再生にも貢献し、県内の女性起業のモデル事例となっています。

このような取組が評価され、令和元(2019)年度農林水産祭で日本農林漁業振興会会長賞「女性の活躍」を受賞しました。

(2)個人経営起業:株式会社バラの学校(千葉県)

千葉県館山市
中井結未衣さん(中央の方)

中井結未衣さん(中央の方)

バラ

千葉県館山市(たてやまし)の中井結未衣(なかいゆみえ)さんは、会社員からフラワーデザイナーを経て、プリザーブドフラワーの先駆者として東京都表参道でプリザーブドフラワーの教室や販売の経営をしていました。

平成23(2011)年の東日本大震災の被災地支援でお花を持って被災地に行ったところ、「お花を待っていた!」と喜んでもらえて、花には大きな力があると実感し、就農を決意しました。花の栽培に適した移住先を探して、平成24(2012)年に千葉県館山市に移住、「株式会社バラの学校」を立ち上げました。現在は、3aのバラ農園で、300株250品種の食用バラの栽培、加工、販売を行い、都内で教室も開催しています。

中井さんは、「農業の衰退に歯止めをかけるとともに、農福連携を実現すべく、ノンカフェインのローズティーを開発し、国内特許を取得できました。また、社会福祉法人への栽培委託や輸出の取組もスタートしています」と意欲を述べています。

(新しい発想で女性農業者の活躍を推進する「農業女子プロジェクト」)

上記のような施策により、女性農業者の地位向上や農業経営等への参画の推進に取り組む一方で、農林水産省では、平成25(2013)年度に「農業女子プロジェクト」を立ち上げました。これは、女性農業者の知恵と企業の技術を結び付け、新たな商品やサービスの開発等を進める取組であり、社会全体での女性農業者の存在感を高め、女性農業者自らの意識の改革・経営力の発展を促すとともに、若い女性の職業の選択肢に「農業」を加えることを目標としています。令和元(2019)年度末時点で、農業女子プロジェクトのメンバー(以下「農業女子メンバー」という。)は808人で、連携企業として自動車メーカーや衣料品メーカー、農業機械メーカー等33社が参画して、これまでに女性の視点を取り入れた軽トラックや農業機械、農作業時の動作を考慮した衣服、インナー等の企画・開発等を行ってきました。

プロジェクトで開発された商品は、現場でも活用されています。愛知県の女性グループである「おしゃれ農女(のうじょ)」では、農業女子プロジェクトで開発されたトラックでマルシェに参加、農産物販売を展開しています。

農作業時、膝・腰・股関節に負担を感じているという農業女子の声に応えるスパッツを、意見交換会や農業女子の着用テストを経て完成

農作業時、膝・腰・股関節に負担を感じているとい
う農業女子の声に応えるスパッツを、意見交換会や
農業女子の着用テストを経て完成

資料:株式会社ワコール

手になじみ、作業しやすく疲れにくい鎌・鍬等を開発

手になじみ、作業しやすく疲れにくい鎌・鍬等を開発

資料:カネコ総業株式会社

UVカットガラスを採用し、フロアの高さを下げるなど乗降しやすい全8色のボディーカラーの軽トラックを開発

UVカットガラスを採用し、フロアの高さを下げるな
ど乗降しやすい全8色のボディーカラーの軽トラック
を開発

資料:ダイハツ工業株式会社

「おしゃれ農女」のみなさん 農業女子プロジェクト成果品である軽トラックでマルシェに出店

「おしゃれ農女」のみなさん
農業女子プロジェクト成果品である軽トラックで
マルシェに出店

立上げから6年が経過し、活動の幅も広がっています。メンバー自身が関心事項をテーマとする自主的な勉強会を実施する取組が行われています。その一つとして、竹林千尋(たけばやしちひろ)さん(大分県)や堤由美(つつみゆみ)さん(兵庫県)が中心となって、海と畑の地域資源循環を軸とした農業を確立させ、農業女子メンバーの農園や農産物等の付加価値を高めるプロジェクトが開始されています。

また、平成28(2016)年11月には、高校・大学等の教育機関と活躍する農業女子メンバーによる「チーム“はぐくみ”」を結成しました。女子生徒・学生を対象に農業についてのワークショップを行ったり、農業女子メンバーの農場で実習したりするなど、未来の農業女子を育む活動を展開しています(図表 特2-4)。これまで3人の女子生徒・学生が卒業後新規就農しました。

図表 特2-4 未来の農業女子育成「チーム“はぐくみ”」

また、活動には地域的な広がりも出てきています。平成26(2014)年には、農業女子プロジェクトへの参加を契機にネットワークや情報交換の重要性を感じた農業女子メンバーが、地元でも女性農業者のネットワークを構築しました。令和元(2019)年度には、農業女子プロジェクトの「地域版グループ」(メンバーの半数以上が農業女子メンバーである農業女子プロジェクト事務局公認のグループ)は7つとなり、それぞれのグループ内で情報交換、マルシェ出店、商品開発等の活動をしています(図表 特2-5)。

さらに、農業女子メンバーが一人以上関わっている地域におけるグループは、全国で約60となりました。

図表 特2-5 農業女子プロジェクトの活動拡大、発展(地域版グループの展開)

海外に目を向けた活動を展開する農業女子メンバーもいます。例えば、埼玉県の貫井香織(ぬくいかおり)さんは、平成29(2017)年に農業女子プロジェクトと連携して開催した香港でのフェアをきっかけに、平成30(2018)年に、新ブランド「Famable(ファーマブル)」の統一ブランドで自ら生産した農産物を香港でプロモーションする試みを行いました。また、農山漁村女性が主要テーマとして取り上げられた平成30(2018)年3月開催の「国連女性の地位委員会」のサイドイベントでは、山形県の結城(ゆうき)こずえさんが自らの体験の発表を行いました。農業女子プロジェクトを通じて知り合った女性農業者ネットワークが、加工や販路開拓等の自身の経営の発展につながったこと等を発表しました。



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