第7節 気候変動への対応等の環境政策の推進
気候変動の影響は既に顕在化しており、今後、その影響が拡大することが予測されています。このため、温室効果ガス(*1)の排出削減と吸収による緩和策と、その影響の回避、軽減による適応策を一体的に充実・強化することが重要です。また、農業・農村の発展や農産物の安定的な生産の基盤となる生物多様性の保全と持続可能な利用や、有機農業をはじめとする環境に配慮した持続可能な農業生産の推進が求められています。
*1 用語の解説3(1)を参照
(1)気候変動に対する緩和・適応策の推進等
(気候変動の影響による穀物価格の上昇をIPCCが報告)
令和元(2019)年8月のIPCC(*1)総会において、陸の生態系から排出・吸収される温室効果ガス量についての最新の知見と、気候変動への緩和と適応、砂漠化・土壌劣化の防止と食料安全保障(*2)に寄与する持続可能な土地管理についての科学的な知見を示した特別報告書(*3)が承認・受諾され、公表されました。
同報告書では、気候変動により令和32(2050)年までに穀物価格が中央値で7.6%(範囲は1から23%)上昇し、食料価格の上昇や食料不足、飢餓のリスクをもたらすと予測されています。また、世界全体の人為的活動に起因する温室効果ガスの正味の総排出量のうち、農業や林業等の土地利用による温室効果ガスの排出量は約23%に相当し、更にグローバルフードシステム(*4)における排出量も含んだ場合は、21から37%を占めるとされています。このようなことから、食品ロスや廃棄物の削減、食生活の改善に向けた対策等を含む、生産から消費に至るサプライチェーンにわたって運用される政策は、持続可能な土地管理や食料安全保障の強化、温室効果ガスの排出削減を図る上で重要な役割を担っているとされています。
*1 気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)の略
*2 用語の解説3(1)を参照
*3 正式名称は、「気候変動と土地:気候変動、砂漠化、土地の劣化、持続可能な土地管理、食料安全保障及び陸域生態系における温室効果ガスフラックスに関するIPCC特別報告書」
*4 食料の生産、加工、流通、調理及び消費に関連するすべての要素(環境、人々、投入資源、プロセス、インフラ、組織等)及び活動、並びに世界レベルにおける社会経済的及び環境面の成果を含む、これらの活動の成果
(COP25では市場メカニズムの実施指針について完全合意に至らず)
平成27(2015)年に、地球温暖化対策の国際ルールとして、世界の平均気温の上昇を工業化以前に比べ2℃未満に抑えることを目指し、1.5℃を努力目標としたパリ協定が採択されました。
令和元(2019)年12月にスペインで開催された国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)では、平成30(2018)年12月に開催されたCOP24において合意に至らなかった、パリ協定第6条に当たる市場メカニズムの実施指針の交渉が一つの焦点となりましたが、全ての論点について完全に合意するには至りませんでした(図表2-7-1)。農業分野については、平成29(2017)年のCOP23で決定された「農業に関するコロニビア共同作業(*1)」に基づき、養分利用等をテーマとするワークショップが開催され、我が国は作物による窒素肥料の効率的な利用と温室効果ガスの排出削減につながる生物的硝化抑制技術等を紹介しました。
温室効果ガスは、自動車、工場、火力発電所等における化石燃料の燃焼によってその多くが発生しています。農林水産業においても、燃料の燃焼、稲作、家畜排せつ物の管理といった営農活動により温室効果ガスが排出されており、我が国の農林水産分野における平成29(2017)年度の排出量は5,154万t(二酸化炭素換算)で、我が国の総排出量の4.0%を占めています(図表2-7-2)。引き続き、施設園芸の省エネルギー化、施肥の適正化等の排出削減に向けた取組を推進する必要があります。
*1 気候変動枠組条約の下で農業の脆弱性や食料安全保障への具体的な対応を議論するワークショップや専門家会合
(「脱炭素化社会に向けた農林水産分野の基本的考え方」を取りまとめ)

地球温暖化対策としては、温室効果ガスの排出削減と吸収により大気中の温室効果ガス濃度を安定させ、地球温暖化の進行を食い止める緩和策と、気候変動やそれに伴う気温や海水面の上昇等に対して人、社会、経済のシステムを調整することにより影響を回避・軽減する適応策の2つに分類することができます。
我が国では、緩和策として、平成10(1998)年に地球温暖化対策推進法が施行され、これに基づいた地球温暖化対策計画が策定されています。また、適応策として、平成30(2018)年に気候変動適応法が施行され、新たに気候変動適応計画が策定されました。農林水産省においても、温室効果ガスの排出削減、森林や農地土壌による吸収等の地球温暖化の緩和策と、地球温暖化がもたらす悪影響を回避・軽減する適応策を一体的に推進しています(図表2-7-3)。
平成30(2018)年10月に公表されたIPCCの1.5℃特別報告書(*1)によれば、将来の平均気温の上昇が1.5℃を大きく超えないようにするためには、世界の二酸化炭素排出量を令和32(2050)年前後に正味ゼロとする必要があり、これを達成するためには、エネルギー、土地、都市、インフラ等における急速かつ幅広い移行が必要とされています。
そのため、我が国では令和元(2019)年6月に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(以下「長期戦略」という。)を策定し、最終到達点として掲げた脱炭素社会の実現に向け、令和32(2050)年までに80%の温室効果ガスの排出削減に取り組むこととしています。一方で、農林水産分野において、現行の温室効果ガス排出削減努力を続けた場合、平成25(2013)年度から令和32(2050)年度までの削減量は、13%にとどまるとされています(図表2-7-4)。これを踏まえて農林水産省では、平成31(2019)年4月に「脱炭素化社会に向けた農林水産分野の基本的考え方」を取りまとめ、柱となる4つの取組方針の下、農林水産業における排出削減や吸収源への対策に加え、農山漁村におけるバイオマス(*2)資源の他地域や他産業への供給等を促進することにより、トータルとして我が国の温室効果ガスの大幅削減に貢献することを目指しています(図表2-7-5)。
また、政府は、令和2(2020)年1月に長期戦略に基づく「革新的環境イノベーション戦略」を策定しました。このうち、農林水産分野では、最先端のバイオ技術等を活用した資源利用と農地土壌へのバイオ炭等の投入、早生樹(*3)・エリートツリー(*4)の開発・普及、ブルーカーボン(*5)の増大等による農地・森林・海洋への二酸化炭素の吸収・固定、農畜産業から排出されるメタン・一酸化二窒素の削減、農林水産業における再生可能エネルギーの活用、燃料や資材の削減技術等を用いたスマート農林水産業等に取り組むこととしています。
平成31(2019)年4月、G20各国及び国際研究機関の連携を強化することを目的としたG20首席農業研究者会議(MACS)が初めて我が国で開催され、主要議題の一つとして「気候変動対応技術」が取り上げられました。本会議では、気候変動対応技術の開発と普及に関する経験と最新情報を共有し、研究連携を促進するため、我が国から令和元(2019)年にワークショップを開催することを提案し、支持されました。これを受けて、同年11月に我が国で開催された国際ワークショップでは、気候変動対応技術・農法の導入・拡大に関して各国と国際機関の経験を共有するとともに、気候変動への適応や農業からの温室効果ガスの排出削減に向けて、他国の経験から得られる教訓について議論を行いました。
*1 正式名称は、「気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な発展及び貧困撲滅の文脈において工業化以前の水準から1.5℃の気温上昇にかかる影響や関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関する特別報告書」
*2 用語の解説3(1)を参照
*3 特に成長が早い広葉樹や外国樹種
*4 成長や材質等の形質が良い精英樹同士の人工交配等により得られた次世代の個体の中から選抜される、成長等がより優れた精英樹のこと
*5 海洋生態系によって隔離・貯留された炭素
コラム:気候変動に対応する農業技術国際シンポジウム
令和元(2019)年5月に京都府で開催されたIPCC総会に併せ、5月13日から15日にかけて、気候変動に対応する農業技術国際シンポジウムが滋賀県にて開催されました。本シンポジウムは、気候変動に対応した農業技術に対する国内外の理解促進を通じ、気候変動の緩和・適応に貢献し得る環境に配慮した農業の取組を促進することを目的としており、気候変動と農業に関する各国の最新事情、最新の対応技術についての事例紹介や意見交換が行われました。
本シンポジウムでは、気候変動への対応は農業者、政府、地域社会、研究者、フードシステムに関する事業者等の多様な関係者の連携が最も基本であること、農業者は気候変動の中心にあり、対応策の実施を拡大させることができる存在であるとともに、世界の食料安全保障と栄養を供給する役割を担っていることを、消費者を含めた全ての関係者が認識する必要があること等が強調されました。
本シンポジウムには、2日目のフィールドツアー、3日目の土壌に関する農業者と研究者をつなぐワークショップまでの3日間を通じ、世界21か国から延べ約700人が参加しました。
(顕在化しつつある気候変動の影響に適応するための品種や技術の開発を推進)
農業生産は一般に気候変動の影響を受けやすく、各品目で生育障害や品質低下等の地球温暖化によると考えられる影響が現れており、この影響を回避・軽減するための品種や技術の開発・普及が進められています。水稲については、高温でも品質低下が起こりにくい高温耐性品種の導入が進められており、平成30(2018)年産における作付面積は、前年産に比べ3万2千ha増加し、12万6千haとなりました。ぶどうでは高温でも着色しやすい品種や着色不良等を抑制するための環状剝皮(はくひ)処理等の技術の導入、日本なしでは高温による花芽の枯死が起こりにくい品種の導入、うんしゅうみかんでは浮皮を抑制するためのジベレリン等の植物成長調整剤の散布等の技術の導入が、産地にて推進されています。
(2)生物多様性の保全と持続可能な利用の推進
(「農林水産省生物多様性戦略」の改定に向けた提言を取りまとめ)
令和2(2020)年の秋以降に開催予定の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において、今後10年間に達成すべき新たな世界目標が決定される予定です。それに伴い、各国は同目標の実施に向けて、次期国家戦略を策定することとなります。このため、農林水産省では現行の「農林水産省生物多様性戦略」(以下「戦略」という。)の見直しに向け、有識者による研究会を開催し、令和2(2020)年2月に戦略改定に向けた提言を取りまとめました(図表2-7-6)。
また、令和2(2020)年2月には、生物多様性保全を重視した食農ビジネスの普及・啓発を推進することを目的として『SDGs×生物多様性シンポジウム「未来を創る食農ビジネス」』を開催し、同提言を発表するとともに、持続可能な生産・消費を実現するためのヒントとなる先進的な事例を紹介しました。

(3)環境保全に配慮した農業の推進
(環境保全型農業等により高い生物多様性保全効果が期待)
有機農業を始めとする環境保全に配慮した農業は、農業の自然循環機能を増進させるとともに、環境への負荷を低減させるものであり、生物多様性の保全等、生物の生育・生息環境の維持にも寄与しています。実際に、農研機構が実施した全国規模の野外調査によると、有機・農薬節減栽培の水田では慣行栽培よりも多くの動植物が確認できること、一部の種については畦畔(けいはん)の植生高や輪作等の管理法が個体数の増加につながることが分かりました(*1)。
*1 Katayama, N. et al.(2019). Organic farming and associated management practices benefit multiple wildlife taxa: A large-scale field study in rice paddy landscapes. Journal of Applied Ecology, 56, 1970-1981.
コラム:環境保全に配慮した農業に関する制度等
〈農産物及びその生産行程にかかる認証・表示に関する制度〉
○有機農産物の日本農林規格
農業の自然循環機能の維持増進を図るため、化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本として、土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法を採用したほ場において生産された農産物を認証する制度です。認証された農産物には有機JASマークが付けられています。
○特別栽培農産物に係る表示ガイドライン
地域の慣行レベルに比べ、化学的に合成された肥料及び農薬の使用回数が5割以下で栽培された農産物について、表示する際のガイドラインです。このガイドラインに基づき、都道府県等が独自の表示・認証制度を設けています。
〈農業者に関する制度〉
○エコファーマー
持続性の高い農業生産方式の導入に関する法律に基づき、土づくり、化学的に合成された肥料及び農薬の使用を低減する技術の全てを用いて行う農業生産方式を導入する計画を作成し、都道府県知事の認定を受けた農業者の愛称です。
〈農業者が行う生産工程管理の取組〉
○GAP(Good Agricultural Practice)
農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理を行い、よりよい経営改善につなげる取組です。環境保全の項目には、適切な施肥、廃棄物の適正処理・利用等の取組が含まれています。
(我が国の有機農業取組面積は約10年間で4割拡大)
世界の有機食品市場は、欧米を中心に拡大しており、これに対応する形で世界の有機農業の取組面積は、平成11(1999)年から平成30(2018)年の間に約7倍に拡大し、全耕地面積に対する有機農業取組面積割合は1.5%に達しています(図表2-7-7)。
我が国においても有機食品の市場規模は拡大しており、平成21(2009)年の1,300億円から平成29(2017)年では1,850億円(*1)と推計され、約10年間で1.4倍となっています。同じく、我が国の有機農業の取組面積も平成22(2010)年度から4割拡大し、平成29(2017)年度には2万4千haとなりましたが、全耕地面積に占める割合は、0.5%にとどまっています(図表2-7-8)。
*1 農林水産省「平成29年度有機食品マーケットに関する調査」を基に推計
(「有機農業の推進に関する基本的な方針」を見直し)
農林水産省では、有機農業の推進に関する法律に基づく「有機農業の推進に関する基本的な方針」の見直しを行うため、平成30(2018)年12月から食料・農業・農村政策審議会に果樹・有機部会を設けて、議論を行い、令和2(2020)年3月に答申を受けました。同方針では、基本的な事項として、有機農業がSDGsの達成等農業施策の推進に貢献する特徴に鑑み、有機農業の生産拡大に向けた人材育成や産地づくり、有機食品の国産シェア拡大に向けた販売機会の多様化、消費者の理解の増進を推進することとし、有機農業の取組面積、有機農業者数、有機食品の国産シェア、週1回以上有機食品を利用する者の割合の目標を設定したところです(図表2-7-9)。
(各地の有機農業の取組を支援)
農林水産省では、有機農産物の安定供給体制の構築を目指す各地の取組を支援しており、令和元(2019)年度は全国26地区で農業者のネットワークづくりや技術講習会等の取組を支援するとともに、全国の取組の事例集を作成し、周知しました。また、生産現場での雑草対策や流通分野の課題に対応する実証の取組も支援しています。
また、農林水産省では、有機農業に地域で取り組むことを支える仕組みづくりの一環として、有機農業を活かして地域振興につなげている又はこれから取り組みたいと考える市町村や、このような市町村をサポートする都道府県、民間企業の情報交換等の場として、令和元(2019)年8月に「有機農業と地域振興を考える自治体ネットワーク」を立ち上げました。
事例:有機JASを取得し有機農産物の輸出に取組(兵庫県)
昭和46(1971)年に一度絶滅したコウノトリの最後の生息地である兵庫県豊岡市(とよおかし)では、人工繁殖を経て現在100羽以上のコウノトリを飼育するなど、コウノトリの保護活動を行っています。
市内のたじま農業協同組合では、生き物が生息しやすい環境づくりのために、コウノトリも住める豊かな文化・地域・環境づくりを目指す「コウノトリ育む農法」による米の栽培を推進しています。現在は472haの面積で、冬の田にも水を張る「冬期湛水」、育苗段階からの有機質肥料の使用、栽培期間中に農薬を使わない又は使用量を減らす取組が行われています。
また、同農協では有機JASの認証取得と輸出にも取り組んでいます。平成30(2018)年度には14haの水田で有機JAS認証を取得し、収穫した有機JAS米のオーストラリアへの輸出を実現しました。さらに、同年に全国の農協で初めてGLOBAL G.A.P.(*)のグループ認証も取得し、シンガポールへの輸出も行いました。
* 用語の解説3(2)を参照
事例:有機農業の新ブランドで地域の農業者を育成(山形県)
「有機農業と地域振興を考える自治体ネットワーク」の会員である山形県鶴岡市(つるおかし)では、農業の担い手不足が深刻な課題となっており、平成31(2019)年3月に鶴岡市農業人材育成・確保プロジェクトを設立しました。同プロジェクトでは産学官の連携によって、就農者が市内へ定着するよう人材の育成・確保のための仕組みづくりを進めています。
また、同プロジェクトの一環として、令和2(2020)年4月から、鶴岡市立農業経営者育成学校(SEADS(シーズ))が開校します。ここでは、有機農業を中心とし、農業技術や、営農計画の策定から販路の開拓までの経営に必要な知識を座学と実践を通じて学ぶことができます。
また、ヤマガタデザイン株式会社は農協と連携し、有機農業を中心とした新ブランド「SHONAI ROOTS(ショウナイ ルーツ)」を立ち上げ、同ブランドを通じた、有機農産物の販売体制の構築や販路拡大、新規就農者(*)の獲得、農業者の所得向上の実現を目指しています。鶴岡市もプロモーション支援等の協力を行い、販売収益の一部はSEADSに運営経費として還元する予定です。
鶴岡市では、これらの取組を通じて地域で農業人材を育成する循環を創り、有機農業等の更なる発展を目指しています。
* 用語の解説2(5)を参照
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