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農林水産省

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第3節 農泊を中心とした都市と農山漁村の共生・対流


農泊とは、農山漁村において農家民宿や古民家等に滞在し、我が国ならではの伝統的な生活体験や農村の人々との交流を通じて、その土地の魅力を味わってもらう農山漁村滞在型旅行のことです(図表3-3-1)。農泊を通して、都市住民や訪日外国人旅行者等を農山漁村に呼び込み、宿泊してもらい、また地域の食材を活用した食事メニューや自然、伝統文化等の体験プログラム等を提供することにより、地域の所得向上や雇用の創出、さらには農業や農村への理解の促進が期待されます。

図表3-3-1 農泊のイメージ

(農泊をビジネスとして実施できる体制を持った地域の創出)

都市と農村の交流は、都市住民の農業・農村に対する関心を向上させるだけでなく、農村住民にとっても、地域の魅力を再発見し、生きがいと活性化をもたらす大きな役割を果たしています。

このような中で、平成28(2016)年3月に閣議決定された「明日の日本を支える観光ビジョン」では、「日本ならではの伝統的な生活体験と非農家を含む農村の人々との交流を楽しむ農泊を推進する」とされ、これを受けて関係省庁が連携して農泊を積極的に推進しています。

農泊は、観光立国推進基本計画(*1)等の関係施策にも位置付けられ、令和2(2020)年までに、農泊を持続的なビジネスとして実施できる体制を持った地域を500地域創出することとされています。農林水産省では農山漁村振興交付金の農泊推進対策により、令和元(2019)年10月現在、全国で515地域を採択し、農泊の取組を支援しています(図表3-3-2)。

図表3-3-2 農泊推進対策地域

*1 平成29(2017)年3月閣議決定

(農泊の体制整備は進みつつあるものの一層の環境整備が必要)

平成29(2017)年度から実施している農山漁村振興交付金の農泊推進対策により、宿泊、食事、体験プログラム等を提供する地域の多様な関係者を構成員とする協議会や農泊実施の中心となる役割を担う法人の設立等体制の整備は進んでいます。その結果、平成30(2018)年度までに支援した349地域において、体験プログラム数は、支援前の平成28(2016)年度末の3,672件から平成30(2018)年度末には4,708件に増加しました(図表3-3-3)。また、延べ宿泊者数は平成28(2016)年度の288万人から平成30(2018)年度には366万人へと増加し、中でも訪日外国人旅行者の延べ宿泊者数は約12万人から2.3倍となる約28万人に増加しました(図表3-3-4)。

一方、利用者のニーズに対応した農泊らしい地域を創出するためには、農家民宿、古民家等の魅力的な宿泊施設の整備、更なる食事メニューや体験プログラムの充実が課題となっています。

また、訪日外国人旅行者の受入れに重要となる無線LAN、洋式トイレ、キャッシュレス決済、外国語に対応したWebサイト等を備えている農泊地域は、依然として少なく、例えば、外国語Webサイト等を提供している農泊地域は、349地域のうち149地域と全体の43%にとどまっています(図表3-3-5)。

このため、引き続き、地域の資源を最大限活用し、ジビエ料理等の食事メニューや農業、文化、自然等の体験プログラムの開発、農家民宿等の宿泊施設の整備のほか、インターネット予約を含む外国語Webサイトの対応等の支援を行っています。

図表3-3-3 体験プログラム数

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図表3-3-4 延べ宿泊者数

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図表3-3-5 訪日外国人旅行者受入れに向けた環境整備

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また、内閣府の世論調査(*1)では、半数以上が農泊の「意味を知らず、言葉を聞いたこともなかった」と回答しました。世代別で見ると、20代以下の層では特に認知度が低くなっており、若い世代を中心に、農泊の周知に取り組むことが必要です(図表3-3-6)。

図表3-3-6 農泊の年齢別認知度

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*1 内閣府「食と農林漁業に関する世論調査」(平成30(2018)年11月)

(地方部における外国人宿泊者数は増加)

農泊は、都市住民だけでなく、訪日外国人旅行者にとっても、普段の生活では味わえない我が国の魅力に触れられる貴重な機会です。

日本政府観光局(JNTO)の調査(*1)によれば、令和元(2019)年の訪日外国人旅行者数については3,188万人となり、前年と比べ2.2%増加し過去最高を記録しました。また、旅行消費額は4兆8,135億円(*2)、地方部における延べ宿泊者数は3,921万人泊(*3)となり、いずれも過去最高を記録しました。

こうした訪日外国人旅行者の旅行消費額のうち、飲食費は1兆397億円(*4)となっているほか、買物代のうち、菓子類、酒類、生鮮農産物等食料品の購入費は、3,268億円(*5)となっています。これらの訪日外国人旅行者の日本食・食文化への需要を農山漁村に呼び込むことで、農山漁村地域の所得の向上等を図るとともに、訪日外国人旅行者数の更なる増加と我が国の農林水産物・食品の輸出拡大につなげるといった好循環を構築していくことが重要です。

実際に、地方部に宿泊する外国人の割合は4割程度となっており、地方部への関心が高まっています(図表3-3-7)。また、都道府県別に過去5年間の外国人宿泊者数の増加率を見ると、青森県、宮城県、山形県、福島県、岡山県、香川県で4倍以上となっており、今後、地方部における農泊の取組が更に拡大されていくことが期待されます(図表3-3-8)。

図表3-3-7 外国人延べ宿泊者数と宿泊地に占める地方部の割合

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図表3-3-8 都道府県別に見た外国人延べ宿泊者数の増加状況(過去5年間)

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*1 JNTO「2019 年訪日外客数」

*2、4 観光庁「訪日外国人消費動向調査(令和元年年間値(確報))」

*3 観光庁「宿泊旅行統計調査(令和元年年間値(速報))」

*5 観光庁「訪日外国人消費動向調査(令和元年年間値(確報))」を基に農林水産省作成

(「SAVOR JAPAN」認定地域に6地域を追加)

このように、地方部に宿泊する外国人が増え、本場の日本食を体験したいという外国人のニーズが高まっている中で、農林水産省は、地域の食・食文化や農林水産業を核に訪日外国人旅行者を中心とした観光客を誘致する地域を認定する取組「SAVOR JAPAN(セイバージャパン)(農泊 食文化海外発信地域)」を始めました。SAVOR JAPANとして認定された地域は、前年度から6地域増え、令和元(2019)年度では全国で27地域となりました(図表3-3-9)。

図表3-3-9 SAVOR JAPAN認定地域一覧

事例:農泊により海外や都市との交流人口が増加(宮崎県)

宮崎県高千穂郷3町2村

*は高千穂町、日
之影町、五ヶ瀬町、
諸塚村、椎葉村

古民家を改修した一棟貸しの農泊施設「corasita」(洋室(上)、和室(下))

古民家を改修した一棟貸しの
農泊施設「corasita」(洋室(上)、
和室(下))

宮崎県高千穂町(たかちほちょう)、日之影町(ひのかげちょう)、五ヶ瀬町(ごかせちょう)、諸塚村(もろつかそん)、椎葉村(しいばそん)の5町村を対象とするフォレストピア高千穂郷(たかちほごう)ツーリズム協会は、平成24(2012)年に、交流人口の増加を図る取組として設立されました。

ゲストハウスや集落ボランティアセンターを中心として、フットパス(*)、焼畑、山暮らし、藁(わら)・竹細工等の交流プログラムの体験に加え、神楽料理、焼畑料理といった地域の食の提供、農泊の推進、学校の教育旅行、一般旅行者の誘致を行い、高千穂地域の魅力を発信、地域活性化を図っています。

設立当初の受け入れ可能な家庭は、民宿も含め33戸でしたが、現在は65戸と増加したほか、中国や台湾の高校生の修学旅行も受け入れています。協会では、平成28(2016)年で千人であった外国人観光客を令和3(2021)年には3千人まで増やすことを目指しています。平成29(2017)年、九州では第1号となるSAVOR JAPANに認定されました。

* 森林や田園地帯、古い町並み等地域に昔からあるありのままの風景を楽しみながら歩くことができる散歩道のこと。

(「子ども農山漁村交流プロジェクト」により都市農村交流を推進)

農山漁村体験は、子供が自然や歴史、文化等について学び、理解を深めることで、生命と自然を尊重する精神や環境保全に対する意識を養います。また、農林漁業の意義を理解させるとともに、それらを通じて人と人とのつながりの大切さを認識させることで、子供の生きる力を育むことができます。さらに、都市部の児童生徒が小中高の各段階において、地方へのUIJターン(*1)の基礎を形成することも期待できるなど、一定期間農山漁村に滞在し、農山漁村体験を行うことの意味合いは大きいと考えられます。このため、農林水産省を含む関係省庁は、都市農村交流の一環として、子供が農山漁村に宿泊し、農林漁業の体験や自然体験活動等を行う「子ども農山漁村交流プロジェクト」を推進しています。

*1 いったん大都市圏に流出した地方出身者が出身地へ帰住するUターン、地方出身者が出身地まで戻らず、近くの中核都市等で職を得て安住するJターン、都市圏出身者が地方に職を得て定住するIターンの総称

コラム:子供の農山漁村体験の効果

子供の農山漁村体験は、その後の農業との関わりだけでなく、子供の生活面にも良い影響を与えることが期待されています。

平成19(2007)年の国土交通省の調査によると、子供の頃に農作業体験に参加したことがある者の64%が「農産物直売所の利用や農地トラストに参加した」と回答し、同42%が、「農林業体験や市民農園等に参加した」と回答しています。これらは、子供の頃の農作業体験がない者に比べて高い割合となっており、子供の頃の農作業体験が、その後の農業への関わりに良い影響を与えていることが分かります。

また、農山漁村体験の前後で、「身の回りの整理整頓をするようになった」、「自然にふれ合うようになった」、「ボランティアに参加することが大事と思うようになった」という問いに対し、肯定的に回答する割合が増加しており、子供の生活面や意識にも良い影響があることが分かります。

子供の農山漁村体験の農業面の効果

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子供の農山漁村体験の農業以外の効果

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(「ディスカバー農山漁村の宝」に31地区と5人を選定)

農林水産省と内閣官房は、平成26(2014)年度から、農山漁村の有するポテンシャルを引き出すことにより地域の活性化や所得向上に取り組んでいる優良な事例を「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」として選定しています。こうした優良な事例を全国に発信することで横展開が図られること等が期待されます。

令和元(2019)年6月には、それまでに選定された地区等が集まる「サミット」を開催し、選定後も意欲的に活動に取り組む最優良地区として和歌山県有田市(ありだし)の株式会社早和果樹園(そうわかじゅえん)を選定・表彰したほか、選定地区の中から情報発信を行うアンバサダーを決定するなどのイベントを行いました。また、令和初となる第6回選定では31地区及び新設された個人部門で5人が選定されました。

事例:茶・抹茶の海外展開で輸出売上を増加(静岡県)

静岡県島田市
World Tea Expo 2017ラスベガスにおける出展の様子

World Tea Expo 2017ラスベガス
における出展の様子

静岡県島田市(しまだし)にある杉本製茶(すぎもとせいちゃ)株式会社は、ディスカバー農山漁村(むら)の宝(第6回選定)に選定されました。杉本製茶株式会社は、茶生産農家の所得向上や後継者確保のため、国内の中小製茶企業に先駆けて、輸出事業に着手し、海外展示会への出展や輸出向けの施設整備等に取り組みました。その結果、現在は茶・抹茶を22か国(*)へ輸出し、輸出売上高は平成26(2014)年の8,000万円から平成30(2018)年には5億円に増加しています。

このほか、地元高校生による欧米の茶流通に関する研究の支援等にも取り組んでいます。

ディスカバー農山漁村の宝では、これらの取組が評価され、ビジネス部門において準グランプリを受賞しました。

杉本製茶代表取締役の杉本博行(すぎもとひろゆき)さんは「今後も世界各国へ日本茶の情報発信を行い、日本茶の素晴らしさを伝えていくとともに、新規の輸出国を増やし世界中に日本茶のファンを増やしていけるように努力してまいります。」と話しています。

* 令和2(2020)年3月時点



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