4 グローバルマーケットの戦略的な開拓
(1)官民一体となった農林水産物・食品の輸出促進
ア オールジャパンでの輸出促進体制の整備
令和元(2019)年に輸出額を1兆円とする目標の達成に向けて官民一体となって「農林水産業の輸出力強化戦略」(平成28年5月策定。以下「輸出力強化戦略」という。)の着実な実行のため、以下の取組を行いました。
(ア)GFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)のコミュニティサイトを通じ、農林水産省が輸出の可能性を診断する輸出診断や、輸出に向けた情報の提供、登録者同士の交流イベントの開催等を行いました。
また、輸出先国のニーズや規制等に対応した「グローバル産地」の形成を進めるために、産地づくりの計画策定、計画実行に向けた体制整備、生産・加工体制の構築等を支援しました。
(イ)水産物、米・米加工品、林産物、花き、青果物、畜産物、茶及び加工食品(菓子)の品目別輸出団体が、オールジャパンで取り組む日本産品の情報発信や販路開拓の取組を支援しました。
(ウ)日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)による新たな海外市場の開拓・拡大のための戦略的プロモーション等を実施しました。
また、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)への予算措置を通じて、輸出相談窓口のワンストップ対応、専門家による支援、セミナーの開催、国内外での商談、見本市への出展、様々な国内支援機関が参画する新輸出大国コンソーシアムによる支援等、輸出に取り組む事業者を継続的にかつ一貫して支援しました。
イ 輸出阻害要因の解消等による輸出環境の整備
(ア)農産物等輸出促進
a東電福島第一原発事故を受けて、諸外国・地域において日本産食品に対する輸入規制が行われていることから、関係省庁が協力し、各種資料・データを提供しつつ輸入規制の撤廃・緩和に向けた働き掛けを実施しました。
b日本産食品等の安全性や魅力に関する情報を諸外国・地域に発信するほか、海外におけるプロモーション活動の実施により、日本産食品等の輸出回復に取り組みました。
c「輸出力強化戦略」に基づく輸出環境整備に向けた取組として、放射性物質に係る諸外国の輸入規制の撤廃・緩和等の政府間交渉に必要となる科学的データの収集や、現行では輸出先国で使用が認められていない既存添加物の登録申請等に取り組む民間団体等への支援、EU加盟国への輸出が可能となる環境整備等を行いました。
d農林水産省に設置される農林水産物・食品輸出本部の下で関係省庁が一丸となって、放射性物質に係る輸入規制の撤廃・緩和を始めとした輸出先国との協議、輸出証明書発行、施設認定等の手続を円滑化するための環境整備等を図ることを内容とする「農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律」が第200回国会で成立しました。
e輸出先となる事業者等から求められるHACCP、GAP等の認証取得を促進しました。
また、国際的な取引にも通用するHACCPをベースとした食品安全管理に関する規格・認証の仕組みであるJFS(日本発の食品安全管理規格)を充実させ、その国際標準化に向けた取組を支援しました。
さらに、GFSI(世界食品安全イニシアティブ)の承認を受け、国際的に認められたJFS及びASIAGAPの国内外への普及を図りました。
f輸出先国・地域における農薬の残留基準に対応するための防除マニュアルについて、普及指導員等を通じて生産現場への普及を進めるとともに、防除マニュアル活用の優良事例を広く公表することにより、輸出に向けた取組の円滑化を図りました。
また、ニーズに応じた専門家を産地に派遣し、輸出先国・地域の残留基準や植物防疫条件を満たす栽培方法や選果等の技術的指導を行うなど、輸出に取り組もうとする産地を支援しました。
(イ)輸出検疫
a輸出植物解禁協議を迅速化するため、技術的データ等の蓄積を都道府県等との連携の下で集中的、体系的に進めるとともに、国際基準の策定に向けて、害虫の殺虫効果に関するデータを蓄積して検疫処理技術を確立する取組を推進しました。
また、畜産物の輸出先国が求める家畜衛生上の要件に対応するため、EBL(牛白血病)等の家畜の伝染性疾病対策を支援するとともに、野生動物を対象としたCSF(豚熱)等の伝染性疾病の検査を行いました。
b輸出先国の検疫条件に則した防除体系、栽培方法、選果等の技術を確立することや訪日外国人旅行者による携帯品(お土産)の持ち帰りを普及するためのサポート体制を整備するとともに、卸売市場や集荷地等での輸出検査を行うことにより、産地等の輸出への取組を支援しました。
c輸出解禁協議については、国、地域別の「輸出力強化戦略」に位置付けられた国や品目について、重点的かつ戦略的に二国間協議を行いました。
d輸出検疫の円滑化、輸出可能品目の訪日外国人旅行者への情報提供、訪日外国人旅行者が直売所等で購入した農畜産物を動植物検疫を経て空港等で受け取ることができる体制の整備、整備された検疫受検方法の周知等により、お土産としての農畜産物の持ち帰りを推進しました。
(ウ)フードバリューチェーンの構築
「グローバル・フードバリュ-チェーン戦略」(平成26年6月策定)に基づき、官民協議会や二国間政策対話等を活用して、開発途上国等において、我が国食産業の海外展開と経済協力の連携によるフードバリューチェーン構築の取組を推進しました。
また、令和元(2019)年12月には、今後の我が国食産業の海外展開の取組方針である「グローバル・フードバリューチェーン構築推進プラン」を策定しました。
ウ 輸出促進等に向けた日本食・食文化の海外展開
海外の市場拡大を目指して日本食・食文化の魅力を適切かつ効果的に発信する取組を推進しました。
(ア)日本食・食文化の魅力発信による農林水産物・食品の輸出促進を加速化するため、米国、TPP11及び日EU・EPAの対象国を中心に、外国人料理人に対する日本料理講習会や日本料理コンテスト等に「日本食普及の親善大使」等を派遣するとともに、日本産食材の発信拠点となる日本産食材サポーター店における日本産食材の取扱いの増加を図るなどの取組を実施しました。
(イ)日本食・食文化の普及を担う海外人材の育成、日本食レストランの海外出店をサポートするための取組や海外の飲食店等へ向けた日本産食材供給体制を強化する取組等を支援しました。
(ウ)増大する訪日外国人旅行者を国産農林水産物・食品の需要拡大や農山漁村の活性化につなげていくため、農泊と連携しながら、地域の「食」や農林水産業、景観等の観光資源を活用して訪日外国人旅行者をもてなす取組を「SAVOR JAPAN」として認定し、一体的に海外に発信しました。
(エ)増大する訪日外国人旅行者の主な観光目的である「食」と滞在中の多様な経験を組み合わせ、「食」の多様な価値を創出するとともに、帰国後もレストランや越境ECサイトでの購入等を通じて我が国の食を再体験できるような機会を提供することで、輸出拡大につなげていくため、「食かけるプロジェクト」の取組を推進しました。
(2)食品産業のグローバル展開
ア 海外展開による事業基盤の強化
(ア)我が国の食文化・食産業の海外展開を促進するため、海外展開における阻害要因の解決を図るとともに、グローバル人材の確保、我が国の規格・認証の普及・浸透に向け、食関連企業及びASEAN各国の大学と連携し、食品加工・流通、分析等に関する教育を行う取組等を推進しました。
(イ)「輸出力強化戦略」に沿った取組を円滑に進めるために、JETROにおいて、商品トレンドや消費者動向等を踏まえた現場目線の情報提供やその活用ノウハウを通じたサポートを行うとともに、輸出先国バイヤーの発掘・関心喚起等輸出環境整備に取り組みました。
イ ビジネス投資環境の整備
「グローバル・フードバリューチェーン戦略」に基づき、二国間政策対話や経済連携等を活用し、ビジネス投資環境の整備を推進しました。
ウ 食品産業における国際標準への戦略的対応
我が国の食品産業事業者の国際的な取引における競争力を確保し、消費者に対してより安全な食品を供給するため、JFSの充実とその国際的普及に向けた取組を官民が連携して推進しました。あわせて、事業者におけるHACCP等食品安全に関する知識を有する人材の育成等を推進しました。
(3)知的財産の戦略的な創造・活用・保護
ア品質等の特性が産地と結び付いている我が国の伝統的な農林水産物・食品を登録・保護する地理的表示(GI)保護制度の円滑な運用を図るとともに、登録申請に係る支援や制度の周知と理解の促進に取り組みました。
また、GIの活用を促すため、全国のGI産地・GI産品を流通関係者や消費者等に紹介する展示会等を開催し、制度の普及・活用を推進しました。
さらに、制度の適切な運用を図るため、登録生産者団体等に対する定期検査を行いました。
イ和牛の遺伝資源を保護するため、「和牛遺伝資源の流通管理に関する検討会」及び「和牛遺伝資源の知的財産的価値の保護強化に関する専門部会」を設置し、和牛遺伝資源の流通管理の徹底や知的財産としての価値の保護のあり方について検討を進めました。
また、同検討会及び専門部会の中間とりまとめを踏まえ、和牛を始めとする家畜の人工授精用精液・受精卵の適正な流通を確保するため、保存場所の規制強化等の措置を講ずる「家畜改良増殖法の一部を改正する法律案」と、家畜遺伝資源の知的財産としての価値を保護するため、不正競争に対する差止請求等の救済措置等の措置を講ずる「家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律案」を第201回国会に提出しました。
ウ各地域・産品の実情に応じた知的財産の保護・活用を図るため、農林水産省と特許庁が協力しながら、巡回特許庁において、出願者に有益な情報や各制度の普及・啓発を行うとともに、独立行政法人工業所有権情報・研修館が各都道府県に設置する知財総合支援窓口において、特許、商標、営業秘密のほか、地方農政局等と連携してGI及び植物品種の育成者権等の相談に対応しました。
エ植物新品種の海外流出を防止するとともに、新品種の開発を促進するため、「優良品種の持続的な利用を可能とする植物新品種の保護に関する検討会」を開催し、知的財産としての保護のあり方について検討を進めました。
また、この取りまとめを踏まえ、「種苗法の一部を改正する法律案」を第201回国会に提出しました。
オ我が国種苗の海外への流出・無断増殖を防止するため、海外における品種登録(育成者権取得)や侵害対策に対して支援するとともに、品種保護に必要となる検査手法・DNA品種識別法の開発等の技術課題の解決や、東アジアにおける品種保護制度の整備を促進するための協力活動等を推進しました。
カ我が国のGI産品等の保護のため、国際協定による諸外国とのGIの相互保護に向けた取組を進め、海外における我が国のGI等の名称の使用状況を調査し、都道府県等の関係機関と共有するとともにGIに対する侵害対策等の支援を行い、海外における知的財産侵害対策の強化を図りました。
キ農業者が安心してデータを提供できる環境を整備し、農業分野におけるビッグデータやAIの利活用を促進するため、データ提供者(農業関係者)及び受領者(農業機械メーカー、ICTベンダ等)間の契約の考え方やひな形等を内容とする「農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン」を策定しました。
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