5 様々なリスクに対応した総合的な食料安全保障の確立
(1)食料供給に係るリスクの定期的な分析、評価等
主要な農林水産物の供給に影響を与える可能性のあるリスクを洗い出し、そのリスクごとの影響度合い、発生頻度、対応の必要性等について分析、評価を行いました。
また、不測の事態が発生した場合に備え、「緊急事態食料安全保障指針」(平成27年10月改正)に基づく具体的な対応手順等について、関係者との共有を図りました。
(2)海外や国内におけるリスクへの対応
「緊急事態食料安全保障指針」に基づき、食料の安定供給を確保するための平時の取組を行いました。
また、食料の安定供給に関するリスクの定期的な分析・評価結果を踏まえ、平素から、食料供給への影響を軽減するための対応策を検討・実施しました。
ア 国際的な食料需給の把握、分析
省内外において収集した国際的な食料需給に係る情報を一元的に集約するとともに、我が国独自の短期的な需給変動要因の分析や、中長期及び超長期の需給見通しを策定し、これらを国民に分かりやすく発信しました。
イ 輸入穀物等の安定的な確保
(ア)輸入穀物の安定供給の確保
麦の輸入先国との緊密な情報交換等を通じ、安定的な輸入を確保しました。
輸入依存度の高い飼料穀物について、不測の事態における海外からの供給遅滞・途絶、国内の配合飼料工場の被災に伴う配合飼料の急激な逼迫(ひっぱく)等に備え、配合飼料メーカー等が事業継続計画に基づいて実施する飼料穀物の備蓄の取組に対して支援しました。
(イ)国際港湾の機能強化
aばら積み貨物の安定的かつ安価な輸入を実現するため、大型船に対応した港湾機能の拠点的確保や企業間連携の促進等による効率的な海上輸送網の形成に向けた取組を推進しました。
b国際海上コンテナターミナル、国際ターミナルの整備等、国際港湾の機能強化を推進しました。
(ウ)海外農業投資の支援
我が国からの海外農業投資の促進を図るため、各国との政策対話と国内での官民協議会とを連携させて取り組みました。
(エ)肥料原料の供給安定化対策
肥料原料については、海外からの輸入への依存度を低減させるため、国内の未利用資源の活用に向けた技術開発、実証・実用化等をコストに配慮しつつ推進しました。
(オ)遺伝資源の収集・保存・提供機能の強化
食料の安定供給に資する品種の育成・改良に貢献するため、農業生物資源ジーンバンクにおいては、収集した遺伝資源を基に、幅広い遺伝変異をカバーした代表的品種群(コアコレクション)の整備を進め、植物・微生物・動物遺伝資源の更なる充実と利用者への提供を促進しました。
また、ITPGR(食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約)の枠組みを活用した他国との植物遺伝資源の相互利用や、植物遺伝資源に関するアジア諸国との二国間共同研究等を推進することによって、海外遺伝資源の導入環境を整備しました。
ウ 国際協力の新展開
(ア)世界の食料安全保障に係る国際会議への参画等
令和元(2019)年5月にG20新潟農業大臣会合を開催し、「農業・食品分野の持続可能性に向けて」のテーマの下、各国の大臣等との間で率直な意見交換を実施し、国際的な課題解決に向け、議長国として議論をリードしました。
また、G7サミット、G20サミット及びその関連会合、APEC(アジア太平洋経済協力)関連会合、ASEAN+3(日中韓)農林大臣会合、FAO(国際連合食糧農業機関)総会、OECD(経済協力開発機構)農業委員会等の世界の食料安全保障に係る国際会議等に積極的に参画し、持続可能な農業生産の増大、生産性の向上及び多様な農業の共存に向けて国際的な議論に貢献しました。
さらに、フードバリューチェーンの構築が農産物の付加価値を高め、農家・農村の所得向上と食品ロス削減に寄与し、食料安全保障を向上させる上で重要であることを発信しました。
(イ)官民連携によるフードバリューチェーンの構築
aフードバリューチェーンの構築に向け、官民連携による二国間政策対話や合同ミッションの派遣、生産・流通・投資環境調査等を実施し、民間投資と連携した国際協力を推進しました。
bTICAD TICAD7(第7回アフリカ開発会議)で発表された「横浜行動計画2019」等の着実な推進に向け、アフリカにおける農業生産及び食料安全保障の強化に資する農業専門家派遣やグローバル・フードバリューチェーン構築支援等に取り組みました。
(ウ)飢餓・貧困対策への貢献
a開発途上国・新興国における栄養不良人口の削減に貢献するため、研究開発、栄養改善のためのセミナーの開催や情報発信等を支援しました。
b飢餓・貧困の削減に向け、米等の生産性向上及び高付加価値化のための研究を支援しました。
(エ)気候変動や越境性動物疾病等の地球規模の課題への対策
aパリ協定を踏まえた森林減少・劣化抑制、干ばつ等に適応した生産性向上システムや温室効果ガス(GHG)削減につながる栽培技術の開発等の気候変動対策を推進しました。
また、地球温暖化緩和策に資する研究及び越境性病害の我が国への侵入防止に資する研究並びにアジアにおける口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザ、ASF(アフリカ豚熱)の越境性動物疾病及び薬剤耐性菌対策等を推進しました。
b平成31(2019)年4月にG20の首席農業研究者・行政官及び国際機関が参加する、G20MACS(G20首席農業研究者会議)を開催し、越境性植物病害虫や気候変動対応技術導入に関する研究の国際連携の推進等を図るため、議長国として議論をリードしました。
また、同年11月に我が国で開催した国際ワークショップでは、気候変動対応技術・農法の導入・拡大に関して各国と国際機関の経験を共有するとともに、気候変動への適応や農業からのGHGの排出削減に向けて、他国の経験から得られる教訓について議論を行いました。
c東アジア地域(ASEAN10か国、日本、中国及び韓国)における食料安全保障の強化と貧困の撲滅を目的とし、大規模災害等の緊急時に備えるASEAN+3緊急米備蓄(APTERR)の取組を推進しました。
エ 動植物防疫措置の強化
(ア)家畜防疫体制の強化や植物病害虫の防除の徹底
世界各国における口蹄疫、高病原性鳥インフルエンザ、ASF等の発生状況、新たな植物病害虫の発生等を踏まえ、国内における家畜の伝染性疾病や植物の病害虫の発生予防及びまん延防止対策、発生時の危機管理体制の整備等を実施しました。
特に、CSFについては、発生予防・まん延防止のため、早期通報や野生動物の侵入防止等、飼養衛生管理基準の遵守徹底に取り組むとともに、令和元(2019)年10月から飼養豚への予防的ワクチン接種を開始しました。また、野生イノシシの対策として、同年3月から野生イノシシ向け経口ワクチンの散布を実施しました。
さらに、農場における飼養衛生管理の遵守の徹底、野生動物における悪性伝染性疾病のまん延防止措置の法への位置付け、予防的殺処分の対象疾病の拡大、畜産物の輸出入検疫に係る家畜防疫官の権限の強化等の措置を講ずる「家畜伝染病予防法の一部を改正する法律」が第201回国会で成立しました。
(イ)輸入検疫体制の強化
a家畜防疫官・植物防疫官の適切な配置及び動植物検疫探知犬の増頭等検査体制の整備・強化により、円滑で確実な水際対策を講ずるとともに、家畜の伝染性疾病及び植物の病害虫の侵入・まん延防止のための取組を推進しました。
b政府が輸入する米麦について残留農薬等の検査を実施しました。
(ウ)産業動物獣医師の育成・確保
地域の産業動物獣医師への就業を志す獣医大学の地域枠入学者・獣医学生に対する修学資金の貸与、獣医学生を対象とした産業動物獣医師の業務について理解を深めるための臨床実習、産業動物獣医師を対象とした技術向上のための臨床研修や女性獣医師等を対象とした職場復帰・再就職に向けたスキルアップのための研修等の実施による産業動物獣医師の確保・育成への支援を実施しました。
また、情報通信機器を活用した産業動物診療の効率化等の支援、産業動物獣医療の提供体制整備に取り組む地域への支援を実施しました。
オ 食品流通における不測時への備えの強化
(ア)米の備蓄運営について、米の供給が不足する事態に備え、国民への安定供給を確保するため、100万t程度(令和元年6月末時点)の備蓄保有を行いました。
(イ)輸入依存度の高い小麦について、港湾スト等により輸入が途絶した場合に備え、外国産食糧用小麦需要量の2.3か月分を備蓄し、そのうち政府が1.8か月分の保管料を助成しました。
(ウ)食品の家庭備蓄の一層の定着を図るため、ローリングストック等、平素から実践しやすくする方法をまとめた「災害時に備えた食品ストックガイド」やWebサイト「家庭備蓄ポータル」等を活用し、普及を行いました。
(エ)食品産業事業者の従業員に新型コロナウイルス感染者が発生した際の対応や事業継続を図る際の基本的なポイントをまとめたガイドラインを取りまとめ、公表しました。
(オ)新型コロナウイルス感染症の影響による学校給食休止に伴い、食品納入業者に対し、文部科学省を通じ臨時休業中の学校給食の食材費に相当する費用への支援を行うほか、学校給食で活用する予定であった野菜・果実・加工品等の未利用食品の販売先確保に向けたマッチングやフードバンクへ寄附する際の輸配送費等の支援を行いました。
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