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農林水産省

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7 コスト削減や高付加価値化を実現する生産・流通現場の技術革新等


(1)戦略的な研究開発と技術移転の加速化

ア 現場のニーズを踏まえた戦略的な研究開発

様々な農政の課題に技術面で的確に対応するため、「農林水産研究基本計画」(平成27年3月策定)に基づきつつ、攻めの農林水産業の展開に向けて、以下の施策を推進しました。その際、農業現場のニーズに直結した戦略的な研究開発を推進するため、農業者や普及組織等から現場の意見を聴取するとともに、研究への参画を推進しました。

(ア)現場ニーズ対応型研究

農林漁業者、食品事業者のニーズを踏まえた明確な研究目標の下、農林漁業者、企業、大学、研究機関がチームを組んで行う、農林漁業者等への実装までを視野に入れた技術開発を推進しました。

a農林水産分野における気候変動・環境対応プロジェクト

(a)国際共同研究を通じて、アジア地域の水田におけるGHG排出削減のための総合的栽培管理技術及び農産廃棄物を有効活用したGHG削減技術に関する影響評価手法の開発を推進しました。

(b)畜産分野からのGHG排出削減技術の開発を推進しました。

(c)農作物の花粉媒介に貢献する野生の昆虫種の解明や生態系サービスを有効活用する基盤技術の開発を推進しました。

(d)気候変動に対応した品種・育種素材、生産安定技術及びほ場の排水・保水機能活用手法の開発を推進しました。

(e)野生鳥獣による被害拡大への対応技術や海外からの有害動植物の検出・同定技術の開発及び拡散防止・駆除技術の開発を推進しました。

b生産現場強化プロジェクト

(a)国産飼料の安定生産と利用促進のため、栄養価が高く、輸入飼料と同等の価格の自給濃厚飼料の生産・調製・利用技術の開発を推進しました。

また、大豆等の収益力向上のため、多収阻害要因を特定して収量の高位安定化を図る技術の開発を推進しました。

さらに、生産コスト削減に向けた効率的かつ効果的な施肥技術・有機質資材の活用技術の開発を推進しました。

加えて、国産花きの国際競争力強化のため、花きの日持ち性向上技術の開発を推進しました。

(b)家畜の生涯生産性向上のため、乳用牛及び肉用牛の繁殖機能の早期回復技術の開発を推進しました。

また、生産性・繁殖性等の遺伝的能力を評価し、総合的に能力を高めるための育種手法の開発を推進しました。

(c)青果用かんしょの機械移植に適する形の整った苗の生産技術や移植精度の高い作業機の開発等により、省力安定栽培技術の開発を推進しました。

(d)茶工場の稼働時間の延長を可能とする効率的な荒茶生産体制の構築を推進しました。

(e)園芸作物等の生育情報・病害虫発生状況を把握するために収集すべき情報・仕様の解明を推進しました。

(f)ふん尿処理施設、畜舎を含む農場全体を対象とする総合的臭気対策技術の開発を推進しました。

(g)ドローン画像分析により農地・作物の状況を把握し、様々な調査業務に必要な書類の作成を支援する技術の開発を推進しました。

c食品安全・動物衛生対応プロジェクト

(a)食品の生産段階・加工工程における有害化学物質及び有害微生物の分析技術及び低減技術の開発を推進しました。

(b)家畜の伝染病の病原体変異と、野生動物を介した伝播リスクの解明、国内未発生病原体の検査技術や国内発生時に使用する防疫資材の開発を推進しました。

(c)畜産分野における薬剤耐性の実態把握とリスクを低減させるための調査研究及び抗菌剤に頼らない常在疾病防除技術の開発を推進しました。

d農業現場緊急課題対応プロジェクト

(a)水稲直播(ちょくはん)栽培を導入する上で問題となる雑草イネ等難防除雑草の省力的な防除技術の開発を推進しました。

(b)南西諸島の気候風土に適した高収益品目を検討し、栽培技術や防除体系の研究開発を推進しました。

(c)畑作物生産の安定・省力化に向けた湿害、雑草害対策技術の開発を推進しました。

(d)茶樹の被覆作業の適期の判定指標の解明と、簡易測定技術の開発を推進しました。また、被覆下での栽培管理技術及び被覆作業の高度化技術の開発を推進しました。

(e)繋ぎ牛舎でも利用できる高度な搾乳システムの開発を推進しました。

(イ)基礎的・先導的研究

国が中長期的な視点で取り組むイノベーションの創出に向けた技術開発を推進しました。

a人工知能未来農業創造プロジェクト

(a)病害虫による被害を最小化するため、病害虫の画像や遺伝子情報等から、AIを活用した早期診断を行い、生産者への最適な防除対策情報を提供するシステムの開発を推進しました。

(b)AIを活用した栽培管理と労務管理により栽培管理に係る労働時間を削減し、経営の効率化を可能とするシステムの開発を推進しました。

(c)AI・IoT等を活用した施設野菜の出荷可能量の高精度な事前予測と、余剰生産量の事前把握に基づいた生産者と実需者間の需給マッチング支援システムを構築することにより、販路拡大を図り、生産現場における廃棄ロス削減に貢献する技術の開発を推進しました。

b作物育種プロジェクト

(a)アジア諸国との二国間共同研究等を推進し、海外植物遺伝資源へのアクセス環境を整備するとともに、国内の公的研究機関や大学等が保有する植物遺伝資源情報のネットワークを構築しました。

(b)ゲノム情報や形質評価データ等のビッグデータの整備、ゲノム情報に基づく特性予測(ゲノミックセレクション)等新たな育種技術の開発・高度化を行いました。

また、これらを活用することにより、従来の育種では困難だった形質の改良等を短期間で実現するスマート育種システムの開発を推進しました。

c次世代バイオ農業創造プロジェクト

(a)地域の農林水産物・食品について、機能性表示を可能とするエビデンスの取得を進めるとともに、機能性を高めるための栽培・加工技術の開発を推進しました。

(b)遺伝子組換えカイコに医薬品等の有用物質を効率的に生産させるための基盤技術や、ICTを導入した新たな養蚕システムの開発を推進しました。

(c)高品質な薬用作物を低コストで安定的に栽培するための技術を開発し、既存の経営モデルに薬用作物を導入した複合経営モデルを構築することにより、国内生産拡大に向けた技術開発を推進しました。

(d)ゲノム編集技術を用いて、加工・業務用品種、高付加価値品種や病害虫抵抗性品種等、農業の競争力強化や生産者の収益向上に資する農作物の育種素材の開発を推進しました。

イ 技術移転の加速化

(ア)「橋渡し」機能の強化

a「知」の集積と活用の場による技術革新

(a)産学官を結び付ける研究開発プラットフォームづくりのため、産学官連携協議会において、ポスターセッション、セミナー、ワークショップ等を開催し、技術シーズ・ニーズに関する情報交換、意見交換を行いました。

(b)研究開発プラットフォームから形成された研究開発コンソーシアムで行われる研究開発を国と民間企業等が、資金を出し合うマッチングファンド方式等により重点的に支援しました。

b異分野融合研究の強化

工学・医学等異分野の技術を農林水産分野に導入・活用するための共同研究を進めるとともに、これまでの研究成果を社会実装につなげるための講演・セミナーの開催や試作物の展示等を行う機会を設けるなど、研究開発を推進しました。

c研究開発・普及・生産現場の連携による技術開発・普及

(a)農林水産業・食品産業等におけるイノベーションにつながる革新的な技術シーズを開発するための基礎研究及び開発された技術シーズを実用化に向けて発展させるための研究開発を推進しました。

(b)研究開発から産業化までを一貫して支援するため、大学、民間企業等の地域の関係者による技術開発から改良、開発実証試験までの取組を切れ目なく支援しました。

(c)全国に配置されたコーディネーターが、技術開発ニーズ等を収集するとともに、マッチング支援や商品化・事業化に向けた支援等を行い、研究の企画段階から産学が密接に連携し、早期に成果を実現できるよう支援しました。

(d)農業技術に関する近年の研究成果のうち、生産現場への導入が期待されるものを「最新農業技術・品種」として紹介しました。

(e)産地においては、普及指導センターと大学、企業、試験研究機関等が連携しつつ、技術指導を核に総合的な支援を展開するなど、研究成果の普及・実用化体制の強化を推進しました。

(イ)効果的・効率的な技術・知識の普及指導

国と都道府県が協同して、高度な技術・知識を持つ普及指導員を設置し、普及指導員が農業者に直接接して行う技術・経営指導等を推進しました。その際には、営農情報を提供する民間企業等との役割分担を図り、地域の合意形成や新規就農者の支援、地球温暖化及び災害への対応等、公的機関が担うべき分野についての取組を強化しました。

また、農業分野の技術革新、農業者の多様なニーズ等に的確に対応するため、計画的に普及指導員の資質の向上を図る研修等を実施しました。

(ウ)戦略的な知的財産マネジメントの推進

「農林水産研究における知的財産に関する方針」(平成28年2月策定)を踏まえ、農林水産業・食品産業に関する研究に取り組む国立研究開発法人や都道府県の公設試験場等における知的財産マネジメントの強化を図るため、知的財産マネジメントに高度な専門的知識を有する専門家による指導・助言を行うとともに、平成30(2018)年度に作成した知的財産マネジメントに関するマニュアルの充実・普及を行いました。

(エ)レギュラトリーサイエンスの充実・強化

a「レギュラトリーサイエンス研究推進計画」(平成27年6月策定)で明確化した取り組むべき調査研究の内容や課題について、その進捗状況の検証・見直しを行うとともに、所管法人、大学、民間企業、関係学会等への情報提供や研究機関との意見交換を行い、研究者の認識や理解の醸成とレギュラトリーサイエンスに属する研究の拡大を促進しました。

b研究開発部局と規制担当部局とが連携して、食品中の危害要因、家畜の伝染性疾病・植物病害虫等のリスク管理に必要な調査研究を推進しました。

cレギュラトリーサイエンスに属する研究事業の成果を国民に分かりやすい形で公表しました。

また、行政施策・措置とその検討・判断に活用された科学的根拠となる研究成果を紹介する機会を設け、レギュラトリーサイエンスへの理解の醸成を推進しました。

d行政施策・措置の検討・判断に当たり、その科学的根拠となる優れた研究成果を挙げた研究者を表彰しました。

(オ)国民理解の促進

最先端技術の研究開発及び実用化に当たっては、国民への分かりやすい情報発信、意見交換を並行して行い、研究成果の実用化に向けた環境づくりを進めました。特に、ゲノム編集技術等の育種利用は、飛躍的な生産性の向上等が期待される一方、国民的理解を得ていくことが課題であることから、関係府省の連携によるサイエンスコミュニケーション等の取組を強化しました。

(2)先端技術の活用等による生産・流通システムの革新

ア 規模拡大、省力化や低コスト化を実現するための技術導入

(ア)スマート農業の実現に向けた取組

ロボット・AI・IoTを活用して、超省力・高品質生産を目指すスマート農業を実現するため、ロボット農機や栽培環境・生育状況のセンシング等の生産現場における実証に取り組み、これまでに開発された先端技術の社会実装を推進しました。

また、明確な開発目標の下で現場での実装までを視野に入れた技術開発を進めるとともに、AI・IoT等の先端技術を活用し、収穫ロボットの高度化等による全く新しい技術体系を創造するための研究開発等を実施しました。

さらに、現場実装に際して安全上の課題解決が必要なロボット技術に関する安全性の検証やルールづくりを進めるとともに、関係府省が連携して農業におけるICTの利活用の促進に向けて農業情報の標準化に取り組みました。

加えて、関係府省協力の下、大学や民間企業等と連携して、農業データ連携基盤の機能を生産部分だけでなく、加工・流通・消費まで含めたフードチェーン全体への機能拡充に向けた研究開発に取り組みました。引き続き、スマート農業の社会実装を強力に推進するため、技術ごとのロードマップや推進方策等を盛り込んだ「農業新技術の現場実装推進プログラム」を令和元(2019)年6月に策定し、スマート農業技術の研究開発、現場実証、速やかな現場への普及までを総合的に推進しました。

(イ)次世代施設園芸の取組拡大

次世代施設園芸の取組を拡大するため、次世代施設園芸への転換に必要な技術について、習得のための実証・研修を支援するとともに、技術習得に必要な実証温室や次世代型大規模園芸施設の整備とその成果やノウハウの分析・情報発信を支援しました。

(ウ)産地の戦略的取組の推進

産地の持続的な生産力強化等に向けて、農業者や農業法人、民間団体等が行う生産性向上や販売力強化等に向けた取組を支援するとともに、地方公共団体が主導する産地全体の発展を図る取組を総合的に支援しました。

(エ)作業を受託する組織の育成・確保

農作業の外部化により、高齢化や担い手不足が進行している生産現場の労働負担の軽減を図るとともに、畜産において、規模拡大や飼養管理への集中等を通じた経営発展を促進する観点から、地域の実情を踏まえつつ、飼料生産組織やヘルパー組織の育成・確保を推進しました。

(オ)農業労働力の確保と農業の「働き方改革」を一体的に推進する取組への支援

産地における人手不足を補うため、他産業や他地域との連携等による労働力確保の取組と労働環境整備等の農業の「働き方改革」を一体的に行う産地の取組を支援しました。

イ 需要に応じた生産や高付加価値化を進めるための技術導入

我が国の「強み」である技術力を活かした新たな品種や技術の開発・普及を進め、かつ知的財産を総合的に活用することにより、日本各地で品質やブランド力等「強み」のある農畜産物を実需者と連携して生み出すため、「新品種・新技術の開発・保護・普及の方針」(平成25年12月策定)に基づく取組等を推進しました。

(ア)実需者や産地が参画したコンソーシアムを構築し、ニーズに対応した新品種の開発等の取組を推進しました。

また、実需者等の多様なニーズに対応するため、従来の育種では困難だった収量性や品質等の形質の改良等を短期間で実現するスマート育種システムの開発を推進しました。

(イ)新品種やICT等の新技術等を活用した「強み」のある産地形成を図るため、実需者、生産者等が連携して新たな産地形成を行う取組を総合的に支援しました。

また、実需者等とも連携した新品種・新技術の確立、種苗の機動的な供給体制の整備、農業機械のリース導入、産地基幹施設整備等の取組を支援しました。

(ウ)海外遺伝資源を戦略的に確保するため、締約国として食料・農業植物遺伝資源条約の運営に必要な資金拠出を行うとともに、条約の機能を改善するための議論等に参画するほか、遺伝資源保有国における制度調査や遺伝資源の取得・利用に関する遺伝資源保有国との枠組み構築等を実施しました。

また、二国間共同研究による海外植物遺伝資源の特性情報の解明等を推進することにより、海外植物遺伝資源へのアクセス環境を整備しました。

ウ 異常気象などのリスクを軽減する技術の確立

(ア)地球温暖化に対応する産地形成に向けた取組支援

地球温暖化に対応する品種・技術を活用し、「強み」のある産地形成に向け、生産者・実需者等が一体となって先進的・モデル的な実証や事業者のマッチング等に取り組む産地を支援しました。

(イ)農業生産資材費の低減

「農業競争力強化プログラム」及び「農業競争力強化支援法」に基づき、良質で低価格な資材の供給拡大に向けて以下の取組等を推進しました。

a「農薬取締法」に基づく農薬の安全性に関する審査を充実させることにより、農薬の安全性の一層の向上を図りました。

b肥料について、多銘柄・少量生産による製造コストの増加の一因となっている都道府県の施肥基準の見直しを推進しました。

c生産性が低い工場の改善が課題となっている肥料や飼料製造事業者の事業再編や、寡占化している農業機械業界への事業参入の取組の促進に向け、事業者等に対して「農業競争力強化支援法」に基づく支援措置の活用を促しました。

d農業資材比較サービス「AGMIRU(アグミル)」の現場での活用を促しました。

(3)効果的な農作業安全対策の推進

毎年300件以上発生している農作業死亡事故を減少させるため、以下の取組を実施しました。

地方公共団体はもとより、農業機械メーカー、農業機械販売店等からの事故情報の効果的、体系的な収集の実施

農業機械の安全性検査や事故調査に取り組んでいる国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構農業技術革新工学研究センターにおける、労働分野や交通関係の専門家等と連携した事故分析の実施と分析結果の発信、一人一人の農業者に伝える観点による分析情報の発信と注意喚起の充実

乗用型トラクターの片ブレーキによる事故を防止する装置を搭載した機種の普及及び農業機械の安全性を向上させる研究開発や、農業機械メーカー等の企業における安全設計を一層促進する取組の推進

農業者やその家族等の安全意識の向上を図るための事故事例や啓発資材等を活用した「声かけ」(注意喚起)や、農林水産省と警察庁等が連携した道路における乗用型トラクター乗車時のブレーキ連結の確認、安全キャビン・フレームの装着、シートベルトの着用、低速車マークや反射材の取付け、ヘルメット着用等についての農業者への「声かけ」や啓発活動の推進

農業団体における労災保険特別加入団体の設置の促進等による労災保険特別加入制度への農業者の加入の促進

民間企業、関係省庁とが連携した熱中症予防に係る取組の推進

農作業と密接に関わるGAPにおける労働安全管理の取組の推進

農作業死亡事故の多い高齢農業者や、労働者の安全確保義務を負う農業法人を対象にした積極的な普及・啓発活動の展開



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