第5節 鳥獣被害対策とジビエ利活用の推進

野生鳥獣による農作物被害は、営農意欲の減退をもたらし耕作放棄や離農の要因になることから、農山村に深刻な影響を及ぼしています。このため、地域に応じた鳥獣被害対策を全国で進めるとともに、マイナスの存在であった有害鳥獣をプラスの存在に変えていくジビエ利活用の取組を拡大していくことが重要です。
本節では、鳥獣被害の状況とジビエ利活用等の動向について紹介します。
(1)鳥獣被害対策等の推進
(野生鳥獣による農作物被害の減少に向けた取組を推進)
野生鳥獣による農作物被害額は、平成22(2010)年度の239億円をピークに減少傾向で推移し、令和元(2019)年度には158億円となりましたが、令和2(2020)年度では一部の地域におけるシカやイノシシの生息域の拡大等により、やや増加し161億円となっています(図表3-5-1)。
また、鳥獣被害の6割以上を占めるシカとイノシシの捕獲頭数と被害額について、令和元(2019)年度と令和2(2020)年度を比べると、地域別に、「捕獲、被害とも減少」、「捕獲、被害とも増加」、「捕獲が増加し被害は減少」の三つの傾向に分類されます(図表3-5-2)。このうち、「捕獲、被害とも増加」の地域においては、捕獲活動、侵入防止柵の設置、放任果樹の伐採や藪の刈り払いによる生息環境管理等の対策により、これまで一定の効果が出ていたものの、今後は被害額の減少に向けて、地域ごとに生息域、被害のあった場所等の状況を可能な限り精緻(せいち)に把握し、より一層効果的な対策を講ずることが必要となっているものと考えられます。
このような中、令和3(2021)年度の集中捕獲キャンペーンにおいては、地域別の傾向を踏まえ、被害が減少しなかった地域を中心に捕獲頭数目標の見直しを行うとともに、それぞれの地域においてわなの増設、ICT(*1)の活用、多様な人材の参加促進等により、捕獲の取組を強化することとしています。

*1 用語の解説3(2)を参照
(鳥獣被害防止特措法が改正)
令和3(2021)年9月に鳥獣被害防止特措法(*1)が改正され、更なる捕獲強化に向けた広域的な捕獲を推進するため、都道府県が行う県域や市町村域をまたいだ捕獲活動等と国によるその支援について規定されました。このほか、同法の改正により、鳥獣の捕獲等の強化や鳥獣の適正な処理・有効利用の更なる推進、体系的な研修の実施による人材育成の充実・強化等が規定されました。
*1 正式名称は「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」
(鳥獣被害防止対策を行う鳥獣被害対策実施隊と実施隊員数が増加)
鳥獣被害防止特措法に基づき、令和3(2021)年4月末時点で1,507市町村が鳥獣被害防止計画を策定しており、そのうち1,229市町村が鳥獣捕獲や柵の設置等、様々な被害防止施策を実施する鳥獣被害対策実施隊を設置しています。また、鳥獣被害対策実施隊の隊員数は、同年度の目標数4万人に対して、前年から1,453人増加して4万1,396人となっています。
農林水産省は、鳥獣被害対策実施隊に対して、活動経費に対する支援を行っており、実施隊員は銃刀法(*1)の技能講習の免除や狩猟税の軽減措置等の対象となっています。こうした支援等により、鳥獣被害対策実施隊の隊員数を平成30(2018)年度の水準(3万7,279人)から年間950人程度、継続的に増加させ、令和7(2025)年度までに4万3,800人とすることを目標としています。
*1 正式名称は「銃砲刀剣類所持等取締法」
(2)ジビエ利活用の拡大
(ジビエ利用量は新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響による外食需要等の低迷により減少、消費者への直接販売は増加)
捕獲した野生鳥獣のジビエ利用は、外食、小売用のほか、学校給食、ペットフード等、様々な分野において拡大しています。
ジビエ利用量は令和元(2019)年度までは増加傾向でしたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による外食需要等の減少により、特に外食での利用が多いシカの利用量が前年度の973tに比べ23.6%減少して743tとなったことから、令和2(2020)年度の目標量2,340tに対して、全体では9.9%減の1,810tとなりました(図表3-5-3)。
また、食肉処理施設から卸・小売業者や消費者等の販売先別のジビエ販売数量の推移を見ると、消費者への直接販売が増加傾向にあります。特に令和2(2020)年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による家庭用需要の増加の影響により、前年度の215tに比べ36.3%増加し293tとなっています(図表3-5-4)。農林水産省は、捕獲個体の食肉処理施設への搬入促進や需要喚起のためのプロモーションの実施等に取り組んでいます。こうした取組により、食肉処理施設において処理された野生鳥獣のジビエ利用量を令和元(2019)年度の水準から倍増させ、令和7(2025)年度までに4千tにすることを目標としています。
(更なるジビエ利用の拡大に向けた取組の推進)
ジビエの利用拡大に当たっては、より安全なジビエの提供と消費者のジビエに対する安心の確保を図ることが必要です。このため、厚生労働省では、令和2(2020)年6月に食品衛生法を改正し、ジビエの食肉処理施設においてHACCP(*1)による衛生管理を義務付け、食用に供されるジビエの安全性を確保しています。
また、農林水産省においても、平成30(2018)年から国産ジビエ認証制度を実施し、ジビエの処理加工施設の自主的な衛生管理等を推進しており、認証を取得した施設は、令和4(2022)年3月末時点で、前年度から6施設増加し、29施設となっています。
また、ジビエ利用量を倍増させる目標の達成に向け、農林水産省ではジビエの全国的な需要喚起のためのプロモーションとして、平成30(2018)年からジビエを提供している飲食店等をポータルサイト「ジビエト」で紹介しています。令和4(2022)年3月時点で約400店舗の情報を紹介しています。
さらに、令和3(2021)年11月から令和4(2022)年2月において、全国で約1,700店の飲食店等が参加する全国ジビエフェアを実施しました。このフェアでは、消費者にジビエをもっと知って食べてもらえるようPRし、フェア期間中にジビエメニューを提供する飲食店、ジビエ商品を販売する小売店、ECサイト等の情報を取りまとめ、提供することで、全国的なジビエの消費拡大を図りました。

ポータルサイト「ジビエト」について
URL:https://gibierto.jp/(外部リンク)

国産ジビエ認証制度について
URL:https://www.maff.go.jp/j/nousin/gibier/ninsyou.html
*1 用語の解説3(2)を参照
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