第2節 食品産業の発展
食品産業は、国産農林水産物の主要な仕向先であり、農業と消費者の間に位置し、食料の安定供給を担うとともに、消費者ニーズを生産者に伝達する役割を担っています。また、多くの雇用や付加価値を生み出すとともに、環境負荷の低減等にも取り組んでいます。
本節では、食品産業の動向や、JAS(*1)を始めとした規格・認証の活用等について紹介します。
*1 Japanese Agricultural Standardsの略で、日本農林規格のこと
(1)農林漁業者との安定的な取引関係の確立
(国産食用農林水産物の仕向先の約3分の2が食品製造業・外食産業)
データ(エクセル:35KB)
令和2(2020)年における国産食用農林水産物の仕向先を見ると、64.6%が食品製造業・外食産業に仕向けられており、食品産業は国産食用農林水産物の最大の仕向先となっています(図表4-2-1)。
さらに、品質の高い製品を提供することにより我が国の食生活の豊かさを支えています。
(食料システム法に基づく計画認定制度を創設し、食品産業と農業の連携等を推進)
持続的な食料システムの実現には、食品産業における国産原材料の利用促進、産地との連携強化や生産性の向上等を推進し、その体質強化・事業継続を図ることや、原材料調達や製造工程等における持続性に配慮した産業への移行を推進していくことが重要となっています。
また、令和7(2025)年6月に公布された「食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律及び卸売市場法の一部を改正する法律」による食料システム法(*1)に基づき、合理的な費用を考慮した価格形成(*2)と食品産業の持続的な発展に向けた施策を一体的に推進することとしています。
同法では、食品産業の持続的な発展を促すため、農林漁業者との安定的な取引関係の確立、流通の合理化、環境負荷の低減、消費者の選択支援に計画的に取り組む食品等事業者の認定制度を創設し、同計画認定制度に関する規定は同年10月に施行されました。認定を受けた計画に対して、公庫による長期低利融資、中小企業経営強化税制等の税制特例、農研機構の設備等の供用等の措置を講ずることとしています。あわせて、地方公共団体等がコンソーシアム等を構成し、食品等事業者の取組を連携して支援する取組に対する認定制度も創設しています。
食品等事業者を対象とした計画認定制度は令和7(2025)年度には54件の計画を認定したところであり、このうち、農林漁業者との安定的な取引関係の確立の取組では、食品企業が、冷凍食品工場で発生する残さを堆肥化し農業者へ提供し、同堆肥を用いて栽培された野菜を冷凍食品の原料とする、資源循環を通じた農業者との安定取引拡大の取組等が認定されています。
*1 正式名称は「食品等の持続的な供給を実現するための食品等事業者による事業活動の促進及び食品等の取引の適正化に関する法律」
*2 第4章第3節を参照
(事例)地元農家との連携を通じて食品の付加価値と農家所得の向上を推進(宮城県)

オリジナル乾燥納豆のPR
資料:有限会社川口納豆
宮城県栗原市(くりはらし)の有限会社川口納豆(かわぐちなっとう)は、国産・地元産の大豆にこだわった納豆を始めとする加工食品を開発・製造しています。
同社は、消費者に大豆本来の味を楽しんでもらえるよう、たれ等を添付しない納豆を製造しています。高品質な大豆を仕入れるため、同市内の地元農家と直接契約を結び、原材料の安定調達を進めるとともに、大豆を品質に見合った価格で買い取ることにより、農家所得の向上や品質に対する意識の向上を促しています。
また、同社は、気候風土に適した新品種「すずみのり」に着目し、豊かな自然と篤農家の情熱が育んだプレミアム納豆をコンセプトとして、同品種を100%使用した付加価値の高い新商品の開発を目指しています。さらに、同市内の契約を結んだ地元農家の想いや栽培へのこだわりをストーリーにして伝えることを通じ、高収益なブランドを確立することとしています。くわえて、同品種の生産規模拡大と安定調達のため、同社から農家にトラクター等の農業機械を貸与することとしています。
このほか、同社は地元で米の生産に取り組み、米と地元特産のみそ、納豆を使用したせんべいを開発・製造しています。せんべいを製造する際に出る端材等は地元の養鶏場に餌として提供し、環境負荷低減と地元への貢献に取り組んでいます。
(特定農産加工業者の経営改善と原材料の調達安定化を推進)
新たに導入した国産大豆を使用した
厚揚げ製造ライン
資料:相模屋食料株式会社
国際情勢の影響を受け、輸入原材料の価格水準の上昇・高止まりが生じている中、農産加工業者の経営環境は厳しさを増している状況にあります。
このため、令和6(2024)年7月の改正後の特定農産加工業経営改善等臨時措置法に基づき、原材料価格が大幅に上昇したパン、麺、菓子、大豆加工品等の分野で、小麦、大豆等を原材料として使用する特定農産加工業者等による原材料の調達安定化に向けた取組に対する支援措置を実施しています。
また、関税引下げ等による安価な輸入農産加工品との価格競争等の影響を受けている業種については、これに属する特定農産加工業者等による事業の合理化等の経営改善の取組を支援しています。
(2)流通の合理化
(官民合同で物流効率化に向けて対応)
我が国の物流については、今後想定される輸送力不足の解消や2050年ネット・ゼロ(*1)の実現、自動運転等の技術革新への対応等の大きな変革を迫られています。このような状況に対応するため、政府は、令和8(2026)年3月に、我が国の物流施策の方向性を示す新たな「総合物流施策大綱(2026年度~2030年度)」を閣議決定しました。
物流の課題への制度的対応として、「物資の流通の効率化に関する法律」に基づき、令和7(2025)年4月から、荷主や物流事業者等に対して物流効率化に取り組む努力義務を課しており、さらに令和8(2026)年4月からは、一定規模以上の事業者に対し、物流効率化の取組に関する中長期計画の作成や定期報告を義務付けることとなっています。また、令和8(2026)年1月に施行された「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」により改正された「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」及び「受託中小企業振興法」により、物流の取引適正化も進められることとなりました。
このような我が国の物流をめぐる情勢の中で、引き続き食品の流通を確保していくために、令和5(2023)年度に設置した農林水産省と民間の関係団体等で構成される「農林水産品・食品の物流に関する官民合同タスクフォース」において、令和12(2030)年度に向けた重点取組事項として、パレット標準化、デジタル化、商慣習の見直し、モーダルシフト・中継輸送の4項目を新たに定め、具体的な物流課題の把握・対応を行っています。令和7(2025)年11月には全体会合を開催し、各業種での物流改善の取組事例等について情報交換を行ったところです。
*1 第5章第2節を参照
(卸売市場の物流機能を強化)
卸売市場は、野菜、果物、魚、肉等の日々の食卓に欠かすことのできない生鮮食料品等を国民に円滑かつ安定的に供給するための基幹的なインフラであり、多種・大量の物品の効率的・継続的な集分荷、公正で透明性の高い価格形成等の重要な機能を担っています。
食料安全保障の強化が求められる中、持続的に生鮮食料品等の安定供給を確保していくため、老朽化に伴う施設の更新や、物流施策全体の方向性と調和し、標準化・デジタル化に対応して物流機能を強化するための施設整備が必要となっています。
農林水産省では、物流機能を強化するために、コールドチェーンの確保等に資する施設や、中継共同物流に必要な施設の整備等を支援することとしています。このような施設を活かし、荷の大ロット化・予冷を行ってトラック輸送から鉄道・船舶輸送等への転換(モーダルシフト)等を行う取組も見られます。
(事例)モーダルシフトによる物流生産性の向上(高知県)

旅客機へのピーマンの積込み
資料:日本通運株式会社
高知県芸西村(げいせいむら)では温暖な気候を活かした施設園芸が盛んです。同村の施設ピーマンの生産者は、物流生産性の向上を図るため、運送事業者と共に「NKO(エヌケーオー)協議会」を立ち上げ、ピーマンが他の品目と比較し空輸における輸送効率が高いという特徴を活かし、旅客機の床下スペースを活用したモーダルシフトに取り組んでいます。
トラックや船舶の輸送と比較し、空輸は輸送費が高額となる傾向にありますが、床下スペースはピーマンの鮮度維持に適した一定の気温に保たれているという利点があります。また、旅客機の出発時刻に合うよう作業内容を見直し、出荷用段ボール箱の自動組立機械や、搬入から袋詰め、重量チェックといった一連の集出荷作業を自動化する荷受コンベア設備を導入することで、作業時間の削減と出荷量の拡大を実現し、海外市場を含む遠距離地への短期間輸送を可能にしました。
今後、同協議会の構成員や他のピーマン生産者と協力して取扱量を増やしつつ、集出荷作業の更なる自動化を進め、国内外の市場への出荷を積極的に展開することとしています。
(3)技術の開発・利用の推進
(食料品製造業の労働生産性は前年度に比べ向上)
データ(エクセル:30KB)
令和6(2024)年度における食料品製造業の労働生産性は、前年度に比べ4.1%向上し7,386千円/人となっています(図表4-2-2)。
他方、食品製造業の人手不足・人材不足が引き続き課題となる中、生産性の向上が急務となっています。
このため、農林水産省では、経済産業省等と連携し、生産性の向上に資するAI、ロボット等の先端技術の研究開発、実証・改良から普及までを総合的に支援することとしています。
(我が国発・地域発のフードテックビジネス創出を推進)
世界の食料需要の増大に対応した持続可能な食料供給のほか、個人の多様なニーズを満たす健康で豊かな食生活や、食品産業の生産性の向上の実現が求められている中、フードテック(*1)を活用した新たなビジネスの創出への関心が世界的に高まっています。
このため、基本計画、「地方みらい共創戦略(*2)」において、我が国発・地域発のフードテックビジネス及びフードテックを活用した食品産業の発展・地域活性化を推進することとされました。このような中、更なる経済成長を実現するため、令和7(2025)年11月に設置された日本成長戦略本部において、フードテックが17の戦略分野の一つに位置付けられたことから、同年12月に農林水産省においてフードテックワーキンググループを立ち上げ、農林水産大臣のもと、官民連携の戦略的投資を促進するための方策を検討しています。令和8(2026)年3月には第2回フードテックワーキンググループを開催し、植物工場等の官民投資ロードマップの作成に向けた意見交換等を行いました。
気候変動による異常気象の頻発化等の食料安全保障上のリスクが高まるとともに、国内の労働人口の減少が予測される中で、フードテックは食料の安定供給や労働生産性の向上等に貢献することが期待されています。例えば国内のスタートアップでは、密閉方式の栽培装置により、栽培環境を高精度で制御できる完全閉鎖型植物工場や、食材をいためて盛り付け、鍋を洗浄するまでの過程を自動化した調理ロボットの開発が進められているところです(図表4-2-3)。
*1 生産から流通・加工、外食、消費等へとつながる食分野の新しい技術及びその技術を活用したビジネスモデルのこと
*2 第6章第1節を参照
(農林水産物・食品の競争力強化につながるJASの普及・展開)
近年、輸出の拡大や市場ニーズの多様化が進んでいることから、農林水産省では、JAS法(*1)に基づき、農林水産物・食品の品質だけでなく、事業者による農林物資の取扱方法、生産方法、試験方法等について認証する新たなJAS制度を推進しており、事業者や産地の創意工夫により生み出された多様な価値・特色が戦略的に活用され、我が国の農林水産・食品分野の競争力の強化につながることが期待されています。
令和7(2025)年度は、アーモンドミルクや日本茶普及推進専門員等のJASの制定に向けて、規格の要件等について整理するとともに、トマト加工品、地鶏肉等のJASを見直しました。また、このようなJASの認知度を高めるため、イベントやスーパーでの周知活動を行いました。
さらに、有機食品や有機酒類の輸出拡大に資するため、既に有機同等性を相互承認している国・地域との間で対象範囲の拡大を進めており、令和7(2025)年5月にはEUとの間で畜産物及び酒類について、同年10月には米国及び英国との間で酒類について、それぞれ有機同等性の対象品目として追加しました。くわえて、英国との間で畜産物を追加し、令和8(2026)年度から発効できるよう手続を進めました。
このほか、農林水産省では、輸出促進に向けた海外との取引を円滑に進めるための環境整備として、産学官の連携により、ISO(*2)規格等の国際規格の制定・活用及びJASの国際標準化を進めています。
*1 正式名称は「日本農林規格等に関する法律」
*2 International Organization for Standardizationの略で、国際標準化機構のこと
(4)事業基盤の充実等
(経営者の高齢化により事業承継の課題を抱える企業が多数存在)
中小企業が大半を占める食品産業では、経営者の高齢化により事業承継の課題を抱える企業の割合が高くなっています(図表4-2-4)。
国内市場を対象としてきた食品事業者の中には、人口減少に伴う国内市場の縮小が避け難いこと等を背景として、自身の世代での廃業を考え、将来に向けた生産拡大や設備の更新等の追加投資を控えるなど、撤退を視野に入れている事業者も見られます。
食料には食品製造業による加工を経て消費者に届くものが多いことに加え、加工食品の中には、地域の農林水産業と密接に関係し地域の食文化を反映するものも多いことから、食品製造業を次世代につなげていくことが重要です。農林水産省は、事業の円滑な引継ぎやその後の経営革新に向けた取組等を通じた食品事業者の事業基盤の充実を促進するとともに、世界の食市場を視野に入れた食品産業への転換を図るため、食品産業における海外展開の促進に取り組むこととしています。
データ(エクセル:30KB)
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