国際がん研究機関(IARC)によるコーヒー、マテ茶及び非常に熱い飲料の発がん性分類評価について
作成日:平成28年6月15日
更新日:令和5年8月22日
熱い飲み物は少し冷ましてから摂取するようにしましょう。 コーヒーは飲み過ぎるとカフェインを摂りすぎることに繋がりますので、飲み過ぎには注意しましょう。 消費者の皆様がこのページを食生活の見直しに役立てていただければ幸いです。 |
IARCの発表の概要(2016年6月15日)
2016年6月15日、世界保健機関(WHO)の研究機関である国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer : IARC)は、「非常に熱い飲み物」を「グループ2A」(ヒトに対しておそらく発がん性がある)に、「コーヒー」及び「マテ茶」を「グループ3」(ヒトに対する発がん性について分類できない)に分類することをプレスリリース(PDF:114KB)(外部リンク)及びQ&A(PDF:127KB)(外部リンク)によって公表しました。
この発表に関して参考となる情報をまとめましたのでご紹介します。
2018年6月には、IARCによる評価書(外部リンク)も公表されています。
対象 | 今回のIARCの分類 (2016年) |
【参考】過去のIARCの分類 (1991年) |
非常に熱い飲み物(65℃以上) | ヒトに対しておそらく発がん性がある(グループ2A) | - (熱いマテ茶の飲用:ヒトに対しておそらく発がん性がある(グループ2A)) |
コーヒー | ヒトに対する発がん性について分類できない(グループ3) | ヒトに対して発がん性がある可能性がある(グループ2B) |
マテ茶 | ヒトに対する発がん性について分類できない(グループ3) | ヒトに対する発がん性について分類できない(グループ3) |
※過去のIARCの分類においては、マテ茶は温度によらず「グループ3」(ヒトに対する発がん性について分類できない)でしたが、今回のIARCの分類では、非常に熱いマテ茶(65℃以上)は、「非常に熱い飲み物(65℃以上)」(グループ2A)に含まれます。
※「茶(tea)」については、過去(1991年)に「グループ3」(ヒトに対する発がん性について分類できない)に分類されており、今回(2016年)の再評価対象には含まれておりません。
国際がん研究機関(IARC)は、世界保健機関(WHO)のがん専門の機関で、発がん状況の監視、発がん原因の特定、発がん性物質のメカニズムの解明、発がん制御の科学的戦略の確立を目的として活動しています。 IARCは、主に、人に対する発がん性に関する様々な物質・要因(作用因子)を評価し、4段階に分類しています。IARCによる発がん性の分類は、人に対する発がん性があるかどうかの「根拠の強さ」を示すものです。物質の発がん性の強さや暴露量に基づくリスクの大きさを示すものではありません。 IARCによる発がん性の分類の概要について当省でまとめていますので、こちらをご覧ください。 |
コーヒー
IARCの評価の概要
IARCは、コーヒーの飲用について、以下の評価をしています。
- ヒトへの発がん性について
- ヨーロッパ、アメリカ、日本などの研究から、膀胱がんについては、コーヒーの飲用との間に関係性があるという一貫した証拠はない。IARCのワーキンググループは、いくつかの研究ではコーヒーの飲用により膀胱がんの発がんリスクが高まるとされていることについて、喫煙や職業上の暴露などの交絡因子(※)を十分に調整ができなかったことによるものであると結論付けている
(※)交絡因子:調査対象(コーヒーなど)以外で、結果(がんの発生)に影響するもの。(例:喫煙) - アジアやヨーロッパ、北米などの研究から、コーヒーの摂取量が増加すると子宮内膜がんおよび肝臓がんの発生リスクが低下する
- 数多くの研究から、女性の乳がんとコーヒーの飲用には関係性がない、もしくは、コーヒーの摂取量が増加するとわずかにがんの発生リスクが低下する関係が示唆されている他、膵臓がんや前立腺がんにおいてもコーヒーの飲用とは関連性がないことが示唆されている
- IARCのワーキンググループは、肺、大腸、胃、食道、口腔、卵巣のがん、脳腫瘍、小児白血病を含む20種類以上のがんにおいて、各研究の成果に一貫性がなかったことや、交絡因子の調整が不十分であること、研究数が不足していることなどにより、コーヒーの飲用との関連性についての証拠は不十分であると判断している
- 以上の結果から、ヒトにおいては、コーヒーの飲用における発がん性は「証拠が不十分」と評価し、膵臓、肝臓、乳、子宮内膜、前立腺のがんに対しては、「発がん性がないことを示唆する証拠」があると評価した。
- 実験動物への発がん性について
- コーヒーについては、マウスやラットを用いた長期間の研究による発がん性の評価や、ラットやハムスターを用いた発がんプロモーション活性やがん予防の活性に関する調査が実施されている
- レビューに用いられた13件の研究のうち、腫瘍の有意な増加を示した研究は1件のみであった
- 以上の結果から、実験動物においては、コーヒーの飲用における発がん性は「証拠が不十分」と評価した。
- 結論
コーヒーを飲むことは「グループ3」(ヒトに対する発がん性について分類できない)に分類した。
なお、IARCは、現在までに報告されている研究結果からは、コーヒーの種類やいれ方によりがんの発生リスクに明確な差があるかどうかは不明であるとしています。
国立研究開発法人国立がん研究センターの情報
国立がん研究センターは、多目的コホート研究を実施し、その結果を公表しています。
- コーヒー摂取と全死亡・主要死因死亡との関連について(外部リンク)
- 喫煙習慣・コーヒー・緑茶・カフェインと膀胱がん発生リスク(外部リンク)
- コーヒー摂取と子宮体がんリスク(外部リンク)
- 緑茶・コーヒー摂取と膵がんとの関連について(外部リンク)
- コーヒー摂取と大腸がんとの関連について(外部リンク)
- コーヒーと肝がんリスクについて (外部リンク)
マテ茶および非常に熱い飲み物
IARCの評価の概要
IARCは、マテ茶および非常に熱い飲み物(65℃以上)について、以下の評価をしています。
- ヒトへの発がん性について
- 中国、イラン、トルコ、南米などの、伝統的に茶やマテ茶を非常に熱いまま(70℃程度)飲む地域における研究の結果、マテ茶や他の飲料を非常に熱いまま(65℃以上で)飲むと、それよりも低い温度で飲んだ場合と比較し、食道がんの発生リスクが増加する
- 一方で、研究の中には、熱い飲料の摂取と食道がんの発生リスクとの間に関連性が示されなかったと結論付けたものもある
- IARCのワーキンググループは、飲料を飲用する温度と食道がんのリスクとの間に関連性があることは研究により示されていると結論付けているものの、研究では、「非常に熱い」「熱い」等、調査対象者の温度嗜好の主観的な記述に基づいて暴露評価をされている他、潜在的な交絡因子に対する調整が研究間で一貫していない、また、バイアス(※)が取り除けていないとしている
(※)バイアス:原因と結果の関連性を過大評価もしくは過小評価することに繋がってしまう様々な偏りのこと。 - また、マテ茶については、温かいマテ茶の飲用もしくは温かいマテ茶の消費量と食道がんの間に統計的な関係性は示されておらず、熱いマテ茶と熱い他の飲料における食道がんの発生リスクの増加は同程度だった。また、冷たいマテ茶の飲用と食道がんの発生リスクの増加との間に関係性は見出されなかった
- その他のがん(上気道消化管、肺、膀胱、腎臓、子宮頸部、前立腺、胃、結腸、直腸および乳房など)においては、研究の数が少ない等の理由から、IARCのワーキンググループは非常に熱い飲料やマテ茶の飲用とがんの発生の関連については結論を出すことはできなかった
- 以上の結果から、ヒトにおいては、65℃以上の非常に熱い飲料の飲用の発がん性については、「限定的な証拠」があると評価し、あまり熱くないマテ茶の飲用の発がん性については、「証拠が不十分」と評価した。
- 実験動物への発がん性について
- マテ茶や飲料の飲用温度の発がん性に関する動物実験は数少ない
- 65℃~70℃の水をラットやマウスに投与すると食道がんが発生した結果も報告されている一方、熱水(50~70℃)を局所注入した結果では腫瘍発生は見られなかったとする結果も報告されている
- 飲用水として冷たいマテ茶をラットに投与したところ、食道および肝臓の腫瘍発生率は低下したとする研究もある
- 以上の結果から、実験動物においても、65℃以上の非常に熱い飲料の飲用の発がん性については、「限定的な証拠」があると評価し、飲料としてのあまり熱くないマテ茶における発がん性については、「証拠が不十分」と評価した。
- 結論
非常に熱い飲み物(65℃以上)は「グループ2A」(人に対しておそらく発がん性がある)に、65℃より低い温度のマテ茶の飲用は「グループ3」(ヒトに対する発がん性について分類できない)に分類した。
なお、IARCは、多くの国では、茶やコーヒーは主に65℃以下で飲用されているとも述べています。
(注)マテ茶とは、主に南米地域で飲用されている飲料で、イェルバ・マテ(学名:Ilex paraguariensis)という植物の葉を乾燥させたものから抽出します。
参考:各所のウェブサイト等で紹介されている、お茶やコーヒーを淹れる際の湯の温度
飲み物の種類 | 湯の温度 |
煎茶(上級) | 70℃ 1) |
煎茶(中級) | 80~90℃ 1) |
玉露 | 50~60℃ 1) |
番茶、ほうじ茶、紅茶 | 100℃(熱湯) 1) 2) |
コーヒー(レギュラー) | 90~95℃ 3) |
ただし、急須やティーポットなどから湯飲みやカップに注ぐと、これよりも温度は下がります。
参照情報
1) 日本茶インストラクター協会ウェブサイト https://www.nihoncha-inst.com/basic/basic5.html (外部リンク)
2) 日本紅茶協会ウェブサイト https://www.tea-a.gr.jp/make_tea/ (外部リンク)
3) 全米コーヒー協会(National Coffee Association USA)ウェブサイト https://www.ncausa.org/About-Coffee/How-to-Brew-Coffee (外部リンク)
WHOの見解
WHOは、「食事、栄養及び慢性疾患予防」に関する報告書(723KB)(外部リンク)の中で、発がんリスクを減らすための主要な勧告の1つとして
- 「加工肉、塩漬けの食品、塩、熱い飲料・食品の摂りすぎは、発がん性のリスクを高める可能性のある要因である」
をあげています。
詳細は、WHOウェブサイト(外部リンク)をご覧ください。
国立研究開発法人国立がん研究センターの情報
国立がん研究センターは、「科学的根拠に基づくがん予防」を公表し、日本人を対象とした研究結果から定められた、科学的根拠に基づいた「日本人のためのがん予防法」について情報を提供しています。詳しくはこちら(外部リンク)をご覧ください。
お問合せ先
消費・安全局食品安全政策課
担当:リスク管理企画班
代表:03-3502-8111(内線4459)
ダイヤルイン:03-3502-7674