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農林水産省

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農林水産省の取組

トランス脂肪酸に関する調査研究

食品の安全を確保するためには、問題や事故が起きる可能性やその程度をあらかじめ知り、科学的な原則に基づいて対処することが重要です。農林水産省は、「優先的にリスク管理を行うべき有害化学物質のリスト」において、トランス脂肪酸を「リスク管理を継続する必要があるかどうか決定するため、危害要因の毒性や含有の可能性等の関連情報を収集する必要がある危害要因」と位置づけており、トランス脂肪酸に関する科学文献の調査や国内外の情報の収集・解析を続けています。

食品中のトランス脂肪酸濃度

農林水産省は、食品中のトランス脂肪酸の含有実態を把握し、消費者の皆様・食品事業者の皆様に情報提供するため、平成19年度(2007年度)、平成26-27年度(2014-2015年度)、平成28年度(2016年度)に、国内で流通する様々な食品を調査しました。平成26-27年度に国内で流通する加工油脂や油脂を原材料とする加工食品を調査した結果、平成18-19年度の調査結果と比較して、トランス脂肪酸の濃度が低い傾向にあることが確認できました。詳しくはこちらをご覧下さい。

食品からのトランス脂肪酸の摂取量

農林水産省は、平成17-19年度(2005-2007年度)に、日本人のトランス脂肪酸の摂取量を推定するため、マーケットバスケット方式によるトータルダイエットスタディを実施しました。この調査で得られた、油脂を多く含む代表的な食品群のトランス脂肪酸の平均濃度と、それぞれの食品群からのトランス脂肪酸の平均的な摂取量の推定値は、表1のとおりです。

表1.各食品群のトランス脂肪酸濃度と各食品群からの推定摂取量(平均)

食品群
食品群の平均
摂取量(g/日)
食品群中の
トランス脂肪酸の
平均濃度(g/100g)
食品群からの
トランス脂肪酸の
平均一日摂取量
(g/日)
摂取
寄与率
穀類
449.5
0.0247~0.0253
0.111~0.114
12%
豆類
61.5
0.0196~0.0258
0.0121~0.0159
1%
種実類
2.1
0.0917~0.118
0.0019~0.0025
0%
魚介類
82.6
0.0644~0.0682
0.0532~0.0536
6%
肉類
77.9
0.136~0.145
0.106~0.113
12%
卵類
34.4
0.0276~0.0472
0.0095~0.0162
1%
乳類
135.4
0.0969~0.0991
0.131~0.134
14%
油脂類
10.5
1.77~1.86
0.185~0.195
20%
菓子類
25.6
0.654~0.670
0.167~0.171
18%
調味料・香辛料類
92.0
0.153~0.155
0.140~0.143
15%
合計
 
 
0.918~0.962
100%

 

各食品群のトランス脂肪酸摂取量への寄与率は、油脂類が20%ともっとも大きく、次いで菓子類が18%でした。これら2食品群に、穀類、肉類、乳類、調味料・香辛料類を合わせた6食品群がトランス脂肪酸の主要な摂取源となっていることがわかりました。各食品群からのトランス脂肪酸の推定摂取量の合計は、1人1日当たり平均で0.92~0.96 gと推定しました。この推定値は、日本人のトランス脂肪酸摂取量についての食品安全委員会による調査結果(0.7~1.3 g/日)(2007)1)や渡邉らによる調査結果(0.71 g/日)(2008)2)と大きな差はありません。

農林水産省が推定した日本人の平均的なトランス脂肪酸摂取量(0.92~0.96 g/日)をエネルギー量に換算(脂肪酸1 gのエネルギー量を9.21 kcalとして換算)すると、日本人の平均総エネルギー摂取量である1900 kcal/日の0.44~0.47%に相当します*。この結果は、世界保健機関(WHO)が設定したトランス脂肪酸摂取量の上限量である、総エネルギー摂取量の1%に相当する量の半分程度です。

* 食品安全委員会は、食品健康影響評価(2012 年)において、日本人のトランス脂肪酸摂取量を、1人1日当たり平均で0.67 g(エネルギーに換算すると平均総エネルギー摂取量の約0.3%に相当する量)と推定しました。

諸外国の平均的なトランス脂肪酸の摂取量は、米国では成人1人当たり5.8 g/日4)、欧州では男性1人当たり1.2~6.7 g/日、女性1人当たり1.7~4.1 g/日5)との報告があります。これらと比べて、日本人のトランス脂肪酸の摂取量はかなり少ない傾向にあります。

1) 食品に含まれるトランス脂肪酸の評価基礎資料調査(食品安全委員会)〔外部リンク〕

2) 渡邉敬浩、松田りえ子、米谷民雄(国立医薬品食品衛生研究所):トータルダイエットスタディ試料の分析によるトランス脂肪酸摂取量の推定、第95回日本食品衛生学会学術講演会(2008年5月)

3) トランス脂肪酸に関する食品健康影響評価(食品安全委員会)〔外部リンク〕

4) Federal Register - 68 FR 41433 July 11, 2003: Food Labeling; Trans Fatty Acids in Nutrition Labeling; Consumer Research to Consider Nutrient Content and Health Claims and Possible Footnote or Disclosure Statements; Final Rule and Proposed Rule(FDA)〔外部リンク〕

5) Opinion of the Scientific Panel on Dietetic products, nutrition and allergies [NDA] related to the presence of trans fatty acids in foods and the effect on human health of the consumption of trans fatty acids.(EFSA)〔外部リンク〕

食用油脂の加熱によるトランス脂肪酸の生成

農林水産省は、平成17-19年度(2005-2007年度)に、食品を調理する際の食用油脂の加熱によって、トランス脂肪酸が生成するかどうか、生成するとしたらどの程度濃度が増加するのかを調査しました。その結果、通常の揚げ調理の条件(160~200℃)で同じ油を繰り返し加熱しても、トランス脂肪酸の濃度の増加はごくわずかであり、その影響はほぼ無視できることがわかりました。この研究成果については以下の科学雑誌をご覧ください。

Formation of trans fatty acids in edible oils during the frying and heating process〔外部リンク〕

Wakako Tsuzuki et.al.,Food Chemistry, Volume 123, Issue 4, 15 December 2010, Pages 976-982

トランス脂肪酸の分析法の比較

食品中のトランス脂肪酸の分析法は、ガスクロマトグラフを用いた方法、薄層クロマトグラフを用いた方法、赤外分光を用いた方法など多数存在しています。

農林水産省は、平成23年度(2011年度)に、国内外で公定法として採用されている、ガスクロマトグラフを用いる代表的なトランス脂肪酸分析法4種類(AOAC 996.06, AOCS Ce 1f-96, AOCS Ce1h-05, 日本油化学会基準油脂分析法暫17-2007)について、分析可能な食品中のトランス脂肪酸の種類や範囲、その精度について確認し、基礎的なデータを得るための調査研究を行いました。

その結果、同一の試料(ショートニング、マーガリン、コンパウンドマーガリン、バター、チーズ、牛肉)を分析しても、使用する分析法が異なると、個別に定量可能なトランス脂肪酸の分子種が異なること、トランス脂肪酸の分析結果(測定できた個々のトランス脂肪酸の濃度の合計値)に2割程度影響する場合があることが分かりました。
また、同じ分析法、同じ分析試料を用い、同じ分析機関で測定しても、トランス脂肪酸の分子種によっては分析値が毎回大きくばらつき、定量が難しいことが分かりました。

トランス脂肪酸の分析結果のばらつきの程度については、2015年3月に開催された第36回コーデックス委員会分析・サンプリング法部会で、分析法規格を策定している国際組織である米国油化学会(AOCS)も情報提供しています。詳しくはこちらをご覧下さい。

 

トランス脂肪酸の摂取による健康への影響

農林水産省、食品安全委員会等が推定した日本人のトランス脂肪酸の平均的な摂取量は、いずれも、WHOが定めたトランス脂肪酸摂取量の目標(総エネルギー摂取量の1%に相当する量よりも少なくすること)を満たしています。これらの結果に基づくと、平均的な食生活であれば、日本人のトランス脂肪酸摂取による健康への影響は低いと推定できます。

また、食品安全委員会は、平成22年(2010年)3月18日の第324回会合において、「食生活の変化により若年層の摂取が増えていると考えられる」ことを理由に、平成22年度(2010年度)の自ら食品健康影響評価を行う案件を「トランス脂肪酸」と決定し1)、平成24年(2012年)3月8日の第422回会合で、食品に含まれるトランス脂肪酸の健康影響評価の結果をとりまとめました2)

この評価書においても、「日本人の大多数がWHOの勧告(目標)基準であるエネルギー比の1%未満であり、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられる。」としています。一方で、「脂質に偏った食事をしている個人においては、トランス脂肪酸摂取量のエネルギー比が1%を超えていることがあると考えられる」としています。これらのことから、「リスク管理機関においては、今後とも日本人のトランス脂肪酸の摂取量について注視するとともに、引き続き疾患罹患リスク等に係る知見を収集し、適切な情報を提供することが必要である。」としています。

脂質が多い食事をしている人は、トランス脂肪酸を多くとってしまう可能性があります。健やかな食生活を送るためには、同じものばかりを食べるのではなく、いろいろな食品をバランスよく食べることが重要です。

農林水産省は、今後も食品事業者の皆様によるトランス脂肪酸の低減の取組も含め、食品中のトランス脂肪酸に関する国内外の情報を収集・解析し、国民の皆様に提供します。

1) 第324回食品安全委員会(PDF:53.9KB)(食品安全委員会)〔外部リンク〕

2) トランス脂肪酸に関する食品健康影響評価(食品安全委員会)〔外部リンク〕

飽和脂肪酸の摂取量と健康への影響

脂質のうち、とりすぎが問題となるのはトランス脂肪酸だけではありません。「日本人の食事摂取基準(2015年)」では、総脂質、飽和脂肪酸、n-6系脂肪酸、n-3系脂肪酸、コレステロールの各脂質の目標量を定めています。「平成28年国民健康・栄養調査報告(厚生労働省)」によると、成人男性の約3割、成人女性の約4割で、脂肪エネルギー比率(総脂質からの摂取エネルギーが総摂取エネルギーに占める割合)が、食事摂取基準で定める目標量(20%以上30%未満)を超えており、近年、脂質をとりすぎている人の割合が増えています。

農林水産省は、平成17~19年度(2005-2007年度)に、トランス脂肪酸の摂取量調査に加えて、トランス脂肪酸と同様に過剰摂取によって生活習慣病のリスクを高めるとされる飽和脂肪酸についても、食品群の含有濃度を暫定的に測定注)し、摂取量を推定しました。
この結果、日本人(20歳以上)の平均的な飽和脂肪酸の摂取量は、1人1日当たり16.6gと推定しました(表2)。これは日本人(20歳以上)の平均総エネルギー摂取量である1911 kcalの8.2%に相当し、「日本人の食事摂取基準(2015 年)」が定める目標量の範囲の上限値(総エネルギー摂取量の7.0%相当)を超えています。

この試算結果から、日本人は平均的にみて飽和脂肪酸を過剰に摂取している可能性があり、このことにより生活習慣病等の健康リスクが高くなる可能性が示唆されました。したがって、現時点では、トランス脂肪酸の摂取量は現状のまま低く維持しつつ、飽和脂肪酸の摂取量を積極的に減らすことが重要と考えられます。

表2.各食品群の飽和脂肪酸含有濃度と各食品群からの摂取量の推定(20歳以上平均)

食品群
食品群の
平均摂取量(g/日)
(20歳以上)
食品群中の
飽和脂肪酸の
平均濃度(g/100g)
食品群からの
飽和脂肪酸の
平均一日摂取量(g/日)
摂取
寄与率
穀類
459.5 
0.336
1.54
9%
豆類
65.3
0.837
0.547
3%
種実類
2.2
8.80
0.194
1%
魚介類
89.9 
1.63
1.46
9%
肉類
76.1
6.88
5.24
32%
卵類
34.1
2.79
0.950
6%
乳類
101.3
2.38
2.41
15%
油脂類
10.3
16.8
1.73
10%
菓子類
22.9
6.23
1.43
9%
調味料・香辛料類
100.0
1.08
1.08 
6%
合計
 
 
16.6
100%

 注)本調査で濃度を測定した飽和脂肪酸は、一般的に乳製品等に含まれている飽和脂肪酸の一種である酪酸(C4)、カプロン酸(C6)を含まないため、推定した飽和脂肪酸の摂取量は過小評価となっている可能性があります。

お問合せ先

消費・安全局食品安全政策課

担当:化学物質管理班
代表:03-3502-8111(内線4453)

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