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農林水産省

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特集1 食生活(5)

[食育の取り組み2]食べ物を自分で作って、食べる―30年続く高取保育園の食育の成果



子どもたちが稲を栽培し、みそを仕込み、包丁を握り、米をとぐ。福岡市の社会福祉法人福栄会高取保育園は体験を重視する取り組みを行っています。

ひとりひとりが田植えから収穫までを体験。
ひとりひとりが田植えから収穫までを体験。
ひとりひとりが田植えから収穫までを体験。


病気になりにくい体に育てる食育を実践
30年あまり前、日本の食の変質を憂いて、給食に伝統的な和食を取り入れたのが社会福祉法人福栄会高取保育園(福岡市早良区)の園長だった西 福江さんです。

以来、食育の実践を通して3000人以上の子どもたちの生きる力を育んできた西さんはこの3月、退任しました。退任の日が近づくと連日、小学生から大人まで大勢の卒園者が保育園を訪れてきましたが、判で押したように口にした感謝の言葉があります。
「おかげさまで病気をしません」

自分たちで食べる物を自分たちで作り出す喜び
西さんのあとを継いだ新園長、松枝智子さんは「健康の土台をつくるのが、玄米を主食とした旬の野菜をとる和食です」と語ります。

「子どもたちの好きなメニューはひじき、切り干し大根、煮豆で、残さず食べてくれます。小さい子どもは食べる物を選べず、大人が用意した物を食べるしかありません。子どものときに食べたものが、その人にとっての食の原風景になるのですから、周りの大人の責任は重大です」

何を食べるかだけでなく、どう食べるかも大切にしています。

給食の用意が整うと、当番の子どもが「ご飯は左にありますか?お味噌汁は右にありますか? おかずは上にありますか? お箸は下にありますか?」と唱えます。

「はい!」

園児たちは元気よく答えてから、箸を手にします。ひと口目は数えながら100回かむのが約束です。

さらに高取保育園では、自分たちで自分たちの食べ物を用意する体験にも力を入れています。

「子どもたちは好奇心いっぱいですから、進んで調理をやりたがります。みるみる慣れて手際が良くなります。上手にできるとほめられるから、さらにやる気がわいてきます」

調理ばかりか、子どもたちはみそや梅干しなども作ります。
「物を食べるには手間をかけなければならない。これを体感することは生産者への感謝にもつながるはずです」と松枝さん。

こうした体験を通して古くからの知恵が世代を超えて受け継がれています。


みそ作りに参加する園児たち。みそ玉を樽に仕込んでいく。
みそ作りに参加する園児たち。みそ玉を樽に仕込んでいく。

箸を使って土用干し。梅干しも手製。
箸を使って土用干し。梅干しも手製。

給食のごはんも自分たちでとぐ。とても手慣れたもの。
給食のごはんも自分たちでとぐ。とても手慣れたもの。
炊き込みごはんの具にする野菜の切り込み。包丁を握るときの表情は真剣そのもの。
炊き込みごはんの具にする野菜の切り込み。包丁を握るときの表情は真剣そのもの。


「第3次食育推進基本計画」に基づく食育の新たな展開
新たな計画の5つの重点課題
平成28年3月に決定した第3次食育推進基本計画では、推進すべき重点課題として「若い世代を中心とした食育」「健康寿命の延伸につながる食育」に加えて今回、「多様な暮らしに対応した食育」「食の循環や環境を意識した食育」「食文化の継承に向けた食育」の3点が加えられました。

これらの重点課題に取り組む視点とされたのが「子供から高齢者まで、生涯を通じた取組」と「国、地方公共団体、教育関係者、農林漁業者、食品関連事業者、ボランティア等が主体的かつ多様に連携・協働しながら食育の取組」の推進です。

農林水産省では、主食の米を中心に魚介類や野菜など多様な副食を組み合わせた「日本型食生活」の推進などの事業に取り組み、生産者と消費者の交流促進等を通じた国民理解の促進により、食料自給率の向上や国産農産物の消費拡大にもつなげていきます。



取材・文/下境敏弘
写真提供/高取保育園


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