有機農業での独立を目指して(三重)
鯨岡 恵さん(37歳)・三重県名張市
東日本大震災がきっかけで移住
三重県伊賀地方に位置し、ぶどうやお米などが特産品の名張市には、新規就農者が多く、福島県出身の鯨岡恵さんもそのひとりです。鯨岡さんは、名古屋にある大学で学んでいるときに、有機農業を志すようになりました。卒業後は福島県に戻り、研修を経て、地元いわき市の農業法人に入社。念願の有機農業で作物を育てる、農業人生をスタートさせました。
同法人での仕事を続けながら、いわき市内での独立就農を準備。しかし、適した土地を探しているときに、東日本大震災に見舞われます。
「働いていた法人所有の田畑が、福島第一原子力発電所の30キロメートル圏内でした。それで出荷停止となり、法人が解散してしまいます。いわき市内での独立就農もいったんあきらめるしかありませんでした」
弟が住んでいる東京へ一時避難した鯨岡さんは、避難中も農業に携わりたいと考え、池袋で行われていた新・農業人フェアに参加しました。
「大学時代の友人がいる愛知や静岡、三重を中心にブースを回ってみました。そこで紹介されたのが、有機農業では難しいとされていた、ハウスでの大玉トマト栽培を行っている三重県名張市の福廣農園さんです。かつて自分も研修先で、有機農業でミニトマトを栽培していた経験から、その難しさがよく分かっていたので、一度見学してみたいと思いました」
名張市を訪れたのは、ちょうどトマトの栽培時期。実際にトマトを育てているハウスを見て、「ここで学んでみたい」という意欲が湧いてきたそうです。
「雑草もなく、すごくきれいな畑を見て、有機農業での大玉トマトの作り方を学べると思い、福廣農園での研修を志願しました」
同農園に快く受け入れてもらった鯨岡さん。研修開始当初は、将来いわき市に戻ることも考えていましたが、徐々に名張市に腰を据えたいとも思い始めます。
「そんなときに、土地を貸してくれるという話がありました。運良く師匠である福廣さんの畑の近くの土地で、すぐに借りることを決めました」
これを機に独立した鯨岡さんは、三重県の新規就農者向けの補助金でハウスなど必要な設備を整え、大玉トマトを中心にさまざまな有機野菜を育てる生活を始めます。
地域での交流や趣味も満喫
現在は、福廣さんが代表になっている「ゆうき伊賀の里」という出荷グループに入り、宅配業者さんとの契約栽培という形で作物を出荷しています。
「出荷グループに入れたことで、ひとりで農業をしている私も安心して暮らすことができています。縁の少ない土地での新規就農を考えている方は、こうしたネットワークのある研修先を探したほうがいいと思います。見知らぬ土地で何から何までひとりでやるのは、思ったよりも大変ですから」
暮らしの面でも福廣さんにお世話になっていて、ご家族や同農園で働くパートさんたちから、名張市の風習や料理などを教えてもらっているそうです。
「例えば、お正月には福廣さん宅でもちつきをするのですが、鏡もちやお雑煮の作り方が福島と違っていておもしろいです。名張のこともいろいろと教えてくれて、とても勉強になります」
また、名張市をはじめとする伊賀地方では、有機農業に取り組んでいる新規就農者の交流も盛んに行われています。鯨岡さんも農業女子で集まって話をしたり、同年代のグループでカラオケへ行ったりなどの交流を楽しんでいるとか。
交流のある伊賀市の農業法人で働いている男性と出会い、2017年に結婚。お二人は週末婚というスタイルを選び、それぞれの土地で有機農業を続けています。
「奈良や京都に近く趣味の神社仏閣めぐりが日帰りでできるのもいいところです。時間を見つけては、奈良・平安時代から続いている神社仏閣に、車や電車で足を運んでいます」
私のピカイチ
お気に入りは、近所を流れる名張川の景色。
桜が植えられた川沿いは、春になると見事な眺めです。
どんな就農支援があるの?
農業次世代人材投資資金など
三重県では、U・Iターンによる新規就農者の受け入れ体制づくりに積極的に取り組んでいます。就業相談窓口や農林漁業就業・就職フェアなどでの就農相談をはじめ、三重県農林水産支援センターでは、「農林漁業研修事業」を実施。長期研修の場合は住宅手当を一部助成しています。また、施設・機械などの整備補助、「農業次世代人材投資資金」の交付(経営開始型、最長5年間、年間最大150万円)などの就農支援の他、サポートリーダーの下での技術習得に向けた実践的研修及び農地や住居の確保、地域への溶け込み支援が受けられる『みえの就農サポートリーダー制度』も用意しています。
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