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農林水産省

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残さずいただきます

3 南極発! 食品ロスを出さない食事とは?

南極では「南極条約」によって廃棄物に関する規定が厳しく決められており、ごみは基本的に自国へ持ち帰る必要があります。そのため、南極観測隊の調理隊員は、試行錯誤を重ね、食品ロスを出さない食事を編み出しています。南極観測隊の調理隊員として約1年間を過ごした渡貫淳子さんに、現在社会問題となっている食品ロスを減らすヒントを教えていただきました。

写真:昭和基地

今回教えてくれたのは

監修者プロフィール

渡貫 淳子さん

1993年、エコール 辻 東京を卒業後、同校職員として勤務。その後専業主婦の期間を経て、南極観測隊の調理隊員に応募。2015年、第57次南極地域観測隊の調理隊員として従事し、2017年春に帰国した。

写真:渡貫 淳子さん

南極に向かうまで

写真:日本料理を作る渡貫淳子さん

何故南極に興味を
持たれたのですか?

調理師を目指す人は「自分がどのような料理人になりたいか」というイメージを持っているかと思います。私の場合はお店で料理を作るのではなく、学生寮などの小さなコミュニティの中で、知っている誰かのために料理を作りたいという想いを漠然と持っていました。そんな中、南極で働く料理人の映画を見たことが大きなきっかけとなります。南極という究極の閉鎖環境で働いている隊員に料理をふるまうことが、私の理想に近いと感じ、子どもが大きくなったのを機に応募しました。

南極に向かうための準備で
苦労したことはありますか?

南極に食材や荷物を運べるのは、隊員が渡航するタイミングのただ一度であり、もし現地で食材が足りなくなっても、新たに調達することは叶いません。1年の滞在中に「不足する食材が出るのではないか」と考えると、とても不安でした。そこで、過去の資料を調べ、南極への渡航体験がある調理隊員と相談しながら、約2,000品目、数量にして30トンから40トンの食材を準備。約3カ月間パソコンや電卓と格闘する毎日で、あんなにも長い期間包丁を持たなかったのは、料理人になって初めてのことでした。

食品ロスについて意識したのは
いつからですか?

南極で働く前は外食産業に勤めていましたが、その時は、廃棄が出るのは仕方がないことだと思っていました。実際に南極に行くことが決まった時に、南極では廃棄物、汚水処理にさまざまな制約があることを知って、初めて廃棄について意識しました。

そして、南極に行ってからごみ処理を担当している方と共同生活を行い、その方の仕事を知ったことで、うかつにごみを出して仕事を増やしてはいけないなと、強く感じるようになりました。

食品ロスと闘う南極生活

写真:昭和基地の食事スペース

メニューはどのようにして
考えていましたか?

南極では状況が絶え間なく変化し、その日必要とされる食事が変わることも多いため、メニューをあらかじめ決めることはしません。調理隊員は私以外にもう1名いたのですが、それぞれ使う食材に偏りがあり、「この食材は思ったより減ったな。逆にこの食材は残っているな」という状況がよく発生したので、余っている物をうまく減らせるメニューにすることが多かったですね。時には隊員さんに「今この食材が余っていますが、何が食べたいですか?」と聞いて、メニューを決めることもありました。

食材を無駄にしない献立を
編み出す秘訣はありますか?

写真:昭和基地の食事

日本では残った固形の食材で、別のメニューを作るというイメージが多いと思いますが、南極では水質汚染を防ぐために液体ごみを発生させないようにする必要があり、特に余分な水分を出さないように気をつけていました。たとえばうどんを作った翌日には、余った出汁を使って煮物を作ります。その際、出汁を余らせないように麩を入れて水分を吸わせるなど、いろいろ工夫していましたね。また、週に一度カレーを作ることが習慣になっていたのですが、カレーは本当に万能で、余った食品、たとえばサバの味噌煮をカレーに入れてもおいしく食べられます。どんなものでもいい具合にかくし味になってくれるので、とても重宝しました。ただ、余った卵の白身をうらごしして入れた時だけは、カレーの中に白いつぶつぶが残ってしまい、見た目が悪く、隊員さんから不評でした(笑)。

食品ロスを減らすためにできること

写真:昭和基地での食材管理

食品ロスを減らすために
できることは何でしょうか?

大前提として無理は続きません。私自身、南極での任務中誰かに「あれをしろ、これをしろ」と強制されていたらできなかったと思います。自分にできることを一つずつ増やしていくことが大事です。

たとえば、形が悪い野菜を率先して買うなど、まずは小さなことから始めてみてはいかがでしょうか。おすすめなのは、料理する時に「一品足りない!」と思っても、買い足さずに冷蔵庫や冷凍庫に余っている食材を使ったメニューを作ってみること。こうした生活を1カ月続ければそれが習慣になり、食品ロス削減に貢献できると思います。

最後にメッセージを
お願いします。

今、新型コロナウイルスの影響から、スーパーなどで食品の品切れを目にする機会が増えたように思います。これまで、品切れはネガティブなイメージがあったように思いますが、実は供給過多こそが、お店で過剰在庫となって食品ロスを生む大きな原因ですので、品切れは決して悪いことではありません。品切れしているなら、今あるものから食べる物を選べばいいだけです。この意識を持つことが食品ロス解消にはとても重要だと思います。考え方一つで食品ロスは減らせるので、ぜひ意識してみてください。

渡貫さん直伝!おうちでできるアイデアレシピ

たけのことお麩の煮物

写真:たけのことお麩の煮物

材料(2人分)

写真:たけのことお麩の煮物の材料
うどんのつゆ
200ミリリットル
鶏もも肉
100グラム
たけのこの水煮
2分の1本
車麩
2個
いんげん
3本

作り方

写真:車麩を水で戻す
1

車麩はたっぷりの水で戻して4等分にし、水気をしっかり絞る。

2

たけのこはくし型切り、鶏もも肉はひと口大に切る。

3

いんげんは下茹でして適当な大きさに切る。

4

鍋を温めて少量の油(分量外)をひき、鶏肉は白っぽくなるまで炒める。

写真:うどんのつゆと筍を加えて10分煮る
5

うどんのつゆとたけのこを加えて蓋をし、中弱火で10分煮る。

写真:車麩を加えてさらに5分煮る
6

車麩を加えてさらに5分煮る。

7

いんげんを加えて、軽く温まる程度に煮て完成。

煮物のリメイク炊き込みごはん

写真:煮物のリメイク炊き込みごはん

材料(2人分)

写真:煮物のリメイク炊き込みごはんの材料
1合
煮物の残り
適量
小さじ3分の1
醤油
小さじ1
だし汁
700ミリリットル

作り方

1

米は洗って30分程度水に浸してからザルにあげておく。

2

煮物の残りは1センチメートル角くらいに刻む。

写真:だし汁を加える
3

炊飯器の釜に1のお米を入れ、だし汁(水1リットルに対して昆布10グラム、かつお節20グラムを使用)を加える。
さらに塩と醤油を加えて軽く混ぜたところに2の具材をのせて炊き上げる。その際、緑色の具材は彩り用に残しておく。

写真:炊き上がり
4

炊き上がりに緑色の具材を加えて全体を混ぜ合わせる。

POINT

だし汁やスープの残りも実はごみになってしまいます。何気なく排水口に捨てられた液体ごみはその後、たくさんの手間と費用をかけて処理されます。液体の残り物も上手く活用できるように工夫してみましょう!

大ヒット商品になった「悪魔のおにぎり」

写真:悪魔のおにぎり

コンビニエンスストアなどで流行した「悪魔のおにぎり」。実はこのおにぎりを最初に作ったのは渡貫さんです。渡貫さんが食事当番の時は、食品ロスを無くすため、夕食時に余ったご飯とおかずの食材を使って、夜食用のおにぎりを作ることが習慣となっていました。その中で生まれたのが「悪魔のおにぎり」です。

ある夜、余った天かすを用いて天丼風のおにぎりにしようと思い立ち、天つゆで味付けしたごはんに、天かすと、使われていなかった青さのりをアクセントとして加え、それらを混ぜておにぎりにしました。これはとてもおいしいのですが、夜食として食べるには高カロリー。食べようとした隊員の方が思わず「悪魔的だね」とつぶやいたことから、「悪魔のおにぎり」という名前が定着したそうです。

なお、青さのりが余っていたのは、お好み焼きを作るのをやめたからだとか。南極ではキャベツを含めた野菜が大変貴重で、お好み焼きにするとキャベツを大量に使用してしまい、野菜を生で食す機会が減ってしまうため、メニューを変更したとのことです。

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編集後記

記事にはできませんでしたが、渡貫さんからこんなお話も伺うことができました。南極では常に生野菜不足の状況で、あのシャキシャキした食感がずっと恋しかったとのこと。そんな生野菜を心待ちにしていた隊員の皆さんが、南極からの帰路に立ち寄ったオーストラリアのレストランで真っ先に向かった先はどこだと思いますか?答えはサラダバーだそうです!渡貫さん、貴重なお話をありがとうございました。(広報室KM)

記事の感想をぜひお聞かせください!

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