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農林水産省

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夢を創造しよう 農業高校

3 世界へ、未来へ!羽ばたけ若い力

ロボットやICT(情報通信技術)などを活用して、超省力・高品質生産を実現する「スマート農業」に向けた学びや国際的な問題に対する取り組み、海外の学校との交流、持続可能な農業生産をめざすGAP(農業生産工程管理)認証の取得に向けた取り組みなど、進化する農業高校を紹介します。

写真:農業用アシストカートの製作風景
北海道旭川農業高等学校の低コスト農業用アシストカートの製作風景。

未来を担う次世代型農業を実践

宇宙農業の可能性を探る取り組み、スマート農業の実現に向けた課題研究やICTの修得など、先端技術の導入やユニークな開発を通じて、次世代の農業のありかたを学ぶ生徒たちの活動の様子をお伝えします。

宇宙農業への挑戦。
JAXAによる授業も
広島県立西条農業高等学校(広島県東広島市)

「火星で食料の自給自足はできるか?」なんとも壮大な課題を掲げ研究を進めているのは、文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に認定されている広島県立西条農業高等学校です。同校では、型破りな発想力と課題発見能力を育成し、生徒たちが主体的に課題に向き合うことを目標として取り組みがなされています。

この課題解決の糸口を探るのは、同校全学年の7学科(園芸、畜産、生活、農業機械、緑地土木、生物工学、食品科学)と部活動の自然科学部の生徒たちです。たとえば園芸科と畜産科は「アクアポニックスシステム(水の循環を利用して魚の養殖と野菜の栽培を同一システムで行う手法)の宇宙での活用」、緑地土木科は「火星における土壌の研究」など、それぞれの専門分野に関連する研究を進めています。また、国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)に協力を依頼して、昨年8月と12月には同職員によるリモート講義で、宇宙開発、惑星探査の状況などの説明やワークショップも行われました。

生徒たちは「宇宙環境ではサルモネラ菌の毒性が強まるなど、宇宙と地球とでは大きな違いがある」など新たな知識の修得や、宇宙に目を向けることで地球上のSDGsなどの課題解決にもつながるヒントがあるのではないか、との気づきも生まれたそうです。

写真:JAXAによるリモート講義
JAXAによるリモート講義を受講。
写真:グループ学習の成果を発表
グループ学習の成果を発表。

先端技術を活用した「スマート農業の実践」

先端技術を活用した「環境制御ハウス」
岡山県立興陽高等学校(岡山県岡山市)

岡山県立興陽高等学校はスマート農業の実現に向けた学習に力を入れており、同校の農業科では水田でGPS搭載のトラクターや無人田植え機、ドローンなどを利用した大規模な稲作の実施や、温度、水分量などの各種センサーを用いた野菜や果樹の施設園芸の実習を行っています。遠隔管理や監視ができる環境制御ハウスの製作は、農業機械科の生徒たちの課題研究です。センサーで温度、湿度、水分量、照度など環境データが測定でき、サイドカーテンの開閉や農作物へ水を与えるための潅水用電磁弁のオン、オフの制御も可能です。外部から講師を招き、制御装置の仕組みやプログラミング言語Python(パイソン)を使った専門的なプログラミングの学習を行うなど、農業の世界でもデジタルを利用した変革が進み、対応が求められる現在、同校では新しい技術革新に適応した人材育成に取り組んでいます。

写真:ハウス制御装置の設置
ハウス制御装置の設置。
写真:社会人講師によるPythonプログラミング学習
社会人講師によるPythonプログラミング学習。

地域農業の課題解決に向けた
「低コスト農業用アシストカート」の開発
北海道旭川農業高等学校(北海道旭川市)

北海道旭川農業高等学校農業科学科の生徒が開発した低コストアシストカートは、地域農業の課題解決をテーマとする授業から誕生しました。テーマを選定する際の事前調査で、約8割の農家の方が農作業の負担が大きいと回答していますが、一方でコスト面から新たな機械の導入は難しいということがわかりました。生徒たちは生産者の負担を軽減できる、運搬補助を目的としたアシストカートを安価で開発できれば、多様な作目で持続的に活用できるのではないかと考え、低コスト化に挑戦。搭載機能は必要最低限に限定し、専門知識がなくても簡単に操作できる農業用のアシストカートの開発を開始しました。カートは主に高齢者が利用、荷物運搬補助が主要な用途と想定し、容易に荷物を積めるよう車高を低くして、100キログラム程度の荷物の運搬と自動走行を可能にしました。完成後も操作性の向上や車体の軽量化など改良が進められています。

写真:農作業用アシストカートのフレームを作成している様子
農作業用アシストカートのフレームを作成している様子。
写真:アシストカート開発チームの皆さん
アシストカート開発チームの皆さん。

国際的に活躍する農業高校生たちの取り組み

海外のコンテストに参加したり、海外の学校と提携、交流したりする農業高校が増えてきました。グローバル化に対応した農業高校の取り組みについてお伝えします。

2020ストックホルム青少年水大賞
グランプリ獲得!
青森県立名久井農業高等学校(青森県南部町)

毎年8月、スウェーデンの首都ストックホルムでは、世界中から水環境研究者の権威が一堂に会し「水のノーベル賞」と称される「ストックホルム水大賞」の授与が行われますが、このジュニア版が高校生を対象とした、ストックホルム青少年水大賞。生活の質の向上及び水環境における生態系の改善などに、優れた調査研究を行った若手研究者に贈られる賞で、授与は、スウェーデン王国皇太子殿下より行われます。

この大会に向けて、2019年4月から約1年半を費やし研究を行ったのは青森県名久井農業高等学校環境システム科3年生の4人の生徒。テーマは「乾燥地の土壌流出抑制と食糧増産を可能にする多機能集水技術の開発」。世界の乾燥地や半乾燥地で乾季は水不足、雨季は耕地の土壌流出問題が発生していることに着目した研究です。これらの地域では土を盛り、斜面上流から流れてくる雨水を集水する技術はありますが、盛り土部分に耐久性がなく流出を繰り返しています。これらの解決法として、より簡単に強い構造にするため、日本の伝統的な技術である、土に、砂と石灰とにがり(塩化マグネシウム)を加えて固化させる三和土(たたき)に注目しました。ブーメラン状に成形した三和土を作物の株元に設置することで、集水量が数倍に増え、流出する土壌を大幅に抑制できることが実証できました。さらに三和土の中に乾燥牛糞堆肥や草木灰を混ぜることで、長期にわたり栄養分を作物に供給でき、収量が増えることも明らかに。安価な材料で調達も製作も簡単なこと、不要になったら土に戻せるエコ技術であることや、現地の持続的な農業や緑化に貢献できることが高い評価を得て、参加29カ国の中で見事、大賞を受賞しました。生徒たちも自ら考案したアイデアが、世界の人々に評価されたことが大きな自信となったようです。

写真:グランプリを受賞した環境システム科の3年生
グランプリを受賞した環境システム科の3年生。
写真:WEB開催における発表の様子
WEB開催における発表の様子。
写真:三和土を作物の株元に設置する研究実習
三和土を作物の株元に設置する研究実習。

漫画で日本の農業の
魅力を伝える
北海道大野農業高等学校(北海道北斗市)

北海道大野農業高等学校は日仏農業教育連携に参加し、2019年から同校の生活科学科の生徒が中心となり、フランスのポー・モントルドン高等学校とフォンテーヌ農業高等学校との交流を重ねています。「漫画で農業の魅力を伝える」をテーマに、お互いの国の特色的な農業をそれぞれ4ページほどの漫画に描き、共有することにしました。漫画にすることで内容が伝わりやすく、視覚にも訴えるので、外国の高校生との交流で言葉の問題も軽減されると考えたからです。フランスの高校生に伝える題材と構想については現在検討しているところですが、北海道の大規模農業の特徴や、同校所在地の北斗市が北海道水田発祥の地であること、また、スマート農業についてなど、題材の案が出ています。また、ポー・モントルドン高等学校とは定期的にweb会議を行い、漫画のストーリーやキャラクターを相談しており、フォンテーヌ農業高等学校とはインスタグラムのアカウントを互いに作成し、普段の学校での実習の様子を共有しています。生徒たちが互いの農業の魅力をどう発信するのか、交流の成果が楽しみです。

写真:生徒たちが考えた漫画のキャラクター
生徒たちが考えた漫画のキャラクター。
写真:Web会議で提携校の生徒と今後の方針を相談
Web会議で提携校の生徒と今後の方針を相談。

GAP(農業生産工程管理)の実践と認証取得にチャレンジ

GAP(Good Agricultural Practices:農業生産工程管理)とは、農業において、食品安全、環境保全、労働安全等の持続可能性を確保するための生産工程管理の取り組みのことです。

グローバルGAPの
認証品目数が高校日本一
福島県立岩瀬農業高等学校(福島県鏡石町)

福島県立岩瀬農業高等学校はグローバルGAP認証品目数高校日本一をはじめ、JGAPでも日本初となる畜産物3品目(乳用牛・生乳、肉用牛、採鶏卵・鶏卵)、同時取得という快挙を達成しています。同校の生徒たちは2018年のオランダの高校生との交流で、現地の生徒の多くが福島県の農産物を「危険な食品」と認識していたことに衝撃を受けるとともに、欧州では農産物の安全性を担保するGAPが重要視されていることも学びました。この経験からGAPが食材調達基準となっている東京オリンピック・パラリンピックへの食材提供を目指し、福島県の農作物に対する風評被害払拭を同校から発信しようと、グローバルGAP認証取得に挑戦し続けています。また、相互の人材育成を目的として東京の結婚式場と産学連携協定を締結し、同校のグローバルGAP認証を取得している米を使った「福島県立岩瀬農業高等学校産米 無添加糀あまざけ」を開発。学校所在地の鏡石町のふるさと納税返礼品にも選定されました。

写真:「福島県立岩瀬農業高校産米無添加糀あまざけ」の商品発表・試飲会
「福島県立岩瀬農業高校産米無添加糀あまざけ」の商品発表・試飲会。
写真:同校のグローバルGAP認定コシヒカリを使用したあまざけ
同校のグローバルGAP認定コシヒカリを使用したあまざけ。

“グローバルだけでなくローカルも”地域と連携した取り組み

熊本県内の県立の農業関係高校(11校1分校)と、(一社)熊本県農業法人協会は全国初となる連携協定を締結。次世代の農業人材の育成や就農促進を目的として、高校生を対象とした農業研修や体験学習などで相互協力します。協定は農業経営、6次産業化、スマート農業、現場実習など6項目からなり、受け皿はその多くがGAP、スマート農業、ICTを取り入れているという同協会に加入する111社の農業法人。近年は農業関係高校でも非農家出身の学生や教職員が増加しており、この協力により農業法人の知識と技能が学校教育に活かされると期待されています。
また、「高齢者の方を花で癒したい」という優しい気持ちで学校と地域との連携を深めているのは、兵庫県立農業高等学校園芸科草花班の有志の生徒たち。高齢者が高校生と一緒に草花に触れることで、心身共に健やかになることを目的とした園芸療法活動で、地域の老人保健施設を訪問し、花を介した交流を続けてきました。現在は新型コロナウイルスの影響もあり訪問が叶わず、寄せ植えづくりの動画を作成し発信するとともに、地域を支える病院関係者を応援するために、フラワーアレンジメント作品を届ける活動も行っています。再び地域の方々と花で心をつなぐ日が来ることを心待ちにしています。

写真:老人保健施設を訪問し、花を介した交流を行う兵庫県立農業高校の皆さん
老人保健施設を訪問し、花を介した交流を行う兵庫県立農業高校の皆さん。

編集後記

担当が高校生だったのは今から10年と少し前ですが、遠い昔のような、ついこの間のような、どちらともいえない感じがしています。ですが、「十年一昔」という言葉もあるように、今の高校生の学びは、10年前と比較すると相当進化しているのではないかと思います。今回は、ICTや最新技術をとり入れた、最先端の学びを実践する農業高校を多数ご紹介しました。生徒の皆さんの卒業後のご活躍をとても楽しみに感じました。(広報室AY)

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