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農林水産省

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  • aff12 DECEMBER 2021
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バイオマス発電で実現!エネルギーの地産地消でまちを元気に!

写真:バイオマス発電イメージ

近年、地域の特性を生かしたエネルギー源を効率的に活用し、その地域で必要なエネルギーをまかなう「エネルギーの地産地消」に向けた取り組みが注目を集めています。こうした取り組みは、非常時のエネルギーの確保や地球温暖化対策、さらには地域活性化など、さまざまな面での効果が期待されています。今回は、エネルギーの地産地消に向けて先進的な取り組みを行っている、北海道鹿追町の取り組みに迫ります。

自然豊かな酪農のまち、
北海道鹿追町

観光業や酪農が盛んな北海道十勝地方の鹿追町。

十勝平野の北西部に位置する人口約5,200人の北海道鹿追町。日本最大の国立公園である大雪山国立公園の山麓に位置しており、同公園内の然別(しかりべつ)湖には年間約80万人の観光客が訪れます。基幹産業は第一次産業で特に酪農が盛んです。生乳の生産量は年間約10万トンをほこり、十勝地方でもトップクラスの生産量です。

鹿追町内の乳牛の育成牧場の様子。

大雪山国立公園の山麓に位置する然別湖。

そんな同町は、ある問題を抱えていました。それは、市街地と牧場が近く、家畜排せつ物の臭いが市街地を覆っていたこと。せっかくの景色なのに窓を開けて楽しめない、洗濯物を外で干せないなど、20年ほど前から住民や観光客からの声も数多く寄せられるように。そこで、こうした問題の解決に向けて、地域の酪農家のほか、米や野菜の生産を行う耕種農家を交えて検討委員会を発足。環境先進国であるドイツでの処理方法の視察なども行い、検討を重ねてきました。そして、2004年に、乳牛の排せつ物を発酵させてバイオガスを発生させ、発電や燃料の生産などを行う「環境保全センター」の建設が決定しました。

地域の理解を
目指して

鹿追町の市街地の様子。

センターの建設にあたり、市街地の臭いを改善するためには、市街地に近い14戸の酪農家の方々の理解を得て、センターの利用に参加して頂く必要がありました。しかし、センターの利用費は酪農家の方々に負担してもらう必要があったため、市街地に近いというだけで費用を負担することに対し、難色を示す方々も少なくありませんでした。そこで、町では定期的に酪農家の方々との話し合いの場を設け、丁寧な説明を続けてきました。

鹿追町内の乳牛たちの様子。

鹿追町のじゃがいも畑の様子。

酪農家の方が自分で処理する場合にも処理施設や機械設備、そして労働力が必要であることを改めて理解して頂くとともに、費用は負担して頂くことになるが、施設の補修などについては町が責任をもって実施することを約束。また実際のメタン発酵施設の見学など、バイオガスプラントへの理解を深める機会も設けながら、施設の利用に参加頂けるよう協議を進めてきました。それでも最後まで施設利用に消極的な方もいましたが、施設稼働後は、誰一人抜けることなく現在まで利用を継続して頂いているそうです。

消化液を貯留槽から散布車両へ。

消化液の圃場への散布の様子。

また、家畜排せつ物をメタン発酵し、バイオガスを得たあとには「消化液」という液が残ります。消化液は、水処理をするとコストが掛かりますが、肥料成分が含まれていることから、畑や水田に散布すれば液肥として活用でき、処理費用もかかりません。このため、消化液を、米や野菜を育てる耕種農家の方々に肥料として活用して頂くことも重要な課題でした。しかし、それまで畑や水田への消化液の散布は行われてこなかったためその活用方法や効果について理解して頂く必要がありました。そこで、帯広畜産大学のバイオガスプラントの消化液を活用した散布試験や、北海道農業改良普及センター、JAの協力のもと、消化液を活用した場合の作物の収量変化に関する調査を実施。それらの調査結果をもとに、化学肥料の代替として活用できることを説明し、普及に努めました。

家畜排せつ物を酪農家から収集、運搬するアームロール車。

中鹿追バイオガスプラントのメタン発酵槽(円柱型)。

こうした粘り強い活動により、地域の方々の理解と協力を得て、2007年10月に「鹿追町環境保全センター 中鹿追バイオガスプラント」として運転を開始。ここでは、家畜排せつ物や地域の生ゴミを加温し、微生物の力でメタン発酵させることで発生したバイオガスを利用して発電したり、精製して燃料としたりするなど、さまざまな用途で活用しています。

メタン発酵の仕組みを知りたい方は、こちらの記事で紹介しています。

バイオガスプラントの稼働による効果

2007年に稼働を開始した1基目となる中鹿追バイオガスプラントの全景。

中鹿追バイオガスプラントは、1日に約135トン、乳牛約1,300頭分の排せつ物を処理する能力があります。プラントの稼働により、市街地では悪臭の問題がなくなったほか、酪農家、耕種農家それぞれに大きなメリットが生まれました。
酪農家は、排せつ物を専用のコンテナに詰めておくだけでトラックが回収して処理してくれるようになったことで、これまで排せつ物処理に費やしてきた労力や時間を別のことに向けられるようになりました。同町の乳牛の飼養頭数もプラントが稼働した2007年度は1,154頭でしたが、6年後には1,402頭にまで増えました。

鹿追町で収穫されたじゃがいも。

鹿追町の小麦畑。

また、耕種農家は、化学肥料を減らして消化液を活用することにより肥料にかかるコストを抑えることに成功しました。たとえば、ある農家では消化液導入前には年間約250万円かかっていた肥料代を導入後は約190万円まで抑えることができたのです。もちろん、消化液のメリットは価格が安いというだけではありません。家畜の排せつ物の中には雑草の種子が含まれていますが、発酵処理が行われている消化液では、雑草の種子などが全て死滅しています。そのため、安心して畑や水田に散布できるという声も聞かれています。

2016年に稼働を開始した2基目となる瓜幕バイオガスプラントの全景。

そして2016年には2基目となる「瓜幕(うりまく)バイオガスプラント」が稼働開始。1基目の中鹿追バイオガスプラントに比べて処理能力と発電能力は約2.5倍以上となり、1基目での経験を活かした各種改良が施されています。

エネルギーの地産地消で「一石五鳥」!

家畜排せつ物を利用して、エネルギーの地産地消を行う鹿追町の取り組みにより、地域には「一石五鳥」のメリットがあったそうです。 各カテゴリをクリックして、どのようなメリットがあったのか、見てみましょう。

アイコンをクリックして詳しい説明を読んでみよう

1 環境の改善

家畜排せつ物が適切に処理され、市街地の悪臭がなくなったことで、地域住民や観光客が快適に過ごすことができるように。

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2 農業生産力の向上

家畜排せつ物のメタン発酵によって生じた消化液は、畑や水田の肥料に。

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3 循環型社会の形成

家畜排せつ物だけでなく、家庭や公共施設で出る生ごみもエネルギー源に。生産されたエネルギーは、地域で活用されます。

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4 地球温暖化の防止

バイオガスを利用して発電したり、精製して車両燃料や都市ガスに利用。地球温暖化の防止にも役立ちます。

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5 地域産業の活性化の推進

発電の際に生じる余剰熱を活用して新たな産業をスタート。地域活性化や雇用の創出にも役立っています。

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余剰熱を活用した
新たな産業をスタート

発電の際には、発電機本体の温度が上昇することで、熱が発生します。この熱は、発酵槽の加温等に利用していますが、余剰熱は「蓄熱槽」に貯蔵し、新たな産業の創出に向け、有効活用しています。今鹿追町が力を入れているのが、マンゴーのハウス栽培とチョウザメの養殖です。

マンゴーのハウス栽培

12月に店頭に並ぶマンゴー「白銀の太陽」。

一般的には暑い季節が旬のマンゴー。しかし、鹿追町では、バイオガスプラントの余剰熱でハウスを加温し、天然のマンゴーが手に入らなくなる12月に収穫して出荷します。東京の百貨店などで「白銀の太陽」というブランド名で販売されています。また、鹿追町農村青年会が代表者、町が構成員となり、「郷土を想う青年の夢 鹿追マンゴープロジェクトコンソーシアム」を設立し、さらなる振興を図っています。

マンゴーの栽培ハウス内で防草シートを敷設している様子。

現場の方に伺いました!

プロフィール画像

鹿追町マンゴーコンソーシアム会長

植田 憲明 さん

「白銀の太陽」は、できるだけ長期間樹上で実らせているため、熟したとろけ落ちるような食感が自慢です。日本で唯一、真冬に天然の国産マンゴーを出荷できるのは鹿追町のバイオガスプラントの余剰熱と雪氷熱エネルギーがあるからこそ。バイオガスプラントを中心に「ゼロカーボンシティ」を推進する鹿追町は、十勝で唯一ジオパークにも認定された自然豊かで魅力的な町。マンゴーの生産を通じて、鹿追町の収益にもっと貢献したいですね。

チョウザメの養殖

チョウザメ試験飼育の様子。

世界三大珍味のひとつ、キャビアの産みの親であるチョウザメは、淡水でも飼育することが可能で、生育には水温15度から20度が最も適しています。そのため、プラントの余剰熱を活用して水槽の水を加温することで、チョウザメの養殖を実現しています。現在0歳から11歳まで約8,000匹を飼育中で、鹿追町産のキャビアの商品化を目指しています。身は白身で淡白な味わいが特徴で刺し身や天ぷら、寿司のネタなどとして町内の飲食店で提供しています。

チョウザメの稚魚と飼育を担当する同町商工観光課の鈴木綾さん。

現場の方に伺いました!

プロフィール画像

鹿追町商工観光課

鈴木 綾 さん

品質の良いキャビアや魚肉を生産するためには、チョウザメの生育ステージに合わせて水温や密度、エサの種類や量などを細かく調整する必要があります。そのため、日々、試行錯誤を繰り返しながら鹿追流の飼育環境づくりに取り組んでいます。鹿追町が環境に配慮した町づくりを目指すのは、豊かな自然こそが町の最大の魅力だからです。そんな鹿追町の魅力をより多くの人に知っていただくために、鹿追産の美味しいキャビアと魚肉をどんどん出荷していきたいですね。

地産地消型水素社会を
目指して

鹿追町では現在、家畜排せつ物由来のバイオガスから水素を製造する実証実験にも取り組んでいます。水素は、バイオガスから抽出したメタンガスと水蒸気を反応させて作ります。バイオガスから水素を製造する場合には発電よりも多少ロスが多くなるものの、将来を見据えると、バイオガスの新たな活用先として、水素の可能性は大きいのだとか。水素は貯蔵しておいて必要な時に使えるという利便性があり、水素ステーション、燃料電池自動車の活用など実証実験を重ねて水素サプライチェーンを実現し、再生可能エネルギーのさらなる分散化や非常用電源の確保などにつなげていきます。

バイオガスを原料とする水素の製造、貯蔵、輸送、利用までを一貫して行う「しかおい水素ファーム」。

製造した水素をエネルギーとして走行する燃料電池自動車。

鹿追町が目指す未来

鹿追町は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すゼロカーボンシティを宣言しています。その核となるのが、これまで紹介してきたバイオガスプラントです。鹿追町で稼働している2つのバイオガスプラントの1日の処理能力は、約345トンで乳牛約4,300頭分にのぼります。しかし、これは鹿追町で飼育されている乳牛のわずか3割に過ぎません。今後は全ての牛の排せつ物を処理できる3つ目のバイオプラントを完成させ、ゼロカーボンへと近づけていくこと。それが現在の鹿追町の目標です。

今回教えてくれたのは・・・

北海道鹿追町 農業振興課
環境保全センター担当課長

城石 賢一 さん

同町の農業振興課、商工観光課等勤務後、平成19年より集中型バイオガスプラントを核とする鹿追町環境保全センターの運営管理を担当。

バイオマス産業都市を関係7府省で支援し、
地域活性化へ繋げます

今回紹介した北海道鹿追町(十勝地域)は平成25年度にバイオマス産業都市に選定された地域のひとつです。バイオマス産業都市とは、地域のバイオマスを活用した産業創出と地域循環型のエネルギーの強化を実現し、環境にやさしく災害に強いまち・むらづくりを目指す地域です。平成25年度から、関係7府省(内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)が共同で選定しており、農林水産省では家畜排せつ物や農作物残渣などのバイオマスを活用した産業の創出にチャレンジしている地域に対し、さまざまな形で支援を行います。
バイオマス産業都市について詳しく知りたい方はこちら
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/b_sangyo_toshi/b_sangyo_toshi.html

農山漁村発 再生可能エネルギー

編集後記

石油や石炭に頼らない”再生可能エネルギー”が注目されています。今回はその中から、北海道鹿追町の”バイオマス発電”を紹介してきました。そのエネルギー源は、雄大な十勝平野で育つ乳牛たちの「排せつ物」で、発電で発生した熱を使用して育てているのは「マンゴー」、「チョウザメ」・・・えっ?寒い北海道でマンゴーを?チョウザメってキャビアの?驚きました・・・!そして、この取り組みの原点となる重要な排せつ物を、農場からトラックで回収する仕組みが整えられているとのこと!発想力と行動力が大切なんですね!(広報室KM)

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大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

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