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農林水産省

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aff 2022 AUGUST 8月号
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農林水産業者の朝

農林水産業者の朝

第3回 炭焼き職人の朝 第3回 炭焼き職人の朝

原正昭さん
[和歌山県日高郡みなべ町]

日本三大備長炭のひとつ「紀州備長炭」を
昔ながらの製法でつくり続けている原正昭さん。
「炭焼きは何よりも山仕事が大切」と、
炭の原木になるウバメガシ林の管理も行う炭焼き職人です。
山に分け入り、先人に教わった伐採方法
「択伐」を実践する朝に密着しました。

PROFILE

父、祖父も紀州の炭焼き職人という3代目。21歳でこの道に入り30年。和歌山県木炭協同組合代表理事。和歌山県林業振興課と連携して、同業者に「択伐」技術を伝える「やまづくり塾」を開催。原木林の循環利用を促す活動に尽力している。

炭づくりはまず山づくりから。
「択伐」で原木林を守るのが使命

AM6:30 窯の状態をチェック AM06時30分 窯の状態をチェック

原正昭さんの炭焼き小屋は、紀伊半島南部、和歌山県みなべ町の山奥深くにあります。原さんがどんな日も朝一番に行うのは、この小屋へ行って窯の状態をチェックすることです。

この日は「口焚き」中。窯口で薪を燃やし、窯の奥に入れた炭材の水分を徐々に抜いて乾燥させる作業です。ゆっくりと時間をかけて乾燥させるのが、品質の高い備長炭に仕上げるコツだといいます。

燃え盛る窯の奥を目視で確認することはできません。窯の上部にあいた火穴から煙のにおいをかぎ、炭材に着火したかどうかを判断します。「酸っぱいにおいがしてきたから、もうすぐ『炭化』が始まるタイミングだな」と原さん。まさに職人の経験と勘が頼りの仕事です。

MORNING TIPS

「炭化」初日は特に朝が早い

「炭焼きのプロセスの中でも、原木の炭化が始まって1日目は特に早起きする必要があります。夜明け前には小屋で窯を見守っていますね。窯口をふさいで蒸し焼きにしていくのですが、窯口に小さな穴をあけたり、排煙口の大きさを調節したりしながら、炭化を最高の状態に保ちます」

AM7:00 原木を仕分け、紀州なたを研ぐ AM07時00分 原木を仕分け、紀州なたを研ぐ

備長炭の製炭では、炭を窯から出した後、窯が冷めないうちに次に焼く原木を素早く詰め込みます。このため伐採したウバメガシを、道具を使って立てかける「はね木」用と、釜口から投げ入れる「ほうり木」用に事前に仕分けします。

伐採に欠かせない紀州なたを丁寧に研ぎます。トビ状の刃先が特徴的ななたです。

AM7:30 原木林へ出発 AM07時30分 原木林へ出発

標高600メートルほどの峰にある炭焼き小屋から、軽トラックで30分ほど沿岸部方向へ下った原木林へ向かいます。「炭焼きになりたての頃は、来る日も来る日も山へ木を伐りに行っていました。師である父から『山の恵みがなければ炭は焼けない。山仕事ができて初めて一人前の炭焼きになれる』と教え込まれたんです」

AM8:00 伐採開始 AM08時00分 伐採開始

紀州備長炭の代表的な原木は、和歌山県の県木でもあるウバメガシ。極めて硬く、水に沈むほど重い材質で知られる常緑広葉樹です。崖さながらの急峻な地形に自生しているため、伐採・搬出には大変な労力が必要になります。原さんは足場のない急斜面を慣れた足取りで登っていきますが、そのあとを素人がついていくのは、まさしく命懸けです。

原さんが常に心がけているのは「択伐」。1カ所から複数の幹が伸びる「株立ち」状態のウバメガシをすべては伐らず、炭に適する太さの幹を選んで必要なだけ伐採し、細い幹は成長するまで残す伐採法です。「択伐はどれを伐るか、どこに倒すかなど頭を使う作業。だから面白い」。「やまづくり塾」という勉強会を開いて同業者にも広めています。

この日は若き炭焼き職人の村上さんが伐採に同行。原さんは弟子である彼にノウハウを惜しみなく伝授しています。一時は和歌山でも自分で原木を伐らず、伐採業者から買う炭焼き職人が増加。生育する幹を全て伐採する手法が進み、原木枯渇の危機に陥ったそうです。しかし「やまづくり塾」の啓発活動によって、今では択伐する炭焼き職人がほとんどを占め、原木林の持続的な循環利用が図られています。「自分がいる分だけ適切に伐採すれば、山は荒れません」

伐採後は切り株から新たな芽が生えてきます。これを「萌芽」といい、発生部位によって2形態に分けられます。左のように幹の上部から出る「幹萌芽」は、枝になる性質が強く成長が貧弱です。これに対し、右のように根元から出る「根頸萌芽」は、幹になる性質が強く成長が旺盛です。「幹萌芽は親株から栄養をもらわないと育っていかないすねかじり。根頸萌芽は自分で根を下ろすので、独立した太い幹になります。望ましいのは、もちろん周囲に株が増えていく根頸萌芽です」

ウバメガシをチェーンソーで伐採します。「高い位置で伐ると幹萌芽が多く発生します。根頸萌芽の発生を促すには、低い位置で伐るのが鉄則」。逆にシイなど木炭の原木にしない木は、あえて高い位置で伐って枯死させることもあるそうです。切り口はやや斜めになるように伐るのがポイント。これは雨水などが溜まって腐らないようにするためです。

紀州なたで枝払いや不要な灌木の刈払い、ツル切りを行います。刈り払った枝葉のことを「ドヤ」と呼ぶとか。ドヤは伐採した株元へ重ねて敷きます。これが土壌の乾燥やシカの食害を防ぐマルチの役割をし、さらに分解が進むと肥料になるそうです。「ドヤは斜面に対し、タテではなくヨコに敷くのがコツ。ヨコに敷けば足場になりますが、タテにするとこれに乗って自分も滑り落ちてしまうので要注意」

MORNING TIPS

朝は作業がはかどる

「どんな作業も活力に満ちた朝の方が、疲れが出てくる夕方よりはかどります。特に山仕事は肉体的にハードですし、危険を伴いますから、暑い季節などは、なるべく朝早くから山に入って、午前中に集中してこなすようにしています」

AM11:30 搬出 AM11時30分 搬出

この日は午後から窯仕事があるため、山仕事は午前中で終了。ずっしりと重いウバメガシを肩に担ぎ、軽トラックのそばまで何往復もします。荷台に積み込んだら、小屋に戻る準備完了です。

最後に山道をほうきで掃く原さん。恵みを与えてくれる山への感謝に溢れた行動です。「皆伐してしまうと原木林の再生に40年以上かかりますが、択伐だと約15年サイクルで繰り返し伐採できます。択伐はまさに山づくり。江戸時代からこの地で伝承されてきた先人の知恵を、次世代に守り継ぐことが、我々炭焼きの使命だと思っています」

COLUMN

伝統製法でつくられる
「紀州備長炭」

1000度を超える高温でウバメガシを蒸し焼きにし、窯の外に掻き出して、素灰(木灰と土を混ぜ水で湿らせた灰)をかけ消火する。そんな独特の製法でつくられるのが紀州備長炭です。この地に炭焼きの技術を伝えたとされるのは、かの空海(弘法大師)。以来1000年以上、紀州の炭焼き職人たちは連綿と伝統製法を守り続けています。打ち合わせるとキンキンと澄んだ金属音を立てるほど硬く、断面に美しい光沢のあるのが特徴。火持ちがよく、火力が安定してムラなく焼けるため、焼き鳥やウナギなどの焼き物を専門とする料理人にこよなく愛されています。

(PDF:19,362KB)

お問合せ先

大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

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