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aff 2022 SEPTEMBER 9月号
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食と地域を支える研究者 暮らしと地域を豊かに!植物の未知なる機能をさぐる研究

食と地域を支える研究者 新たな可能性を拓く!植物の未知なる機能をさぐる研究

植物には、私たちがいまだ解明していない未知の機能が数多く存在します。今回は、そうした機能を探り、新たな産業の創出や国際的な課題の解決を目指す研究の最前線に迫ります。

1 サボテンの多彩な機能が拓く
新たな産業の可能性

日本では観賞用として愛されてきたサボテン。しかし、世界では、食用や家畜の飼料など、幅広く活用されていることを知っていましたか?今回は、日本におけるサボテン研究の第一人者である、中部大学の堀部貴紀准教授に、サボテンの魅力や可能性について伺いました。

中部大学 応用生物学部 環境生物科学科 堀部貴紀 准教授 中部大学 応用生物学部 環境生物科学科 堀部貴紀 准教授

名古屋大学大学院修士課程修了後1年間のテレビ局勤務を経て、中部大学大学院で博士号取得。現場主義で、サボテンの栽培がさかんなメキシコをはじめ、海外へも足繫く通う。趣味はベンチプレスで125キロを上げる筋トレや総合格闘技。今年8月には初の著書『サボテンはすごい! 過酷な環境を生き抜く驚きのしくみ』(ベレ出版)を刊行。

世界が注目する
サボテンのチカラ

サボテンは北米大陸南部から南米大陸に多く分布し、約130属と1450以上の種が存在します。
「サボテンは乾燥にも熱にも強く、環境ストレスへの耐性が非常に高い植物です。ほかの植物が栽培できないような過酷な環境でも栽培ができるなど、とてもポテンシャルの高い植物だと思います」と、その特徴を語る堀部准教授。
日本では観賞用植物としてのイメージが強く、食用としての認知は低いサボテンですが、特に乾燥地においては、果実や家畜飼料、さらには水の供給源として重要な役割を果たしており、現在、世界の約30の国や地域で栽培されています。2017年には、国連食糧農業機関(FAO)がサボテンの消費を推奨する声明を発表しており、サボテンの機能に着目した商品の開発などにチャレンジする企業も増えているのだそうです。堀部准教授は研究と並行して、海外での数々のプロジェクトにも参画しています。
「現在は、サボテンの栽培技術を農村部に普及し商業化することで、地域の生活水準を向上させることを目的としたプロジェクトに、外部専門家として参画しています。カンボジアでは、地雷原跡地の有効活用が進んでおらず、これまで農業や産業創出に向けた取り組みが行われてきました。しかし、土壌を分析すると、とても痩せた土地で、雨季には非常に激しい雨が降るため、なかなかうまくいかなかったそうです。そうした中で、現地の日本企業の方がサボテンの高い環境耐性に着目し、白羽の矢が立ったのです」

:カンボジアでは、地雷原跡地においてサボテンを栽培し、産業化を目指すプロジェクトが進められています。堀部准教授は、外部専門家として参画しており、栽培指導や事業提案などを行っています。:メキシコなどの海外では、ノバル(サボテンの若い茎)は食用のほか、家畜の飼料としても活用されています。

サボテンの不思議な機能を
解き明かす

堀部准教授とサボテンとの出会いは2014年のこと。赴任した中部大学がある春日井市が、全国でも非常に珍しい〝サボテンの街〟であり、地元のお祭りでウチワサボテンを食べたことがきっかけでした。
「学生の頃から花の研究をしてきましたが、研究室を立ち上げるにあたり、新しい分野に挑戦したいと考えていました。そんな時、たまたま地元のお祭りで食用のサボテンがあるということを知り、調べてみるとまったく研究が進んでいない分野であることがわかったのです」
2015年に研究室を立ち上げた後、日本には数少ないサボテン研究者を訪ねたり、サボテンの栽培や利用が進むメキシコへ足しげく通い、現地の研究者に研究の状況や課題の聞き取りを行う中でサボテンへの興味が湧き、研究対象とすることを決意しました。
2019年には、同大学のさまざまな分野の教員とともに「サボテン科学研究会」を立ち上げ、多方面で基礎研究を展開しています。「サボテンを科学的かつ総合的に理解することは、自分ひとりではできません。さまざまな分野を専門とする先生方に声掛けし、ご協力いただきました」と語る堀部准教授。分子生物学や植物病理、土壌など、学内の幅広い分野の先生と一緒に研究を行っています。
堀部准教授の専門は園芸学と植物生理学。サボテンの栽培方法や炭素固定機能を中心に研究しています。
「いま特に注目しているのは、サボテンの炭素固定機能です。植物には大気中の二酸化炭素を固定する機能がありますが、多くの植物は枯れると固定した二酸化炭素を放出します。ところが、サボテンは一部をシュウ酸カルシウムの結晶として固定することがわかっており、半永久的に固定できる可能性があります。現在は、サボテンが固定した二酸化炭素のうち、何割くらいが固定化されているのかを調査している段階です」
堀部准教授は、こうした基礎的な研究をとおして、ゲノム解析や栽培方法といった、サボテンに関する研究基盤の構築を目指しています。

堀部研究室のハウスでは水耕栽培の研究も。「サボテンは環境中から吸収した重金属等の物質を茎内に蓄積します。この性質を利用し、水耕培養液の組成を制御することで、カルシウムやマグネシウム、鉄や亜鉛等の含量を高めた食用サボテンの生産を目指しています」と語る堀部准教授。この栽培方法を多くの生産者が導入できるよう、技術の確立と社会実装を目指し研究を続けています。

利用と研究のスパイラルで
イノベーションを生み出す

基礎研究に加え、堀部准教授が力を入れているのが、サボテンの利用に向けた研究や、企業、自治体などと連携して取り組む社会実装に向けた活動です。
サボテンのさらなる活用を目指して、農林水産省が推進するオープンイノベーションの取り組み、「知」の集積と活用の場 産学官連携協議会に参画。2021年には、春日井市の企業や生産者と協力し、「サボテン等多肉植物の潜在能力発掘と活用推進プラットフォーム」を設立して、商品化や事業化に向け、一丸となって取り組んでいます。
「利用が進んでこそ、研究も進んでいくと思います。日本では鑑賞以外のサボテンの側面は、ほとんど知られていません。サボテンの利用が進み、興味を持つ人が増えることで、基礎研究が進んでいく。そうした、プラスのスパイラルを作っていきたいですね」
最近では、プラットフォームの活動のほかにも、同市や地元の企業と連携し、サボテンをメインとする観光ツアーの企画にも携わっているそうです。実は「春日井サボテン振興アドバイザー」という肩書も持つ、堀部准教授が目指すゴールは、どこにあるのでしょうか。
「長期的には、サボテンの多彩な機能を明らかにすることで、国内に新たな産業を生み出したり、地球規模での課題解決を実現することです。そのために、まずは社会実装に向けたひとつのロードマップを示すことが重要だと思っています。ロードマップとしては、現状は初期の段階、まだ、始まったばかりです。将来的には、サボテンへの興味、ひいてはサボテン愛の広がりが春日井市から日本全国、そして世界へと展開することを期待し、研究や活動をしていきたいと思います」と笑顔で語ってくれました。

サボテンの性質や機能、成分などの解析のほか、栽培しやすいトゲ無しサボテンの育種や、効率的な栽培方法の確立など、研究は多岐に及んでいます。

春日井市は全国でも
有数のサボテン生産地

国内でもトップクラスのサボテン生産量を誇る愛知県。その中でも、サボテン栽培の中心となっているのが春日井市です。1950年代後半、果樹栽培の傍ら、種から育てる実生栽培をはじめとしたサボテンの生産が始まり、今でも春日井市は全国で唯一の「サボテンのまち」として、サボテンの生産が盛んに行われています。

画像提供:ジェイエヌエス株式会社

現在では観賞用サボテンだけでなく、食用サボテンの栽培も行われ、市内にはサボテンを使ったスイーツや料理を提供する飲食店が多くあり、サボテン料理を楽しむこともできます。また、サボテンを使ったさまざまなお菓子や加工品も作られており、春日井市ならではのお土産として大人気となっています。

春日井市では食用サボテンの普及にも力を入れており、各飲食店がサボテンを使った創作料理を考案し提供しています。また、昨年「春日井サボテン スイーツコンテスト」が開催され、市内の事業者から多くの応募が寄せられました。画像は昨年の最終審査会の様子。

市内では一年を通じて観賞用のサボテンや、サボテンのグルメや特産品の販売、寄せ植え体験などを行うサボテン関連のイベントが盛りだくさん。2007年にはサボテンモチーフのゆるキャラも登場し、イベントを盛り上げてくれています。

2007年に春日井サボテンキャラクターとして誕生した、左から、春代(はるよ)、日丸(にちまる)、井之介(いのすけ)。現在では、春日井市で行われるサボテン関連のイベントに欠かせない存在です。

2 放射状に広がる
「開張型イネ」が拓く
稲作の未来

イネの草型は、苗の段階から収穫期まで、直立したものが一般的です。しかし、農研機構高度分析研究センターの稲垣言要(のりとし)ユニット長たちが開発した「開張型イネ」は、生育初期に葉が放射状に広がった草型をしています。葉が広がることのメリットや開発までの道のりを伺いました。

農研機構 高度分析研究センター 稲垣言要 ユニット長 農研機構 高度分析研究センター 稲垣言要 ユニット長

岡山大学大学院にて博士号(理学)取得。理学系出身で、もともとは基礎研究を中心に行っていたが、農研機構採用後、現場への実装を目指した研究に取り組むように。生化学・分子生物学的手法による光合成光化学系や植物光受容体の機能解明の研究を専門分野とし、この研究で仁科賞の受賞経験も。

雑草の生育を抑制する
「開張型イネ」

「私たちは放射状に広がる『開張型イネ』を開発しました。ポイントは、コシヒカリに野生イネの遺伝子を導入していることです」と語る稲垣ユニット長。イネが通常の直立型ではなく開張型となることで、どのようなメリットがあるのでしょうか。
「開張することのメリットは、ふたつあると考えています。ひとつは、生育初期に葉が放射状に開張することで、従来の品種と比較して効率よく日光を浴びることができ、生育が良くなること。もうひとつは、開張したイネが地面を覆うことにより日光を遮るため、田植えのあとに生えてきた雑草の生育を抑制することができることです」
雑草防除に必要な除草剤の購入費用や散布の作業は、生産者の方々にとって大きな負担となっています。開張型イネでは、雑草の生育が抑制されるため、除草剤散布の作業や費用の負担軽減が期待できます。また、世界的に見ると、発展途上国では除草を手作業で行っている国々が多いことから、こうした国々でも、開張型イネは除草にかかる労働の負担を軽減する可能性を秘めています(ただし、それらの国々で栽培されている品種に対しても雑草抑制能を付与できるかを検討することは必要です)。
「また、このイネは移植後、生育後期になると株全体が太くなり、従来栽培されてきた主なイネ品種と同じように直立型へと草型を変えるのです。これが非常にユニークな点ですね」
生育後期には水田内のイネの葉の密度が高まるため、開張した草型のままだとそれぞれのイネの株の葉がお互いに光を遮り、光合成が阻害されるため、直立した草型の方が望ましくなります。つまり、この開張型イネは、栽培のすべての期間で効率よく光を吸収することができるのです。また、収穫時には直立型になるため、コシヒカリ同様にコンバインでの刈り取りが可能となるそうです。

野生イネOryza rufipogon第7染色体の一部を交配によりコシヒカリに導入

今回、開発されたのは、コシヒカリに野生イネの遺伝子の一部を、交配によって取り込んだもの。生育初期に開張することで受光態勢が改善され、コシヒカリよりも成長が促進されるという。

開張型イネの草型の変化

移植後47日目から移植後86日目の変化

生育初期ではイネが放射状に広がっているが、刈り取りも間近な後期となると
株全体が太くなり茎もコシヒカリ同様に直立型へと変化する。

栽培化*の過程で失われた
遺伝子を活用する

非常にユニークな性質を持つ「開張型イネ」。開発のきっかけやその道のりはどのようなものだったのでしょうか。
「この研究は、一緒に研究を行ってきた、作物研究部門の平林研究員が2012年に発表した、野生イネの遺伝子を日本のイネに導入し株を解析するところからスタートしました。野生イネは世界各地のさまざまな環境の地域に広く分布しており、それぞれの環境に適応するために非常に多様な遺伝子を持っています。そうした遺伝子の多くは、1万年ほど前のイネの栽培化というイベントで失われたと考えられます。各地に自生する野生イネは、栽培化されたイネが持っていない、ユニークな遺伝子の宝庫だと思います。イネは、栽培化により非常に扱いやすい性質となったことは事実ですが、『失われた遺伝子の中に、実は役立つものがあるのではないか』という発想が、この研究の原点となっているのです」
開張型イネは、私たちの食卓で身近なコシヒカリに、DNAマーカーを活用した交配育種法で、野生イネが持つ開張を引き起こす遺伝子を導入したもの。実際に「食べる」ことを考えると、収量や見た目の白さ、食味、そして物性なども非常に重要になりますが、こうした点は従来のコシヒカリと比較してどのような結果だったのでしょうか。
「開張型イネの1アールあたりの玄米の収量は、コシヒカリと比較して有意差はなく、同等の収量を得ることができました。見た目については、お米の白さを示す度合いである『白度』は、コシヒカリと比較して有意差はなく、こちらも同等の値を示しました。また、食味に関しても、開張型イネはコシヒカリと比較してアミロース含量がわずかに高かったものの、こちらも有意な差ではありませんでした。一方で物性に関しては、コシヒカリと比較して、柔らかいということが明らかになりました」

*栽培化 自然界に存在する野生種の植物の中から、農耕において都合の良い性質を持つ個体を人為的選抜し、継続的に育てていくことで栽培種が確立されたと考えられており、この過程を栽培化と呼びます。

開張型イネの物性・味に関する値

開張型イネの物性・味に関する値の図

開張型イネの1アール(100平方メートル)あたりの玄米収穫量はコシヒカリと同等。精米時はコシヒカリ同様に白く、味もアミロース含量がわずかに高い以外はコシヒカリと有意な差はありませんでした。

*白度 見た目の米の白さを示す度合で、値が高いほど白いことを示す。開張型イネは、コシヒカリと同等の白さを示した。
**食味スコア、味度、食味測定 いずれも米の味を総合評価する機器類の出力値で、それぞれ異なる分析原理で測定する。いずれも100点が最高値で、高い値であるほど、良い評価であることを示す。いずれの値においても、開張型イネは、コシヒカリと同等の値を示した。

研究者の繋がりが生んだ
画期的な草型のイネ

もともと理学系の出身で基礎的な研究を中心に行ってきたという稲垣ユニット長。農研機構に採用され、こうした、実際の現場に活用することを目指す研究を始めてみると、それまでとは違ったアプローチも必要だと感じたそうです。
「それまでは『理学』の「なぜそうなるのか」という謎を追究する考え方をしていましたが、『農学』では農業の現場で価値のあるものをどうやって生み出すのか、といった発想の転換が必要でした」
何を研究すればよいのか迷っていた稲垣ユニット長を助けてくれたのは、先輩や同僚の研究者でした。
「私は疎植(株間を拡げて省力化を目指す農法)に適したイネの開発過程で開張型イネを作り出したのですが、雑草の抑制効果への利用というヒントをくれたのも、実際の抑制効果を試験してくれたのも、農研機構の仲間たちでした。品種開発に野生イネを使うというのもやはり、彼らの研究があったからこそできたことですね」
野生イネの性質を活かした開張型イネの開発は、複数の拠点に数多くの研究者を擁する農研機構のネットワークと、稲作における研究、開発の蓄積による強みが出た成果といえるのかもしれません。

「開張型イネの開発は多くの人たちの尽力があってこそ。どんな研究もひとりで出来るものではなく、協力してくれる人たちとともに作り上げるものです」と、稲垣ユニット長は語ります。

今週のまとめ

植物の未知なる機能に着目した
さまざまな研究が行われている。
こうした研究から、新たな産業の創出など、
さまざまな可能性が拓かれる。

(PDF:13,500KB)
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